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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
SPの給料は現物支給。
「無礼? 私は何か、無礼な事をしてしまったのかしら?」
叫んだ男は見知らぬ貴族の男だったが、少し離れた所で因縁のムーランス伯爵が存在感を放ちながら佇んでいる事に気付く。
精神感応を使って確かめてみると、やはりというかムーランス伯爵関係者で、寄子に当たる男爵だと分かる。
私が周囲にわざと聞こえるように問いかけると、サリューン枢機卿が横に並んだ。
「いいえ、全く。問題ございません」
「サリューン枢機卿猊下! 聖女である以前に王に仕えるべき貴族子女、王のお言葉にあのような不遜な返しは如何なものでしょうか!」
「黙りなさい、ゲレ男爵。聖女様は何も無礼な態度は取っておりません」
「しっ、しかし!」
「――サリューンの申す通りである。聖女様に謝罪して、下がるが良い、ゲレ男爵」
トラス国王はそう言って、冷ややかな目でゲレ男爵を見た。ゲレ男爵は顔を真っ青にしている。
「お待ちください、陛下! 彼の言う事ももっともですぞ!」
「さようさよう、教会で聖女よともてはやされて有頂天になっていらっしゃるのでしょう。本来ならばただの伯爵令嬢が聖女であるというだけで陛下に向かってあのような態度とは」
貴族の、主におっさん達が口々に喚きだした。
おかしいと思って内心を探ってみると、なんとまあ。
恐らく父サイモンに邪険にされた恨みも手伝っている事だろうが、概ねこうだ。
調子に乗っている聖女を叩き、宮廷の、貴族としての序列や作法を分からせてやろう。
聖女が恐らく清い身ではないだろうから、王子の側室とすればよい。そして王子妃は他の者を出し抜いて我が娘を。
――ビキビキ。
逆に縄と鞭で分からせてやりたいぐらいムカつくわ。堪忍袋の緒が。
私は、努めて笑顔を作ると「ちょっとよろしいかしら」と声を掛けた。
「オディロン陛下。恐らく、ムーランス伯爵の寄子でいらっしゃるゲレ男爵の仰ったような事を、このように他の貴族の方々もお考えになっている事かも知れませんわ。
代表して、存分に目の前で語って頂きましょう。ああ、ムーランス伯爵もどうぞ」
私はムーランス伯爵を名指しにしてやった。他の貴族を唆しこの事態を引き起こしたのはこいつである。仕掛け人を逃す筈はない。
名指しを受けて、ムーランス伯爵の顔が一瞬歪んだ。
そりゃそうだろう。
聖女にぶつけて無礼打ちにさせ、出し抜こうという策だったんだろ?
その上であのドリル令嬢、エリザベルを王子に、とな。
「な、何を仰るのか。私は聖女様に対し、特には……」
「ムーランス伯爵閣下……?」
ムーランス伯爵はどこまで知っているのか、とこちらを探るように見ながら半笑いで言葉を濁す。それを見たゲレ男爵が訝し気な表情になった。
「あら、おかしいですわね、ムーランス伯爵はゲレ男爵にご自身のお考えを代弁させたのでしょう?」
「い、いえ……先程はゲレ男爵がご無礼を申しました。寄親として深く謝罪致します」
「あら、そう?」
あっさり謝罪した事に、ゲレ男爵が裏切られた! って愕然とした顔してるけどそう簡単に切り捨てて大丈夫なのか?
ゲレ男爵がムーランス伯爵の手足として動いて他の貴族共に働きかけたんだろうに。他にも汚れ仕事を色々と。
「ムーランス伯爵! 日和るのか!?」
「そうだそうだ、申していたではないか、キャンディ家の小娘が聖女だとちやほやされて調子に乗って殿下に無礼を働いているから気に食わぬと!」
「我らを裏切って梯子を外すのか?」
「だっ、黙れ!」
「聖女である私に無礼を働かせて、御自分は高みの見物をなさっていらしたんですものねぇ。憎きキャンディ伯爵家の小娘を叩けるし、エリザベル様の競争相手も減るし、良いことづくめですもの」
クスクスと笑いながら暴露してやると、裏切られた貴族のおっさん達は激昂した。
「何だと!?」
「おのれ、我らを利用していたのか!」
じりじりと包囲されるムーランス伯爵。冷ややかな衆目を一気に集め、進退窮まったのかこちらを睨みつけた。
「うるさいうるさい! そのような嘘偽りを言うな小娘が!」
「嘘偽りを言ったのは貴様だ!」
一人がとうとうムーランス伯爵の胸倉を掴んで殴った。それに続いておっさん達の醜い大乱闘が始まる。
「やめなさい! 聖女様の御前を暴力と血で汚すつもりですか!」
「聖女様の前でやめよ、見苦しい! 誰か!」
しかしサリューン枢機卿やトラス王の言葉で近衛がやって来て止めようとするも、殴り合いに参加しているのは高位貴族が多く、逆に脅迫めいた怒声を返されて仕返しを恐れてか二の足を踏んでいる。
――仕方があるまい。
精神感応を空に放つと、黒い翼の大群が、しゃがれた鳴き声を上げながら現れた。
***
「ひぃ、痛い痛い、何をする!?」
「ぎゃああ、こっちへ来るな!」
「何故こんな烏共が急に!」
翼のある類人猿とも呼ばれる程の賢さ、鋭い嘴と爪を持った彼らの猛攻撃を受け、おっさん達は雲の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ惑うしかなかった。
黒い翼の大群――つまり烏達は、私の意志を汲んで乱闘中のおっさん貴族共に一斉に襲い掛かったのである。
本当はここで使う予定では無かったが、予め交渉の上で烏の群れを宮殿近くに集めていたのだ。
「烏が人を襲う? これは……何とした事か」
トラス王オディロンが呆然としたように呟くと、サリューン枢機卿が微笑む。
「烏は太陽神の神鳥でございます故――彼らは聖女様に無礼を働いたので、神がお怒りになったのでしょう」
その言葉を聞いた貴族のおっさん達が一斉に神に許しを乞い始めたので、そろそろ頃合いかと烏を引かせてやった。
サリーナから大きな餌袋を受け取って群れに報酬として与える。
私の錫杖の上に止まって羽繕いをしている群れのリーダーによれば、また同じような事があれば餌と引き換えに仕事を引き受けてくれるそうだ。
……屋敷に帰っての後払いでも良いなら、もう少しだけお願いできないだろうか。他に餌は持って来ていないから。
え? 構わないって? 黒服さん達は頼りになるわ、ありがとう。
叫んだ男は見知らぬ貴族の男だったが、少し離れた所で因縁のムーランス伯爵が存在感を放ちながら佇んでいる事に気付く。
精神感応を使って確かめてみると、やはりというかムーランス伯爵関係者で、寄子に当たる男爵だと分かる。
私が周囲にわざと聞こえるように問いかけると、サリューン枢機卿が横に並んだ。
「いいえ、全く。問題ございません」
「サリューン枢機卿猊下! 聖女である以前に王に仕えるべき貴族子女、王のお言葉にあのような不遜な返しは如何なものでしょうか!」
「黙りなさい、ゲレ男爵。聖女様は何も無礼な態度は取っておりません」
「しっ、しかし!」
「――サリューンの申す通りである。聖女様に謝罪して、下がるが良い、ゲレ男爵」
トラス国王はそう言って、冷ややかな目でゲレ男爵を見た。ゲレ男爵は顔を真っ青にしている。
「お待ちください、陛下! 彼の言う事ももっともですぞ!」
「さようさよう、教会で聖女よともてはやされて有頂天になっていらっしゃるのでしょう。本来ならばただの伯爵令嬢が聖女であるというだけで陛下に向かってあのような態度とは」
貴族の、主におっさん達が口々に喚きだした。
おかしいと思って内心を探ってみると、なんとまあ。
恐らく父サイモンに邪険にされた恨みも手伝っている事だろうが、概ねこうだ。
調子に乗っている聖女を叩き、宮廷の、貴族としての序列や作法を分からせてやろう。
聖女が恐らく清い身ではないだろうから、王子の側室とすればよい。そして王子妃は他の者を出し抜いて我が娘を。
――ビキビキ。
逆に縄と鞭で分からせてやりたいぐらいムカつくわ。堪忍袋の緒が。
私は、努めて笑顔を作ると「ちょっとよろしいかしら」と声を掛けた。
「オディロン陛下。恐らく、ムーランス伯爵の寄子でいらっしゃるゲレ男爵の仰ったような事を、このように他の貴族の方々もお考えになっている事かも知れませんわ。
代表して、存分に目の前で語って頂きましょう。ああ、ムーランス伯爵もどうぞ」
私はムーランス伯爵を名指しにしてやった。他の貴族を唆しこの事態を引き起こしたのはこいつである。仕掛け人を逃す筈はない。
名指しを受けて、ムーランス伯爵の顔が一瞬歪んだ。
そりゃそうだろう。
聖女にぶつけて無礼打ちにさせ、出し抜こうという策だったんだろ?
その上であのドリル令嬢、エリザベルを王子に、とな。
「な、何を仰るのか。私は聖女様に対し、特には……」
「ムーランス伯爵閣下……?」
ムーランス伯爵はどこまで知っているのか、とこちらを探るように見ながら半笑いで言葉を濁す。それを見たゲレ男爵が訝し気な表情になった。
「あら、おかしいですわね、ムーランス伯爵はゲレ男爵にご自身のお考えを代弁させたのでしょう?」
「い、いえ……先程はゲレ男爵がご無礼を申しました。寄親として深く謝罪致します」
「あら、そう?」
あっさり謝罪した事に、ゲレ男爵が裏切られた! って愕然とした顔してるけどそう簡単に切り捨てて大丈夫なのか?
ゲレ男爵がムーランス伯爵の手足として動いて他の貴族共に働きかけたんだろうに。他にも汚れ仕事を色々と。
「ムーランス伯爵! 日和るのか!?」
「そうだそうだ、申していたではないか、キャンディ家の小娘が聖女だとちやほやされて調子に乗って殿下に無礼を働いているから気に食わぬと!」
「我らを裏切って梯子を外すのか?」
「だっ、黙れ!」
「聖女である私に無礼を働かせて、御自分は高みの見物をなさっていらしたんですものねぇ。憎きキャンディ伯爵家の小娘を叩けるし、エリザベル様の競争相手も減るし、良いことづくめですもの」
クスクスと笑いながら暴露してやると、裏切られた貴族のおっさん達は激昂した。
「何だと!?」
「おのれ、我らを利用していたのか!」
じりじりと包囲されるムーランス伯爵。冷ややかな衆目を一気に集め、進退窮まったのかこちらを睨みつけた。
「うるさいうるさい! そのような嘘偽りを言うな小娘が!」
「嘘偽りを言ったのは貴様だ!」
一人がとうとうムーランス伯爵の胸倉を掴んで殴った。それに続いておっさん達の醜い大乱闘が始まる。
「やめなさい! 聖女様の御前を暴力と血で汚すつもりですか!」
「聖女様の前でやめよ、見苦しい! 誰か!」
しかしサリューン枢機卿やトラス王の言葉で近衛がやって来て止めようとするも、殴り合いに参加しているのは高位貴族が多く、逆に脅迫めいた怒声を返されて仕返しを恐れてか二の足を踏んでいる。
――仕方があるまい。
精神感応を空に放つと、黒い翼の大群が、しゃがれた鳴き声を上げながら現れた。
***
「ひぃ、痛い痛い、何をする!?」
「ぎゃああ、こっちへ来るな!」
「何故こんな烏共が急に!」
翼のある類人猿とも呼ばれる程の賢さ、鋭い嘴と爪を持った彼らの猛攻撃を受け、おっさん達は雲の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ惑うしかなかった。
黒い翼の大群――つまり烏達は、私の意志を汲んで乱闘中のおっさん貴族共に一斉に襲い掛かったのである。
本当はここで使う予定では無かったが、予め交渉の上で烏の群れを宮殿近くに集めていたのだ。
「烏が人を襲う? これは……何とした事か」
トラス王オディロンが呆然としたように呟くと、サリューン枢機卿が微笑む。
「烏は太陽神の神鳥でございます故――彼らは聖女様に無礼を働いたので、神がお怒りになったのでしょう」
その言葉を聞いた貴族のおっさん達が一斉に神に許しを乞い始めたので、そろそろ頃合いかと烏を引かせてやった。
サリーナから大きな餌袋を受け取って群れに報酬として与える。
私の錫杖の上に止まって羽繕いをしている群れのリーダーによれば、また同じような事があれば餌と引き換えに仕事を引き受けてくれるそうだ。
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