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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
グレイ・ルフナー(105)
良かった、目を覚ましたんだと思って封を切る。
手紙を広げると、いつもの彼女の文字が躍った。
『愛するグレイ
数日ぶりだけど、お元気かしら?
私はナヴィガポールやガリア王国とは違って、王都周辺はやっぱり寒いのだと実感しているわ。
先日は帰るなり倒れてしまってごめんなさい。思ったよりも疲労が溜まっていたみたい。グレイは大丈夫だったかしら?
ルフナー家の皆様にもさぞかしご心配を掛けてしまった事でしょうね。碌にご挨拶も出来なかった事を、マリーが謝っていたと皆様にお伝え下さい。
でも、今日やっと起きる事が出来たの。そこで驚く事を聞かされたわ。なんと、アン姉様に赤ちゃんが出来たんですって! 何て喜ばしいんでしょう!
そこで、アン姉様に会いに明日、ウィッタード公爵家に行こうと思うのだけれど。差支え無ければグレイも一緒に来て貰えるかしら?
後、それ以外にもラベンダー修道院にもご挨拶に行かないといけないし。
冬眠から覚めた熊のような気持ちのマリー』
最後の署名にクスリと笑う。
明日か――アン様がご懐妊されたのなら、挨拶に行かない訳にはいかないな。
修道院にも行こうと思っていた所だし。一番急ぐのは主にコスタポリ関連の事だけどそれは父と兄が動いてくれている。商会の承認が必要な仕事は持ち歩くとしよう。
僕は返事を書くべくペンを執った。
庭師を呼んで事情を話し、手紙に添えるのに良さそうな花は無いかと訊くと、丁度白いクロッカスが咲いているとの事。一輪採って来て貰った。茎の短い花。
花言葉には『元気』という意味があるそうだ。
「春待ち花の一つですので、外にも『青春の喜び』や春の訪れを『切望』するという意味もあります。
やや遠回しになりますが、春は命が芽吹く季節という事で姉姫様のご懐妊を喜ぶという意味にも取れますよ。白は神聖な色ですから」
「成る程、それにしよう。明日の朝手紙に添えて出すのでよろしく頼むよ」
「かしこまりました、若旦那様」
手に取った白いクロッカスを捻って、冬眠から目覚めた可愛い熊を想ってクスリと笑う。
春はもうすぐそこだ。
***
アールは既にアナベラ様と共に会いに行ったそうで、アン様にお会いしてないのはマリーとカレル様、僕の三名。
ウィッタード公爵家を訪問すると、ザイン様直々のお出迎え。挨拶を済ませた後、アン様がいらっしゃる部屋を訪ねる。
部屋に入るなり、暖かな空気が僕達を包み込んだ。
ソファーに横たわっていたアン様は、僕達を見るなり喜色を浮かべて歓迎してくれた。ご懐妊という事で、締め付ける様なドレスではなく妊婦が着るゆったりとしたドレスを身に纏っている。
少しふくよかになったアン様はやはり美しかった。ただ、以前と違って母性に満ち溢れている。
僕達がめいめい祝辞を述べると、アン様は礼を言い、肖像画を描いて貰う為に腕の良い画家を探していると微笑んだ。
僕の母も兄を身籠っている時に肖像画を描いて貰ったと聞いている。出産で命を落としても、子供が大きくなって母親の顔を知る事が出来るように。
何とも言えない気持ちになって、僕は何を言っていいか分からなかった。
「もしかしてずっと動かずにいるの?」
少し重くなった雰囲気を変えるように、マリーはアン様に色々と質問をしていく。
どうもアン様が安静にしている事と、少しふくよかになった事が気になっているみたいだ。
***
アン様を見舞った後――僕はサイモン様に報告や話をする事があったので、そのままキャンディ伯爵家にお邪魔して夕食を頂く事にした。
「ちょっと気になってるのよ。アン姉の体重管理の事」
前世の記憶で何かあるのだろうか。マリーはやはりアン様の目方を気にしていた。
何でも、懐妊中に栄養の付くものを食べ過ぎて太りすぎるのも良く無いのだと。
成る程説明されれば道理だった。産道が狭くなればその分出産も困難になる。
納得していると、サイモン様からマリーの知識の出所について質問が飛んだ。
彼女から前世の事をサイモン様に話したのかと思念が伝わって来て、僕は首を振る。
カレル様はマリーに秘密があるという事だけを話したらしい。
マリーは決心し、夕食後にその事について改めて話す場が設けられたのだけれど――。
御家族の語らいなので、僕はお茶を飲みながら静かに成り行きを見守っていた。
『あの馬を始めとする奇行の数々』だとか『ナット―』だとか気になる言葉や不穏な言葉が飛び交っている。
僕がその言葉について考えている間にも、話は進んで行く。
マリーは物心ついた時から前世の事を秘密にして生きて来たようで、ティヴィーナ様は母親として信じて貰えていなかったのかと怒りながら悲しむという器用な事をされていた。
その圧力と良心の呵責に堪えかねたマリーがとうとう絨毯に頭を擦り付けて謝罪し始めている。
そんな光景に。
……サイモン様もティヴィーナ様を怒らせたらこんな風にしてるんだろうか。
マリーの色合いがサイモン様似なだけに、僕はそんな想像をしてしまった。
あり得る。
つまり、キャンディ伯爵家の真の支配者はティヴィーナ様という事だ。僕は絶対に怒らせないようにしようと決意する。
マリーが必死に言い訳をしているのを少し憐れんだのか、助け舟を出したのはやっぱりサイモン様だった。
もしかしたらマリーの姿を自分自身に重ねていたのかも知れない。
手紙を広げると、いつもの彼女の文字が躍った。
『愛するグレイ
数日ぶりだけど、お元気かしら?
私はナヴィガポールやガリア王国とは違って、王都周辺はやっぱり寒いのだと実感しているわ。
先日は帰るなり倒れてしまってごめんなさい。思ったよりも疲労が溜まっていたみたい。グレイは大丈夫だったかしら?
ルフナー家の皆様にもさぞかしご心配を掛けてしまった事でしょうね。碌にご挨拶も出来なかった事を、マリーが謝っていたと皆様にお伝え下さい。
でも、今日やっと起きる事が出来たの。そこで驚く事を聞かされたわ。なんと、アン姉様に赤ちゃんが出来たんですって! 何て喜ばしいんでしょう!
そこで、アン姉様に会いに明日、ウィッタード公爵家に行こうと思うのだけれど。差支え無ければグレイも一緒に来て貰えるかしら?
後、それ以外にもラベンダー修道院にもご挨拶に行かないといけないし。
冬眠から覚めた熊のような気持ちのマリー』
最後の署名にクスリと笑う。
明日か――アン様がご懐妊されたのなら、挨拶に行かない訳にはいかないな。
修道院にも行こうと思っていた所だし。一番急ぐのは主にコスタポリ関連の事だけどそれは父と兄が動いてくれている。商会の承認が必要な仕事は持ち歩くとしよう。
僕は返事を書くべくペンを執った。
庭師を呼んで事情を話し、手紙に添えるのに良さそうな花は無いかと訊くと、丁度白いクロッカスが咲いているとの事。一輪採って来て貰った。茎の短い花。
花言葉には『元気』という意味があるそうだ。
「春待ち花の一つですので、外にも『青春の喜び』や春の訪れを『切望』するという意味もあります。
やや遠回しになりますが、春は命が芽吹く季節という事で姉姫様のご懐妊を喜ぶという意味にも取れますよ。白は神聖な色ですから」
「成る程、それにしよう。明日の朝手紙に添えて出すのでよろしく頼むよ」
「かしこまりました、若旦那様」
手に取った白いクロッカスを捻って、冬眠から目覚めた可愛い熊を想ってクスリと笑う。
春はもうすぐそこだ。
***
アールは既にアナベラ様と共に会いに行ったそうで、アン様にお会いしてないのはマリーとカレル様、僕の三名。
ウィッタード公爵家を訪問すると、ザイン様直々のお出迎え。挨拶を済ませた後、アン様がいらっしゃる部屋を訪ねる。
部屋に入るなり、暖かな空気が僕達を包み込んだ。
ソファーに横たわっていたアン様は、僕達を見るなり喜色を浮かべて歓迎してくれた。ご懐妊という事で、締め付ける様なドレスではなく妊婦が着るゆったりとしたドレスを身に纏っている。
少しふくよかになったアン様はやはり美しかった。ただ、以前と違って母性に満ち溢れている。
僕達がめいめい祝辞を述べると、アン様は礼を言い、肖像画を描いて貰う為に腕の良い画家を探していると微笑んだ。
僕の母も兄を身籠っている時に肖像画を描いて貰ったと聞いている。出産で命を落としても、子供が大きくなって母親の顔を知る事が出来るように。
何とも言えない気持ちになって、僕は何を言っていいか分からなかった。
「もしかしてずっと動かずにいるの?」
少し重くなった雰囲気を変えるように、マリーはアン様に色々と質問をしていく。
どうもアン様が安静にしている事と、少しふくよかになった事が気になっているみたいだ。
***
アン様を見舞った後――僕はサイモン様に報告や話をする事があったので、そのままキャンディ伯爵家にお邪魔して夕食を頂く事にした。
「ちょっと気になってるのよ。アン姉の体重管理の事」
前世の記憶で何かあるのだろうか。マリーはやはりアン様の目方を気にしていた。
何でも、懐妊中に栄養の付くものを食べ過ぎて太りすぎるのも良く無いのだと。
成る程説明されれば道理だった。産道が狭くなればその分出産も困難になる。
納得していると、サイモン様からマリーの知識の出所について質問が飛んだ。
彼女から前世の事をサイモン様に話したのかと思念が伝わって来て、僕は首を振る。
カレル様はマリーに秘密があるという事だけを話したらしい。
マリーは決心し、夕食後にその事について改めて話す場が設けられたのだけれど――。
御家族の語らいなので、僕はお茶を飲みながら静かに成り行きを見守っていた。
『あの馬を始めとする奇行の数々』だとか『ナット―』だとか気になる言葉や不穏な言葉が飛び交っている。
僕がその言葉について考えている間にも、話は進んで行く。
マリーは物心ついた時から前世の事を秘密にして生きて来たようで、ティヴィーナ様は母親として信じて貰えていなかったのかと怒りながら悲しむという器用な事をされていた。
その圧力と良心の呵責に堪えかねたマリーがとうとう絨毯に頭を擦り付けて謝罪し始めている。
そんな光景に。
……サイモン様もティヴィーナ様を怒らせたらこんな風にしてるんだろうか。
マリーの色合いがサイモン様似なだけに、僕はそんな想像をしてしまった。
あり得る。
つまり、キャンディ伯爵家の真の支配者はティヴィーナ様という事だ。僕は絶対に怒らせないようにしようと決意する。
マリーが必死に言い訳をしているのを少し憐れんだのか、助け舟を出したのはやっぱりサイモン様だった。
もしかしたらマリーの姿を自分自身に重ねていたのかも知れない。
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