貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

グレイ・ルフナー(112)

 「週刊ヌーヴェル! 独占記事、特別増刊号だよ! 今回は一味違う、今を時めく聖女劇の観料が半額になる券、更にはキーマン商会での買い物優待券が付いている!
 聖女様について知る事が出来るだけでなく嬉しい事ばかりだ! さあ買った買った!」

 その日、王都の辻々では――サイモン様が雇った者達がチリンチリンとけたたましくベルを鳴らしながら新聞を朝早くから売っていたそうだ。

 最初は訝し気に様子を窺っていた人々が、観劇料半額券や買い物優待券の事に興味を示す。

 「ちょっといいかい、あんた。聖女様の事が書いてあるっていうけど、聖女劇は兎も角何故キーマン商会の買い物が優待になるんだい?」

 一人の男が問いかけると、売り子は良くぞ訊いてくれた、と得意気に語り出す。

 「この記事にも書いてあるが、聖女様の夫になる方は何とルフナー子爵家のお人でね。未来のキーマン商会の跡取り息子なのさ。だからお披露目のお祝いも兼ねていつもなら考えられない程商品を安く売るそうだよ!」

 「えっ……本当に!?」

 「ああ。最大では九割引になるものもあるって話だ。そんな嬉しい買い物をするには、この新聞についてる割引券が必要だけどな」

 興味本位で話を聞いていた民衆は騒めきだす。それもその筈、キーマン商会の品は少々割高だが良い物を扱っているという事で人気があるからだ。

 「私、買うわ! 聖女劇も見に行くし、丁度欲しいお鍋があったの!」

 一人の女性が意を決して新聞を買った。続いて数人の男達が買い求める。

 「まいどあり! 早く買わないと部数は限定だ。無くなる前に急いだ方がいいよ!」

 その後、新聞は瞬く間に売り切れたという。そして聖女劇や商会の店には人々が押し寄せ、我先にと品物を争うように買って行ったという。


***


 週刊ヌーヴェル特別増刊号が出た次の日。
 僕はジャン・バティストからそんな王都の様子の報告を受けていた。

 「もう凄かったです。王都はマリー様や聖女劇の話題でもちきりになり、商会の店も客が殺到して。捌くのは大変でしたよ、グレイ様」

 明らかな疲労の色を浮かべるジャン。相当な数の客が来たのだろう。

 「……在庫はまだありそう?」

 どれだけ出たのか。気になっている事を聞くと、ジャンは今の所は、と溜息を吐く。

 「売り切れたものも大分ありますが、まだ。ただ、人気商品ばかり売れて在庫の偏りに少々困っています。
 郊外の倉庫へ人を走らせたり、潰れそうな弱小商会の在庫を買い上げて融通したり何とか調整しておりますが……」

 「ありがとう。苦労を掛けるね、ジャン。ところでマリーが言っていたんだけど――」

 僕は『福袋』の事を話した。

 「人気商品だけ出ても困るという問題なんだけど、人気の無い商品も抱き合わせて売れば良いってさ。
 中身はこちらで選別して、外からは見えないように袋に入れるそうだよ。
 確かにそうすれば人気商品以外のものも捌けると思うんだけどどうだろうか」

 「しかし、中身が見えなければ買う客は居ないのでは……?」

 「それは僕も聞いてみたんだけど、こういう物が入っているという一例を展示するそうだよ。総額幾らのものが半値で買えると射幸心を煽るんだって」

 「おお、それなら売れますね!」

 話を聞くにつれ、ジャンの目が興味深そうに輝きだしていた。彼も面白い商売だと思ったらしい。

 「『福袋』――幸運を招く袋ですか! 流石は若奥様。商才がおありです。良い考えです!」

 早速明日からそうします! と踵を返すジャン。

 数日置かずして売り出し始めたキーマン商会の『福袋』は、新しもの好きの王都民の話題に上り、売れに売れたという。
 更には聖女様からの授かり物だという者まで現れ始め、夫である僕も一躍時の人となった。

 数日後に再びやってきたジャンからの報告では、聖女劇を観たであろう人から買い物がてら僕を応援していると伝えて欲しいという人も出て来たそう。

 「グレイ様の王都での評判はすっかりうなぎのぼりですよ。
 それに、『福袋』で売れ残っていた在庫がさばけた上に儲けを出す事が出来ました」

 ニコニコ顔のジャン。今朝受け取った家からの手紙でも、祖父エディアールが『福袋』に感心していたっけ。
 利益は少ないかも知れないけれど、その分売れたのだから総合的に儲けが出たと。

 その報告に僕も満足した。
 来年も『福袋』をしても良いかも知れない。


 『聖女マリアージュがトラス王国に帰還した記念日』として。



***



 「全く何だ、あいつらは。嘘も百遍繰り返せば真実になるとばかりに、どちらの王子派も我が王子こそが聖女に相応しい等と囀り合っている。毎日ピーチクパーチクとうるさい事だ」

 宮廷から帰られたサイモン様はそう言って溜息を吐く。他の貴族達に鬱陶しく纏わりつかれてうんざりしているそうだ。
 マリー本人やサイモン様の意向等そっちのけで争っているらしい。日を経る事にそれは激しさを増しているとか。

 その為、サイモン様を始め、キャンディ伯爵家の皆様は聖女帰還の歓迎の祝宴が開かれるその日まで社交界を控えて沈黙を守っていた。

 僕もちらりと見たけれど――王都で聖女マリアージュの話題が大きくなるにつれ、より多くの手紙が時を置かず舞い込んでいた。
 この屋敷に押し掛ける者も少なからず居て、余程の事態なのだと実感が湧く。
 ルフナー子爵家の方は大丈夫だろうか。

 じっと沈黙を守り耐える事数日――。

 「聖女様並びに名誉枢機卿グレイ猊下、我が国にご帰還!」

 聖女帰還の祝宴に招かれた僕とマリーは、トラントゥール宮殿の入り口に立ち――トラス王陛下を始めとする数々の貴族達の出迎えを受ける事となったのだった。
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