貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

新妻の焼豚レシピ。

 「――っ、そんな事はさせないわ! あの子はまだ幼いのよ? どう考えても皇帝とは名ばかりの血塗られた傀儡コース決定じゃないの!」

 「左様でしょうなぁ。ヴェスカル殿下が皇帝になったところで、ほぼほぼそうなると我輩も思っております」

 アルトガルはヴェスカルの身の上を語った。
 身分の低い母親から生まれ、皇帝の血を引きながら既に上には年の離れた第一皇子がいて。母親が亡くなったのをきっかけに厄介払いとばかりに聖地にやられたという。
 もしアブラーモがクーデターを起こし、成功していればあの子はどうなっていたか。
 いずれにせよ、碌な事にはならなかっただろう。

 「まさかヴェスカルが神聖アレマニア帝国の皇族だったなんて……」

 グレイが愕然としている。私もあの子の事を孤児みたいなものだと考えてて、フルネームとか全然気に留めていなかったし寧ろ忘れてた位だから似たような気持ちだ。

 「以上が寛容派の動きです。話はここからでしてな。次は不寛容派の動きですが、デブランツ大司教が求心力を低下させた事を受けたアーダム第一皇子殿下は『ならば聖女をその夫を殺してでも奪い我が妃にすれば国内の対立も丸く収まってまとまるだろう』と仰ったとか。
 もっとも、デブランツ大司教はそれに反対しておりますが、不寛容派でも皇帝を中心とする一派は賛成したそうで。
 我輩が国を出る時にその情報を知ったので、近々トラス王国に訪問があるかも知れませぬ」

 「――何だと?」

 父サイモンが不愉快そうに片眉を上げた。私は不愉快と怒りを通り越して寧ろ笑いが込み上げて来る。

 「クッククククク……グレイの命を狙い、この私の安穏ニート生活を壊そうとするなんざ良い度胸だ! 今すぐ燃やすわー。つうか、燃やすしかないわー。
 人妻に手を出そうとする不潔で薄汚ねぇ糞雄豚なんざ、どうせ地位に胡坐かいた勘違い梅毒持ち野郎に決まってる。股間を集中燃焼ターゲットバーニングさせて子種を絶やしてやれば勝手に自滅してくれるでしょ!」

 「マリー様、お言葉遣いが……」

 「ま、待ってマリー! 落ち着いて! サリーナも何悠長な事を言ってんの!」

 グレイが焦ったように私を後ろから抱きしめてきた。ちょっ、くすぐらないで!

 「うひゃっ、離してグレイ! 集中しなきゃ奴を焼豚チャーシューに出来ないじゃない! これはヴェスカルの為でもあるのよ!」

 「されちゃ困るよ!」

 わちゃわちゃしながら揉み合っていると、アルトガルが不思議そうに首を傾げた。

 「グレイ猊下、どうかされましたか?」

 「どうしたもこうしたも、マリーはんだ!」

 「何と! それは羨ましい。戦であれば人知れず兵糧に火を付けるも自由自在、負け無しでしょうな!」

 感心したように言うアルトガル。グレイは「いや、マリーにそんな事させられないよ、平和が一番だから!」と悲鳴を上げる。

 そこへ、馬の脚共が進み出た。

 「マリー様、御身が手を下すまでもありますまい! 我らに一言お命じ下されば片付けて参りましょうぞ!」
 「お望みとあればアレマニア第一皇子の首級を御前にお捧げ致しましょう!」

 「あはは、先輩達が言うと洒落になりませんよー。まあいよいよとなったら僕もお手伝いしますけどねー」

 物騒な事を言う馬の脚共(中脚含む)。隠密騎士だと知った今はそれが冗談ではない事が理解出来てしまう。
 私はそんな事はさせられないと首を横に振った。

 「気持ちは嬉しいが、お前達を無駄に危険に晒したくない。やはり私が燃やす方が足が付かず確実だ!」

 そこへ、父サイモンがツカツカと歩み寄って来て。

 ゴチーン!

 「痛あああああっ!」

 拳骨を落とされ、私は痛みに頭を抱えた。同時にグレイの拘束が解かれる。

 「何するのよ、ダディ! 痛いじゃない!」

 「馬鹿娘、落ち着け。燃やすのは何時でも出来るだろう?」

 私を殴った手をブラブラと振りながら呆れたようにたしなめて来るダディサイモン。

 「しかし――もしアレマニア第一皇子の子種が途絶えれば、ますますヴェスカル様が狙われるのでは?」

 サリーナの冷静なツッコミに、私はハッと我に返った。

 「……確かに。でも、どうしたら」

 「国家間の皇族や王族の移動を伴う交流は、双方の使者のやり取りも何度か為されます。何かと時間がかかりますわ。その間に対処を考えましょう。
 また、ヴェスカル様本人も交えてきちんとお話をされた方が良いと思います。
 まずは聖地のサングマ教皇猊下にご相談してみるのは如何でしょうか」

 「そうね……」

 少し平常心を取り戻した私は思考を巡らせる。
 もう少し情報が欲しいと思ってアルトガルに精神感応を使い――愕然とした。

 「アルトガル、あなたは……わね?」

 じっと見つめると、皆の視線もアルトガルに注がれる。
 カールが出入口の方を固める様に動き、ヨハンとシュテファンがアルトガルに対峙した。
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