貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(1)

 トゥラントゥール宮殿の謁見の間。
 居並ぶ貴族達の視線の中、トラス王オディロン陛下の御前に僕は極度の緊張状態で跪いていた。

 「トラス王オディロン陛下のお言葉である。グレイ・ルフナー卿に伯爵位を授ける。今後はダージリン伯爵を名乗り、王国に忠義を尽くされよ」

 侍従が厳かに口上を述べる。心臓が早鐘を打つのが耳に聞こえるようだ。僕はごくりと唾を呑みこみ、口を開いた。

 「――ありがたく拝命致します。お預かりした領地の民に安寧を齎し、陛下の御期待に沿えるよう領主として勤め励む事をお約束いたします」

 「うむ。グレイ・ダージリン伯爵、余はそなたを頼りにしておるぞ」

 「ありがたき幸せ」

 オディロン陛下が爵位認定証書にサインと御璽を押印されると、立ち合いのサリューン枢機卿がその一部を僕に、もう一部を侍従に渡した。侍従が持っていく先は貴族院であり、そこで保管される事になる。
 僕は両手で捧げるように頂戴し、無事に伯爵位を叙爵されたのだった。

 書面の他、ダージリン伯爵としての印章や紋章旗、剣を賜って宮殿を辞す。
 父ブルックと兄のアールが追いかけてきて、僕の肩を抱きおめでとうと祝いの言葉をくれた。

 「サイモン閣下、我が息子を何卒よろしくお願い申し上げます」

 「ブルック殿、安心召されよ。グレイもアールも大事な娘婿達。立派にやっていけるよう私が責任を持って後見していこう」

 父は深々とサイモン様に頭を垂れた。
 僕の後見として、叙爵式にはサイモン様も同席して下さっていたのだ。

 馬車溜まりで一旦父兄と別れ、僕とサイモン様は馬車へと乗り込む。
 隣では僕の側近ジャン・バティストが緊張した面持ちで賜った品々を抱え込んでいた。
 馬車が動き始める。僕はじっと爵位証書を見つめる。

 「これで僕が伯爵……」

 とうとう伯爵になってしまった。サイモン様と同じ爵位、そして広大な領地。
 一介の商人貴族だった僕に治められるだろうか。

 「不安か?」

 そんな様子を心配して下さったのか、前に座ったサイモン様が問いかけて来た。
 僕は頷く。

 「正直に言えば、かなり」

 「そう構える事でもない。執務等は時折手伝って来たと思うが。やる事と言えばその延長のようなものだ。慣れるまでは付き合ってやろう」

 「ありがとうございます、サイモン様」

 サイモン様のお手伝いの延長。
 少し気が楽になった僕が礼を述べると、サイモン様はふっと目元を和らげた。

 「マリーと結婚したのだ、私の事は父と呼ぶが良い」

 「はい、義父様」

 導いてくれる方がいるというのは何と心強い事だろう。僕は本当に恵まれている。

 その日の夜。

 「まあ、グレイ! 立派になって……!」

 新たにダージリン家を興した僕はキャンディ伯爵家を借りるという形で、付き合いのある貴族や商会を招いての祝賀会を開いていた。

 一通りの挨拶が終わった後、祖母パレディーテと母レピーシェが着飾った僕を見て抱きしめたり感極まったように涙ぐんだりしている。

 「ダージリン伯爵家になってしまったのよねぇ……何だか寂しいわ」

 「独立したと言っても、単に姓が変わっただけだし、僕は変らずお婆様の孫でお母様の息子。大げさだよ」

 「そうですわ。今現在着工している私達の屋敷もこの屋敷の離れのようなものですし。今はちょっと色々な事でバタバタしているかも知れませんが、落ち着いたらルフナー子爵家にゆっくりお邪魔しようと思っておりますの」

 マリーがニコニコしながらそう言うと、祖母と母は安堵したような表情になった。

 「その時はもしかしたら三人かも知れないわねぇ」

 「まあ、お婆様ったら。気が早過ぎるわ!」

 ラトゥ様の言葉に顔を赤らめるマリー。僕も頬が少し熱くなった。

 「あらあら、初々しいざます」

 「本当ですわ。二人共あんなに頬を染めて、可愛らしい事」

 「新婚さんはお熱いですわぁ! ラトゥお姉様、パレディーテ様、今からお孫ちゃんが楽しみですわねぇ!」

 おほほほほ、とホルメー夫人、エピテュミア夫人、ピュシス夫人――社交界の三魔女が揶揄ってくる。
 僕もマリーも恥ずかしさに顔を上げられなかった。
 そこから暫く僕達のまだ見ぬ子供や、そこから夫人達の孫の話をしていたが――彼女達の話題はどんどん移り変わり、何時の間にか別の話になっていた。

 「そうそう、息子が申していたのですけれど、最近神聖アレマニア帝国が聖女様の事について問い合わせて来ているんですって。
 お国柄気になっているんでしょうけれど、一応お耳に入れた方が良いと思いまして。ほら、あの国はもうすぐ皇帝選挙が行われますでしょう?」

 そう言ったエピテュミア夫人は外交に携わって来た家柄だ。
 意味深な言葉には多くの情報が詰まっている。
 降りかかって来そうな厄介事の予感に、僕は顔を引き締めた。
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