貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

What’s going on?

 家族が旅に出た後、王都へ残るのはトーマス兄、カレル兄、義姉キャロラインの三人。
 トーマス兄は父に代わり王都での役目を取り仕切り、カレル兄はその補佐をする事になる。

 「……屋敷の警備とか、大丈夫なの?」

 少し心配になって訊くと、父サイモンは私の頭にポンと掌を乗せた。

 「抜かりはない。私達の護衛で幾人か抜けた所で揺らぐような警備ではないからな」

 「でも……アレマニアの皇子がやって来たら?」

 「そもそも狙いのお前が居なければ訪ねても無駄足だ。フォション辺境伯の娘であるキャロラインが応対すればすぐに帰るだろう。無体な真似をしようとすればそれ相応の報いが来るだけだ」

 父は自信があるようだが、私はやっぱり不安なので烏軍団にも言い含めておいた。

 烏達は本当に賢い。
 使用人達の顔を覚えており、見覚えのない不審者が居れば騒ぐように命じてある。
 馬の脚共曰く、これがなかなか成果を挙げているようだ。ちなみに報酬は愚民共と共に朝の残飯である。
 念の為、旅にも何羽かついてきて貰おうと思う。


***


 「準備に早めに取り掛かっておいて正解だったな」

 領地行きが決まってから三週間近くが経過、月が替わったある日――父サイモンは王宮から帰るなりそう言った。
 父が王宮へ向かったのは、トラス王とサリューン枢機卿に神聖アレマニアの情報と共に使節団が帰国するまでは領地へ向かう旨を伝える為である。
 正解だったとはどういう意味かと訊けば、神聖アレマニア帝国からの使節団受け入れの承諾を出してから二週間も経たぬ内に先触れがあったという。それが今朝の事だそうだ。

 「早すぎるのだ。しかも奇妙な事に、陛下の許可を得て使節団の名簿を見たところ、デブランツ大司教の名こそあれど、アーダム第一皇子の名は記されていなかったのだ」

 デブランツ大司教だけ?

 「じゃあ夜逃げするように領地に行かなくても良いのかしら?」

 大司教だけならどうとでもなりそうだけど、と思っていると、父は首を横に振った。

 「いや、要人はおいそれと国外には出ないものだが、何事にも抜け穴はある。王都は離れるべきだ」

 父的には油断禁物な模様。
 グレイが思案気に腕組みをしている。

 「二週間……それぐらいだと早馬を飛ばして国境へ行って帰って来た位でしょうか」

 「だろうな。使節団が国境で待機しているとすれば、後一週間せぬ内にやってくる事になる」

 

 何か引っかかる。確認した方が良いかも知れない。
 それに怖いもの見たさもあり。私は地図を持って来させ、広げて透視能力を使ってみた。

 探すは神聖アレマニア帝国アーダム第一皇子の居場所。

 ――えっ!?

 私の透視能力は、見間違えでなければトラス王国内の町を示していた。
 何と、アーダム第一皇子は既に入国を果たしていたのである!

 町に絞って透視を続けると、宿の一室らしき場所で何人かの男達が居るのが見えた。
 中でも一際身なりが豪華で体格が良過ぎる人物が一人。
 これがアーダム第一皇子だろうか、と観察していると。

 ……。

 …………。

 何というか、うん。

 金髪ぱっつんおかっぱケツ顎ゴリマッチョの厳ついカボチャパンツ(しかも股袋装備済)男って視界の暴力だわー。地顔も怒ってるし。
 カボチャパンツにタイツみたいな、お貴族様的な服装ってすらっとしているから似合うんであって。マッチョだと……かなり引く。
 前世、こういうアメコミヒーローが居たような気がする。あんまりお近づきにはなりたくない。
 そんな事を考えていると、ケツ顎マッチョがきょろきょろと視線を動かし始めた。

 ――如何されました?

 傍に居た髭面のおっさんが訝し気にケツ顎マッチョに声を掛ける。ケツ顎はおっさんの方を向いて口を開いた。

 『いや、ダンカンよ、どこからか視線を感じぬか?』

 『視線? しばしお待ちを』

 まさか私の透視を感づいたのだろうか。金髪ゴリラ的な野生の勘は侮れんな。
 ダンカンと呼ばれたおっさんは周囲の男に目配せをし、全員で部屋の扉を開けたり天井を剣の鞘でドンドン突いたりした後、ケツ顎マッチョを振り向いた。

 『アーダム殿下、ここには我らしかおりませぬ。かなりの強行軍でございましたし、疲れていらっしゃるのでは』

 マ、マジかああああ!!!

 違っていて欲しかったけど、こいつがアーダム第一皇子だったのかああああ!

 うへぁ、生理的に無理なタイプだわー。
 こういうキワモノじゃなく、もっとイケメンが良かった……。

 心の中で血の涙を流す。

 私、グレイ以外では男運無さ過ぎぃ!
 ……まあ浮気するつもりもないから別に良いけどさ。
 でもね、ほら、もっとこう……小説みたいにイケメンに言い寄られるとかさぁ……。

 テンションは駄々下がりである。

 「ヘーイイェーイイェーイイェイイェイ♪ ヘーイイェーイイェイ♪」

 ……せめて歌って自分を慰めよう。
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