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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
鳥だって、土から離れては生きられないのよ!
宿場町ポーを後にした馬車は、順調にシャンブリル川沿いに街道を南下していく。昼時になったので、ポーで仕入れてきた食料でピクニックすることになった。
パンは一般的なハードパン。パン粥のようにシチューにぶちこんで柔らかくして食べる。皆に料理が行き渡り、いざ食事と言う時だった。
――クルァァァ、クルァァァ!
空を旋回していた烏達が俄かに騒ぎ始める。その意味を知る男達がさり気なく武器に手を触れた。
「……どうしたんだろう」とグレイが呟いたが、私には分かる。これは警戒の鳴き声――私は馬の脚共を見た。
「お前達」
「「ははっ!」」
私は烏共に合図を送った。二人は烏達を追いかけ、やがて馬に乗った誰かを連れて戻って来る。
全身修道服のような黒――修道士。
「エヴァン修道士!?」
判別出来る距離までになると、見知った顔に驚きの声を上げる私。エヴァン修道士は下馬すると、私の目の前にやってきて聖職者の礼を取った。
「どうして……」
何故ここに彼がいるのだろうか。呆然としている私に、頭を上げたエヴァン修道士が柔らかい笑みを浮かべる。
「聖女様にご挨拶致します。メンデル様のお許し得て、メイソンとイエイツの目を盗んで出て参りました。
実はご一緒しようと思って伯爵家にお邪魔したのですが…既に出立された、と伺いまして。
急ぎ旅支度を整え、馬を駆り追いかけて参った次第でございます。ご同道をお許し願えますか?」
「勿論よ。わざわざ追いかけて来てくれたのね、ありがとう、助かるわ」
そう言う経緯だったのか。確かに朝暗い内から夜逃げするように出たからすれ違ったのだろう。
追いかけて来てくれて正直助かったというのが本音である。
何せ私一人ではあの二人の面倒を見切れるかどうか分からなかったからな。
エヴァン修道士にもシチューが振る舞われ、昼食続行となった。
***
「来い!」
昼食も終わった頃。皆の残飯を集めさせて烏達を呼ぶ。
烏達は待ってましたとばかりに舞い降りてきて、騒ぎながら食事を始めた。フードロスが減って何よりである。
「その烏は凄うございますな。それも聖女としての奇跡の一つと聞きましたが」
烏に興味津々な様子のアルトガルが話しかけてきた。
私はそうよと頷いて布を腕に巻くと、食事を終えた烏のリーダーを呼ぶ。
「さあ、ご挨拶」
精神感応を使って伝えると、リーダー烏は会釈するように右足だけをぴょこりと上げて一声鳴いた。
うんうん、かわいい。
「ほう! 何と礼儀正しい烏なのか」
感嘆の声を上げてアルトガルも礼を返す。視界の隅に、エヴァン修道士が手帳らしきものに必死に何かを書きつけているのが見えた。前々から思っていたが、メモ好きだなこの人。
「マリー様は鳥の言葉が分かるのでしょうか? 我輩は子供の頃、動物と話す事が夢だったのです」
目を輝かせて語るアルトガルに返事をしようとしたその時だった。
烏達が再び警戒の鳴き声を上げ騒ぎ始めたのである。再び物々しい雰囲気が場を支配した。
ピィーッと鋭く鳴きつつ飛来してくる大きな影。
空に大きな翼を広げるそれを目の当たりにした時、私は衝撃に目を瞠った。
「何だ、あれは。鷹――いや、鷲か。しかしあのようなデカブツは見た事が無いぞ」
祖父ジャルダンの驚愕の声が耳を打つ。皆も口々に「大きい」「初めて見る」等と呆気に取られたようにそれを見ていた。
「あれって…白頭鷲?」
「マリー、知ってるの?」
グレイの問いに頷きながらも私は白頭鷲と思わしき巨大な猛禽類から視線を逸らせないでいた。
前世では確かアメリカ大陸の鳥で空の王者だった。精神感応を使って探ると、やはり新大陸の方から北極圏に近いところを通ってこちらの大陸へとさ迷い流離ってきた模様。他に仲間も居なさそうである。
迷い鳥であるならば、やるべき事は――ナンパ一択。
私は烏達を下がらせ、川の方に進み出た。
「マリー様!?」
「なりませぬ、無茶です!」
「危険にございます!」
「サリーナ、大丈夫だから。馬の脚共、下がれ。カール、そして皆も弓を納めて。あの子を脅かしては駄目よ」
サリーナや馬の脚共が引き留めようと叫ぶのを制し、カール他の面々にも注意してから私は布を巻いたままの腕をゆっくりと持ち上げる。
『おいで、可愛い子。悪いようにはしないわ。美味しい魚や安全で温かい寝床をあげる。だから私と一緒に来ない?』
努めて優しく呼びかける。白頭鷲は考えるように旋回していたが、暫くしてピィーッと鳴いて承諾の意を返してきた。
そしてこちらへ向かって真っすぐに高度を下げ――
――腕に止まると思いきや、少し離れた地面に降り立つ。そして歩行でトコトコと近付いて来たのであった。
きょと、と首を動かして私を凛々しい眼で見上げ。得意気にピュイッと鳴く空の王者。
……なんでやねーん!
パンは一般的なハードパン。パン粥のようにシチューにぶちこんで柔らかくして食べる。皆に料理が行き渡り、いざ食事と言う時だった。
――クルァァァ、クルァァァ!
空を旋回していた烏達が俄かに騒ぎ始める。その意味を知る男達がさり気なく武器に手を触れた。
「……どうしたんだろう」とグレイが呟いたが、私には分かる。これは警戒の鳴き声――私は馬の脚共を見た。
「お前達」
「「ははっ!」」
私は烏共に合図を送った。二人は烏達を追いかけ、やがて馬に乗った誰かを連れて戻って来る。
全身修道服のような黒――修道士。
「エヴァン修道士!?」
判別出来る距離までになると、見知った顔に驚きの声を上げる私。エヴァン修道士は下馬すると、私の目の前にやってきて聖職者の礼を取った。
「どうして……」
何故ここに彼がいるのだろうか。呆然としている私に、頭を上げたエヴァン修道士が柔らかい笑みを浮かべる。
「聖女様にご挨拶致します。メンデル様のお許し得て、メイソンとイエイツの目を盗んで出て参りました。
実はご一緒しようと思って伯爵家にお邪魔したのですが…既に出立された、と伺いまして。
急ぎ旅支度を整え、馬を駆り追いかけて参った次第でございます。ご同道をお許し願えますか?」
「勿論よ。わざわざ追いかけて来てくれたのね、ありがとう、助かるわ」
そう言う経緯だったのか。確かに朝暗い内から夜逃げするように出たからすれ違ったのだろう。
追いかけて来てくれて正直助かったというのが本音である。
何せ私一人ではあの二人の面倒を見切れるかどうか分からなかったからな。
エヴァン修道士にもシチューが振る舞われ、昼食続行となった。
***
「来い!」
昼食も終わった頃。皆の残飯を集めさせて烏達を呼ぶ。
烏達は待ってましたとばかりに舞い降りてきて、騒ぎながら食事を始めた。フードロスが減って何よりである。
「その烏は凄うございますな。それも聖女としての奇跡の一つと聞きましたが」
烏に興味津々な様子のアルトガルが話しかけてきた。
私はそうよと頷いて布を腕に巻くと、食事を終えた烏のリーダーを呼ぶ。
「さあ、ご挨拶」
精神感応を使って伝えると、リーダー烏は会釈するように右足だけをぴょこりと上げて一声鳴いた。
うんうん、かわいい。
「ほう! 何と礼儀正しい烏なのか」
感嘆の声を上げてアルトガルも礼を返す。視界の隅に、エヴァン修道士が手帳らしきものに必死に何かを書きつけているのが見えた。前々から思っていたが、メモ好きだなこの人。
「マリー様は鳥の言葉が分かるのでしょうか? 我輩は子供の頃、動物と話す事が夢だったのです」
目を輝かせて語るアルトガルに返事をしようとしたその時だった。
烏達が再び警戒の鳴き声を上げ騒ぎ始めたのである。再び物々しい雰囲気が場を支配した。
ピィーッと鋭く鳴きつつ飛来してくる大きな影。
空に大きな翼を広げるそれを目の当たりにした時、私は衝撃に目を瞠った。
「何だ、あれは。鷹――いや、鷲か。しかしあのようなデカブツは見た事が無いぞ」
祖父ジャルダンの驚愕の声が耳を打つ。皆も口々に「大きい」「初めて見る」等と呆気に取られたようにそれを見ていた。
「あれって…白頭鷲?」
「マリー、知ってるの?」
グレイの問いに頷きながらも私は白頭鷲と思わしき巨大な猛禽類から視線を逸らせないでいた。
前世では確かアメリカ大陸の鳥で空の王者だった。精神感応を使って探ると、やはり新大陸の方から北極圏に近いところを通ってこちらの大陸へとさ迷い流離ってきた模様。他に仲間も居なさそうである。
迷い鳥であるならば、やるべき事は――ナンパ一択。
私は烏達を下がらせ、川の方に進み出た。
「マリー様!?」
「なりませぬ、無茶です!」
「危険にございます!」
「サリーナ、大丈夫だから。馬の脚共、下がれ。カール、そして皆も弓を納めて。あの子を脅かしては駄目よ」
サリーナや馬の脚共が引き留めようと叫ぶのを制し、カール他の面々にも注意してから私は布を巻いたままの腕をゆっくりと持ち上げる。
『おいで、可愛い子。悪いようにはしないわ。美味しい魚や安全で温かい寝床をあげる。だから私と一緒に来ない?』
努めて優しく呼びかける。白頭鷲は考えるように旋回していたが、暫くしてピィーッと鳴いて承諾の意を返してきた。
そしてこちらへ向かって真っすぐに高度を下げ――
――腕に止まると思いきや、少し離れた地面に降り立つ。そして歩行でトコトコと近付いて来たのであった。
きょと、と首を動かして私を凛々しい眼で見上げ。得意気にピュイッと鳴く空の王者。
……なんでやねーん!
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