貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(8)

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 王都を離れ、キャンディ伯爵領と拝領したダージリン伯爵領を回る事が決まったのは良いけれど、問題は人選だった。
 ダージリン領はマリーに無礼を働いた貴族が領地替えになった場所。領地替えの際に家臣達もことごとく移動して行ったから、今は王宮から官吏が派遣されて統治していると聞いている。
 目下、僕がしなければならない事は家臣集めとその育成。

 連れて行くなら官吏の引継ぎについて行ける程の人材でないといけない。それも、信頼のおける者でなければ。
 ジャン・バティストが理想的だけれど、生憎家業の忙しさがそれを許してくれなかった。長期的な不在になりそうだから尚更だ。
 祖父エディアールや父ブルックは、商会の事なら大丈夫だろう。だけど、株式も含め各種業務を把握していて、僕の代わりが全う出来そうなのがジャン位しかいない。
 いや、それなりに使える人材は育ててきてはいるけれど、総合的な責任を任せられるかといえば難しいところだ。だから彼を連れて行くわけにはいかない。

 「グレイ様、旅にはこの二人をお連れ下さい。私がそれなりに使えるように仕込んでおりますので」

 ジャンがそう言って連れて来たのは僕も見知っている二人の人物だった。

 一人は黒髪に明るいブラウンの瞳の大人しそうな印象を受ける男、ヤン・コルマール。
 年は二十四歳、会計と交易に明るい有望株だ。彼の計算の才能に目をつけた父ブルックが王都のトラス中央大学の学費を援助していたっけ。

 もう一人はシャルマン・サノワ。柔らかい茶髪を長く伸ばして束ねた優男で、女性達の受けが良い二十六歳。
 何でも下級貴族の庶子だそうで、一時期は父親の屋敷で使用人をしていたとか。ひょんな事で嫡子の怒りを買ったか何かで追い出された後、キーマン商会に就職した経緯と聞いている。ちなみにサノワは母の姓だそうだ。彼もまた話術に長けている他は、執事業や事務作業もそれなりにこなせる有能な人材だ。

 「ジャン様に比べればまだまだ未熟者ですが、精一杯務めさせて頂きます」

 「グレイ様のお役に立てるよう頑張ります」

 ヤン・コルマールはやや緊張した面持ちで頭を下げる一方、柔らかい笑みを保ったまま優雅に礼をするシャルマン・サノワ。
 対照的な二人だけれど、だからこそお互い補いあって上手く行きそうだ。

 「ヤンとシャルマンか。君達二人なら間違いないだろうね。道中宜しく頼むよ」

 ジャンを連れて行けないのは残念だけれど、僕もジャンばかりに甘えてはいられない。ダージリン伯爵領に行った時の事を見据えての人選。何かあった時、彼らはきっと役に立ってくれるに違いない。
 だけど、いくら有能でもたった二人……厳しいな。

 「これ以上連れて行くのは……厳しいよね?」

 「ええまあ……」

 目を逸らすジャン。
 うん、知ってたよ。鬼のような忙しさだって。
 僕はごめんと呟いた。

 「グレイ様に仕官を求める手紙や面会の要望が増えておりますが…その中から目ぼしい者を見繕って頂くとか。もしくはキャンディ伯爵閣下にお願いして人材をお借りするとかなさってください」

 「……そうだね。それについては考えがない訳じゃない」

 僕一人で捌くには限界がある。下手な人間を採用したくもないし。そこはマリーの力を存分に借りるつもりだ。

 「身分や門地は問わない。真面目で有能な人物をダージリン伯爵領で見極め登用する、と返事を出しておいてほしい」

 「でしたら私が代筆をしましょう」

 「私も手伝います」

 「ありがとう。シャルマン、ヤン」

 早速とばかりに二人が部屋を出て行くと、僕はジャンに向き直った。

 「ジャン、本当に緊急時にはマリーに頼んで連絡するから。頭の中にいきなり声が響くから驚くと思うけれど、そういう事だと了承しておいて」

 「聖女様のお力ですね……承りました。しかし、取込み中はなるべく避けて頂けると……」

 気まずげにもじもじするジャン。それまで黙っていたカールが「確かに便所や夜の生活真っ最中とかー、いきなり頭の中で声が聞こえると吃驚しちゃいますよねー」と笑い交じりに言う。

 ああ、そういう……。

 色々察し、僕は頷いた。

 「うん、伝えておくよ」

 そんなやり取りの後。お得意様に手紙を書いたり細々とした事を話し合ったりしていると、部屋の扉がノックされた。

 「グレイ様、アルトガル様がお連れ様とお見えです」

 「分かった、今行く」

 さて、もう一仕事だ。


***


 旅にはアルトガルも同行するので、その代わりとして銀行関連の事で山岳国家ヘルヴェティアと繋ぎをつける人員が必要になる。
 アルトガルが僕達の前に連れて来たのは、何と二人の女性だった。王都の拠点に常住し、情報収集や仲間である傭兵達への便宜を図っているという。

 「初めまして、私はアール・ルフナーです」

 「私はグレイ・ダージリン。宜しくお願いします」

 「僕はグレイ様の護衛のカール・リザヒルですー。よろしくー」

 一人は焦げ茶の巻き毛に少しつり気味の黒い瞳。そしてもう一人は金髪におっとり垂れた青い瞳をしていた。
 二人共、一般的な庶民のドレスにショールの出で立ちに頭巾をかぶっている。

 「アーデルハイドと申します」
 「クララと申します」

 綺麗なトラス王国語だ。アーデルハイドと名乗った焦げ茶の巻き毛の女性はにこりともせずに腰をかがめ、クララと名乗った方は真っ直ぐな金髪を揺らして優雅に微笑んでいる。
 先程の二人と言い、今日は対照的な組み合わせをよく見る日だ。

 ……というか、アーデルハイドさん。さっきからカールの事をすっごく睨んでないかな?

 首筋にチリチリとした僅かな痛みが走る。アルトガルが、アーデルハイドの背中を軽くポン、と叩いた。

 「カールよ、そう揶揄わないでやってくれ」

 「ふふふ、ごめんねー。懐かしい反応だったものだからー」

 カールはおかしくてたまらないというようにクスクス笑っている。何かがあったのだろうけど、良く分からない。
 それはアールも同じ気持ちだったらしくて僕達は目を見合わせた。

 「この通り、アーデルハイドは負けん気が強く愛想がないのが玉に瑕ですが…二人共女だてらに賢くそれなりに戦える娘達でして。彼女らがヘルヴェティアから来る者達の繋ぎになります」

 苦笑いしながらとりなすように言うアルトガル。少しムッとしたようなアーデルハイドを見て、僕は何となく侍女のサリーナを思い出した。彼女は愛想があるけれど、何となく共通するものを感じたのだ。

 「分かりました。では、こちらの人員に引き合わせましょう」

 アールの一声で銀行にたずさわる者達がぞろぞろと入って来る。
 そこから具体的な話し合いの場が持たれる事となり、銀行業の山岳国家ヘルヴェティアへの進出の第一歩が踏み出されたのだった。
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