貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(17)

 僕達に同道する形で城に乗り込んだダニエリク司教の有り余る熱意と押しの強さ。加えてそこへ現れた前脚のヨハンと後ろ脚のシュテファンの援護。
 マリーが領民達へお披露目パレードをする事があれよあれよと決まってしまった。

 最初、司教の勢いに呆然としていたマリーが我に返って「ちょっと待って、こっそりお迎えしてくれれば良いの!」「そんなに派手に晒しも……パレードなんてしなくて良いわ!」等と慌てて異論を唱えたのだけれども。興奮した司教やヨハン・シュテファンによって「「「そういう訳には参りません!」」」と却下されていた。
 結局、「殿に直談判を!」とそのまま書斎に押しかけられたサイモン様が彼らの怒涛の勢いになし崩し的に承諾してしまう事に。
 承諾を得たヨハンとシュテファンは水を得た魚のように「早速街中の警備強化と不審者の洗い出しに取り掛かります!」と張り切って駆け出して行く。ダニエリク司教も同様に、「時は金なり! 私も教会に戻って人員を選抜せねばなりません。また明日午前中に詳細を詰めに参ります!」と出て行った。

 「……義父様、宜しかったのですか?」

 嵐が過ぎ去ったように静まり返った室内。僕の問いかけにサイモン様が溜息を吐く。

 「仕方あるまい。枢機卿に相応しい派手な出迎え、当家の体面、賢者の話を広める目的……諸事情を満足させるのに彼らの言い分はもっともであり道理だ」

 「何でこうなるのよぉ……」

 傍のソファーではマリーがぐったりと座り込んでいる。サリーナがお茶をそっと差し出し、カールが「仕方ないですよぉー」と慰めていた。

 「ごめん、マリー。僕には止められなかった」

 「カールの言う通りだ、マリー。賢者の存在を知らしめ、神聖アレマニアを牽制する為には派手にやらねば効果が無い。観念するのだな」

 「うぅ……他人事だと思ってぇ。詳しい話はどうせ明日なんだし、今日は部屋に戻って何もかも忘れて寝る事にするわ……」

 マリーがサリーナに手を引かれつつのろのろと出て行くと、部屋には僕とカール、サイモン様だけになった。

 「午後は街へ出ていたそうだな。その表情からすると何かあったのか?」

 何か報告があれば聞こう、と促すサイモン様。
 少しの躊躇いと共に僕は口を開いた。

 「……実は気になる事を耳にしました。新大陸に大規模な銀山が見つかり、その発掘が始まっているとか……」

 「エスパーニャ王国か。その銀が大量にこちらに雪崩れ込んでくれば我が家は苦境に立たされるだろう。マリーの金鉱山やアナベラのダイヤモンド鉱山を頼るしかなくなるか」

 「はい。銀鉱山を頼みにした銀行の運営も危機に晒されるでしょう」

 そう言うと、サイモン様は立ち上がって天を仰いだ。

 「はぁ……神聖アレマニア帝国と言い、次から次へと神は試練を与える。頭の痛い事だ」

 「申し訳ありません、報告は賢者認定儀式の後にするべきでしたね」

 しかしサイモン様は首を横に振った。

 「いや、今で良かったのだ。どっちみち知らねばならない事ならば先に知っておいた方が良い。今後もそのように頼む」

 「かしこまりました。銀に関しては今日明日の事ではありませんし、今は枢機卿を無事にお迎えする事、賢者の儀式を無事に終える事に集中致しましょう。その後でマリーの意見を訊いて対策を練れば宜しいかと」

 「そうだな……」

 同意しながらも、その場をうろうろと忙しなく歩くサイモン様。暫くして止まると、何かを期待するようにこちらを見つめた。

 「グレイ、お前ならばどういう策を取る?」

 「銀の供給量が増える事で銀貨の価値が下がってしまうので、領内の通貨の銀行券への切り替えを急ぎますね。勿論損をするので銀の採掘は控えます。代わりに銀と同等の――何か別の価値や需要のあるものを見つけ、交易で新大陸の銀を安い内に買い叩いて回収。そして市場には出さないように貯め込みます。少なくとも、銀が適正価格に戻るまでは」

 「価値のあるもの――ダイヤモンドや金か」

 「はい。そして職人の技術で付加価値を付けられる工芸品等でしょうか。他は、マリーが何かいい考えを出してくれるかと」

 「ふむ……それならば銀山の鉱夫をそのまま回せば良いのか」

 「はい」

 僕が頷くと、サイモン様は暫く沈黙する。やがて安堵するように大きく息を吐くと、何と僕を抱きしめてきた。
 初めての事に驚いていると、ゆっくりと僕を離すサイモン様。

 「グレイよ、少し心が軽くなった。お前が息子になってくれて本当に良かったと思う」

 先程までの険しくなっていた表情は既にそこに無く、代わりに微笑みが浮かんでいる。
 厳格な表情のサイモン様しか知らない僕は、普段と違う表情に不覚にもどぎまぎしてしまった。

 「……お役に立てて良かったです。では、僕はこれで」

 掛け値の無い言葉。
 僕は嬉しさと気恥ずかしさでいっぱいになりながら退出したのだった。
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