貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

多分数百年後ぐらいに学研まんがとかになってるやつ。

 一旦部屋へ戻って聖女の衣装を脱いで下着も紐パンとキャミソールに着替える。どっと疲労感を感じてソファーでくてっとしていると、扉がノックされた。

 「マリー?」

 グレイの声。「どうぞ~」と入室を許可する。

 「うわわっ!?」

 しかし私の姿を目にするなり、ぎょっとした顔で慌てて扉を閉めるグレイ。
 その直後、サリーナが入って来た。

 「マリー様……その破廉恥な格好は」

 咎めるような目に私は頬を膨らませる。

 「仕方ないじゃない、サリーナ。聖女の衣装、暑いんだもの。ずっと気を張ってたし!」

 「ご結婚されたのですし、伯爵夫人として慎みを持ってくださいまし」

 「むー、グレイだって夫婦になったんだから別にこの程度恥ずかしがる事ないのに!」

 素っ裸だった訳じゃあるまいし、と扉に向かって叫ぶと、向こうから「裸同然だよ!」と返された。
 ああ、ビキニも着れないこんな世の中なんて。
 サリーナが聖女の衣装を畳みつつ、溜息を吐いた。

 「はぁ……これから枢機卿猊下との晩餐ですよ。どの道ドレスへ着換えは必要ですから脱いでいらっしゃったのは構いませんが」

 夕食にはまだ大分早いが、こちらはもてなす側である。グレイはエスコートしに来てくれたんだな。ぎりぎりに行く訳にもいくまい。待たせ過ぎてもいけないし。
 私はよっこらせっと身を起こした。

 「仕方ない、着替えるか。ところでカレドニア王国のお客様は?」

 「ちゃんと案内しておりますわ。あの女性も意識を取り戻されて、別の者がお世話をしておりますのでご安心を」

 「ありがとう。晩餐には参加出来そうかしら?」

 「『恐れ多い事ですが、お招き頂けるなら』と仰っていましたよ」

 サリーナによって手際良くドレスに着替えさせられた後。真っ赤な顔のグレイのエスコートで、枢機卿歓迎の晩餐会の為に食堂へ向かう。

 食堂では使用人達が慌ただしく最後のセッティングをしていたので、客人が増えた事を詫びてから隣接しているサロンスペースへ移動した。

***

 サロンに入るとそこには既に何人かの先客の姿。
 メイソンとイエイツ修道士が私を見るなり椅子から立ち上がると凄い形相で詰め寄って来る。

 「聖女様! ご挨拶しようとしたのに置いて行くなんて酷い!」

 「何でこっそりエヴァンめを連れて来ているのですか!? グレイも何故断ってくれなかったのだ!」

 ――近い近い!

 「ちょ、ちょっと待って二人共! エヴァン修道士は旅の途中で合流しただけよ? それにさっきは三人で言い合いしてて取込み中だったじゃない」

 「マリーの言う通りだよイエイツ。それにわざわざ追いかけて来てくれたのに追い返す訳にもいかないよ」

 そこへ、エヴァン修道士が二人の背後に立ち、その首根っこを掴んで引っ張った。ぐえっと蛙の潰れたような声を出すイエイツとメイソン。

 「こ、殺す気か……ゲホッ!」

 「腹黒エヴァンめ、何をする!」

 「全く、二人共。マリー様とグレイ様に無礼ですよ? それに先程散々言ったでしょう。私には聖女様の奇跡を後世に残す為に記録するという崇高な使命があるのです」

 「記録?」

 そう言えば、彼はメモばかりしていたような……嫌な予感。
 問い返した私にエヴァン修道士ははいと頷く。

 「私は聖女マリー様の奇跡と功績を世に広く伝え、後の世まで語り伝えたいのです。その第一歩として、つい先日栄えある第一巻目――『聖女マリアージュ伝~ナヴィガポールの奇跡~』が無事出版されました」

 な、何だってえええ――!?

 愕然とする私に良い笑顔で言うエヴァン修道士。
 何時の間にか自分の事が本に書かれて拡散されていたでござる。
 エヴァン修道士はまともだと思っていたのに……! とんだダークホースだ。

 「だ、誰の許可を得て……!」

 わなわなと震えている私に、更なる追い打ちがかかる。

 「ああ、週刊ヌーヴェルの特別増刊号聖女様特集。覚えておられますか? 実はあれ、私が監修させて頂いていたのです。大反響があった為、いっそ伝記として本を出さないかと持ちかけられまして。
 一巻目も、その為だけに立ち上げられたジュルナル新聞社の出版部門から刊行しております。勿論お父君サイモン閣下の許可は得ていますよ。グレイ様も了承済みです」

 私はギギギ、と振り向いた。

 「ねぇ……グレイは知っていたの?」

 「あ、ああ……義父様が、マリーは反対するだろうからって。黙っていてごめん」

 ナヴィガポールとキーマン商会の宣伝にもなるし、と気まずそうに目を逸らすグレイ。

 ぴぎゃー!

 私はその場に崩れ落ちた。

 人の知らぬところで何しくさってくれとんじゃー!

 それまで黙って成り行きを見ていたリノとジュデがワクワクした様子でエヴァン修道士に近寄って来る。

 「ねぇねぇ、それって俺の事も書いてある?」

 「ええ、勿論ですよ。聖女様の命を受け、船乗り達を率いて動いた勇敢な少年リノとね」

 「うしっ! 俺ってば有名人じゃん!」

 リノはガッツポーズをとって喜んでいる。ジュデが恥ずかしそうに問いかけた。

 「わ、私は……?」

 「聖女様と美しい姉妹の縁を結ばれた少女ジュデット、と」

 「う、美しい?」

 ジュデの頬が赤く染まる。
 リノが良かったな、ジュデ! と手を取ってくるくると踊り始めた。

 それを見てイサークとメリーが「いいなぁ」「ずるいわ!」と頬を膨らませ、ヴェスカルは困り顔だ。
 エヴァン修道士はまあまあと弟妹を宥めると、顔を寄せて何事かを囁き始める。

 これ以上好きにされてたまるか。

 しかし、精神感応で読み取ってやろうとしたそのタイミングで。

 「エトムント・サラトガル枢機卿がいらっしゃいました」

 本日のメインゲストである枢機卿がやってきてしまったのだった。
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