貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

コスプレイはロマンの塊なのです。

 「エトムント枢機卿、色々と気苦労をお掛けしまして申し訳ありませんでしたわ」

 淑女の礼を取り、含みを持たせて詫びを入れる。枢機卿は「可愛らしい道連れには随分と助けられましたし」と微笑んで首を振った。
 そしてヴェスカルに歩み寄ると、腰を屈めて目線を合わせる。

 「『……ヴェスカル様、聖地では私の力及ばず申し訳ありませんでした』」

 アレマニア語で謝罪の言葉を述べ、頭を垂れる枢機卿。ヴェスカルは戸惑っていたようだったが、イサークの手を離すと数歩近付いた。

 「『いいえ、危ない時は庇ってくれましたし、エトムント猊下がいらしてからは大分助かりました。あの、聖女様に僕を預けるように動いてくれたのでしょう? 今は僕、幸せです』」

 「『……お気付きでしたか。それはようございました』」

 ふわり、と優しい表情になるエトムント枢機卿に、ヴェスカルは憂い顔で俯く。

 「『でも……そのせいで』」

 「『神聖アレマニア帝国の事に関しては聖女様や教皇猊下が良いように取り計らって下さるでしょう。私も力を尽くします。お心安くあられますように』」

 「『……ありがとうございます、猊下』」

 ヴェスカルがはにかんだ時、

 「うふふ、子供は子供らしく。難しい事は周りの大人を頼ればいいのよ~。ねぇ、マリーちゃん?」

 母ティヴィーナが父サイモンと共に入って来た。それに祖父ジャルダン、祖母ラトゥが続く。
 そこからは和やかな雑談の場となった。忘れるところだった、カレドニア王国の客人達も同席する事を伝える。すると、「私も彼らの事は気になっておりましたから」と無事に枢機卿の了承を得られたので一安心。他は枢機卿の連れて来ていた修道騎士が馬の脚共との再戦の許しを得て来る一幕もあったり。
 やがてイドゥリースとスレイマンがダニエリク司教と共にやって来ると、話題は自然に賢者認定儀式の話題へ。
 準備には後一週間程かかるという事で同意を得、一段落した時。

 「ご歓談中失礼致します。カレドニア王国のお客様方をお連れ致しました」

 カレドニア王国の面々がサロンにやってきたのだった。

 リュシーと呼ばれていた女性をエスコートする騎士ドナルド・マクドナルド、他数人の騎士や修道士達。
 女性はドレスを借りたのだろうが、目を引くのは騎士が身に纏っている衣装である。
 羽飾りの付いたベレー帽、シャツにジャケット。しかしその上にはタータンチェックのキルトという民族衣装を纏っていた。

 そうか、と思う。
 『高地の騎士』ってハイランダーの事だったんだ!

 前世、一時期スコットランドを舞台にした海外の歴史ドラマに嵌っていたお陰である程度の知識はあった。
 ヒーローがハイランダーの戦士で、正に目の前の彼らのような恰好をしていた事を思い出す。
 キルトもしくはプレードと呼ばれる一枚布をひだを作ってベルトで固定し、余った布を左肩に丸いブローチで留める。股間の上には貴重品入れである『スポーラン』というがま口型ポーチ。足元はブーツ、靴下に編み上げ革靴等様々。

 椅子を勧めるも、ドナルド達には恐れ多いと辞退された。
 色とりどりのタータンに目を楽しませていると、女性が着席すると同時に「男なのにスカート?」という疑問の声が響く。
 ピシリと空気が凍り、皆の視線が声の主に突き刺さった。しまった、という顔で口元を覆うイサーク。

 「見慣れぬ方には私共の衣装を珍妙に思われるかも知れませんが……聖女様にお目通りするのに正装でなければと考えたのでございます」

 そう言えばドラマでもイギリス人に「男の癖にスカートかよ」とプギャーされるシーンがあったな。イサークは口を滑らせたが、何人かは同じことを考えたに違いない。大人だから口に出さないだけで。
 ドナルド達はポーカーフェイスを保っているが、内心面白くは無いだろう。
 私は慌てて立ち上がった。

 「イサーク、スカートでは無いの。古代帝国の皇帝の彫刻を見た事があるでしょう? あんな風に一枚布を体に巻き付けて着ている衣装で、古代から受け継がれてきたものなのよ。カレドニア王国の方々、弟の無礼をお許しくださいまし」

 淑女の礼を取って謝罪する。
 確かにキルトは現代では女の子のスカートのイメージが強いが、一枚布から着る本来のそれは男の衣装だ。それを言うなら日本の男の着流し姿だってワンピース扱いになってしまう。

 「……失礼な事を言って、ごめんなさい」

 うむ、謝れる子はいい子だ。フォローはお姉ちゃまに任せるがいい。
 イサークに素直に謝られた高地の騎士ハイランダー達も毒気を抜かれたようで苦笑いを浮かべた。

 「いえ……外国ではよく言われる事です。弟君も、ご存じなかったのならば無理もありません。まさか聖女様がご存じだとは思いもよりませんでしたが……」

 顔をお上げください、と言われたので私は彼らを見つめる。
 キルトに関する知識を総動員して口を開いた。

 「その衣装の模様は氏族を意味し、貴方がたの誇りであり魂であると私は知っています。大切な衣装をわざわざ着て下さり、嬉しいですわ」

 「おお……ドナルド卿」

 「アイ、分かっている」

 高地の騎士達が何やら目配せをし合っているのをよそに、ちらりとグレイを振り返る。それに気付いた彼がエスコートしに近くに来てくれた。
 グレイの手を取り彼らの近くへと歩み寄る。近くで見るキルトは実に眼福である。

 ……あの中って、やっぱりノーパンなんだろうか。風が吹いてまくり上がったらアニキの硬いケツあらわになったりするのだろうか。

 スコットランドやアイルランドのあの辺ってグレイみたいな赤毛の人が多いみたいだし、キルトはきっとグレイによく似合うことだろう。
 コスプレさせて色々と楽しみたいものだ(意味深)。どうにかして一式手に入れられないかな。
 イサークを諫めておきながら自分は激怒されそうな内容を妄想しつつ。
 女性の前まで来ると、私は腰を屈めた。

 「リュシー様、お体の方は如何でしょう。ああ、そのままで。食欲はおありですか?」

 立ち上がろうとしたのを制止しつつ優しく問いかける。彼女は涙ぐんでいた。

 「聖女様にはすっかりご心配をおかけいたしました。ひとかたならぬご配慮を頂き、この通り。食欲は問題ありませんわ」

 「それならば宜しゅうございましたわ。もうそろそろ食事が出来る頃でしょう。お話をする前に先ずはしっかり召し上がって下さいまし」

 執事が食事の準備が終わった事を知らせに来たのはその直後だった。
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