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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
広げようお砂糖の輪。
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「これは凄い事だよ、マリー! わざわざ遠くから砂糖を輸入しなくても済む!」
「きゃっ!?」
グレイは喜色を浮かべ、私の手を取ってぐるぐると回り始めた。
視界の端ではエヴァン修道士が一心不乱にメモを書きつけている。
皆の興奮が冷めて来た頃、私は改めて近くに皆を集めた。
「分かっているとは思うけれど、砂糖の製法は機密事項よ。秘密を守れる隠密騎士達の自家消費用なら作っても良いけど、製法は外部に漏らさないでね。これはキャンディ伯爵家の利益を守り、ひいては寛容派を強める力となるのだから」
私はそこで初めて、自分の目論見を話した。
エスパーニャ王国の新大陸の銀の事、それが大量にこちらの大陸に雪崩れ込む事で起こる弊害。銀に頼る我が家への予想される打撃。故に銀と引き換えに砂糖を取引するつもりなのだと。
製法は出来るだけ秘し、隠密騎士の住むこの山地や山岳国家ヘルヴェティアなどの機密が守れる場所を選んで工場を作る。作られた砂糖は寛容派に味方する教会やキーマン商会の専売にすれば良い。
よっぽど精神世界を大事にしているとかでない限り、普通の聖職者ならば文字通り砂糖に群がる蟻の如く寛容派に次々と鞍替えすることだろう。これは銀を集めると同時に切り崩し工作でもあるのだ。
ああ、笑いが止まらない。
「おーっほっほっほっほっ!」と悪役令嬢のように高笑いをしていると、
「母者。ご覧になったでしょう。これこそが我らが主マリー様なのです!」
「兄者の申す通りです。ただの我儘で頭のおかしな姫君ではありませぬ!」
馬の脚共が何やらモニカに話しかけているのが聞こえてくる。
お前達どういう意味だ、と詰め寄ろうと思ったところへエヴァン修道士が手帳から顔を上げた。
「流石は聖女様。素晴らしいお考えです。では――」
「ええ、販売にあたり下準備も必要でしょう。サングマ教皇にお伝えするつもりよ。それに今年は気候変動で小麦とかが打撃を受けそうな分、ビートがよく育ちそうだもの。増産させるのは――まだ間に合うわね」
「雪山の民にも恩恵をお授け下さいますのか!」
「ええ、そのつもりよアルトガル。ヘルヴェティアは聖女の庇護を受ける国ですもの。それに、秘密を守ると言う意味では砂糖工場を作るのにうってつけだと思うわ。販売もしたいならキーマン商会で雇われてくれればと思って」
「あ、ありがたき幸せ!」
アルトガルは私を拝まんばかりに喜んだ。
「うふふ、皆が砂糖御殿を建てられるぐらいにしたいわね」
雪山の民は傭兵業であちこちと繋がりがある。こちらは機密性のある生産拠点と販路確保、あちらはドル箱産業を得る。むしろこちらからお願いしようと思っていたところだ。
「……出来ればカレドニア王国もヘルヴェティアのようにしたいものね――だけどリュサイ達がそれを受け入れるかどうか。それに、アルビオン王国に製法の秘密を知られれば厄介ね。どうしたものかしら」
「そうした事はサイモン様に相談すると良いよ、マリー」
グレイの言葉にそれもそうか、と思う。明日帰る事になるが、先んじて知らせだけはしておこうと精神感応を父に飛ばした。
丁度寝る所を叩き起こしてしまったらしく文句を言われたが、ビートから砂糖を作った事を話すと一気に目が覚めたようだった。
隠密騎士の里全てにビート増産するよう伝達しておけと言われたので、ヴァルカーに伝える。
明日にでも使いを全ての庄に出してくれるそうだ。
次の日の朝はサングマ教皇に連絡を取る。
砂糖生産に着手する事。そしてその専売権を寛容派の教会とキーマン商会に与えようと思っている事。教皇にはそれを寛容派勢力拡大に上手く使って欲しいと伝えると、滅茶苦茶喜ばれた。
早速制度作りに着手してくれるという。また定期連絡の際に、と言って能力を切った。
頭を休ませる為に散歩に出ると、何故か馬の脚共がスタンバイしていた。そのまま愛馬に乗ってぶらり行けば、森林の中にある蜂の巣箱を発見。
馬の脚共によれば、隠密騎士達の領地全域で取り組んでいるそうだ。商業ベースに乗せるのもそう遠くないだろう。
館へ戻って少し遅めの朝食を食べた後、ヴァルカーとモニカ夫婦に手厚くもてなしのお礼を言って私達は馬ノ庄を後にしたのだった。
***
厳重に固められた厨房には、甘い香りが充満していた。
人払いを命じられたそこには、祖父ジャルダンと父サイモン、グレイと私、サリーナの五名。
祖母ラトゥと母ティヴィーナは弟妹達他客人達と共に厨房から遠く離れた部屋でお茶会をして貰っている。
外では馬の脚共やカール他、隠密騎士達が余人が近付かぬように見張っていた。
サリーナが手順通りに作った砂糖を見て、祖父ジャルダンと父サイモンは唸った。
「この年になっても驚くべき事がまだまだあるものだなぁ」
「実際に目の当たりにするまではにわかに信じられなかったが――本当にビートから砂糖が出来るとは」
今目の前にあるのは、馬ノ庄の氷室から貰ってきたビートを使って作って見せたものである。
ちなみに昨日作った砂糖はヴァルカーとモニカに残してきた。
恐る恐る、砂糖を口に運ぶ祖父と父。
二人共口の中でじっくりと味わうように目を閉じた。
「うむ……確かに砂糖だ」
「甘い」
「今でも信じられません。目玉が飛び出る程驚きました」
「大げさね、グレイ。これがあれば銀の心配は無くなるわ」
そう言うと、父サイモンは私の頭をくしゃりと撫でる。
「ああ、そうだな。これは素晴らしい発見だ。でかしたぞ、マリー」
「そこで相談があるんだけど……」
私は砂糖の計画を話し、カレドニア王国とアルビオン王国についての悩みを話す。
父サイモンと祖父ジャルダンは少し唸った後、「カレドニア王国に資金援助と寛容派勢力の強化から始めてはどうか」と提案した。
「戦は金だ。軍備は傭兵を雇うなりなんなりやりようがあるだろう。それこそお前の言った、経済戦争だったか。カレドニア王国の寛容派に砂糖を売らせれば良い」
「ふむ……沿岸部の軍事強化をすればアルビオン王国はおいそれと戦を起こせぬようになる。なれば多少はトラス王国の後ろ盾も必要となるだろうなぁ」
「軍艦――抑止力ね、お爺様」
祖父はその通りと頷いた。父が顎に手をやって思案気にする。
「であれば、アルビオン王国はエスパーニャ王国と関係強化を図るように動くだろう。そちらにも策を講じる必要がある。
まあ、もっともあのリュサイ女王やカレドニアの摂政にやる気があるかどうかだが」
「……そうね。先ずはそこからだわ」
リュサイ達と話をしなければ。
彼らが動かなければこちらが幾ら手を差し伸べても意味がないのだから。
「きゃっ!?」
グレイは喜色を浮かべ、私の手を取ってぐるぐると回り始めた。
視界の端ではエヴァン修道士が一心不乱にメモを書きつけている。
皆の興奮が冷めて来た頃、私は改めて近くに皆を集めた。
「分かっているとは思うけれど、砂糖の製法は機密事項よ。秘密を守れる隠密騎士達の自家消費用なら作っても良いけど、製法は外部に漏らさないでね。これはキャンディ伯爵家の利益を守り、ひいては寛容派を強める力となるのだから」
私はそこで初めて、自分の目論見を話した。
エスパーニャ王国の新大陸の銀の事、それが大量にこちらの大陸に雪崩れ込む事で起こる弊害。銀に頼る我が家への予想される打撃。故に銀と引き換えに砂糖を取引するつもりなのだと。
製法は出来るだけ秘し、隠密騎士の住むこの山地や山岳国家ヘルヴェティアなどの機密が守れる場所を選んで工場を作る。作られた砂糖は寛容派に味方する教会やキーマン商会の専売にすれば良い。
よっぽど精神世界を大事にしているとかでない限り、普通の聖職者ならば文字通り砂糖に群がる蟻の如く寛容派に次々と鞍替えすることだろう。これは銀を集めると同時に切り崩し工作でもあるのだ。
ああ、笑いが止まらない。
「おーっほっほっほっほっ!」と悪役令嬢のように高笑いをしていると、
「母者。ご覧になったでしょう。これこそが我らが主マリー様なのです!」
「兄者の申す通りです。ただの我儘で頭のおかしな姫君ではありませぬ!」
馬の脚共が何やらモニカに話しかけているのが聞こえてくる。
お前達どういう意味だ、と詰め寄ろうと思ったところへエヴァン修道士が手帳から顔を上げた。
「流石は聖女様。素晴らしいお考えです。では――」
「ええ、販売にあたり下準備も必要でしょう。サングマ教皇にお伝えするつもりよ。それに今年は気候変動で小麦とかが打撃を受けそうな分、ビートがよく育ちそうだもの。増産させるのは――まだ間に合うわね」
「雪山の民にも恩恵をお授け下さいますのか!」
「ええ、そのつもりよアルトガル。ヘルヴェティアは聖女の庇護を受ける国ですもの。それに、秘密を守ると言う意味では砂糖工場を作るのにうってつけだと思うわ。販売もしたいならキーマン商会で雇われてくれればと思って」
「あ、ありがたき幸せ!」
アルトガルは私を拝まんばかりに喜んだ。
「うふふ、皆が砂糖御殿を建てられるぐらいにしたいわね」
雪山の民は傭兵業であちこちと繋がりがある。こちらは機密性のある生産拠点と販路確保、あちらはドル箱産業を得る。むしろこちらからお願いしようと思っていたところだ。
「……出来ればカレドニア王国もヘルヴェティアのようにしたいものね――だけどリュサイ達がそれを受け入れるかどうか。それに、アルビオン王国に製法の秘密を知られれば厄介ね。どうしたものかしら」
「そうした事はサイモン様に相談すると良いよ、マリー」
グレイの言葉にそれもそうか、と思う。明日帰る事になるが、先んじて知らせだけはしておこうと精神感応を父に飛ばした。
丁度寝る所を叩き起こしてしまったらしく文句を言われたが、ビートから砂糖を作った事を話すと一気に目が覚めたようだった。
隠密騎士の里全てにビート増産するよう伝達しておけと言われたので、ヴァルカーに伝える。
明日にでも使いを全ての庄に出してくれるそうだ。
次の日の朝はサングマ教皇に連絡を取る。
砂糖生産に着手する事。そしてその専売権を寛容派の教会とキーマン商会に与えようと思っている事。教皇にはそれを寛容派勢力拡大に上手く使って欲しいと伝えると、滅茶苦茶喜ばれた。
早速制度作りに着手してくれるという。また定期連絡の際に、と言って能力を切った。
頭を休ませる為に散歩に出ると、何故か馬の脚共がスタンバイしていた。そのまま愛馬に乗ってぶらり行けば、森林の中にある蜂の巣箱を発見。
馬の脚共によれば、隠密騎士達の領地全域で取り組んでいるそうだ。商業ベースに乗せるのもそう遠くないだろう。
館へ戻って少し遅めの朝食を食べた後、ヴァルカーとモニカ夫婦に手厚くもてなしのお礼を言って私達は馬ノ庄を後にしたのだった。
***
厳重に固められた厨房には、甘い香りが充満していた。
人払いを命じられたそこには、祖父ジャルダンと父サイモン、グレイと私、サリーナの五名。
祖母ラトゥと母ティヴィーナは弟妹達他客人達と共に厨房から遠く離れた部屋でお茶会をして貰っている。
外では馬の脚共やカール他、隠密騎士達が余人が近付かぬように見張っていた。
サリーナが手順通りに作った砂糖を見て、祖父ジャルダンと父サイモンは唸った。
「この年になっても驚くべき事がまだまだあるものだなぁ」
「実際に目の当たりにするまではにわかに信じられなかったが――本当にビートから砂糖が出来るとは」
今目の前にあるのは、馬ノ庄の氷室から貰ってきたビートを使って作って見せたものである。
ちなみに昨日作った砂糖はヴァルカーとモニカに残してきた。
恐る恐る、砂糖を口に運ぶ祖父と父。
二人共口の中でじっくりと味わうように目を閉じた。
「うむ……確かに砂糖だ」
「甘い」
「今でも信じられません。目玉が飛び出る程驚きました」
「大げさね、グレイ。これがあれば銀の心配は無くなるわ」
そう言うと、父サイモンは私の頭をくしゃりと撫でる。
「ああ、そうだな。これは素晴らしい発見だ。でかしたぞ、マリー」
「そこで相談があるんだけど……」
私は砂糖の計画を話し、カレドニア王国とアルビオン王国についての悩みを話す。
父サイモンと祖父ジャルダンは少し唸った後、「カレドニア王国に資金援助と寛容派勢力の強化から始めてはどうか」と提案した。
「戦は金だ。軍備は傭兵を雇うなりなんなりやりようがあるだろう。それこそお前の言った、経済戦争だったか。カレドニア王国の寛容派に砂糖を売らせれば良い」
「ふむ……沿岸部の軍事強化をすればアルビオン王国はおいそれと戦を起こせぬようになる。なれば多少はトラス王国の後ろ盾も必要となるだろうなぁ」
「軍艦――抑止力ね、お爺様」
祖父はその通りと頷いた。父が顎に手をやって思案気にする。
「であれば、アルビオン王国はエスパーニャ王国と関係強化を図るように動くだろう。そちらにも策を講じる必要がある。
まあ、もっともあのリュサイ女王やカレドニアの摂政にやる気があるかどうかだが」
「……そうね。先ずはそこからだわ」
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