貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
327 / 747
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

広げようお砂糖の輪。

しおりを挟む
 「これは凄い事だよ、マリー! わざわざ遠くから砂糖を輸入しなくても済む!」

 「きゃっ!?」

 グレイは喜色を浮かべ、私の手を取ってぐるぐると回り始めた。
 視界の端ではエヴァン修道士が一心不乱にメモを書きつけている。
 皆の興奮が冷めて来た頃、私は改めて近くに皆を集めた。

 「分かっているとは思うけれど、砂糖の製法は機密事項よ。秘密を守れる隠密騎士達の自家消費用なら作っても良いけど、製法は外部に漏らさないでね。これはキャンディ伯爵家の利益を守り、ひいては寛容派を強める力となるのだから」

 私はそこで初めて、自分の目論見を話した。
 エスパーニャ王国の新大陸の銀の事、それが大量にこちらの大陸に雪崩れ込む事で起こる弊害。銀に頼る我が家への予想される打撃。故に銀と引き換えに砂糖を取引するつもりなのだと。
 製法は出来るだけ秘し、隠密騎士の住むこの山地や山岳国家ヘルヴェティアなどの機密が守れる場所を選んで工場を作る。作られた砂糖は寛容派に味方する教会やキーマン商会の専売にすれば良い。
 よっぽど精神世界を大事にしているとかでない限り、普通の聖職者ならば文字通り砂糖に群がる蟻の如く寛容派に次々と鞍替えすることだろう。これは銀を集めると同時に切り崩し工作でもあるのだ。

 ああ、笑いが止まらない。

 「おーっほっほっほっほっ!」と悪役令嬢のように高笑いをしていると、

 「母者。ご覧になったでしょう。これこそが我らが主マリー様なのです!」

 「兄者の申す通りです。ただの我儘で頭のおかしな姫君ではありませぬ!」

 馬の脚共が何やらモニカに話しかけているのが聞こえてくる。
 お前達どういう意味だ、と詰め寄ろうと思ったところへエヴァン修道士が手帳から顔を上げた。

 「流石は聖女様。素晴らしいお考えです。では――」

 「ええ、販売にあたり下準備も必要でしょう。サングマ教皇にお伝えするつもりよ。それに今年は気候変動で小麦とかが打撃を受けそうな分、ビートがよく育ちそうだもの。増産させるのは――まだ間に合うわね」

 「雪山の民にも恩恵をお授け下さいますのか!」

 「ええ、そのつもりよアルトガル。ヘルヴェティアは聖女の庇護を受ける国ですもの。それに、秘密を守ると言う意味では砂糖工場を作るのにうってつけだと思うわ。販売もしたいならキーマン商会で雇われてくれればと思って」

 「あ、ありがたき幸せ!」

 アルトガルは私を拝まんばかりに喜んだ。

 「うふふ、皆が砂糖御殿を建てられるぐらいにしたいわね」

 雪山の民は傭兵業であちこちと繋がりがある。こちらは機密性のある生産拠点と販路確保、あちらはドル箱産業を得る。むしろこちらからお願いしようと思っていたところだ。

 「……出来ればカレドニア王国もヘルヴェティアのようにしたいものね――だけどリュサイ達がそれを受け入れるかどうか。それに、アルビオン王国に製法の秘密を知られれば厄介ね。どうしたものかしら」

 「そうした事はサイモン様に相談すると良いよ、マリー」

 グレイの言葉にそれもそうか、と思う。明日帰る事になるが、先んじて知らせだけはしておこうと精神感応を父に飛ばした。
 丁度寝る所を叩き起こしてしまったらしく文句を言われたが、ビートから砂糖を作った事を話すと一気に目が覚めたようだった。
 隠密騎士の里全てにビート増産するよう伝達しておけと言われたので、ヴァルカーに伝える。
 明日にでも使いを全ての庄に出してくれるそうだ。

 次の日の朝はサングマ教皇に連絡を取る。
 砂糖生産に着手する事。そしてその専売権を寛容派の教会とキーマン商会に与えようと思っている事。教皇にはそれを寛容派勢力拡大に上手く使って欲しいと伝えると、滅茶苦茶喜ばれた。
 早速制度作りに着手してくれるという。また定期連絡の際に、と言って能力を切った。

 頭を休ませる為に散歩に出ると、何故か馬の脚共がスタンバイしていた。そのまま愛馬ハリボテに乗ってぶらり行けば、森林の中にある蜂の巣箱を発見。
 馬の脚共によれば、隠密騎士達の領地全域で取り組んでいるそうだ。商業ベースに乗せるのもそう遠くないだろう。
 館へ戻って少し遅めの朝食を食べた後、ヴァルカーとモニカ夫婦に手厚くもてなしのお礼を言って私達は馬ノ庄を後にしたのだった。


***


 厳重に固められた厨房には、甘い香りが充満していた。
 人払いを命じられたそこには、祖父ジャルダンと父サイモン、グレイと私、サリーナの五名。
 祖母ラトゥと母ティヴィーナは弟妹達他客人達と共に厨房から遠く離れた部屋でお茶会をして貰っている。
 外では馬の脚共やカール他、隠密騎士達が余人が近付かぬように見張っていた。
 サリーナが手順通りに作った砂糖を見て、祖父ジャルダンと父サイモンは唸った。

 「この年になっても驚くべき事がまだまだあるものだなぁ」

 「実際に目の当たりにするまではにわかに信じられなかったが――本当にビートから砂糖が出来るとは」

 今目の前にあるのは、馬ノ庄の氷室から貰ってきたビートを使って作って見せたものである。
 ちなみに昨日作った砂糖はヴァルカーとモニカに残してきた。
 恐る恐る、砂糖を口に運ぶ祖父と父。
 二人共口の中でじっくりと味わうように目を閉じた。

 「うむ……確かに砂糖だ」

 「甘い」

 「今でも信じられません。目玉が飛び出る程驚きました」

 「大げさね、グレイ。これがあれば銀の心配は無くなるわ」

 そう言うと、父サイモンは私の頭をくしゃりと撫でる。

 「ああ、そうだな。これは素晴らしい発見だ。でかしたぞ、マリー」

 「そこで相談があるんだけど……」

 私は砂糖の計画を話し、カレドニア王国とアルビオン王国についての悩みを話す。
 父サイモンと祖父ジャルダンは少し唸った後、「カレドニア王国に資金援助と寛容派勢力の強化から始めてはどうか」と提案した。

 「戦は金だ。軍備は傭兵を雇うなりなんなりやりようがあるだろう。それこそお前の言った、経済戦争だったか。カレドニア王国の寛容派に砂糖を売らせれば良い」

 「ふむ……沿岸部の軍事強化をすればアルビオン王国はおいそれと戦を起こせぬようになる。なれば多少はトラス王国の後ろ盾も必要となるだろうなぁ」

 「軍艦――抑止力ね、お爺様」

 祖父はその通りと頷いた。父が顎に手をやって思案気にする。

 「であれば、アルビオン王国はエスパーニャ王国と関係強化を図るように動くだろう。そちらにも策を講じる必要がある。
 まあ、もっともあのリュサイ女王やカレドニアの摂政にやる気があるかどうかだが」

 「……そうね。先ずはそこからだわ」

 リュサイ達と話をしなければ。
 彼らが動かなければこちらが幾ら手を差し伸べても意味がないのだから。
しおりを挟む
感想 996

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。