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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(21)
マリーをエスコートして食堂の隣にあるサロン室へ行くと、いきなりメイソンとイエイツに寄ってたかって問い詰められた。ここにエヴァン修道士がいるのが相当気に食わなかったらしい。
エヴァン修道士が彼らを引き離して叱りつけ、聖女の奇跡を記録するのは自分の使命だと宣言している。その流れでマリーに秘密にされていた聖女の伝記の事がバレてしまった。
人の噂よりも、マリーの近くに居て記録した人物による書物の方が信憑性があるから皆信じるだろうというサイモン様の意向。
勿論新聞記事のように嘘と真実を織り交ぜて書いてあるので、それが史実となっていくのだろう。
本にされたそれは、修道士達の手により周辺諸国の言語に翻訳されている真最中。国内の新聞記事だけでは情報の拡散が限定的になってしまう、だからこその伝記本だ。
マリーが思っている以上に聖女という存在の影響力は凄い。
リノやジュデットは無邪気に喜んでいるけれど、キャンディ伯爵家、キーマン商会、サングマ教皇猊下率いる教会――あの伝記はそれぞれの思惑ががっちり噛み合った賜物とも言える。
各国の教会を通じてあの本を広める予定だ。
顔を覆って崩れ落ちているマリーには気の毒だけれど、これでキーマン商会の名が諸国にも知れ渡り、ナヴィガポール経由の聖地巡礼者も増えて発展。オコノミも売れるだろう。人・物・金の流れが良くなればファリエロ達も勢力を拡大出来る。それを見込んでの港拡張工事でもあるんだし、出来るだけの手は打っておかないと。
今回の賢者認定儀式の事が本になれば、ここにも巡礼者がやって来る事になる。諸国人がやってくればそれだけ金も落ちるし情報も集まるのだ。
そんな事を考えていると、エトムント・サラトガル枢機卿がサロンに来られた。
枢機卿は僕達と挨拶を交わした後、ヴェスカルに聖地で守り切れなかった等と謝罪をしている。
そこへサイモン様、ティヴィーナ様、ジャルダン様、ラトゥ様が到着された。
「ああ! そうでしたわ。エトムント枢機卿、カレドニア王国の方々も共に晩餐に同席する事になりましたが宜しくて?」
「ええ、構いませんよ。私もまた彼らの事は気になっておりましたから」
思い出したようにマリーがそう言うと、エトムント枢機卿がにこやかに承諾する。
そう言えば、まだ彼らは来ていないな。荷物を取りに行ったドナルド達はまだ戻っていないのだろうか。
少し気になって、サロンの入り口に何となく視線を走らせた時。
「聖女様……実は、この者達がお願いがあると」
歯切れの悪そうな枢機卿の声と共に、バタバタッという音が耳を打った。
見ると、枢機卿に随行して来ていた修道騎士の全員がマリーに跪いている。
「私はロイジウス・ウーファー! 修道騎士達を代表して申し上げます! 聖騎士ヨハン卿とシュテファン卿との再戦のお許しを!」
「まあ、彼らと再戦を?」
「はい! 私は聖地では負け知らずでした。背後の者らも同じく相当な実力者揃い。しかしいずれも聖女様の聖騎士を決める試合で彼らには全く歯が立たず、上には上がいると思い知ったのでございます。
あれから慢心を反省して修行を積み、再び戦わんと願っておりました。そんな折、エトムント猊下が聖女様にお会いしに行かれると聞き、志願したのでございます!」
「こ、困ったわね。どうしようかしら」
マリーは困ったようにサイモン様を見た。サイモン様は小さく頷く。傍に控えていたサリーナも、マリー様に何やら耳打ちをしていた。
「……分かりました、再戦を許しましょう。ただし、真剣は禁じます」
「「「――ありがたき幸せ!」」」
修道騎士達が一斉に頭を垂れる。
ヨハンとシュテファンも大変だ。聖騎士として名が知られると、こういう事が今後きっと何度もあるのだろう。
隠密騎士達が目立たぬよう過ごしているのはある意味正解かも知れない。
そんな事を思っていると、
「遅れて申し訳ありませぬ。賢者様とスレイマン殿をお連れしました」
ダニエリク司教とイドゥリース、スレイマンがやってきた。何でも賢者の衣装の仮縫いをしていたとか。
賢者認定の儀式は教会で行われる。準備の実働部隊はダニエリク司教が担うので、責任重大だ。
「聖女様。賢者認定儀式の件なのですが、急いで一週間を目途に準備をと考えております。枢機卿猊下に十分にお休み頂く事もそうですが、儀式の段取りや、イドゥリース様に口上を覚えて頂く時間が必要ですので……」
「一週間で足りるのかしら?」
マリーが首を傾げる。ダニエリク司教は張り切っている様子だけれど、僕も心配になってきた。
「はい。サイモン様より潤沢な資金は頂いておりますし、何とかしてみせましょう」
「それなら良いんだけれど……イドゥリースは口上覚えられそうなの?」
「ハイ、頑張って覚えマス」
マリーの問いかけに頷くイドゥリース。メリー様が「私も一緒にお手伝いしますわ!」と手を挙げた時だった。
サロンの入り口の方から、カレドニア王国の一行の到着を知らせる声。
「どうぞお入りになって」
ティヴィーナ様が入室の許可を出す。
サロンに足を踏み入れてきた彼らの不思議な姿に、僕は目を瞬かせた。
エヴァン修道士が彼らを引き離して叱りつけ、聖女の奇跡を記録するのは自分の使命だと宣言している。その流れでマリーに秘密にされていた聖女の伝記の事がバレてしまった。
人の噂よりも、マリーの近くに居て記録した人物による書物の方が信憑性があるから皆信じるだろうというサイモン様の意向。
勿論新聞記事のように嘘と真実を織り交ぜて書いてあるので、それが史実となっていくのだろう。
本にされたそれは、修道士達の手により周辺諸国の言語に翻訳されている真最中。国内の新聞記事だけでは情報の拡散が限定的になってしまう、だからこその伝記本だ。
マリーが思っている以上に聖女という存在の影響力は凄い。
リノやジュデットは無邪気に喜んでいるけれど、キャンディ伯爵家、キーマン商会、サングマ教皇猊下率いる教会――あの伝記はそれぞれの思惑ががっちり噛み合った賜物とも言える。
各国の教会を通じてあの本を広める予定だ。
顔を覆って崩れ落ちているマリーには気の毒だけれど、これでキーマン商会の名が諸国にも知れ渡り、ナヴィガポール経由の聖地巡礼者も増えて発展。オコノミも売れるだろう。人・物・金の流れが良くなればファリエロ達も勢力を拡大出来る。それを見込んでの港拡張工事でもあるんだし、出来るだけの手は打っておかないと。
今回の賢者認定儀式の事が本になれば、ここにも巡礼者がやって来る事になる。諸国人がやってくればそれだけ金も落ちるし情報も集まるのだ。
そんな事を考えていると、エトムント・サラトガル枢機卿がサロンに来られた。
枢機卿は僕達と挨拶を交わした後、ヴェスカルに聖地で守り切れなかった等と謝罪をしている。
そこへサイモン様、ティヴィーナ様、ジャルダン様、ラトゥ様が到着された。
「ああ! そうでしたわ。エトムント枢機卿、カレドニア王国の方々も共に晩餐に同席する事になりましたが宜しくて?」
「ええ、構いませんよ。私もまた彼らの事は気になっておりましたから」
思い出したようにマリーがそう言うと、エトムント枢機卿がにこやかに承諾する。
そう言えば、まだ彼らは来ていないな。荷物を取りに行ったドナルド達はまだ戻っていないのだろうか。
少し気になって、サロンの入り口に何となく視線を走らせた時。
「聖女様……実は、この者達がお願いがあると」
歯切れの悪そうな枢機卿の声と共に、バタバタッという音が耳を打った。
見ると、枢機卿に随行して来ていた修道騎士の全員がマリーに跪いている。
「私はロイジウス・ウーファー! 修道騎士達を代表して申し上げます! 聖騎士ヨハン卿とシュテファン卿との再戦のお許しを!」
「まあ、彼らと再戦を?」
「はい! 私は聖地では負け知らずでした。背後の者らも同じく相当な実力者揃い。しかしいずれも聖女様の聖騎士を決める試合で彼らには全く歯が立たず、上には上がいると思い知ったのでございます。
あれから慢心を反省して修行を積み、再び戦わんと願っておりました。そんな折、エトムント猊下が聖女様にお会いしに行かれると聞き、志願したのでございます!」
「こ、困ったわね。どうしようかしら」
マリーは困ったようにサイモン様を見た。サイモン様は小さく頷く。傍に控えていたサリーナも、マリー様に何やら耳打ちをしていた。
「……分かりました、再戦を許しましょう。ただし、真剣は禁じます」
「「「――ありがたき幸せ!」」」
修道騎士達が一斉に頭を垂れる。
ヨハンとシュテファンも大変だ。聖騎士として名が知られると、こういう事が今後きっと何度もあるのだろう。
隠密騎士達が目立たぬよう過ごしているのはある意味正解かも知れない。
そんな事を思っていると、
「遅れて申し訳ありませぬ。賢者様とスレイマン殿をお連れしました」
ダニエリク司教とイドゥリース、スレイマンがやってきた。何でも賢者の衣装の仮縫いをしていたとか。
賢者認定の儀式は教会で行われる。準備の実働部隊はダニエリク司教が担うので、責任重大だ。
「聖女様。賢者認定儀式の件なのですが、急いで一週間を目途に準備をと考えております。枢機卿猊下に十分にお休み頂く事もそうですが、儀式の段取りや、イドゥリース様に口上を覚えて頂く時間が必要ですので……」
「一週間で足りるのかしら?」
マリーが首を傾げる。ダニエリク司教は張り切っている様子だけれど、僕も心配になってきた。
「はい。サイモン様より潤沢な資金は頂いておりますし、何とかしてみせましょう」
「それなら良いんだけれど……イドゥリースは口上覚えられそうなの?」
「ハイ、頑張って覚えマス」
マリーの問いかけに頷くイドゥリース。メリー様が「私も一緒にお手伝いしますわ!」と手を挙げた時だった。
サロンの入り口の方から、カレドニア王国の一行の到着を知らせる声。
「どうぞお入りになって」
ティヴィーナ様が入室の許可を出す。
サロンに足を踏み入れてきた彼らの不思議な姿に、僕は目を瞬かせた。
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