貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

バードセラピー。

 「聖女様、先程の昼食の時皆様のご様子がおかしかったのですが、どうかなさいましたか? かの神聖アレマニア帝国から来たという客人達に何か言われたのでしょうか」

 「私達に何かお力になる事がありますでしょうか……?」

 宜しければお話を聞かせて下さい、と高地の騎士ドナルドとカレドニア女王リュサイが心配して訊いてくれた。

 「俺も同じことを思った。話を聞かせてくださいよ、水臭い」

 「リノの言う通りですわ、マリーお姉様。人は多ければ多い程良い考えが浮かぶと思います」

 リノとジュデットもそれに続く。
 やはり先程の昼食は異常な雰囲気だったからな。アレマニアの寛容派貴族ご一行達や金太ばかりがはしゃぎ、こちらはあまり味がせず喉を通らない昼食。
 食事後、父サイモンが余所行きの笑顔で彼らに領都観光を勧め、人を付けて送り出した。案内役の者には夕方帰って来るようにと言い含めてある。

 ――カレドニア王国と神聖アレマニア帝国国は離れているし、リノ達もあまり関わりは無いだろうから話しても大丈夫か。

 グレイや父サイモンに相談の上、彼らにも同席して話を聞いて貰う事になった。

 片付けられた食堂。
 私とグレイの他、祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、父サイモン、母ティヴィーナ、弟イサーク、妹メリー、エトムント枢機卿、ヴェスカル、イドゥリースにスレイマン、アルトガル、女王リュサイと高地の騎士ドナルド、リノとジュデット、他限られた侍女や隠密騎士達が揃っていた。
 サリーナを始めとする侍女達がお茶とお菓子を給仕した後、一礼して壁際に下がる。馬の脚共とカールは私とグレイの傍に控えた。

 「……という訳で、これより家族会議を始めます!」

 ――ピィィ――ッ!!

 私の宣言と共に、肩に乗ったヘドヴァンも鋭く鳴いて翼をばさっと広げる。大人になったのか、だいぶジャージャー鳴きが減ったように思う。

 「お姉ちゃま、何でヘドヴァンが籠から出ているの?」

 「全ては癒しの為よ、メリー」

 ――マリーチャンカワイイ! ステキ!

 ヘドヴァンが喋るのを初めて見たのか、女王リュサイは「まあ、」と目を輝かせてヘドヴァンを見た。
 正直、バードセラピーでもないとやってられない精神状態なのである。
 父サイモンが懐から取り出したクリッカーを鳴らすと、ヘドヴァンはあっさりそちらへ飛んで行った。
 勝ち誇った顔を隠しきれていない父をちょっと睨んでから、私は気を取り直して経緯を説明すべく口を開いたのだった。


***


 「ええええっ、グレイ坊ちゃ……様を皇帝に!?」

 全てを話し終えた後、真っ先に叫んだリノ。
 話を初めて聞いた他の面々も瞠目したり口を覆ったりして驚いているようだ。

 「そうなのよ。ヴェスカルは駄目として――代わりの皇帝候補は寛容派の大貴族は駄目、皇女も難しい。だけど、グレイなら聖女である私が皇妃として付いて来るから、推挙出来るんですって」

 「それで聖女様はあのように憂えていらっしゃったのですね」

 「……アーダム第一皇子の話は私も聞いた事があります。野心的な男だとか」

 思案するような騎士ドナルドにグレイが頷いた。

 「そうなんです、ドナルド卿。妻を狙って未だ王都に滞在しているので本当に困っております」

 「グレイ義兄様がいるのに、マリーお姉ちゃまを攫って無理やり自分のものにしようとしているんだ!」

 「だから私達はここに避難してきているの!」

 イサークとメリーの矢継ぎ早の言葉に、「そう言う事だったのですか……」と納得顔になるランランルー騎士ドナルド
 ……いかんな、精神が現実逃避的に笑いを求めてしまっているようだ。
 女王リュサイが少し遠慮がちに口を開いた。

 「不謹慎ながら……そのお陰で私達は聖女様にお会い出来たのですわね。その運命に神の御手を感じております」

 「聖女様……『僕なんかのせいで』、ごめんなさい。『やっぱり僕さえガマンすれば……』」

 下を向いてアレマニア語混じりで震えているヴェスカル。
 嗚咽交じりの声を上げる彼を、母ティヴィーナが優しく抱き寄せた。

 「ヴェスカルちゃん、そんな事を言っては駄目。何か、手立てを講ずる時間はあるはずよ」

 「そうよ、私達以外の有力な皇帝候補が見つかりさえすれば良いの。リュサイ様、どなたか相応しい人物をご存じでしょうか?」

 リュサイ達にそう訊ねた時。

 「聖女様――少し宜しいでしょうか?」

 それまで黙っていたアルトガルが手を挙げた。その隣に座っているエトムント枢機卿が気まずそうに顔を俯けている。
 そう言えば彼らはずっと黙っていたな。
 そう思いながら頷いて話を促すと、アルトガルは頬を掻きながら口を開いた。

 「聖女様、その……代わりの皇帝候補が見つからなかったらどうなさるのですか? 我輩の本音と致しましては、グレイ猊下が皇帝になられるのならばそれも一興かと存じます。
 まあ、我輩個人としての意見であり、聖女様達自身が望まれない事でしたのでずっと黙っておったのですが……」

 「聖女様には申し訳ないとは思いつつも、私も実はアルトガル殿と同じです……」

 アルトガルの言葉に、エトムント枢機卿も歯切れ悪く続く。
 思わぬ伏兵に、私は戸惑った。

 「二人共なの? 何故……」

 「聖女様とグレイ猊下が上に立たれる事で故国が平和に導かれるのでは、と考えたからです。彼らの言葉に、グレイ猊下と聖女様によって平和に統治された神聖アレマニア帝国を夢見てしまった……」

 「ヘルヴェティアとしては同じ統治者を戴く事で味方が増え、神聖アレマニアによる内政干渉等を考えずに済みます」

 「……二人は、グレイが皇帝になればいいと思っているのね?」

 確かに別の皇帝候補が上手く見つからなかった時の事を想定していなかった。
 その場合どうするべきか思案していると、ヘドヴァンをニギコロしていた父が「お待ちください」と声を上げる。

 「エトムント猊下、それにアルトガル。グレイは兎も角――マリーを皇妃に、というのは正直これの父としてはお勧め出来かねる」

 神聖アレマニア帝国がおかしな国になっても構わないというのであれば話は別ですが、と続ける父に私は思わず半眼になった。

 「父……それはどういう意味かしら?」

 「どういう意味も何も、お前のあの馬を始めとする奇行の数々がアレマニアどころか近隣諸国にまで広く知れ渡っても良いのか?」

 「「「あ」」」

 父の言葉にグレイを含む家族全員が声を上げた。事情を知らず首を傾げる他の面々。
 そこへ、ヘドヴァンが羽をわきわきさせて――

 ――コラッ、マリー! チョウシニノルナ!

 タイミング良く父の声で私を叱りつける声に、何人かがブフッと噴き出した。

 「ヘドヴァンまで酷い!」
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