貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

タイトルは【夜の王妃様の舐め犬生活】。

 『……聞こえますか? リーアム・ネイル・オーエン伯。カレドニア女王リュサイの叔父にしてカレドニア王国の摂政たる方……』

 私の精神感応での呼びかけに、書類仕事をしていたその男はビクリとして羽ペンを取り落とした。

 「な、何者だ! 妖精の類か!?」

 『いいえ、私は聖女マリアージュ。トラス王国のキャンディ伯爵家の領地より貴方に話しかけています』

 「聖女だと!?」

 「摂政様、どうかされましたか!?」

 立ち上がって虚空を睨み、声を荒げるオーエン伯リーアム。傍に控えていた使用人や補佐らしき者達が慌てている。
 暫く黙っていると、リーアムは首を横に振った。

 「……いや、何でもない。少し疲れているようだな、しばし席を外してくれないか」

 彼らが渋々と出て行く。オーエン伯一人室内に残された。
 何となくなのだろう、黙ってじっと上を見上げるオーエン伯。

 「いや、気のせいか……」

 『……落ち着かれましたか? 貴方の姪、カレドニア女王リュサイ様は今現在私の実家、キャンディ伯爵家の城に滞在なさっております』

 呟くのと同時に声を掛けてしまったらしい。オーエン伯は「うわっ」と声を上げて飛び上がった。

 「気のせいじゃなかったのか! リュサイ様がトラス王国のキャンディ伯爵家に滞在されているだと!? 亡きエレーヌ様の御実家のラブリアン辺境伯家は……」

 『ええ、その事なのですが、実は――』

 私はこれまでの事をオーエン伯リーアムにかいつまんで話した。
 リュサイ達がラブリアン辺境伯家の援助を得られなかった事、トラス王家の助力を求めるべく王都へ向かう途中、病に倒れてキャンディ伯爵領アルジャヴリヨンで療養していた事。そして回復してきた時に、聖女パレードに行き会って私に保護を求めて来た事。
 そして――

 『リュサイ様は聖女の、ひいては教会の庇護を受けられる事をお決めになりました。その証として、賢者認定儀式の時に立ち会った王侯貴族として名簿にも名を残されております。その旨を知らせる手紙をしたためられておりましたので、その内届くでしょう』

 その時に裏を取って貰っても構わないし、キャンディ伯爵家に問い合わせてくれても構わない。そう伝えると、オーエン伯は渋面になる。

 「そなたが真実聖女だったとして――アルビオン王国を退ける事が出来るとでも? ラブリアン辺境伯家やトラス王国以上の力になれるのか? 私には危険な賭けにしか思えん」

 『そうですね。アルビオン王国は教会を乗っ取っています。私やサングマ教皇の言葉や威光は通じないでしょう。しかし他の国にはそれが通用するのです』

 私は教会ネットワークを通じた交易でカレドニア王国を富ませ、こちらも交易船を揃えてトラス王国の海軍力を高めてカレドニア王国の安全保障にするつもりだと伝えた。勝算は十分にあるという事も。

 『そこで、貴方にやって頂きたい事はカレドニア王国内のアルビオン派の貴族への対策です。まずは全て把握し、私に報告して貰いたいのです』

 「報告して……それでどうなる?」

 『私には人の心を見通す神の力があります。貴方が私を不気味に思い不信感を持っている事や、自室のベッド下の秘密の隠し場所には奥様に内緒にしているいかがわしい艶本……ええと、タイトルは【夜の王妃様の舐め犬――』

 「聖女様! 私リーアムは聖女様が真実であると信じます!!」

 リーアムは秒で陥落し、その場に手を組み天を仰いで跪いた。

 『……タイトルを読み上げずとも良かったのかしら?』

 「聖女様! どうかこの事はご内密に――我が身の不敬をお許しください!!」

 必死に叫ぶオーエン伯リーアム。「細心の注意を払い、一人の時にしか読んでないのに! 聖女怖い!」と内心ぐるぐる考えているのが伝わって来る。
 周囲には冷徹な摂政と噂されているから、あんな本を読んでいる事がバレれば社会的に死ぬという事か。
 まあ、リュサイの母親に片思いしていた事は武士の情けで黙っておいてやろう。
 私は話を先に進める事にした。

 『分かって頂けて何よりです。それで、その力で報告にあった者達を見通して行こうと思うのですわ。相手の弱みを握る事も出来るでしょうし、その情報を貴方に提供するので上手く使って国内から親アルビオン勢力を駆逐して頂きたいのです』

 「かしこまりました……こちらとしてもそれは望む所です」

 その他、教会を通じた砂糖と羊毛の交易、アルビオンの目を誤魔化す為の財務上の資金ロンダリング案を伝える。

 『内通者の問題さえ解決出来れば技術供与とカレドニア王国の発展をお約束しましょう。そうですね、後は――』

 私は教会が警告している食料危機が本物なので、飢えたくなければ対策を本気で取り組むようにと念押しして伝える。最後にカレドニア王国の眠れる資源を幾つか透視して教えてあげたのだった。


***


 ピィー……

 高い声で鳴きながら空を悠々と舞うマイティー。

 「うーん、平和ねー。アレマニア寛容派貴族も何とか誤魔化されて帰ってくれたし、一時はどうなる事かと思ったけれど、ひとまず平穏な時間が戻って良かったわ」

 「……問題を先延ばしにしたような気がしないでもないけれど」

 「グレイ。人事は尽くしたから後は天命を待つばかりなのよ。世の中はね、なるようにしかならないわ」

 グレイを神聖アレマニア皇帝に! と爆弾発言を受けたあの日から、早九日程度が経過していた。
 現在、私とグレイは山間を流れる川の畔に寝転がって小休止中。
 下に敷かれている敷物は羊の毛織物であり、ベリエ商会から提供されたものだ。

 それを見たドナルド曰く、高地の騎士達が着ている羊毛のキルトは便利なものですよ、とのこと。単純に着る以外にも変形させて毛布やレインコートとして使う事も出来たりすると実演までしてくれた。こうしてみると、彼らの民族衣装は野外活動に優れていると感心してしまう。
 羊の毛織物は気密性が高く、防寒と防水に優れており水を弾くというのは初めて知った。

 私達も自分だけのタータンを作れたりするかと訊いてみると、女王リュサイが友好の為にデザインして贈ってくれる事を約束してくれた。摂政のオーエン伯に宛てた手紙に手配するように書いてくれるそうだ。
 やったね! グレイに着せるのが実に楽しみである。

 女王リュサイ達とエトムント枢機卿一行、アレマニア寛容派貴族達は私達と同時に領都を出発していた。
 あれから三日経過しており、そろそろ彼らは領境へ差し掛かる頃だろうか。
 ちなみにアレマニアの寛容派貴族ご一行は「アーダム皇子が居ない間に地盤を固めたり、食料危機対策を取る方が優位に立てますわ」等と適当な理由を付けて国に帰るように促した。

 ちなみに金太はまだ軟禁中。
 手紙を寛容派貴族達に託す事は許しているので、その内奴の実家から何らかのコンタクトが来る事だろう。
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