貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
371 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(39)

 騎士達の試合の次の日。

 城に滞在している客人達は旅支度をすべく市街地へと降りていた。
 王都へ向かうリュサイ女王ご一行に聖地へ戻るエトムント枢機卿ご一行、そして神聖アレマニア帝国帰る寛容派貴族ご一行の大所帯である。
 特にリュサイ女王ご一行に関しては、サイモン様が資金的な援助を申し出られていた。僕もヤンとシャルマンを付けてキーマン商会で便宜を取り計らうよう命じている。

 僕達夫婦が明日から山の方へ旅に出るということを聞いたアレマニアの寛容派貴族達は、当初旅について来たがっていた。しかしサイモン様が「身の安全を保証しかねる故、ご遠慮願いたい」と断った。
 マリーも「カレドニアの女王リュサイ様はこれより王都へ赴き、アーダム皇子を留め置く協力をして下さいますの。エトムント枢機卿も聖地へお戻りになり、不寛容派を牽制すべく動かれる予定ですわ。寛容派の勢力を広げるのは、今が好機と思われませんこと?」と言うと、彼らは確かに! と帰る気になってくれたようだった。

 「ああ、ただし。レーツェルさんは別にやって頂く事がありますので、ここへ残ります。ヴァッガー家――彼のお父様とは、私とグレイが直々にお話したいと思っておりますの」

 ディックゴルトの手紙だけ届けて欲しいとマリーが微笑むと、彼らは分かりましたと請け負う。彼が父親に宛てて書いた手紙はサイモン様、マリー、僕、エトムント枢機卿の四人の親書と共に託されることとなった。

 「馬ノ庄にはもう行ったとして。次は鳥ノ庄だな。鳥ノ庄には私も共に行こう。金鉱山とダイヤモンド鉱山の具体的な状況を把握して一日でも早く採掘を始めたいところだからな」

 城の執務室で山地全体の地図を前にそう言われるサイモン様。指差した先は、山地の中央に位置している場所だった。『鳥』と書かれてある。
 隠密騎士の里や道の情報が事細かに描かれているそれは、門外不出の機密だそうだ。

 「鳥ノ庄を出た後は――狼、山羊、猿、熊、龍、蛇、獅子、牛、鹿と巡って行くが良い。そのように手配しておこう」

 地図を追っていくと、丁度ぐるりと鳥ノ庄を中心に回るように旅をする事になる。最後の鹿ノ庄を出た後は山地を降りて街道伝いに領都へ戻ってくる。

 「ねぇ、父。兄様達も隠密騎士の里へは行ったことがあるの?」

 「勿論だ。十五の年にな」

 イサークもいずれは回ることになるだろう、というサイモン様。マリーが「姉様達やメリーは?」と首を傾げると、他所へ嫁ぐ女子には必要ないとの事。

 「アンは嫁いだ身だが、お前やアナベラは身内に取り込んだようなものだからな。いずれアールとアナベラも回らせる事になるだろう」

 「仲間外れになっちゃったアン姉がちょっと可哀想な気もするけど仕方ないわね。ダージリン伯爵領は隣だし、これからは気兼ねなく道を整備することが出来るわ」

 「無論、そうするつもりだ。グレイよ、各庄巡りではお前という人物を見極められる事になるやも知れぬ。心しておくがいい」

 ニヤリと笑ったサイモン様に、僕は頂いた隠密騎士達のリストを思い出した。
 ダージリン領へ出立する前には顔合わせが出来ると以前仰っていたけれど、きっとその事だろう。

 ――これは気を抜けないな。

 僕は心を引き締めた。


***


 僕とマリーが城のテラスでお茶を楽しんでいると、女王リュサイ達が高地の騎士ドナルドを従えて現れた。
 買い物から帰ってきたのだろう。

 「まあ、リュサイ様。お帰りなさい」

 マリーが微笑んで椅子を勧める。騎士ドナルドはその背後に控えた。
 サリーナが女王リュサイにお茶を給仕する。彼女は恐縮しながら軽く頭を下げた。

 「聖女様には、何から何までお世話になりまして……」

 「いいえ、リュサイ様にも助けて頂くのですし、お気になさらず。それより、十分なお買い物は出来まして?」

 「グレイ猊下の計らいで十分過ぎる程です。感謝致します」

 答えたのは騎士ドナルド。僕はヤンとシャルマンはお役に立てたようですね、と頷く。
 マリーが何かを思い出したようにそうですわ、と口を開いた。

 「リュサイ様にはお伝えしないといけない事がありましたの」

 それは、カレドニア王国にいる摂政――女王リュサイの叔父にあたるリーアム・ネイル・オーエン伯に聖女の力で連絡を取った事だった。
 最初は驚かれ、信じて貰うのに苦労したが、女王リュサイの状況と聖女・教会の保護を受ける事になった事、そして対アルビオン王国の方策について話し合ったのだと。

 「……ということですわ。カレドニア王国に眠る資源についても幾つかお伝えしております。しばらくはオーエン伯に頑張って頂いて、カレドニア王内の親アルビオン勢力を追い出した後で国にお戻りになれば宜しいわ」

 女王リュサイに随行する者の内、数人の修道士を残す事が決まっていた。
 サングマ教皇猊下が選抜した聖職者達と共に、カレドニア王国へ案内役として戻る予定である。
 聖地よりカレドニア王国へ向かう聖職者達は、この城で改めて聖女から辞令を受けることになる。

 「おお……聖女様、感謝致します!」

 聖職者達によってまとめられ、強固なものに組み上げられるカレドニア王国の教会組織――きっと冬までには、秋に収穫されたビートで作られた砂糖をアルビオン王国へ売り始める態勢が整うことだろう。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」