貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
396 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

ダージリン伯爵領へ!

 それから、アントン達と今後の事を話し合った結果――

 皇帝選挙の事はさておき、寛容派に味方すること。
 神聖アレマニア帝国内で種痘を広める協力をすること。
 大陸銀の脅威の事で手を組むこと。
 神聖アレマニア帝国内の炭鉱と鉄鉱を確保して、石炭と鉄をこちらへ売ること。
 聖女に従うならば、ヴァッガー家の栄光が約束されること。

 以上の事を納得・承諾して貰った。
 ちなみに牢獄に放り込んでおいた男達は釈放の上、アントンに連れて帰って貰う事に。

 「裏切る事無く、忠実であれば太陽神は貴方がたを顧み、救いを与えて下さるでしょう」

 私の締めの言葉に、アントンは内心ちらりと

 『忠実であれば救いが与えられる。しかし……もし、途中で裏切ったらどうなるのか』

 と考えていた。神の怒りに怯えながらも状況がどう転ぶか分からない以上は想定はするのだろう。
 私は扇を動かし、サリーナに精神感応で窓を開けるように指示した。
 窓が開けられると、私は烏達を呼ぶ。
 すぐに飛んできて私の腕に止まる烏のリーダー。外の木々には他の烏達が集まり、しわがれた鳴き声を上げていた。

 「烏……?」

 「アントンさん、太陽神は常に見ておられますわ。この意味はお分かりですわね」

 『もし裏切れば、相応の報いを受けて頂く事になりますわ。アブラーモ大司教のように、神の怒りの炎に全てを焼かれるかも知れませんわね』

 精神感応でも語り掛けると、アントンは青褪めて飛び上がった。

 「! ――私めは決して、決して裏切りませぬ!」

 私に向かって跪き、祈りを捧げ始める。
 二心を抱くリスクを嫌というほど理解して貰えたようだ。

 「ふふふ、そうでしょうとも。期待しておりますわ」

 裏切りを考えることすらしないように――芽は僅かなものでも摘みきってしまわねば。

 「倅や、お前はこの国に残り、父に代わって心を込めて聖女様にお仕えするのだ。出家して修道士になっても構わない。ヴァッガー家と聖女様の繋ぎとしての仕事に励むようにな」

 「親父……」

 アントン・ヴァッガーは、裏切らぬ証として金太を人質に置いていくらしい。金太は『がーん!』と効果音が聞こえそうな絶望の表情を浮かべたものの、最後には承諾した。

 ふむ……

 私は思いついた事を実行する事にした。
 何時までもレーツェル呼びだと違和感があるのである。

 「うふふ、レーツェルさん。修道士にはならずとも、私に仕えるという事で心機一転、貴方には新たな名を与えましょう。そう、今日よりこう名乗りなさい――『キンター』と」

 そう、私は内心の呼び名と現実のそれを一致させる事にしたのである。
 洗礼名的な感じで名を与えればタイミング的に違和感は無いだろう。
 私の一方的な名付けに、金太は怪訝そうにこちらを振り返った。

 「キンター……それはいかなる意味でしょうか?」

 「貴方の元の名を神の国の言葉に直すとそうなるのです。貴方のお父様であるアントンさんが折角付けて下さった、大事な大事な名前だと思いましたから。不満でしたか?」

 心配そうな顔で小首を傾げると、金太は目を輝かせた。

 「いえっ、素晴らしくカッコいい響きの名前です! 要は意味を知られさえしなければ良いのですから! 私は今日より『キンター』と名乗りましょう!」

 父親として自分が付けた名前を否定されて来た事に心を痛めていたのだろう、アントンが涙ぐみ始める。

 「おお……聖女様は何と慈悲深い。良い名前をありがとうございます!」

 ……そこまで感動されるとは思ってなかったので若干良心が痛まなくもないが、喜んで貰えて何よりである。
 次の日、アントンは釈放された男達を引き連れ、使命を帯びたような表情でアレマニア帝国へと戻って行った。
 さて、私達もダージリン伯爵領へと向かう準備をせねばなるまい。


***


 『ダージリン伯爵領は現在、収城使であるギャヴィン・ウエッジウッド子爵が代理統治に当たっておられます。
 元の統治者である貴族達は改易の上小領へ寄子貴族を引き連れて出て行きましたが、それに従わぬ者や雇いきれぬ者――領地の騎士爵以下軍属の者はそのままグレイ閣下への士官を希望とのこと。
 他、同じく解雇となった使用人もそのまま働きたいとの事で、ウエッジウッド卿の采配により城の維持に臨時で雇用されております。
 ウエッジウッド卿はよく治めておられるようですが、残念ながら領政官が横領を。ウエッジウッド卿も薄々は疑っているようですが、確たる証拠を掴めておらぬご様子。
 その証拠となる裏帳簿の在処は既にこちらで探り出しております。その罪は別の者に着せて追い出したようですな。冤罪を着せられた者はこちらの手の者が匿っており、人質となっているその者の家族の居場所も判明しておりまする。
 また、領政官の手の者がこそこそと調度品を売り払っており、その行方も既に把握、泳がせております。
 それから、グレイ猊下にお仕えしたいという者達の中で、他国や他の貴族の息が掛かっていると思われる人物も粗方洗い出しておきました』

 その名簿と詳しい報告書をお納めください、と紙束をグレイに差し出すアルトガル。
 父サイモンも横から内容を見て、感心したような声を上げている。
 ヘルヴェティアの傭兵は非常に優秀なようだ。

 「まあ、アルトガル。そこまで調べてくれていたら十分ですわ」

 というか、そうしたよからぬ人間は精神感応を使って一次審査で落とすつもりである。
 出来れば隠密騎士やヘルヴェティアの傭兵達で身辺は固めたい。

 アルトガルの報告後、私達は数日かけて準備を整えていった。

 余談だがその間――蛇ノ庄と獅子ノ庄との間で結納が交わされたり、グレイが人材募集をかける使いを出したり、サングマ教皇やスヴェン卿に天然痘の事で連絡を取ったりと色々充実した日々を過ごす。

 ダージリン領行きメンバーは家族では祖父母以外。祖父母はこのまま領地に残って領政に携わる事になる。
 その他は、賢者イドゥリースにスレイマン、ヴェスカル、金太、修道士達といった顔ぶれと、選抜された騎士団、私達に仕えてくれる事になった隠密騎士達や侍女達。

 彼ら全員を引き連れ、私達一行は意気揚々とダージリン領へと向かう。
 全ては順調だと思っていた。

 「申し訳ございません、我が主の力及ばず――神聖アレマニア帝国、アーダム第一皇子がこちらへ向かっているとの知らせが入っております」

 対面したギャヴィン・ウエッジウッド子爵が曇った表情で頭を垂れるまでは。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」