貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
397 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

何事も最初が肝心なのです。

 街道を東へ向かい、宿場町メイユからシャンブリル川を南下する。
 ダージリン伯爵として拝領した領地は、王都と南の港を結ぶ主要街道が貫く領地なだけあって商業も盛んで旨味のある土地だった。
 街道沿いが発展している一方、キャンディ伯爵領と境を接する山の方はあまり開発されていないらしい。

 しかし、しかしである。
 私はくふふ、と笑って山々を見つめた。
 キャンディ伯爵領アルジャヴリヨンを発って八日目、私達は領都クードルセルヴに到着。
 日本語に直訳すればハシバミの森――さしずめ『榛森しんせん』といった地名になるだろうか。
 近隣の森にヘーゼルナッツの木が群生している交易都市であり、牛ノ庄辺りから山越えした場所に当たる。

 あの中にはもう一つの温泉、鉄鉱山と炭鉱があるのだ!
 キャンディ伯爵領との間に鉄道を通したいところである。
 採用試験をちゃっちゃと終わらせて、視察に行くのが待ち遠しい。

 そんな事を考えながらうきうきと領主の城へ向かったのだが――領地の引き渡しの為に代理領主をしてくれていたギャヴィンに対面した直後、アーダム皇子がこちらへ向かっていると聞かされ、出鼻を挫かれてしまったのである。

 「何ですって?」

 城の応接室。
 聞き捨てならない言葉に訊き返すと、グレイも顔を強張らせ、「どういう事なのでしょう?」と口にした。

 「殿下からの知らせによれば……アーダム皇子は長く国を空ける訳には行かない、と帰国の意志を口にしたとか。東方小国群を回って神聖アレマニア帝国へ向かう道を選ぶとの事で、まずはナヴィガポールへ、と」

 「聖女に会えない事に業を煮やし、理由を付けてこちらに向かったという事か……?」

 父サイモンが思案気に顎に手を添える。ギャヴィンは恐らくはと頷いた。

 「その通りだと推察致します……帰国する、との理由ですと引き留める事も難しく。ただ、お見送りするという事でアルバート殿下も同道されております」

 ギャヴィンの言葉にグレイがこちらを見た。

 「どうする、マリー?」

 そこへ、恐れながら、と前脚ヨハン

 「マリー様、城を出るのは得策ではございませぬ。誘拐される隙ができやすくなりまする」

 後ろ脚シュテファン中脚カール、アルトガル達を見渡すと、皆同意見のようで頷いている。

 「そうね……既に賢者イドゥリースの話は広まっている筈。会うのは避けられないにしろ、牽制は出来るんじゃないかしら」

 ちろり、とイドゥリースを見ると、決意を秘めた眼差しを返された。

 「私もアヤスラニ帝国の皇子の一人。腹芸はそれなりにこなしマス。頑張りマス」

 「ありがとう、とっても心強いわ」

 さて、どんな風にもてなしてやるか考えねばな。
 アーダム皇子達が領都クードルセルヴにやってきたとの知らせが届いたのは、対策会議を開いてから数日後の事だった。

***

 「まあ、アルバート第一皇子殿下。お久しぶりですわねぇ~。今、私は気分が優れませんの。このような格好で失礼致しますわねぇ~」

 私は聖女の衣装を身に纏い、気だるげな演技をしながら玉座に偉そうにふんぞり返っていた。
 体をだらしなく玉座に持たれ掛けさせ、足もだらんと投げ出し、右肘をつくという非常に行儀悪い座り方である。
 玉座の両脇には馬の脚共が金剛力士像の如く腕組をして来訪者達を睥睨していた。

 私の足元では目隠しをされ、ギャグボールを噛まされたメイソンが四つん這いで足置きとしてお勤め中。
 グレイはと言えば、一歩下がった隣に置かれた椅子に無表情で静かに座り、存在感を消している。その更に背後には中脚とサリーナ、ナーテの姿。
 私より一段下がった場所には賢者イドゥリースが正装できちんと座っている。その傍に立つスレイマン。
 馬の脚共の更に外側には烏達とマイティーの止まり木が並べられ、鳥達は一つも鳴き声を上げず不気味な程に静まり返っている。
 謁見の間の長絨毯の両脇には隠密騎士達がずらりと並び、威圧感を与えていた。

 「聖女マリアージュ様、こちらこそ長らくご無沙汰しておりました。御気色優れぬ時にお邪魔してしまいました事、心よりお詫び申し上げます」

 事前に計画を伝えておいたアルバート王子はポーカーフェイスを保ってこちらに合わせて挨拶を述べる。
 しかし内心笑いを必死に堪えていた。
 アーダム皇子の表情は読めないが、側近ダンカンとデブランツ大司教は怒りを堪えている様子。他の随従も怒ったりドン引きしたりしているようだった。

 ――まずまずは成功か。

 内心ニヤリと笑う。このカオスな状況を作り出したのは勿論私だ。
 というのも、何事も最初が肝心だからだ。
 糞ゴリラが皇妃にしようなどと思わない程、私が扱い難くヤバい人間だという印象を与える事が主な目的なのだから。

 「で、そちらの方々はどなたですのぉ~?」

 自分の髪の毛をくるくると指で弄びながら尊大に挨拶をかました私に、我慢の限界が来ていたのだろう。

 「……いかな聖女様と言えども、先程から無礼ではありませぬか!」

 「こなたにおわすは神聖アレマニア帝国の第一皇子アーダム殿下にあらせられますぞ!」

 顔を真っ赤にしたデブランツ大司教とアーダム皇子の側近ダンカンが怒りを堪え切れずに叫び出す。
 カーン、と脳内でゴングの音が鳴り響いた。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」