貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

聖女もしもしホットライン。

 ギャヴィンはまだ引継ぎの為にここに留まるが、アルバート第一王子はアーダム皇子に港まで同行、出航するのを確認して見送ってから王都へ戻るという。その後はギャヴィンを回収しにまたこちらへ立ち寄るそうだ。
 それにしても、ゴリラ皇子とカボチャパンツ軍団が居ないという事だけで随分精神的に楽になった。帰国してくれるというのだから万々歳である。

 さて、少し気がかりな事を片付けるか。
 私は目を閉じ、精神統一を始めた。透視能力を使う先は――アヤスラニ帝国、皇宮。
 探し当てたお目当ての人物は昼食の真っ最中であった。

 『皇帝イブラヒーム……今ちょっとよろしいかしら?』

 精神感応で語り掛けると、その人物――アヤスラニ皇帝イブラヒームは食べ物を喉に詰まらせかけて咳き込んだ。
 傍に居た侍従や侍女が慌てて背中を摩ったり水を差し出したりしている。
 水を飲んで落ち着いた皇帝イブラヒームは、深い溜息を吐いた。

 『はぁ……聖女か。いつも昼時に連絡してくるのだな――まあいい、ようやくか。待ちわびたぞ、そなたには言いたい事が沢山あるのだが』

 うーん、昼時に連絡したのは時差もあるし偶然なんだけど(※こちらはまだ午前である)――もしかしたら、私的な電話は昼休憩等にするべきだという社畜時代の癖が無意識に残っているのかも知れない。
 それよりも。

 『言いたい事?』

 何だか怒っているような?
 首を傾げると、皇帝イブラヒームは串焼き肉を手に取った。

 『そなたが知らせも無くイドゥリースを賢者に任じた事でこちらは面倒な事になっておるのだ』

 久々に連絡を入れた皇帝イブラヒームに、滅茶苦茶苦情を言われた。
 本当はこちらがオス麿について苦情を入れる筈だったのに。

 曰く、災害の後――生き残った人々から噂が広まっていくにつれ、導師達への責任追及の声が高まったらしい。

 ――何故聖女の声を無視したのか。
 ――何故皇帝の命令に逆らってまで人々の避難を邪魔したのか。

 そのお蔭で親類縁者が亡くなった、これは導師達の所為だと。
 その声はやがて皇都ばかりか全国に広がった。

 ――聖女が本物だった。
 ――いや、あれこそが災いを引き起こした魔女であったのだ。

 国民に責められた導師達は聖女の是非について論議し、肯定派と否定派に分かれ――アヤスラニ帝国の宗教界は真っ二つに分断された。
 そこへ、死んだと思われていた十三番目の皇子イドゥリースの賢者就任の一報が齎される。聖女と共にいること、そして災いの予言をして国外追放になったことも知れ渡った。

 イドゥリース殿下が賢者――それが真実であるのならば、イドゥリース皇子こそ呼び戻して皇太子に据えるべきではないか?
 いや、国外追放の上で魔女と共にいるのならばそのまま関わるべきではない。賢者に任じたのは異教徒だ。それに、皇太子殿下に対し無礼であろう。

 宗教界の分断は皇位継承争いにまで飛び火した。
 そして、紛糾した結果、

 ――水掛け論をしても結論は出ぬ。直接聖女に会いに行って本物かどうか確かめるべきだ。

 そういう意見で一致したらしい。

 あらら、そういう事になっていたのね。

 こっちはこっちで賢者認定儀式の時はカレドニア王国やらアレマニア寛容派ご一行やら色々あったからなぁ。
 他の事で頭一杯で、イドゥリースの父親に連絡する、なんて意識に無かった。悪い事をした。

 『本来ならば朕直々にそちらへ行くところであったが、大導師フゼイフェが名乗りを上げ、聖女を実際に見てその真贋を見極めて来ると役目を買って出た。そこで朕の名代として彼をそちらに寄越したのだ』

 は? どういうこと?

 『大導師フゼイフェ? こちらには大導師の他、オスマン皇太子がいらっしゃったのですけれど!』

 「『何だと!? あ奴め、復興を放り出してそちらへ行っていたのか!』」

 皇帝イブラヒームは串焼きを取り落として叫んだ。いきなり叫び出した皇帝に、侍従が「『如何なされましたか』」等と慌てている。
 何てことだ。どうも、オス麿が来たのは無断独断であるらしい。しかも復興任務放り出し。

 『はぁ……頭が痛い事だ。すまぬが聖女よ。オスマンがイドゥリースを害する事のないように気を付けていてくれぬか』

 『ああ、そうでしたわね。そちらはこちらで護衛を付けておりますわ。争わせて殺し合いさせるぐらいなら最初から子供は一人だけにすれば宜しいのに』

 賢者となったイドゥリースにも隠密騎士から護衛が選ばれて付けられている。そうそう下手な事は出来ないだろう。
 そちらはいいとして。皇太子以外皆殺しだというアヤスラニ帝国の世継ぎ決定システムは、後宮内で陰謀と骨肉の争いが渦巻く構造になってしまっている。非人道的で非生産的だとオス麿の事も含めて嫌味を言うと、溜息を吐く皇帝イブラヒーム。

 『その慣例も見直さねばならぬとは思うが、保守的な者も多くてな……』

 『まあ頑張って下さいまし。ところで、もう一つ』

 次なる災いである天然痘の流行について話すと、皇帝は『次は死の病か……』と絶望したように天を仰いだ。次いで種痘の事を伝えると『かの病を防ぐ方法を知っているのか!』と食い気味になられる。

 『邪魔が入らないように、私からの情報だというのは事後報告にした方が良さそうですわね』

 前のように邪魔されては堪らない。秘密にする方がやりやすいだろう。

 『ああ、そのようにするとしよう』

 安堵した皇帝イブラヒームは、種痘を進めることとオス麿回収班を派遣することを約束してくれた。
 それまではイドゥリース担当の隠密騎士を増やして頑張って貰うとしよう。
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