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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(63)
果たせるかな、それから数日程して。
アーダム皇子そして見送りと付き添いのアルバート殿下が領都クードルセルヴにやってきた。
「マリーちゃん、大丈夫なの……?」
「大丈夫よ、問題無いわ母」
心配するティヴィーナ様。自信たっぷりのマリーの返事にどことなく不安を覚える僕。
マリーはメリー様に目配せをする。
メリー様は「イドゥリース様、メリーはご武運をお祈りしています! これをどうぞ!」と戦に向かう夫を見送る妻さながらに決意した顔で手にしたものをイドゥリースに渡した。
「これは……烏の羽デスか?」
首を傾げながらそれを受け取ったイドゥリース。それは黒い羽で作られた扇だった。要部分が固定されている開閉出来ないタイプのものだ。銀細工で作られた美しいものだった。
マリーは頷く。
「ええそうよ。リーダー達の羽を貰って作らせたの。デザインはメリーが考えたのよ。良い出来栄えだと思うわ」
「賢者の衣装を見た時から考えていたのよ、何か足りないと思って」というマリー。確かに黒いあの衣装に烏の羽毛扇は似合うだろう。
「だけど、何で羽毛扇?」
「賢者と言えばコーメイ、コーメイと言えば羽扇は付きもの♪」
マリーによれば、異世界の有名な戦記物語に出て来るコーメイという名の大賢者がこのような羽で作られた扇を使っていたという。イサーク様が「その話凄く面白いんだよ、後で話してあげるね!」とヴェスカルの頭を撫でていた。
ふと興味を引かれた僕は、イドゥリースに近付き、その扇を見せて貰う。
「この要の所にある、白と黒の模様――印は何だい?」
「ああ、それは『インヤン』というの。闇と光、その調和を意味しているのよ」
「へぇ」
白い部分に黒い丸があるのが太陽、黒い部分に白い丸があるのが月を意味しているそうだ。
月が満ちれば欠けるしかなく、新月になれば満ちるしかないように。光窮まれば闇へ、闇窮まれば光へ。
「そこから木・火・土・金・水の五行が生まれ、万物が生成と消長しながら流転する。その、世界の理。そんな意味が込められているわ」
「おお、素晴らしい哲学でございますね、聖女様」
羽毛扇を手帳に模写していた修道士エヴァンが上げた感心の声に、マリーはうふふと笑って頷いた。
「ええ、だからこそ賢者が持つのに相応しいと思うわ。この羽毛扇があれば、舌戦において向かうところ敵なしよ、きっと」
「……ありがとうございマス」
朝食が終わると、ウエッジウッド子爵が早速『聖女様にお目通りしたい』と先触れがあったと知らせてくれたので、こちらも迎え撃つ準備を整える。
「ふむ……予想通りだな」
「ええ、ダージリン伯爵である私ではなく、最初から聖女であるマリーに会いたいと言ってくるなんて。馬鹿にされたものです」
溜息を吐く。出自が商会を経営する子爵子息だからって、そんなに僕って存在感無いんだろうか?
「皇子ならば普通はもっと慎重になり建前を取り繕うものだと思うが。それだけお前を軽視しているのか、それとも馬鹿なのか。いつぞやの某アレマニア貴族を思い出すな」
……オスカー・ヴィルバッハ辺境伯のことだろうか。あの人も色んな意味で癖が強かった。捨て身同然でぶつかって来たんだから。
「父、ヴィルバッハ辺境伯のことをそんなに悪く言ったら失礼よ?」
マリーが窘めるように口を開く。サイモン様は呆れたような目で彼女を見て肩を竦めた。
「別に誰とは言っていないが。お前も大概だな、マリー」
***
先刻のそんなやりとりを思い出しながら。
マリーのやや背後で僕は努めて無表情を作り、視線を固定するのを極力避けるようにしていた。
うっかりそれを見てしまうと顔に出てしまいそうだからだ。
「このような格好で失礼致しますわねぇ~」
彼女が行儀悪く尊大にふんぞり返っている領主の椅子の下にはわざわざ台座が置かれ、高さが上げられていた。
その理由は――
僕はちらりとそれに視線を動かす。
そこにはあのメイソンが目隠しと口枷をされたメイソンが息を荒くして四つん這いになり、マリーの足置きとなっていた。
……何だかなぁ。
僕はそっと視線を逸らした。僕なら即回れ右する程強烈な光景だ。
最初は「聖女様、な、何をこのメイソンになさるおつもりで……」等と怯えたような表情をしていたんだけれど、「全てはお前の働きにかかっているのよ」とマリーに持ち上げられてすっかりその気になっていたメイソン。
怯えながらもどこか期待している風だったのは気のせいということにしておこう。
でないと僕の精神が持たない。
――やっぱり存在感無くて良かったかも。
僕は極力気配を殺して俯いた。込み上げてくるものを必死で抑える。
筋肉隆々とした肉体、厳つい顔にあのおかっぱと衣装はありえない。悪夢みたいだ。
メイソン以上に実際に目にするアーダム皇子の姿は強烈過ぎた。
「……いかな聖女様と言えども、先程から無礼ではありませぬか!」
マリーがアルバート殿下にだけ挨拶をし、アーダム皇子一行が誰かと訊ねる。アーダム皇子が謁見を申し込んで来たにも関わらず、アルバート殿下のおまけのような扱いをしたのだ。
案の定、こちらの狙い通りに相手側が怒りだした。
確か、アーダム皇子の側近のダンカンという男にアブラーモ大司教の弟デブランツ大司教。
こちらは神聖アレマニア帝国のアーダム第一皇子だと激昂する相手に、前脚のヨハンと後ろ脚のシュテファンが立場上神聖アレマニア帝国皇帝より聖女の方が上だと言い返す。言い返せなかった二人は、今度はサイモン様に娘にどんな教育をしているのかと矛先を向けた。
サイモン様は娘に逆らえない気弱な父親を演じながら、相手に帰れと促した。
それに気を良くしたのか、相手はそれ見たことかとばかりにマリーが聖女であることを否定し始める。
寛容派のでっち上げなのだろうと。果ては賢者であるイドゥリースを指差し、アヤスラニ帝国による神聖アレマニア帝国に対する陰謀だと告発する。
イドゥリースやスレイマンが言い返すも、ダンカンやデブランツ大司教はますます聖女や賢者が偽物であるという確信を強めたようだった。
「――ここは敵地も同然、一刻も早くご帰国の上、偽聖女や偽賢者の正体を暴き、真の信仰、真の神の道を示されませ!」
いい流れだと思う。僕達の策は功を奏したようだ。
このまま決裂という事で帰ってくれれば。
しかし僕達の願いも虚しく、アーダム皇子当人は首を横に振った。それどころか、逆に面白いと好戦的な目をマリーに向けている。
あの手紙にマリーが仕掛けた『縦読み』にも気付いていたようだ。
「私はまだ帰らぬぞ! 聖女を皇妃として貰い受けるまではな!」
ちょっと。夫である僕がここに居るんだけど。
とことん僕は馬鹿にされているんだな。存在を否定され、歯牙にもかけられていない。
臆面も無く言い放ったアーダム皇子に、僕は内心不快感を感じていた。
アーダム皇子そして見送りと付き添いのアルバート殿下が領都クードルセルヴにやってきた。
「マリーちゃん、大丈夫なの……?」
「大丈夫よ、問題無いわ母」
心配するティヴィーナ様。自信たっぷりのマリーの返事にどことなく不安を覚える僕。
マリーはメリー様に目配せをする。
メリー様は「イドゥリース様、メリーはご武運をお祈りしています! これをどうぞ!」と戦に向かう夫を見送る妻さながらに決意した顔で手にしたものをイドゥリースに渡した。
「これは……烏の羽デスか?」
首を傾げながらそれを受け取ったイドゥリース。それは黒い羽で作られた扇だった。要部分が固定されている開閉出来ないタイプのものだ。銀細工で作られた美しいものだった。
マリーは頷く。
「ええそうよ。リーダー達の羽を貰って作らせたの。デザインはメリーが考えたのよ。良い出来栄えだと思うわ」
「賢者の衣装を見た時から考えていたのよ、何か足りないと思って」というマリー。確かに黒いあの衣装に烏の羽毛扇は似合うだろう。
「だけど、何で羽毛扇?」
「賢者と言えばコーメイ、コーメイと言えば羽扇は付きもの♪」
マリーによれば、異世界の有名な戦記物語に出て来るコーメイという名の大賢者がこのような羽で作られた扇を使っていたという。イサーク様が「その話凄く面白いんだよ、後で話してあげるね!」とヴェスカルの頭を撫でていた。
ふと興味を引かれた僕は、イドゥリースに近付き、その扇を見せて貰う。
「この要の所にある、白と黒の模様――印は何だい?」
「ああ、それは『インヤン』というの。闇と光、その調和を意味しているのよ」
「へぇ」
白い部分に黒い丸があるのが太陽、黒い部分に白い丸があるのが月を意味しているそうだ。
月が満ちれば欠けるしかなく、新月になれば満ちるしかないように。光窮まれば闇へ、闇窮まれば光へ。
「そこから木・火・土・金・水の五行が生まれ、万物が生成と消長しながら流転する。その、世界の理。そんな意味が込められているわ」
「おお、素晴らしい哲学でございますね、聖女様」
羽毛扇を手帳に模写していた修道士エヴァンが上げた感心の声に、マリーはうふふと笑って頷いた。
「ええ、だからこそ賢者が持つのに相応しいと思うわ。この羽毛扇があれば、舌戦において向かうところ敵なしよ、きっと」
「……ありがとうございマス」
朝食が終わると、ウエッジウッド子爵が早速『聖女様にお目通りしたい』と先触れがあったと知らせてくれたので、こちらも迎え撃つ準備を整える。
「ふむ……予想通りだな」
「ええ、ダージリン伯爵である私ではなく、最初から聖女であるマリーに会いたいと言ってくるなんて。馬鹿にされたものです」
溜息を吐く。出自が商会を経営する子爵子息だからって、そんなに僕って存在感無いんだろうか?
「皇子ならば普通はもっと慎重になり建前を取り繕うものだと思うが。それだけお前を軽視しているのか、それとも馬鹿なのか。いつぞやの某アレマニア貴族を思い出すな」
……オスカー・ヴィルバッハ辺境伯のことだろうか。あの人も色んな意味で癖が強かった。捨て身同然でぶつかって来たんだから。
「父、ヴィルバッハ辺境伯のことをそんなに悪く言ったら失礼よ?」
マリーが窘めるように口を開く。サイモン様は呆れたような目で彼女を見て肩を竦めた。
「別に誰とは言っていないが。お前も大概だな、マリー」
***
先刻のそんなやりとりを思い出しながら。
マリーのやや背後で僕は努めて無表情を作り、視線を固定するのを極力避けるようにしていた。
うっかりそれを見てしまうと顔に出てしまいそうだからだ。
「このような格好で失礼致しますわねぇ~」
彼女が行儀悪く尊大にふんぞり返っている領主の椅子の下にはわざわざ台座が置かれ、高さが上げられていた。
その理由は――
僕はちらりとそれに視線を動かす。
そこにはあのメイソンが目隠しと口枷をされたメイソンが息を荒くして四つん這いになり、マリーの足置きとなっていた。
……何だかなぁ。
僕はそっと視線を逸らした。僕なら即回れ右する程強烈な光景だ。
最初は「聖女様、な、何をこのメイソンになさるおつもりで……」等と怯えたような表情をしていたんだけれど、「全てはお前の働きにかかっているのよ」とマリーに持ち上げられてすっかりその気になっていたメイソン。
怯えながらもどこか期待している風だったのは気のせいということにしておこう。
でないと僕の精神が持たない。
――やっぱり存在感無くて良かったかも。
僕は極力気配を殺して俯いた。込み上げてくるものを必死で抑える。
筋肉隆々とした肉体、厳つい顔にあのおかっぱと衣装はありえない。悪夢みたいだ。
メイソン以上に実際に目にするアーダム皇子の姿は強烈過ぎた。
「……いかな聖女様と言えども、先程から無礼ではありませぬか!」
マリーがアルバート殿下にだけ挨拶をし、アーダム皇子一行が誰かと訊ねる。アーダム皇子が謁見を申し込んで来たにも関わらず、アルバート殿下のおまけのような扱いをしたのだ。
案の定、こちらの狙い通りに相手側が怒りだした。
確か、アーダム皇子の側近のダンカンという男にアブラーモ大司教の弟デブランツ大司教。
こちらは神聖アレマニア帝国のアーダム第一皇子だと激昂する相手に、前脚のヨハンと後ろ脚のシュテファンが立場上神聖アレマニア帝国皇帝より聖女の方が上だと言い返す。言い返せなかった二人は、今度はサイモン様に娘にどんな教育をしているのかと矛先を向けた。
サイモン様は娘に逆らえない気弱な父親を演じながら、相手に帰れと促した。
それに気を良くしたのか、相手はそれ見たことかとばかりにマリーが聖女であることを否定し始める。
寛容派のでっち上げなのだろうと。果ては賢者であるイドゥリースを指差し、アヤスラニ帝国による神聖アレマニア帝国に対する陰謀だと告発する。
イドゥリースやスレイマンが言い返すも、ダンカンやデブランツ大司教はますます聖女や賢者が偽物であるという確信を強めたようだった。
「――ここは敵地も同然、一刻も早くご帰国の上、偽聖女や偽賢者の正体を暴き、真の信仰、真の神の道を示されませ!」
いい流れだと思う。僕達の策は功を奏したようだ。
このまま決裂という事で帰ってくれれば。
しかし僕達の願いも虚しく、アーダム皇子当人は首を横に振った。それどころか、逆に面白いと好戦的な目をマリーに向けている。
あの手紙にマリーが仕掛けた『縦読み』にも気付いていたようだ。
「私はまだ帰らぬぞ! 聖女を皇妃として貰い受けるまではな!」
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