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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(70)
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僕はサイモン様やアルトガル、ワイバーンのアーベルトと共に新しい隠密騎士の里『海ノ庄(仮)』の候補地について話し合いをしていた。
候補地はナヴィガポールに隣接した場所の幾つか。
その内でも最有力候補地は雪山――グラセタルネール山脈の西端、ナヴィガポールから北東部に隣接している土地だ。
今の所、木こりぐらいしか住んでいない。
「ここは領都クードルセルヴへ向かう街道に出られますし、ガリア、ヘルヴェティアにも行きやすい。綺麗な川もありますので水も問題ありません。
実は小規模ながら傭兵の拠点としてきた地――ここが最適かと存じます」
というのはアルトガルだ。責任者のワイバーンのアーベルト・メレンも成程と頷く。
「交易の利便性と機密性から件の工場も建て易い――そうだな?」
件の工場とは、砂糖やオコノミソースの工場のことだ。
サイモン様の言葉にアルトガルがニヤッと笑う。
「ふふふ、正にそれも狙ってのことにございます」
「陸路、海路共に外国にも売りに行けるってことだね」
「ただ、隠密活動的に緊急時に海に出るのに時間を取られるのでは?」
地図を眺めていたアーベルトが問題点を指摘する。
アルトガルが「勿論それも考えている」と口を開いた。
「それは船乗りとして幾人かをナヴィガポールに定期的に入れ替えながら常住させれば解決する。どうせ操船や揺れる船上での戦闘訓練をすることになるのであろう?」
「ふむ……確かに」
「他は情報収集の場として語学堪能な者を選りすぐり、船乗り向けの酒場や娼館を経営させれば宜しいかと」
「……船乗りは色んな国の人間がいるからね」
ガリア食堂の親父が頭に思い浮かぶ。出資して昼間は親父、夜はアルトガルの推薦した者達で酒場経営を持ちかけてみようか。
娼館は――アールに支店を作って貰えないか頼むとしよう。
「それが宜しいかと」
「うん」
結局、アルトガルの案を採用して『海ノ庄(仮)』の最有力地はその地に決まった。
その次の日の朝。
「彼らをよろしく頼むよ、ジャン」
王都から来てくれたジャン・バティスト。僕は久々に会った彼に商会採用の者達を引き渡していた。
僕の言葉に、彼は胸に手を当てて「お任せを」と一礼した。
彼らは研修を受けた後、それぞれ銀行や株式、新事業等に振り分けられていくことになる。
人手不足だったから優秀な人材を確保出来て嬉しい。
ジャンには採用された彼らの資料や使用人採用試験内容を記したものを渡している。今後の商会での人材採用に役立てられることになるだろう。
また、『海ノ庄(仮)』について認めた兄アールへの手紙をジャンに託しておいた。
***
「報告致します」
人材採用試験に紛れ込んでいた者達の処分を、と報告に来た大鹿のヘルフリッツ。
僕は「続けて」と促した。
「間諜は前領主の手の者が十名、ドルトン侯爵家の手の者が八名、スキアー公爵家の者が六名……神聖アレマニア帝国からの者が十四名、アルビオン王国より三名、ガリア王国の者が二名、エスパーニャ王国の者が三名、北方のノルッガ連合王国から三名、ルーシ帝国から二名……」
つらつらと挙げられて行く内容に僕の頬は次第に引きつっていった。
サイモン様が「遥々ご苦労な事だ」と喉の奥で笑う。
「釣れること釣れること。聖女という存在は魔法の釣り餌のようなものだ。正に入れ食いだな」
「国内貴族は兎も角、まさかそんなに沢山の国から来て居たなんて……」
「それだけ聖女に、そしてその夫に注目しているということだな」
「二、三名程度の少人数は様子見かと思われます」
そうだろうなぁ。
僕は頷いた。
「国内からいこう。ドルトン侯爵家は……王妃繋がりだとして。スキアー公爵家は何故?」
スキアー公爵家は宰相だ。僕は警戒されているのだろうか。
思い当たること……考え込む僕。
「アルバート殿下、というかギャヴィン子爵関係だろう」
サイモン様の言葉にああそうか、と思い出す。ギャヴィン子爵は宰相スキアー公爵の庶子だったっけ。
ヘルフリッツはその通りにございます、と頷く。
「マリー様によれば、スキアー公爵家の者達はどちらかと言えばギャヴィンが収城使として失敗しないようにとの目的が大きいそうです。
ギャヴィン子爵をアルバート殿下の側近として育てて来たので、失敗されると困ると。
かと言ってこちらの弱みなりなんなりを探る目的が全くない訳ではないそうで、そちらは意趣返しの手紙と手土産を持たせて帰せばよいと仰っておられました」
「そう言うことならそちらは問題なさそうですね」
「問題があるのは前領主とドルトン侯爵家だ。両方共第二王子派なのだからな」
「はい。そちらは悪意があるとのことでした」
候補地はナヴィガポールに隣接した場所の幾つか。
その内でも最有力候補地は雪山――グラセタルネール山脈の西端、ナヴィガポールから北東部に隣接している土地だ。
今の所、木こりぐらいしか住んでいない。
「ここは領都クードルセルヴへ向かう街道に出られますし、ガリア、ヘルヴェティアにも行きやすい。綺麗な川もありますので水も問題ありません。
実は小規模ながら傭兵の拠点としてきた地――ここが最適かと存じます」
というのはアルトガルだ。責任者のワイバーンのアーベルト・メレンも成程と頷く。
「交易の利便性と機密性から件の工場も建て易い――そうだな?」
件の工場とは、砂糖やオコノミソースの工場のことだ。
サイモン様の言葉にアルトガルがニヤッと笑う。
「ふふふ、正にそれも狙ってのことにございます」
「陸路、海路共に外国にも売りに行けるってことだね」
「ただ、隠密活動的に緊急時に海に出るのに時間を取られるのでは?」
地図を眺めていたアーベルトが問題点を指摘する。
アルトガルが「勿論それも考えている」と口を開いた。
「それは船乗りとして幾人かをナヴィガポールに定期的に入れ替えながら常住させれば解決する。どうせ操船や揺れる船上での戦闘訓練をすることになるのであろう?」
「ふむ……確かに」
「他は情報収集の場として語学堪能な者を選りすぐり、船乗り向けの酒場や娼館を経営させれば宜しいかと」
「……船乗りは色んな国の人間がいるからね」
ガリア食堂の親父が頭に思い浮かぶ。出資して昼間は親父、夜はアルトガルの推薦した者達で酒場経営を持ちかけてみようか。
娼館は――アールに支店を作って貰えないか頼むとしよう。
「それが宜しいかと」
「うん」
結局、アルトガルの案を採用して『海ノ庄(仮)』の最有力地はその地に決まった。
その次の日の朝。
「彼らをよろしく頼むよ、ジャン」
王都から来てくれたジャン・バティスト。僕は久々に会った彼に商会採用の者達を引き渡していた。
僕の言葉に、彼は胸に手を当てて「お任せを」と一礼した。
彼らは研修を受けた後、それぞれ銀行や株式、新事業等に振り分けられていくことになる。
人手不足だったから優秀な人材を確保出来て嬉しい。
ジャンには採用された彼らの資料や使用人採用試験内容を記したものを渡している。今後の商会での人材採用に役立てられることになるだろう。
また、『海ノ庄(仮)』について認めた兄アールへの手紙をジャンに託しておいた。
***
「報告致します」
人材採用試験に紛れ込んでいた者達の処分を、と報告に来た大鹿のヘルフリッツ。
僕は「続けて」と促した。
「間諜は前領主の手の者が十名、ドルトン侯爵家の手の者が八名、スキアー公爵家の者が六名……神聖アレマニア帝国からの者が十四名、アルビオン王国より三名、ガリア王国の者が二名、エスパーニャ王国の者が三名、北方のノルッガ連合王国から三名、ルーシ帝国から二名……」
つらつらと挙げられて行く内容に僕の頬は次第に引きつっていった。
サイモン様が「遥々ご苦労な事だ」と喉の奥で笑う。
「釣れること釣れること。聖女という存在は魔法の釣り餌のようなものだ。正に入れ食いだな」
「国内貴族は兎も角、まさかそんなに沢山の国から来て居たなんて……」
「それだけ聖女に、そしてその夫に注目しているということだな」
「二、三名程度の少人数は様子見かと思われます」
そうだろうなぁ。
僕は頷いた。
「国内からいこう。ドルトン侯爵家は……王妃繋がりだとして。スキアー公爵家は何故?」
スキアー公爵家は宰相だ。僕は警戒されているのだろうか。
思い当たること……考え込む僕。
「アルバート殿下、というかギャヴィン子爵関係だろう」
サイモン様の言葉にああそうか、と思い出す。ギャヴィン子爵は宰相スキアー公爵の庶子だったっけ。
ヘルフリッツはその通りにございます、と頷く。
「マリー様によれば、スキアー公爵家の者達はどちらかと言えばギャヴィンが収城使として失敗しないようにとの目的が大きいそうです。
ギャヴィン子爵をアルバート殿下の側近として育てて来たので、失敗されると困ると。
かと言ってこちらの弱みなりなんなりを探る目的が全くない訳ではないそうで、そちらは意趣返しの手紙と手土産を持たせて帰せばよいと仰っておられました」
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