貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
434 / 753
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(70)

しおりを挟む
 僕はサイモン様やアルトガル、ワイバーンのアーベルトと共に新しい隠密騎士の里『海ノ庄(仮)』の候補地について話し合いをしていた。
 候補地はナヴィガポールに隣接した場所の幾つか。
 その内でも最有力候補地は雪山――グラセタルネール山脈の西端、ナヴィガポールから北東部に隣接している土地だ。
 今の所、木こりぐらいしか住んでいない。

 「ここは領都クードルセルヴへ向かう街道に出られますし、ガリア、ヘルヴェティアにも行きやすい。綺麗な川もありますので水も問題ありません。
 実は小規模ながら傭兵の拠点としてきた地――ここが最適かと存じます」

 というのはアルトガルだ。責任者のワイバーンのアーベルト・メレンも成程と頷く。

 「交易の利便性と機密性から件の工場も建て易い――そうだな?」

 件の工場とは、砂糖やオコノミソースの工場のことだ。
 サイモン様の言葉にアルトガルがニヤッと笑う。

 「ふふふ、正にそれも狙ってのことにございます」

 「陸路、海路共に外国にも売りに行けるってことだね」

 「ただ、隠密活動的に緊急時に海に出るのに時間を取られるのでは?」

 地図を眺めていたアーベルトが問題点を指摘する。
 アルトガルが「勿論それも考えている」と口を開いた。

 「それは船乗りとして幾人かをナヴィガポールに定期的に入れ替えながら常住させれば解決する。どうせ操船や揺れる船上での戦闘訓練をすることになるのであろう?」

 「ふむ……確かに」

 「他は情報収集の場として語学堪能な者を選りすぐり、船乗り向けの酒場や娼館を経営させれば宜しいかと」

 「……船乗りは色んな国の人間がいるからね」

 ガリア食堂の親父が頭に思い浮かぶ。出資して昼間は親父、夜はアルトガルの推薦した者達で酒場経営を持ちかけてみようか。
 娼館は――アールに支店を作って貰えないか頼むとしよう。

 「それが宜しいかと」

 「うん」

 結局、アルトガルの案を採用して『海ノ庄(仮)』の最有力地はその地に決まった。

 その次の日の朝。

 「彼らをよろしく頼むよ、ジャン」

 王都から来てくれたジャン・バティスト。僕は久々に会った彼に商会採用の者達を引き渡していた。
 僕の言葉に、彼は胸に手を当てて「お任せを」と一礼した。
 彼らは研修を受けた後、それぞれ銀行や株式、新事業等に振り分けられていくことになる。
 人手不足だったから優秀な人材を確保出来て嬉しい。
 ジャンには採用された彼らの資料や使用人採用試験内容を記したものを渡している。今後の商会での人材採用に役立てられることになるだろう。
 また、『海ノ庄(仮)』についてしたためた兄アールへの手紙をジャンに託しておいた。


***


 「報告致します」

 人材採用試験に紛れ込んでいた者達の処分を、と報告に来た大鹿エルクのヘルフリッツ。
 僕は「続けて」と促した。

 「間諜は前領主の手の者が十名、ドルトン侯爵家の手の者が八名、スキアー公爵家の者が六名……神聖アレマニア帝国からの者が十四名、アルビオン王国より三名、ガリア王国の者が二名、エスパーニャ王国の者が三名、北方のノルッガ連合王国から三名、ルーシ帝国から二名……」

 つらつらと挙げられて行く内容に僕の頬は次第に引きつっていった。
 サイモン様が「遥々ご苦労な事だ」と喉の奥で笑う。

 「釣れること釣れること。聖女という存在は魔法の釣り餌のようなものだ。正に入れ食いだな」

 「国内貴族は兎も角、まさかそんなに沢山の国から来て居たなんて……」

 「それだけ聖女に、そしてその夫に注目しているということだな」

 「二、三名程度の少人数は様子見かと思われます」

 そうだろうなぁ。

 僕は頷いた。

 「国内からいこう。ドルトン侯爵家は……王妃繋がりだとして。スキアー公爵家は何故?」

 スキアー公爵家は宰相だ。僕は警戒されているのだろうか。
 思い当たること……考え込む僕。

 「アルバート殿下、というかギャヴィン子爵関係だろう」

 サイモン様の言葉にああそうか、と思い出す。ギャヴィン子爵は宰相スキアー公爵の庶子だったっけ。
 ヘルフリッツはその通りにございます、と頷く。

 「マリー様によれば、スキアー公爵家の者達はどちらかと言えばギャヴィンが収城使として失敗しないようにとの目的が大きいそうです。
 ギャヴィン子爵をアルバート殿下の側近として育てて来たので、失敗されると困ると。
 かと言ってこちらの弱みなりなんなりを探る目的が全くない訳ではないそうで、そちらは意趣返しの手紙と手土産を持たせて帰せばよいと仰っておられました」

 「そう言うことならそちらは問題なさそうですね」

 「問題があるのは前領主とドルトン侯爵家だ。両方共第二王子派なのだからな」

 「はい。そちらは悪意があるとのことでした」
しおりを挟む
感想 1,005

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。