貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(71)

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 「前領主――バンジル・ネマランシ伯爵だったか。その手の者十名とドルトン侯爵家の八名、計十八名は同じ目的だと思って良いだろう」

 「ネマランシ伯爵の手の者はエミリュノが横領した財産の回収、ドルトン侯爵家の手の者はエミリュノを操る工作員として共謀していたとのこと」

 成程、そういう関係か。ネマランシ伯爵の場合は元々は自分の財産だったものを奪って何が悪い、と。

 かつて、王宮で聖女であるマリーに無礼を働いたとして連行されていった第二王子派の貴族達は、賠償金を払ったりそれが出来ない者は降爵処分になったりした。
 キャンディ伯爵家を目の仇にしているムーランス伯爵家は、前者を選んだという。
 大きく財を減らして代替わりする事で決着し、今はエリザベル嬢の兄が後を継いで伯爵となったそうだ。
 このダージリン伯爵領もその関係で領地替えが行われた。特にネマランシ伯爵の妻はムーランス家の出と聞いているので、僕に対してあまりいい感情を抱いてはいないだろう。
 第二皇子派貴族は下級貴族達は中立派の寄り子へ組み直され、それ以外の貴族は領地割譲や分散を余儀なくされている。

 「前領政官エミリュノ・ルグミラマを唆していた、これらの手紙。ドルトン侯爵家からのもので間違いなかったみたいですね」

 そう、牢の中に居るエミリュノ・ルグミラマの隠し持っていた手紙は、彼の本当の主――ドルトン侯爵家とのやり取りだった。そして、確実にドルトン侯爵家は蟄居中のサブリナ王妃に繋がっている。
 内容は、期限までに大金を用意すればドルトン侯爵家の配下に迎えて子爵に取り立ててやるというもの。横領すれば用意出来そうな金額だった。
 恐らくは手紙の運び手が横領するように囁いたのだろう。罪のない者に濡れ衣を着せるやり方も。

 「しかし哀れにもエミリュノは捨て駒よ。エミリュノには分かるまいとおかしな署名の仕方、それに精巧に作られた偽物の印章を使うという念の入れようだ。訴えれば偽造の手紙だ陰謀だと騒ぐだろうな」

 「そして僕に対する悪印象を宮廷に知らしめるのですね。万が一露見しても言い訳が出来るようにしている。用心深いことです」

 「そういうことだ。マリアージュの聖女としての力も警戒しているに違いない」

 「エミリュノの罪が暴かれなかった場合は、私の統治失敗が確定。適度なところでエミリュノの不正が暴かれるよう仕向け、それ見たことかと宮廷に訴えるつもりだったのでしょうね。統治能力もない、このような人物は聖女の夫として相応しくない、と」

 そして、マリーを第二王子の妃に据えるよう働きかける流れになるのだろう。

 「そういうことだな。下手をすればお前自身の罪にされるだろう。ついでに義父である私も同罪だと言いだすかもな。特に我が銀山を狙っているムーランス伯爵家あたりが」

 サイモン様は一旦言葉を切って、ワインを呷った。

 「それで、どうする? 私ならば手っ取り早くエミリュノ共々斬首の上、首謀者各家に死体を放り込んで終わりだが」

 その方が面倒が少ないぞ、とまるで明日の朝食のメニューでも決めるように語るサイモン様に、僕はぶるりと震える。
 商売の争いでも足の引っ張り合いはあるけれど、死人が出る程じゃなかった。
 それでもダージリン伯爵となった以上は、こうしたことにも慣れて行かないといけないんだ。
 僕は震えを誤魔化す為に大きく息を吐いた。

 「……エミリュノの処遇ですよね。生かして利用するというのはいかがでしょうか」

 「ほう、良いのか? いつ裏切るか分からぬ罪人だが」

 「殺したとて、次の者が送られてくるだけです。マリーの力を借ります。聖女の力がどれほどのものであるかは彼らはまだ知らないでしょうから」

 知られているのはマリーがカラス経由で人の心を読める、というものに過ぎない。
 それに、死体を投げ込むよりはエミリュノや送り込んだ間諜たちが悉く捕まったまま、という状況の方が相手は安らげないだろう。

 それにしても。

 「こんなことをするよりも、自分の領地を豊かにする努力をするなりなんなりしてオディロン陛下の信頼を取り戻すようにすればいいのに……」

 利用する方針が決まった後、思わず溜息が出る僕。サイモン様はふんと鼻を鳴らした。

 「生憎、人間というものは自らが向上しようと努力するより、相手を引きずり降ろしたりその成果を盗んだり方を選ぶ奴の方が多い。その方が楽だからだ」

 「そうですね」

 相手の足を引っ張り合うのは商会同士の争いでもよくあることだ。
 それでも、不毛過ぎて残念でならない。

 「次は国外ですが、注意すべきは神聖アレマニア帝国とアルビオン王国でしょうか。アレマニアは言わずもがなですが、アルビオンの好色王ゴードリクにマリーの美貌が知られると厄介です」

 好色王はマリーを見れば必ず欲しがる。国ごと破門されているのなら尚更だ。
 すると、大鹿エルクのヘルフリッツが「恐れながら、」と口を開いた。

 「アレマニア帝国の間諜の内、数名はズィクセン公爵の配下でございました。ただ様子見に来たとのことで」

 「はぁ……そちらも宰相の場合と同じく手紙を持たせて解放して良さそうだね」

 「はい。それ以外のアレマニア帝国そしてアルビオン王国の者は全て闇に葬った方が宜しいかと」

 「……そうだね、残念だけど」

 サイモン様の強い視線を感じる。
 僕は瞑目し、暫く黙った後――その決断を下した。
 聖女を奪う為に戦争を仕掛けて来られることを考えたら、災いの芽は摘んでしまわなければ。
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