貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
445 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

棄民絶許。

 「軍艦を、監獄に……?」

 「はい。交易船や客船の中にいる外国人は、上陸して初めて入国したという扱いになりますよね。それも、港町から出さえしなければ届け出すら不要です。
 王太子派がシルヴィオ殿下を警戒しているならば、殿下の支配領域である軍艦の中を視察することはまずないかと思うのですが」

 「確かにそれだと露見する可能性はぐっと減る……」

 「それに、万が一見つかったとしても。上陸させずにいることで、怪しい人物だったので入国させなかったと言い訳も立ちますし」

 念の為、こちらがトラス王国貴族夫人誘拐事件に関するの捜索の協力をお願いした、という依頼書でもお渡ししておけば完璧だと思います。
 グレイがそう言うと、シルは考え込んだ。
 後一押しで承諾してくれそうかな?
 そう思って私もその流れに乗ってみる。

 「あら、それはいい考えね。監視もしやすそうだし、いざとなったら軍艦を沖へ逃がせばいいし」

 「そうだn……」「お待ちください!」

 シルが同意しかけた時、側近の軍人アッキーノが挙手をして叫ぶ。

 「それでも我が君に危険を冒せということには間違いないですよね。それなりの見返りがないと割に合いません!」

 「『アッキーノ! 無礼だぞ』」

 シルが彼の名を呼び窘めている。
 しかしアッキーノは眉を吊り上げてシルに顔を向けた。

 「『殿下は人が良すぎます。危険を冒す以上はこちらの利も考えるべきです。困っていたところなので丁度良いではありませんか!』」

 ふむ、何か困っているようだな。
 精神感応で探ってみると……成程、そういうことか。

 「見返り……商品券の返済について相談に乗る、で良いかしら?」

 私から見返りを提案すると、シルは驚いた表情になった。

 「どうしてそれを……。実はその通りで、実は金策でまた悩んでいるんだ。
 マリーが教えてくれた、商品券。あれが出回ることで売り買いが行われ、復興も人々の生活も上手く回っているけれど……教会の協力を得ての商人達からの寄付があっても、商品券分の金額には達成出来ずに困っているんだ」

 「……コスタポリにガリア王都からの復興支援金が十分に届かない、という報告は受け取っていました」

 グレイが気の毒そうに言う。
 そう、シルの目下の悩みとは金策であった。それも、かなりの金額。
 しかも、商品券の引き換え期限が迫っていた。シルはガリア王都からの支援金を当てにしていたが、それが期限までに届かなければ債務不履行に陥ってしまうことになる。このままだとシルは大借金を背負うことになり、商人達からシルへ対する信頼は地に落ちるだろう。コスタポリの復興も失敗してしまう。
 グレイは首を傾げた。

 「ガリア王国は裕福なのに、何が問題なのでしょう? 商品券の現金化を王都でやってもらうように打診しては如何ですか」

 「それはしたのだが、訳の分からない紙切れと金を引き換えることはできぬと……それに、そもそも王家にその余裕はないと言われてしまってね」

 何でも、復興支援金を出したいのは山々だが、ガリア王家はトラス王国への食糧増産に予算を割いていて財政難であり、それだけの費用を捻出するのが難しい、と。

 「ならばと王国内の貴族達に負担するようにと呼び掛けてはいるが、それも出したという対面を保つ程度のもの。余裕がある貴族でも、自分に利益のない領地のことで大金を出そうという者はいない。私の母の実家や近隣の貴族達には既に大きな負担を掛けているのでもう頼めなくて、八方塞がりだよ」

 肩を落とすシル。
 更に調べでは、財政難は王太子派が喧伝しているらしい。
 コスタポリに復興支援金を送るとなれば王都の民にその分の課税をせねばならなくなる、と。
 それでシルへ対する風当たりが強いようだ。

 「ちょっとだけ、待ってもらえるかしら?」

 断って、精神統一。遠隔透視と精神感応でガリア王宮での適当な貴族の幾人かの心を読んで探ってみた。
 すると復興初期段階でシルを陥れるのが失敗に終わったので、今度はトラス王国との取引での食糧増産にかこつけて予算をわざと大きく取った模様。
 王太子はシルが失敗した後で、「聖女様の期待に応えられなかった第一王子は不甲斐ない」としたり顔でコスタポリにやってくる算段だ。
 勿論コスタポリの状況、商品券の引き換え時期も調べられており、復興予算を出すのを遅らせているのは事実。

 結論を言えば、『自己責任・自助努力でやれ。金はあるけどビタ一文出さん』――そういうことである。

 前世散々耳にした言葉。その癖取るもの税金だけはしっかり取っていくのだろう。
 そこはかとない不快感と怒りがこみ上げてくる。

 「……どうしてもシルに失敗して欲しいのね。民衆の苦境なんて二の次なんだわ」

 思わず低い声が出た。コスタポリの民はシルを苦しめる為だけに棄民されたのだ。

 「ねえ、シル。相談に乗るにしても、先ずは地図を見せて欲しいのだけれど」

 場所を変えましょう、と私は顔を上げてにっこりとほほ笑んだ。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」