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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
麗しの月光の君の憂鬱。
「施しの時間ですわぁ、愚民共ぉぉぉ――!」
ピギャー、ピギャー!
袋から取り出した残飯を勢いよく投げると、大小種類様々な鳥達がガーガーピーピー大騒ぎしながらわっと群がった。
その殺伐とした餌の争奪戦に、心に満たされていく何か――そうそう、これこれ。この感覚。一体何ヶ月ぶりだろう。
「争え貧民共! 醜く浅ましく餌を争い合うのですわぁ! おーっほっほっほっほ!」
「マリー、お前……相変わらずだな」
何故か居るカレル兄が呆れ顔をしている傍らで、私はすっきりしていた。
溜まりにたまった瘴気のようなものが浄化され、晴れていくようだ。
朝日に水面が煌めいている。
清々しい朝の乗馬に加え、愚民共への餌やり。
この習慣があってこそ、「ああ王都の屋敷へ戻ってきたんだなぁ……」と実感する。
屋敷へ到着したのは昨日の夕方だった。再会したトーマス兄と義姉キャロライン、カレル兄、カレドニア女王リュサイ達と挨拶を交わした後は早々に休む。
何故王都へ戻って来ているのかというと、トラス王国内に種痘を広める為である。少なくとも主導して貰う予定のサリューン枢機卿には会わねばならないだろう。
ダージリン伯爵領の事は、アヤスラニ帝国の人質の送還なども含めて領政総官クロヴランに一任した。
アヤスラニ帝国との交渉の為に賢者イドゥリースとスレイマンが、『鯨ノ庄』新設や鉱山開発、反射炉などの為に幾人かの隠密騎士が残っているので、まあ何とかなるだろう。
ただ、家族の内でメリーだけはイドゥリースと共にいるのだとダージリン伯爵領に残った。
父サイモンはメリーも王都に連れて帰りたそうだったが、メリーはオス麿達を送還した後で一緒に王都に戻るから、と断固として拒否。
イドゥリースは血筋も良く面倒な親戚は海の彼方。しがらみはあまり気にしなくてもいい。
母はあらあらと微笑ましく見ていたが、父は思うところが色々あるようである。
イドゥリースは困ったような嬉しそうな表情でメリーを見つめていた。
今回のことで色々とアヤスラニ帝国内での実利を得ていることだし、将来的に彼がメリーと結婚するのならば私としても父を説得するのにやぶさかではない。
そう囁いたところ、メリーはまだ子供だと否定しながらもどこか満更でもない様子。
まあ時が解決してくれるだろう。
リーダーを始めとする烏達は少し離れた場所で餌を行儀よく分け合っている。そこへ近づいて行こうとする愚民もいるが、追い返されていた。
マイティーは馬の脚共が箸で一口ずつ餌をやっている。奴らに箸の使い方を教えた覚えは無かったが、いつの間にかマスターしていたらしい。侮れない奴らだ。
「アヤスラニ帝国の皇太子やアーダム皇子に攫われたって聞いたんだが、大変だったんだな」
「そうなのよ! 危うく死ぬところだったんだから!」
私はカレル兄にあったことをぶちまける。気が付いたら船に捕らわれの身になっていたこと。フレールが居て逆恨みで呪われかけ、更に冤罪でアーダム皇子の部下のダンカンという男に殺されそうになり、挙句海に落ちたこと。
白鯨とイルカ達に助けられてグレイの船に送って貰ったこと等全て。
カレル兄は絶句した後、何とも言えない表情になり。ややあって、深く溜息を吐いた。
「命が無事だったのは本当に良かったと思う。が、何というか、イルカに乗って逃げるとは……お前らしいというか気が抜けるというか。全く、アレマニアの皇女を手にかけずに済んで良かったよ」
「へっ?」
「お前がダンカンとやらに殺されていたら、そういう未来があったかもな、という話だ」
馬鹿マリー、と鼻を摘ままれる。
その眼差しが少し潤んでいるのに気付いて、私は素直に謝った。
「……心配かけてごめんね、カレル兄。あっ、でも相応の賠償はどちらの帝国からも頂くから!」
「お前らしいな」
カレル兄はふっと笑う。その笑みがどこか疲れているような気がした。
「カレル兄、何だか疲れているみたいだけど……」
「ああ、こっちはこっちで絶賛大変なんだ」
鳥の餌やり、やってみたらいいものだな……と遠くを見つめるカレル兄。
あれだけ俺はいいって興味を示さなかったのに。何か、病んでないだろうか?
朝食へ行く前に座って事情を聞いてみると。
「俺がアレマニアの皇女エリーザベトの世話役みたいなことをやってるのは知っているな。気に入られたまでは良かったんだが……実は十日程前からエスパーニャのレアンドロ第一王子がトラントゥール宮殿に滞在している。レアンドロ第一王子は皇女の婚約者なのだそうだ」
――あ、察し。
成程、カレル兄は皇女と浮k……そういう関係だとレアンドロ王子に何かと疑われたり睨まれたりで、神経をすり減らす難しい立場に立たされているようだ。
ピギャー、ピギャー!
袋から取り出した残飯を勢いよく投げると、大小種類様々な鳥達がガーガーピーピー大騒ぎしながらわっと群がった。
その殺伐とした餌の争奪戦に、心に満たされていく何か――そうそう、これこれ。この感覚。一体何ヶ月ぶりだろう。
「争え貧民共! 醜く浅ましく餌を争い合うのですわぁ! おーっほっほっほっほ!」
「マリー、お前……相変わらずだな」
何故か居るカレル兄が呆れ顔をしている傍らで、私はすっきりしていた。
溜まりにたまった瘴気のようなものが浄化され、晴れていくようだ。
朝日に水面が煌めいている。
清々しい朝の乗馬に加え、愚民共への餌やり。
この習慣があってこそ、「ああ王都の屋敷へ戻ってきたんだなぁ……」と実感する。
屋敷へ到着したのは昨日の夕方だった。再会したトーマス兄と義姉キャロライン、カレル兄、カレドニア女王リュサイ達と挨拶を交わした後は早々に休む。
何故王都へ戻って来ているのかというと、トラス王国内に種痘を広める為である。少なくとも主導して貰う予定のサリューン枢機卿には会わねばならないだろう。
ダージリン伯爵領の事は、アヤスラニ帝国の人質の送還なども含めて領政総官クロヴランに一任した。
アヤスラニ帝国との交渉の為に賢者イドゥリースとスレイマンが、『鯨ノ庄』新設や鉱山開発、反射炉などの為に幾人かの隠密騎士が残っているので、まあ何とかなるだろう。
ただ、家族の内でメリーだけはイドゥリースと共にいるのだとダージリン伯爵領に残った。
父サイモンはメリーも王都に連れて帰りたそうだったが、メリーはオス麿達を送還した後で一緒に王都に戻るから、と断固として拒否。
イドゥリースは血筋も良く面倒な親戚は海の彼方。しがらみはあまり気にしなくてもいい。
母はあらあらと微笑ましく見ていたが、父は思うところが色々あるようである。
イドゥリースは困ったような嬉しそうな表情でメリーを見つめていた。
今回のことで色々とアヤスラニ帝国内での実利を得ていることだし、将来的に彼がメリーと結婚するのならば私としても父を説得するのにやぶさかではない。
そう囁いたところ、メリーはまだ子供だと否定しながらもどこか満更でもない様子。
まあ時が解決してくれるだろう。
リーダーを始めとする烏達は少し離れた場所で餌を行儀よく分け合っている。そこへ近づいて行こうとする愚民もいるが、追い返されていた。
マイティーは馬の脚共が箸で一口ずつ餌をやっている。奴らに箸の使い方を教えた覚えは無かったが、いつの間にかマスターしていたらしい。侮れない奴らだ。
「アヤスラニ帝国の皇太子やアーダム皇子に攫われたって聞いたんだが、大変だったんだな」
「そうなのよ! 危うく死ぬところだったんだから!」
私はカレル兄にあったことをぶちまける。気が付いたら船に捕らわれの身になっていたこと。フレールが居て逆恨みで呪われかけ、更に冤罪でアーダム皇子の部下のダンカンという男に殺されそうになり、挙句海に落ちたこと。
白鯨とイルカ達に助けられてグレイの船に送って貰ったこと等全て。
カレル兄は絶句した後、何とも言えない表情になり。ややあって、深く溜息を吐いた。
「命が無事だったのは本当に良かったと思う。が、何というか、イルカに乗って逃げるとは……お前らしいというか気が抜けるというか。全く、アレマニアの皇女を手にかけずに済んで良かったよ」
「へっ?」
「お前がダンカンとやらに殺されていたら、そういう未来があったかもな、という話だ」
馬鹿マリー、と鼻を摘ままれる。
その眼差しが少し潤んでいるのに気付いて、私は素直に謝った。
「……心配かけてごめんね、カレル兄。あっ、でも相応の賠償はどちらの帝国からも頂くから!」
「お前らしいな」
カレル兄はふっと笑う。その笑みがどこか疲れているような気がした。
「カレル兄、何だか疲れているみたいだけど……」
「ああ、こっちはこっちで絶賛大変なんだ」
鳥の餌やり、やってみたらいいものだな……と遠くを見つめるカレル兄。
あれだけ俺はいいって興味を示さなかったのに。何か、病んでないだろうか?
朝食へ行く前に座って事情を聞いてみると。
「俺がアレマニアの皇女エリーザベトの世話役みたいなことをやってるのは知っているな。気に入られたまでは良かったんだが……実は十日程前からエスパーニャのレアンドロ第一王子がトラントゥール宮殿に滞在している。レアンドロ第一王子は皇女の婚約者なのだそうだ」
――あ、察し。
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