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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(85)
ちょっとしたオコノミ強奪事件があったものの。
特に邪魔が入ることもなく、僕達は無事に領都クードルセルヴの城へと帰還した。
「心配かけてごめんなさい、父、母。それに皆も……」
僕の目の前では、ティヴィーナ様や弟妹君、ヴェスカルがマリーに涙交じりに抱き着いている。
マリーの頬を軽く摘まんで「馬鹿娘、」と叱るサイモン様は、目の下に隈を作ってやつれていたものの、娘の無事に安堵と喜びの眼差しをしていた。
一頻り抱き合い感動の再会を果たした後、メリー様がイドゥリースの手を引いてマリーに近づいた。
申し訳なさそうに兄である皇太子オスマンのしでかしたことを謝罪するイドゥリース。メリー様はハラハラした様子で、王子様は関係ない、と取りなしていた。
マリーはイドゥリースが関与していないことと、大導師フゼイフェ達が無実であることは知っているから大丈夫だと安心させるように微笑みかける。メリー様は「よかったわ」と安堵の表情を浮かべる。近くに居たスレイマンも同様だ。
何せ祖国の人間がしでかしたことがことだ。
僕のアヤスラニ帝国の友人達は事件の事を知らされて、内心穏やかではなかっただろう。
それは大導師フゼイフェ達も同様だ。
彼らは最初、共犯だとされて投獄されていたらしいけど、マリーが生きて連絡を入れたお陰で客分という身分を回復出来たようで。
マリーの無事を祈って部屋に籠り切りであるとのサイモン様の言葉に、彼女は「話をしに行くわ」と言ってヨハン達を引き連れ部屋を出て行った。
その気配が遠ざかってから、僕はサイモン様の前に出て、膝をついて首を垂れる。
「義父様、この度のことは私が油断したせいです。もっとオスマン達を警戒していれば……」
マリーはこうして無事に連れ帰ることが出来たけれど、返す返すも油断したことを僕は後悔していた。
周囲の人間が身じろぎする気配。
「恐れながら、発言のお許しを。グレイ様だけではなく、皆が油断しておりました」
「故に、罪は皆にございます」
「隠密騎士として、あり得ない失態でした」
カールやアーベルト達の声に続き、そのような言葉が次々と上がった。物音からして皆も僕と同じように首を垂れているのだろう。
やがて静寂に包まれる室内。サイモン様の方からは、椅子が僅かに軋む音が響く。
やがて、一つ大きく息を吐く音がして。
「……立つが良い、我が息子よ。ここにいる皆もだ。よくぞ娘を無事に連れ帰ってくれた。今更誰が、何が悪かった等と責を問うようなことをしてもせん無きこと。
それに、失態を犯したのはお前達だけではない。私もすっかり油断していたのだ。今回のことはよい教訓になったと思う。今後はこのようなことが二度とないようにせねばな」
「……はい」
真っ先に狙われるのはイドゥリースでも僕でもなく。
聖女であり、僕達の心臓、要であるマリーこそ――そのことを二度と忘れてはならないんだ。
僕は決意し、ゆっくりと立ち上がった。皆もパラパラと立ち上がっている。
「ひとまず座るがいい」
僕は勧められた席へ着く。サイモン様はナーテに目配せをすると、彼女はその意を受けてお茶を淹れ始めた。
「それで。先程のマリアージュの話では、アーダム皇子を捕らえておくことと引き換えに、ガリアの第一王子と取引をしたとか?」
「大波で被害を受けた、コスタポリの復興資金の返済についてです」
コポコポと注がれていくお湯の音を聞きながら、僕はサイモン様に交わしてきた密約について詳しく話をしていく。
シルヴィオ第一王子のガリア王国での立場、王太子である第二王子一派のこと、届かないコスタポリ復興資金。
マリーが復興資を出さない王太子達一派に怒り、シル王子を仲間に引き入れたこと。
商品券の返済を教会預かりとし、金とルビーの鉱山を見つけてその山地を温泉ごと担保として教会の所有としたこと。
「王家への盾となる代わり、教会側にも相応の利益を約束しています。勿論商品券の返済が終わればシルヴィオ第一王子殿下にも。
キャンディ伯爵領と同じく、コスタポリに銀行を作って銀行券を発行することになるでしょう。株式取引所や採掘会社も設立するのでその人選をこれから急ぐつもりです」
銀行や株式取引所等の用地は既にシルヴィオ殿下に確保して頂いております。その内織物やケチャップ工場も作っていければ、と。
今後、コスタポリはキーマン商会や教会が進出し、ガリア王国の資金援助無しに切り離された繁栄を約束されることでしょう。
僕がそう締めくくると、サイモン様は興味深そうな眼差しをこちらに向けた。
「ふうむ、金とルビーか。我がキャンディ伯爵領からも職人を融通しても良さそうだな」
一時は肥溜めに落ちたと思ったが、結果的に見れば薔薇の香りを纏っていた、ということか。
その呟きに、僕ははいと同意した。
マリーは無事に戻って来た上、結果的に財宝を見つけたのだから。
「ルビーは金と相性が良い色です。コスタポリに宝飾加工業を立ち上げ、投資なさいますか?」
「それも一興か」
上機嫌なサイモン様に、ワイバーンのアーベルト・メレンが「恐れながら、」と進み出る。
「山地であるならば、そこにも隠密騎士の拠点を作れるかと」
成程、シル殿下も仲間に引き入れたことだし、金銀細工の町を作るという名目であれば出来ないこともない。
金鉱山が見つかれば、王太子一派は間違いなく沢山の間諜を送り込んで来る。その対策にもなるだろう。
特に邪魔が入ることもなく、僕達は無事に領都クードルセルヴの城へと帰還した。
「心配かけてごめんなさい、父、母。それに皆も……」
僕の目の前では、ティヴィーナ様や弟妹君、ヴェスカルがマリーに涙交じりに抱き着いている。
マリーの頬を軽く摘まんで「馬鹿娘、」と叱るサイモン様は、目の下に隈を作ってやつれていたものの、娘の無事に安堵と喜びの眼差しをしていた。
一頻り抱き合い感動の再会を果たした後、メリー様がイドゥリースの手を引いてマリーに近づいた。
申し訳なさそうに兄である皇太子オスマンのしでかしたことを謝罪するイドゥリース。メリー様はハラハラした様子で、王子様は関係ない、と取りなしていた。
マリーはイドゥリースが関与していないことと、大導師フゼイフェ達が無実であることは知っているから大丈夫だと安心させるように微笑みかける。メリー様は「よかったわ」と安堵の表情を浮かべる。近くに居たスレイマンも同様だ。
何せ祖国の人間がしでかしたことがことだ。
僕のアヤスラニ帝国の友人達は事件の事を知らされて、内心穏やかではなかっただろう。
それは大導師フゼイフェ達も同様だ。
彼らは最初、共犯だとされて投獄されていたらしいけど、マリーが生きて連絡を入れたお陰で客分という身分を回復出来たようで。
マリーの無事を祈って部屋に籠り切りであるとのサイモン様の言葉に、彼女は「話をしに行くわ」と言ってヨハン達を引き連れ部屋を出て行った。
その気配が遠ざかってから、僕はサイモン様の前に出て、膝をついて首を垂れる。
「義父様、この度のことは私が油断したせいです。もっとオスマン達を警戒していれば……」
マリーはこうして無事に連れ帰ることが出来たけれど、返す返すも油断したことを僕は後悔していた。
周囲の人間が身じろぎする気配。
「恐れながら、発言のお許しを。グレイ様だけではなく、皆が油断しておりました」
「故に、罪は皆にございます」
「隠密騎士として、あり得ない失態でした」
カールやアーベルト達の声に続き、そのような言葉が次々と上がった。物音からして皆も僕と同じように首を垂れているのだろう。
やがて静寂に包まれる室内。サイモン様の方からは、椅子が僅かに軋む音が響く。
やがて、一つ大きく息を吐く音がして。
「……立つが良い、我が息子よ。ここにいる皆もだ。よくぞ娘を無事に連れ帰ってくれた。今更誰が、何が悪かった等と責を問うようなことをしてもせん無きこと。
それに、失態を犯したのはお前達だけではない。私もすっかり油断していたのだ。今回のことはよい教訓になったと思う。今後はこのようなことが二度とないようにせねばな」
「……はい」
真っ先に狙われるのはイドゥリースでも僕でもなく。
聖女であり、僕達の心臓、要であるマリーこそ――そのことを二度と忘れてはならないんだ。
僕は決意し、ゆっくりと立ち上がった。皆もパラパラと立ち上がっている。
「ひとまず座るがいい」
僕は勧められた席へ着く。サイモン様はナーテに目配せをすると、彼女はその意を受けてお茶を淹れ始めた。
「それで。先程のマリアージュの話では、アーダム皇子を捕らえておくことと引き換えに、ガリアの第一王子と取引をしたとか?」
「大波で被害を受けた、コスタポリの復興資金の返済についてです」
コポコポと注がれていくお湯の音を聞きながら、僕はサイモン様に交わしてきた密約について詳しく話をしていく。
シルヴィオ第一王子のガリア王国での立場、王太子である第二王子一派のこと、届かないコスタポリ復興資金。
マリーが復興資を出さない王太子達一派に怒り、シル王子を仲間に引き入れたこと。
商品券の返済を教会預かりとし、金とルビーの鉱山を見つけてその山地を温泉ごと担保として教会の所有としたこと。
「王家への盾となる代わり、教会側にも相応の利益を約束しています。勿論商品券の返済が終わればシルヴィオ第一王子殿下にも。
キャンディ伯爵領と同じく、コスタポリに銀行を作って銀行券を発行することになるでしょう。株式取引所や採掘会社も設立するのでその人選をこれから急ぐつもりです」
銀行や株式取引所等の用地は既にシルヴィオ殿下に確保して頂いております。その内織物やケチャップ工場も作っていければ、と。
今後、コスタポリはキーマン商会や教会が進出し、ガリア王国の資金援助無しに切り離された繁栄を約束されることでしょう。
僕がそう締めくくると、サイモン様は興味深そうな眼差しをこちらに向けた。
「ふうむ、金とルビーか。我がキャンディ伯爵領からも職人を融通しても良さそうだな」
一時は肥溜めに落ちたと思ったが、結果的に見れば薔薇の香りを纏っていた、ということか。
その呟きに、僕ははいと同意した。
マリーは無事に戻って来た上、結果的に財宝を見つけたのだから。
「ルビーは金と相性が良い色です。コスタポリに宝飾加工業を立ち上げ、投資なさいますか?」
「それも一興か」
上機嫌なサイモン様に、ワイバーンのアーベルト・メレンが「恐れながら、」と進み出る。
「山地であるならば、そこにも隠密騎士の拠点を作れるかと」
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