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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(88)
その後、スヴェン・リザヒル達が種痘の道具や人員を携えてやってきて、修道士エヴァンとイエイツ、ヤン、シャルマン、ディックゴルト改めキンター、大導師フゼイフェ達に種痘が施されることとなった。勿論メイソンにも。
「拙僧、聖女様が攫われたと耳にした時は肝を冷やしましたぞ! 神の知識が失われるかと思うと、居ても立ってもいられず、この教本に祈りを捧げておりました!」
「私もです、マリー様。頂いた数学書でさえこのように高度で貴重だったのです、なりふり構わず私もグレイ様を追いかけようと何度思ったことか……」
種痘を受け終わった修道士イエイツとヤンがマリーに話しかけている。一方の彼女は微妙な表情だ。
「心配されて嬉しいような、そうでないような……まあ無事で戻ったわ。二人とも心配を掛けたわね」
まあ、気持ちは分からなくはないけれど、マリー自身というよりも彼女の前世の知識を心配しているような言い方だ。サリーナも「その物言いは少し無礼ですよ」と二人を軽く睨んでいる。種痘が終わったばかりのシャルマンが、呆れたような表情でヤンの肩に手を置いた。
「ヤン、若奥様は大変な思いをなされたばかりだからあまり無理を言ってはいけない」
窘めるシャルマンの言葉に、ヤンではなくイエイツが頭を掻いた。
「おお、これは拙僧も気が利きませんでしたな。失礼致しました、聖女様。拙僧も暫くは、復習することに致しましょうぞ」
「全く、貴方達は聖女様に敬意や畏敬の念が足りませんね。後でしかと聖女様の奇跡について聞かせて差し上げます」
エヴァン修道士がそう言ったところで、領政総官クロヴランが官吏達をぞろぞろと引き連れてやってきた。
修道士達の次は領政官、軍人、使用人達が受けるという流れだ。
やり方自体は簡単なので、効率良く行う為に皆にも手伝って貰うことになる。種痘を施された者達の管理をする為に官吏達も動員しなければならない。
大導師フゼイフェ達も熱心に種痘のやり方を学んでいた。彼らはアヤスラニ帝国に帰ってから種痘を広めなければならないのだ。
全員の種痘が終わり、今後の種痘を含むダージリン伯爵領における施策について会議をした後。
「ここの表現が少しおかしいので、こういう風な言い回しにすると宜しいかと」
僕は書き上げた神聖アレマニア皇帝への手紙を、キンター・ヴァッガーに見て貰っていた。
当初、名前の件で色々癖の強い人だという印象が強かったけれど、こうして普通に接している分には、彼は流石大富豪の息子と言おうか。皇帝への手紙の監修が出来るとは、なかなかの教養の深さを思わせた。
神聖アレマニア帝国との交渉は、ヴァッガー家こそが要となっている。
皇帝に要らぬ警戒心を抱かせぬよう、アントン・ヴァッガーに僕の手紙を託し、上手くことを運んで貰うのだ。
契約書についても、マリーが指導した。
重要なこと程詳しく読む気を失せさせるように小さい文字で難解に書き連ねるのだと。
「ヴァッガー家は国に莫大な金を貸しております。神聖皇帝ルードルフ陛下の信用はある程度得ておりますし、父も抜け目ないので上手く利を引き出し成功させることでしょう」
というのがマリーの策を知ったキンターの見立てだった。
果たせるかな、その推測は現実のものとなり、策は無事に成就することとなる。
***
僕はイドゥリースとスレイマン、大導師フゼイフェを伴って、クードルセルヴの城の地下牢に来ていた。
「ふうん、地下牢ってこうなってるんだね」
――ピイィーッ!
何故かイサーク様も一緒に来ており、その手にはヘドヴァンの籠。
イサーク様が来るような場所ではない、と言ったのだけれど、邪魔をしないので是が非でも同席させて貰いたいとごり押しされてしまったのだ。それで仕方なく同意することに。
牢の中の者達は一塊になってぼそぼそと何やら話し合っていたが、ヘドヴァンの鳴き声に振り向いていた。僕達の姿を認めるなり、アヤスラニ帝国皇太子オスマンが顔を上げる。
「『イドゥリース、それにグレイではないか! 聖女は……いや、俺達の首を取りにでも来たのか? ならば頼みがある。俺の首をやるから、この者達は無事に祖国へ帰してやって欲しい』」
皇太子オスマンの言葉に、「『なりませぬ!』」「『首ならば我らのものを! その代わり殿下を生かして帰して下さい!』」等という声が次々と上がる。
そこへ、よたよたと立ち上がり近づく人影。それを一人の男が慌てて支えようと動く。
それは前大宰相のオルハンだった。支えているのは外交官の男ブダック。
オルハンは、眼光鋭く僕を真っ直ぐ見据えた。
この場での生殺与奪権が誰にあるのかぐらいは理解しているようだ。
「『聖女の夫よ。この度のことは全てこのオルハンが企てたこと。オスマン殿下のせいにはあらず。聖女誘拐の罪を償うのならば、前の大宰相たるこのオルハンの首を差し上げようぞ、どうせ年老いた身だ。今更命など惜しくはない』」
「『やめろ、オルハン!』」
皇太子オスマンが叫ぶ。
僕は冷ややかに見つめ返した。
「『――何か勘違いされていませんか? 誰が首謀者だとか、そういうのはどうでも良いのですよ。ここにいる全員が下手人なのだから。しかし、貴方達は運がいい。あれだけのことをしでかしたのに、祖国に帰ることが出来るのだから』」
「『なっ、我らを祖国に帰してくれるというのか!?』」
ブダックが驚きの叫びを上げると、イドゥリースが頷いた。
「『……聖女様は無事にアーダム皇子の魔手より救出されました』」
「『そう、私の妻は危うく殺されるところでしたが、幸い神のご加護のお陰で無事に戻ることが出来ました。そうでなければ貴方達全員の首と胴はこの場でおさらばしていたことでしょう』」
絶句する皇太子達。
静まり返った牢屋に、「マリーチャンステキ!」と場違いな人語が響き渡る。
皆、ヘドヴァンを見た。籠を持ったイサーク様は無表情だ。
微妙な雰囲気に支配され、僕は噴出しそうになるのを必死で我慢する。
と、そこへ大導師フゼイフェが進み出た。先程のは無かったことにしたらしい。
「『不肖、この大導師フゼイフェが聖女様の名代としてアヤスラニ帝国へ戻ることとなります。皇帝陛下は代償を支払われ、迎えを寄こされ、皆様は祖国へ送還されることとなるでしょうな』」
告げられた言葉に反応したのは前大宰相のオルハンだった。
「『我らの身と引き換えに、一体何を陛下に要求するつもりなのか!』」
「『少なくとも、聖女を誘拐した罪に釣り合うものですね。ああ、人質である貴方達にこの交渉に関わる権利はありませんよ』」
そう返すと、彼らの表情が分かりやすく青ざめる。それでも無茶な要求をされているのだ、と思っているのだろう……まあ間違いじゃないけれど。
皇太子オスマンが焦った表情で鉄格子を掴んだ。金属の軋む音が響く。
「『っ、聖女に会わせて貰えぬか!? せめて一言詫びたいのだ!』」
頭を下げることでこちらの要求する賠償を減らそうと思ったのか、それとも皇太子としての地位が危ういと考えたのか。
どちらにせよ、皇太子オスマンのその願いを叶えるつもりは僕には無かった。
「『お断りします。妻は貴方のせいで死ぬような目にあったばかりなので。これを最後に貴方達にお会いするつもりは二度とないでしょう』」
「『アヤスラニ帝国へ戻られた後、兄上達はもう二度とこの国の土を踏むことは許されないでしょう。私も祖国へ戻るつもりは二度とありません。これが、今生の別れです』」
にべもなく断る僕。
イドゥリースも決別するように瞑目し、アヤスラニ帝国の礼を取った。
「『そ、そんな』――そうじゃ、そなた、聖女の弟なのでおじゃろう? 聖女に麿が謝りたいと伝えて欲しいのでおじゃ!」
絶望した表情を浮かべた皇太子オスマンは僕達に脈無しと見てか、イサーク様にも懇願している。
――コラッ、チョウシニノルナ!
イサーク様が何かを言う前に、ヘドヴァンが再び人語を喋った。
しかも絶妙なタイミングだ。
皇太子オスマンのトラス語との相乗効果が凄まじ過ぎて、僕は太ももを思い切り強く抓り上げ、自分自身に必死に言い聞かせる。
耐えるんだ。
これは商会の運命を左右する程の商談だと思え。
ここで笑ってはいけないんだ、グレイ!
「……お姉ちゃまを危険に晒したお前を僕は許さない。許したくない」
押し殺したような声で言って、イサーク様は皇太子オスマンを睨み付けた。
ヘドヴァンに向かってちょいちょいと指を動かしている。
――オネガイ、ニンゲンニモドシテ! モドシテェェ! ギャギャッ!
「――お前達は全員、神様の罰を受ければいいんだっ!」
イサーク様は言い捨てて、憤然とした様子で踵を返して牢を出ていく。
というか。少し驚いたけど、あれはイサーク様の声だったような。
いつの間にあんな言葉を覚えさせたんだろう、と僕が内心首を傾げていると。
「『ま、まさか……聖女の弟は呪術師だとでもいうのか!?』」
残された皇太子オスマンは、顔が蒼白になっていた。言葉が分かる外交官の男ブダックも同様だ。
イドゥリースとスレイマンが堪え切れずにぐふっと吹き出している。
その追い打ちでもう駄目だった。
もうこれ以上は耐えられない――踵を返し、逃げるように牢を後にする僕達。
「『ああっ、待ってくれ、頼む!』」との声が追いかけてきたけれど、僕が振り向くことは無かった。
大導師フゼイフェ達だけは牢に残って、これから彼らに種痘を施すことになる。
それだけでもありがたいと思って欲しいものだと思う。
「拙僧、聖女様が攫われたと耳にした時は肝を冷やしましたぞ! 神の知識が失われるかと思うと、居ても立ってもいられず、この教本に祈りを捧げておりました!」
「私もです、マリー様。頂いた数学書でさえこのように高度で貴重だったのです、なりふり構わず私もグレイ様を追いかけようと何度思ったことか……」
種痘を受け終わった修道士イエイツとヤンがマリーに話しかけている。一方の彼女は微妙な表情だ。
「心配されて嬉しいような、そうでないような……まあ無事で戻ったわ。二人とも心配を掛けたわね」
まあ、気持ちは分からなくはないけれど、マリー自身というよりも彼女の前世の知識を心配しているような言い方だ。サリーナも「その物言いは少し無礼ですよ」と二人を軽く睨んでいる。種痘が終わったばかりのシャルマンが、呆れたような表情でヤンの肩に手を置いた。
「ヤン、若奥様は大変な思いをなされたばかりだからあまり無理を言ってはいけない」
窘めるシャルマンの言葉に、ヤンではなくイエイツが頭を掻いた。
「おお、これは拙僧も気が利きませんでしたな。失礼致しました、聖女様。拙僧も暫くは、復習することに致しましょうぞ」
「全く、貴方達は聖女様に敬意や畏敬の念が足りませんね。後でしかと聖女様の奇跡について聞かせて差し上げます」
エヴァン修道士がそう言ったところで、領政総官クロヴランが官吏達をぞろぞろと引き連れてやってきた。
修道士達の次は領政官、軍人、使用人達が受けるという流れだ。
やり方自体は簡単なので、効率良く行う為に皆にも手伝って貰うことになる。種痘を施された者達の管理をする為に官吏達も動員しなければならない。
大導師フゼイフェ達も熱心に種痘のやり方を学んでいた。彼らはアヤスラニ帝国に帰ってから種痘を広めなければならないのだ。
全員の種痘が終わり、今後の種痘を含むダージリン伯爵領における施策について会議をした後。
「ここの表現が少しおかしいので、こういう風な言い回しにすると宜しいかと」
僕は書き上げた神聖アレマニア皇帝への手紙を、キンター・ヴァッガーに見て貰っていた。
当初、名前の件で色々癖の強い人だという印象が強かったけれど、こうして普通に接している分には、彼は流石大富豪の息子と言おうか。皇帝への手紙の監修が出来るとは、なかなかの教養の深さを思わせた。
神聖アレマニア帝国との交渉は、ヴァッガー家こそが要となっている。
皇帝に要らぬ警戒心を抱かせぬよう、アントン・ヴァッガーに僕の手紙を託し、上手くことを運んで貰うのだ。
契約書についても、マリーが指導した。
重要なこと程詳しく読む気を失せさせるように小さい文字で難解に書き連ねるのだと。
「ヴァッガー家は国に莫大な金を貸しております。神聖皇帝ルードルフ陛下の信用はある程度得ておりますし、父も抜け目ないので上手く利を引き出し成功させることでしょう」
というのがマリーの策を知ったキンターの見立てだった。
果たせるかな、その推測は現実のものとなり、策は無事に成就することとなる。
***
僕はイドゥリースとスレイマン、大導師フゼイフェを伴って、クードルセルヴの城の地下牢に来ていた。
「ふうん、地下牢ってこうなってるんだね」
――ピイィーッ!
何故かイサーク様も一緒に来ており、その手にはヘドヴァンの籠。
イサーク様が来るような場所ではない、と言ったのだけれど、邪魔をしないので是が非でも同席させて貰いたいとごり押しされてしまったのだ。それで仕方なく同意することに。
牢の中の者達は一塊になってぼそぼそと何やら話し合っていたが、ヘドヴァンの鳴き声に振り向いていた。僕達の姿を認めるなり、アヤスラニ帝国皇太子オスマンが顔を上げる。
「『イドゥリース、それにグレイではないか! 聖女は……いや、俺達の首を取りにでも来たのか? ならば頼みがある。俺の首をやるから、この者達は無事に祖国へ帰してやって欲しい』」
皇太子オスマンの言葉に、「『なりませぬ!』」「『首ならば我らのものを! その代わり殿下を生かして帰して下さい!』」等という声が次々と上がる。
そこへ、よたよたと立ち上がり近づく人影。それを一人の男が慌てて支えようと動く。
それは前大宰相のオルハンだった。支えているのは外交官の男ブダック。
オルハンは、眼光鋭く僕を真っ直ぐ見据えた。
この場での生殺与奪権が誰にあるのかぐらいは理解しているようだ。
「『聖女の夫よ。この度のことは全てこのオルハンが企てたこと。オスマン殿下のせいにはあらず。聖女誘拐の罪を償うのならば、前の大宰相たるこのオルハンの首を差し上げようぞ、どうせ年老いた身だ。今更命など惜しくはない』」
「『やめろ、オルハン!』」
皇太子オスマンが叫ぶ。
僕は冷ややかに見つめ返した。
「『――何か勘違いされていませんか? 誰が首謀者だとか、そういうのはどうでも良いのですよ。ここにいる全員が下手人なのだから。しかし、貴方達は運がいい。あれだけのことをしでかしたのに、祖国に帰ることが出来るのだから』」
「『なっ、我らを祖国に帰してくれるというのか!?』」
ブダックが驚きの叫びを上げると、イドゥリースが頷いた。
「『……聖女様は無事にアーダム皇子の魔手より救出されました』」
「『そう、私の妻は危うく殺されるところでしたが、幸い神のご加護のお陰で無事に戻ることが出来ました。そうでなければ貴方達全員の首と胴はこの場でおさらばしていたことでしょう』」
絶句する皇太子達。
静まり返った牢屋に、「マリーチャンステキ!」と場違いな人語が響き渡る。
皆、ヘドヴァンを見た。籠を持ったイサーク様は無表情だ。
微妙な雰囲気に支配され、僕は噴出しそうになるのを必死で我慢する。
と、そこへ大導師フゼイフェが進み出た。先程のは無かったことにしたらしい。
「『不肖、この大導師フゼイフェが聖女様の名代としてアヤスラニ帝国へ戻ることとなります。皇帝陛下は代償を支払われ、迎えを寄こされ、皆様は祖国へ送還されることとなるでしょうな』」
告げられた言葉に反応したのは前大宰相のオルハンだった。
「『我らの身と引き換えに、一体何を陛下に要求するつもりなのか!』」
「『少なくとも、聖女を誘拐した罪に釣り合うものですね。ああ、人質である貴方達にこの交渉に関わる権利はありませんよ』」
そう返すと、彼らの表情が分かりやすく青ざめる。それでも無茶な要求をされているのだ、と思っているのだろう……まあ間違いじゃないけれど。
皇太子オスマンが焦った表情で鉄格子を掴んだ。金属の軋む音が響く。
「『っ、聖女に会わせて貰えぬか!? せめて一言詫びたいのだ!』」
頭を下げることでこちらの要求する賠償を減らそうと思ったのか、それとも皇太子としての地位が危ういと考えたのか。
どちらにせよ、皇太子オスマンのその願いを叶えるつもりは僕には無かった。
「『お断りします。妻は貴方のせいで死ぬような目にあったばかりなので。これを最後に貴方達にお会いするつもりは二度とないでしょう』」
「『アヤスラニ帝国へ戻られた後、兄上達はもう二度とこの国の土を踏むことは許されないでしょう。私も祖国へ戻るつもりは二度とありません。これが、今生の別れです』」
にべもなく断る僕。
イドゥリースも決別するように瞑目し、アヤスラニ帝国の礼を取った。
「『そ、そんな』――そうじゃ、そなた、聖女の弟なのでおじゃろう? 聖女に麿が謝りたいと伝えて欲しいのでおじゃ!」
絶望した表情を浮かべた皇太子オスマンは僕達に脈無しと見てか、イサーク様にも懇願している。
――コラッ、チョウシニノルナ!
イサーク様が何かを言う前に、ヘドヴァンが再び人語を喋った。
しかも絶妙なタイミングだ。
皇太子オスマンのトラス語との相乗効果が凄まじ過ぎて、僕は太ももを思い切り強く抓り上げ、自分自身に必死に言い聞かせる。
耐えるんだ。
これは商会の運命を左右する程の商談だと思え。
ここで笑ってはいけないんだ、グレイ!
「……お姉ちゃまを危険に晒したお前を僕は許さない。許したくない」
押し殺したような声で言って、イサーク様は皇太子オスマンを睨み付けた。
ヘドヴァンに向かってちょいちょいと指を動かしている。
――オネガイ、ニンゲンニモドシテ! モドシテェェ! ギャギャッ!
「――お前達は全員、神様の罰を受ければいいんだっ!」
イサーク様は言い捨てて、憤然とした様子で踵を返して牢を出ていく。
というか。少し驚いたけど、あれはイサーク様の声だったような。
いつの間にあんな言葉を覚えさせたんだろう、と僕が内心首を傾げていると。
「『ま、まさか……聖女の弟は呪術師だとでもいうのか!?』」
残された皇太子オスマンは、顔が蒼白になっていた。言葉が分かる外交官の男ブダックも同様だ。
イドゥリースとスレイマンが堪え切れずにぐふっと吹き出している。
その追い打ちでもう駄目だった。
もうこれ以上は耐えられない――踵を返し、逃げるように牢を後にする僕達。
「『ああっ、待ってくれ、頼む!』」との声が追いかけてきたけれど、僕が振り向くことは無かった。
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