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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
グレイ・ダージリン(96)
「お久しぶりです、ザイン様」
「ごきげんよう、ザインお義兄様」
「ようこそ、グレイもマリーも久しぶりにお会いしますね」
兄夫婦に続いて僕達が挨拶をすると、ザイン・ウィッタード公爵令息は優雅な微笑みを浮かべて歓迎の意を示してくれた。
しかしマリーは何だか衝撃を受けている様子。どうしたんだろう。
「アンは身重なので部屋に案内します」
公爵邸の中に入り、アン様の部屋へ。
マリーは部屋に入るなり、真っ先にアン様に近付いて「アン姉!」と抱き着いた。
アン様は「まあ、マリーったら」と擽ったそうにしている。そのお腹は今にもはちきれんばかりに大きくなっており、僕は少々衝撃を受けた。
「元気そうで良かったわ、少し見ない内に大人びたわね」
「そりゃあ、私だってもう人妻だもの!」
「でも行動は相変わらずかしら? ああ、こんな格好でごめんなさい。貴方もお久しぶりね、グレイ」
クスクス笑いながらこちらに視線を向けたアン様に、僕は紳士の礼を取った。
「いえ、アン様もお腹の御子も健やかそうで安心しました」
「元気に生まれて来てくれると良いのだけれど……」
微笑みながらもどこか不安そうにお腹を撫でるアン様。マリーが「大丈夫よ、アン姉! 無事に生まれるわ、聖女の私が言うんだから間違いないんだから!」と励ました。
そこへアナベラ様も口を開く。
「マリーの言う通りよ、アン姉様。マリーの助言通りにしていたのでしょう?」
「ええ。ちゃんと運動して、食べ物はええと、鉄分と葉酸、カ……何だったかしら」
「カルシウムよ、アン姉!」
「そうそう、マリーが教えてくれた、それらを豊富に含むという食べ物を積極的に摂るようにしてきたわ。後、食べてはいけないものにも気を付けて……そのお蔭か、べリーチェ修道女には申し分ない程順調だと言われているの」
「それは良かったわ」
「マリーが居てくれると私としてもとても心強いですよ」
「うふふ、そう言って頂けると嬉しいですわ。でも、これから子供が生まれるのですからザインお義兄様も父親として強くなって下さいましね?」
マリーがザイン様の目をじっと上目遣いで見ながら小首を傾げると、ザイン様は「敵いませんね」と照れ臭そうに髪の毛を掻き上げた。
……マリー。今、一瞬ニヤリとして両手に拳を軽く握りしめたように見えたけど、僕の見間違いじゃないよね?
やがて給仕の者がやってきて、お茶とお菓子を供してくれたのだけれど――このお茶、香ばしくて何だか変わった味がする。
「これは……何だろう?」
独り言のように呟くと、アン様とアナベラ様がおや、とした表情になる。
「あら、マリーが教えてくれたのだけれど。麦茶と言うらしいわ」
「麦を炒って煮出したもので、体に良いのですって」
「麦を炒ってお茶に……」
思わずマリーを見ると、そうよと頷いた。
「お茶やバンカムに含まれるカフェインという成分はちょっと妊婦さんは避けた方が良いから、これを代用品にってお勧めしたの」
『カフェイン』――確か、マリーは聖地でそんなことを言っていたな。
しかし妊婦に飲ませない方が良いとは知らなかった。
覚えておかなければ。
忘れないように後で書付けておこうと考えていると、「私はこのお茶好きですね」とアール。
ザイン様が「夏に井戸で冷やして飲んだのですが、最高でしたよ」と言うと、アン様が「私は体を冷やしてはいけないからって飲めなかったのに……」と拗ねてしまった。
それから園遊会で供されたオコノミの話やナヴィガポールの話、出された豆を使った珍しい菓子について等、雑談に花を咲かせていると。
「アルバート殿下とレアンドロ殿下がいらしております」
公爵家の従僕がやってきて、ザイン様にそう告げたのだった。
「分かりました。あの、殿下達がこちらへ同席……しても良いですか、マリー?」
あからさまに嫌そうな顔をしていたのはマリーだった。
それを見たザイン様は一瞬戸惑い、マリー一人に許可を求める。
マリー、思っても口に出さない方が良いよ。
僕は小声で窘めつつ、「ザイン様、アルバート殿下は兎も角、何故レアンドロ殿下も?」と訊ねる。
「実は、私はレアンドロ殿下の接待役を仰せつかっておりまして。アルバート殿下は何時ものことですが、レアンドロ殿下が我が家へ来られるのは初めてなので……その、恐らくアンのことを知って見舞いがてらのことかと」
成程……それでは断れないだろうな。
そう思ってちらりとマリーを見ると、こちらも同じことを思ったのだろう。
「はぁ、仕方ないですわ」
溜息を吐いて了承した。
「ごきげんよう、ザインお義兄様」
「ようこそ、グレイもマリーも久しぶりにお会いしますね」
兄夫婦に続いて僕達が挨拶をすると、ザイン・ウィッタード公爵令息は優雅な微笑みを浮かべて歓迎の意を示してくれた。
しかしマリーは何だか衝撃を受けている様子。どうしたんだろう。
「アンは身重なので部屋に案内します」
公爵邸の中に入り、アン様の部屋へ。
マリーは部屋に入るなり、真っ先にアン様に近付いて「アン姉!」と抱き着いた。
アン様は「まあ、マリーったら」と擽ったそうにしている。そのお腹は今にもはちきれんばかりに大きくなっており、僕は少々衝撃を受けた。
「元気そうで良かったわ、少し見ない内に大人びたわね」
「そりゃあ、私だってもう人妻だもの!」
「でも行動は相変わらずかしら? ああ、こんな格好でごめんなさい。貴方もお久しぶりね、グレイ」
クスクス笑いながらこちらに視線を向けたアン様に、僕は紳士の礼を取った。
「いえ、アン様もお腹の御子も健やかそうで安心しました」
「元気に生まれて来てくれると良いのだけれど……」
微笑みながらもどこか不安そうにお腹を撫でるアン様。マリーが「大丈夫よ、アン姉! 無事に生まれるわ、聖女の私が言うんだから間違いないんだから!」と励ました。
そこへアナベラ様も口を開く。
「マリーの言う通りよ、アン姉様。マリーの助言通りにしていたのでしょう?」
「ええ。ちゃんと運動して、食べ物はええと、鉄分と葉酸、カ……何だったかしら」
「カルシウムよ、アン姉!」
「そうそう、マリーが教えてくれた、それらを豊富に含むという食べ物を積極的に摂るようにしてきたわ。後、食べてはいけないものにも気を付けて……そのお蔭か、べリーチェ修道女には申し分ない程順調だと言われているの」
「それは良かったわ」
「マリーが居てくれると私としてもとても心強いですよ」
「うふふ、そう言って頂けると嬉しいですわ。でも、これから子供が生まれるのですからザインお義兄様も父親として強くなって下さいましね?」
マリーがザイン様の目をじっと上目遣いで見ながら小首を傾げると、ザイン様は「敵いませんね」と照れ臭そうに髪の毛を掻き上げた。
……マリー。今、一瞬ニヤリとして両手に拳を軽く握りしめたように見えたけど、僕の見間違いじゃないよね?
やがて給仕の者がやってきて、お茶とお菓子を供してくれたのだけれど――このお茶、香ばしくて何だか変わった味がする。
「これは……何だろう?」
独り言のように呟くと、アン様とアナベラ様がおや、とした表情になる。
「あら、マリーが教えてくれたのだけれど。麦茶と言うらしいわ」
「麦を炒って煮出したもので、体に良いのですって」
「麦を炒ってお茶に……」
思わずマリーを見ると、そうよと頷いた。
「お茶やバンカムに含まれるカフェインという成分はちょっと妊婦さんは避けた方が良いから、これを代用品にってお勧めしたの」
『カフェイン』――確か、マリーは聖地でそんなことを言っていたな。
しかし妊婦に飲ませない方が良いとは知らなかった。
覚えておかなければ。
忘れないように後で書付けておこうと考えていると、「私はこのお茶好きですね」とアール。
ザイン様が「夏に井戸で冷やして飲んだのですが、最高でしたよ」と言うと、アン様が「私は体を冷やしてはいけないからって飲めなかったのに……」と拗ねてしまった。
それから園遊会で供されたオコノミの話やナヴィガポールの話、出された豆を使った珍しい菓子について等、雑談に花を咲かせていると。
「アルバート殿下とレアンドロ殿下がいらしております」
公爵家の従僕がやってきて、ザイン様にそう告げたのだった。
「分かりました。あの、殿下達がこちらへ同席……しても良いですか、マリー?」
あからさまに嫌そうな顔をしていたのはマリーだった。
それを見たザイン様は一瞬戸惑い、マリー一人に許可を求める。
マリー、思っても口に出さない方が良いよ。
僕は小声で窘めつつ、「ザイン様、アルバート殿下は兎も角、何故レアンドロ殿下も?」と訊ねる。
「実は、私はレアンドロ殿下の接待役を仰せつかっておりまして。アルバート殿下は何時ものことですが、レアンドロ殿下が我が家へ来られるのは初めてなので……その、恐らくアンのことを知って見舞いがてらのことかと」
成程……それでは断れないだろうな。
そう思ってちらりとマリーを見ると、こちらも同じことを思ったのだろう。
「はぁ、仕方ないですわ」
溜息を吐いて了承した。
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