貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

三人の守護女神達。

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 「皆様、本日はお集まり頂き感謝致しますわ」

 去年の今頃は三夫人とお茶会をしてたっけ。
 今日の種痘の説明会と実施を兼ねたお茶会は大規模なものとなった。
 オディロン王やアルバート王子から始まり、社交界でも名だたる貴族達が集まっている。
 私はわざと接種痕が出るドレスを着ていた。母ティヴィーナやアナベラ姉も同様だ。
 設えられた壇上。私は淑女の礼をしてから説明を始めた。

 「私が死病である疱瘡の流行の予言を太陽神から下されたことは、皆様聞き及んでおられると思います……」

 私は予言から種痘のことについて説明を行い、訴える。
 種痘を拒んで疱瘡に罹っても、手の下しようがないということも。

 「ですから、その事も覚悟の上で、王侯貴族は勿論、下々の者に至るまで、神の刻印――種痘を受けることを考えて頂きたいのですわ。
 聖女である私自身を始め、夫のグレイは勿論、一族全員種痘を受けました。嘘ではない証拠に、私は本日その刻印が見えるドレスを身に纏っております。母や姉も同様です。
 ただ、妊婦には刻印を施せない決まりなのです。出産を控えているウィッタード公爵夫人――一番上の姉アンは出産後に受けて貰うことになっております」

 因みに本日、オディロン陛下やアルバート殿下はお受けになると仰って下さいました。

 その言葉に騒めく群衆。実際の接種は、心の準備もあるだろうから一時間程後に開始する予定である。
 「それまでは、菊花やそれに因んだ菓子、お茶などでお心を解して頂けたらと存じますわ。太陽神も、私も――皆様の信仰心篤きことと賢い選択を願っております」と祈りの所作で話を締め括る。
 壇上を降りると何故かレアンドロ王子と目が合った。
 何故彼がここにいるのかと言うと――アン姉に種痘の説明をした後、種痘について詳しい話が聞きたいので場を設けて欲しいと申し出てきたからである。
 どうせ説明会と実施を兼ねた茶会を開く予定だったし、と私は了承。砂糖の件もその時に話せば丁度良いしな、と。
 レアンドロはありがとうと言った後、「それと……実は私は些細な嫉妬と誤解から、聖女様の兄君であるカレル卿に色々失礼な態度を取ってしまったのです。そのこともお詫びしたいので、カレル卿にも宜しくお伝え願えませんか」と声を潜めて伝えて来た。
 分かりましたと言って帰った後カレル兄にもその旨を伝えたし、後はレアンドロ王子次第なのだが――

 「聖女さ――」

 微笑みを浮かべ、何故かカレル兄ではなくこちらに近付いて来ようとする王子にぎょっとする。

 まさか、こんな人目がある前で先日のようなことをするつもりか!?
 やめろ、ソーシャルディスタンスを守れ、大体そこに婚約者エリーザベトも居るだろうが!
 私を三面記事送りにするんじゃない、大体あれから手の甲をアルコール消毒までしたんだぞ!
 濃厚接触、ダメ、絶対!

 私が身構えて警戒を強め――

 「きゃあああ、マリーちゃあーん! 元気だったぁ? 今日はガスィーちゃんを連れて来たんですのよぉ、ほらぁ!」

 キャンキャンッ!

 「先日はお土産を色々とありがとう! ハシバミの実ノワゼットの蜂蜜漬け、早速頂いたのだけれどとっても美味しかったわ」

 「久しぶりざますわね。マリーちゃんが無事に王都に帰ってきて安心ざます。手紙にあった、温泉の話をもう少し詳しく聞かせて欲しいざます」

 ――かけたところで、目に痛い三原色の衣がその大いなる存在感と共に目の前に翻る。私は思わず胸の前で手を組んだ。

 「ああっ、ピュシス夫人、エピテュミア夫人、ホルメー夫人! 私も会いたかったですわー! ガスィーちゃんも久しぶりですわね、いいこいいこ♪ 後でうちのヘヒルちゃんと遊んで欲しいわ」

 ひしっと抱き合ったりガスィーちゃんを撫でたりして大袈裟に喜びを表現する。視界の隅では三夫人に押し退けられ、ぽかんとした顔で所在なさげに伸ばした手をそのままにしているレアンドロ王子。
 そして苦笑いを浮かべるアルバート王子、メティ、女王リュサイの姿。皇女エリーザベトは目をパチクリさせている。

 いやー、三夫人はやっぱり最高の友だわー。この世に怖いものはない、無敵の守護女神達である。
 おーっほっほっほっほ!

 内心悪役令嬢の如く高笑いしていると、グレイが卒なく三夫人に挨拶して合流。
 精神感応を飛ばして呼んだカレル兄、メティ達女性陣も続く。アルバート王子は挨拶等で忙しいのか来なかった。
 そのまま同じテーブルに着くと、人数分のお茶が淹れられる。

 「聖女様! 先日お話していた外交官を連れて来ました。私達も同席しても構いませんか?」

 我に返ったのか、レアンドロ王子が慌てて追って来た。一人の若い男――こちらもイケメン――を引き連れている。恐らく件の外交官なのだろう。
 私は「ええ、勿論構いませんわ」と微笑む。安堵した様子でこちらに来ようとするレアンドロ王子。私の隣に座ろうと目論んでいるのだろうが、そうはいかんざき。既に両隣はグレイとカレル兄で固めているのだ。
 私は笑顔のまま三夫人に顔を向けた。

 「ピュシス夫人、エピテュミア夫人、ホルメー夫人。申し訳ないのですが、エスパーニャ王国のレアンドロ殿下の席をお願い出来ますかしら?
 殿下はまだトラス王国で過ごされた日が浅いと存じますし、経験豊富で機知に富んでいらっしゃる夫人達の傍の方が何かと話題も豊富で弾むでしょうから……」

 「いえ、私は――」

 「あらぁ、丁度お二人いることですしぃ、私達の間にどうぞぉ?」

 「うふふ、遠慮なさらず」

 「エスパーニャ王国のお話を色々とお聞かせ下さると嬉しいざますわ♪」

 「…………どうも」

 「失礼致します……」

 降って湧いた若いイケメン二人に色めき立つ三夫人とは対照的に、顔を引き攣らせるレアンドロ王子。それを見つめる外交官であろう男の顔にも、話が違うとでも書いてあるようだ。
 今更否とも言えないのだろう、彼らは通夜のような顔をしてしぶしぶ三夫人達の間に座ったのであった。
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