貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(99)

 拳銃ピストルに弾丸を込め、撃鉄を起こす。片目で標準を定め、引き金を引いた。
 パン、と軽快な音と共に腕全体に衝撃が走り、的の外側の円に風穴が開いた。

 「結構衝撃が走るね、これ」

 僕がまじまじと拳銃を見ていると、隣で見ていたアールが勝ち誇ったように笑った。

 「ふふふ、俺の初めての時よりも外側だ」

 「凄いな、何で兄弟二人共最初から的に当たるんだ?」

 何の訓練もしてきていないんだろう? と驚くカレル様。
 どうしてだろう? 僕にも分からないや。

 そう、ここはキャンディ伯爵家に作られた秘密の訓練部屋。アールに連れられてやってきた僕は、拳銃の練習の真最中という訳である。
 何度か練習を繰り返すと、だんだん的に当たるように。
 それで何となく僕達兄弟が最初から的に当たった理由が推測出来た。

 「多分ですけど――普段から書き物をよくしているせいかと」

 「書き物?」

 「ずっとペンを握ったまま、集中して仕事をします。訓練こそはしていないのですが、握力と集中力は鍛えられたのだろうと」

 「成程なぁ。じゃあ普段から机仕事をしている方が上達が早いってことか」

 「それにしても、こうも簡単に銃が撃ててしまうなんて。弾丸は画期的な発明でしたね」

 「筒の中に螺旋階段のように溝を掘ることで精度が増したしな」

 「回転することで安定する、でしたね」

 「ああ」

 その日の最後に僕が放った弾丸は、見事に的のど真ん中を貫いた。
 何度か繰り返して、いざという時に動揺せず使えるようにしておかないと。


***


 数日後、種痘の説明と実施を兼ねたお茶会の日当日がやってきた。
 国王陛下を始め、主だった貴族達がキャンディ伯爵家にやってくる。
 勿論かのレアンドロ王子も一緒だ。
 マリー曰く、見学の他、カレル様に謝罪する機会が欲しいとのことだったが。

 ――やっぱり。

 案の定、僕の予想通りの展開になった。
 レアンドロ王子が来るからといってそこまで心配していなかったのは、招待されていた三魔女達の存在があったから。
 僕達のテーブルにやってきて同席しようとしたレアンドロ王子達は、マリーの流れるような運びで三魔女に挟まれる形に。

 「一体、何しに来たんだろうな」

 そんな小さな呟きが耳朶を打った。
 カレル様が微笑を絶やさずに見ている先には、謝罪する筈のカレル様には目もくれずに必死にマリーに話しかけようとしているレアンドロ王子。しかしその度に隣に座る貴婦人――三魔女達に言葉尻を捕らえられ翻弄されている。
 改めて三魔女を敵に回してはいけないと認識する僕。

 流石といおうか、レアンドロ王子のみならず、エスパーニャ王国の外交官ホセ・デ・ラソンという男もまた、口から生まれたような三魔女の勢いには勝てないらしい。
 結局手も足も出ないまま、神の刻印を施す時間が来てしまい、マリーはオディロン陛下達の元へと向かうことに。
 刻印を受けるリュサイ女王や皇女エリーザベト、メテオーラ嬢は勿論、三魔女、諦めの悪いレアンドロ王子が立ち上がる。
 と、皇女エリーザベトがカレル様に近付いてきて声を掛けた。

 「カレル様は行かれませんの?」

 「いえ、私は既に受けておりますので」

 「あの、宜しければ一緒に来て頂けませんか? その、不安で……」

 「……かしこまりました、ご一緒致しましょう」

 密かに溜息を吐いた後。余所行きの笑顔を見せて承諾したカレル様が、皇女エリーザベトをエスコートして去って行く。
 レアンドロ王子がどう反応するか少しハラハラしていた僕。しかし予想外にも王子はカレル様達を見ても路傍の石を見つめるような無関心さで、あまり表情に変化は見られなかった。
 心配そうにこちらを見ていたマリーに、僕は大丈夫だから行ってらっしゃいと見送る。
 テーブルに残されたのは、僕と外交官ホセ子爵のみ。

 やがて、種痘が始まった。
 腕にチクリとやるだけなので簡単に終わる。終わった人々はお互い痕を見せ合いながら賑やかに話していた。

 「理屈は教えて頂きましたが……それでも牛や馬のできものを人間に植え付けるなど、やはり信じられない」

 次々と刻印を受ける人々を見ながらホセ子爵が呟いている。
 と――僕が見ているのに気付いて、子爵は決まり悪そうに、「申し訳ありません」と謝罪した。

 「構いません、刻印に関して分かる範囲でならお答えしますし、正直に何でも仰って下さい」

 彼は外交官なんだし、エスパーニャ王に伝える為にも理解してもらう必要がある。
 僕の言葉にホセ子爵は少し躊躇いを見せつつ口を開いた。

 「……お考えになったのが聖女様でなければ、悪魔や魔女の所業と思われてもおかしくないとと思うのですが……本当に大丈夫なのでしょうか?」

 「私も最初は半信半疑で拒否感がありましたが、何ともありませんでしたしこの通り元気です。実際の効果は疫病が流行し始めてから分かることだとは思いますが」

 ホセ子爵はうーんと唸った。

 「そこなのですよね。疫病が真実流行るのか、あの刻印が本当に効果があるのか否か」

 「寛容派の教皇の下に現れた聖女を信じるのか、否か」

 エスパーニャ王国も神聖アレマニア帝国と同じく不寛容派が多数。そこを突くと、子爵の頬に僅かな赤みが差した。
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