貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

グレイ・ダージリン(107)

 「猊下、お久しぶりでございます」

 皇女エリーザベトの部屋を出たところで、見知った顔に出くわした。

 「ええ、お久しぶりです。貴方だったんですね、皇女殿下にお伝えしたのは」

 自然、僕の瞼は半分降りてしまう。
 以前会った時にも思ったけれど、この人は何というか……せっかちで大雑把な物言いをする。アーダム皇子達の話をする時も、恐らく言葉選びを間違ったに違いない。
 じっと睨むと、その人物――ヴィルバッハ辺境伯オスカーは困ったように後頭部を掻いた。

 「皇女殿下のお見舞いまさか寝込まれる程思い詰められるとは思ってもおりませんでした。てっきりご存知かと思っておりましたから。侍女のヘルミーネ殿には散々責められ、散々でしたぞ」

 「グレイ、この方は?」とカレル様に訊かれたので紹介する。

 「ああ、こちらはオスカー・ヴィルバッハ辺境伯。アレマニア帝国の選帝侯で、寛容派貴族です――ヴィルバッハ辺境伯、こちらはカレル・キャンディ伯爵令息、マリーの兄君です」

 「おお、貴方様がカレル卿! 聖女様の兄君でいらっしゃいましたか! 皇女殿下の仰る通り、実に男前だ。失礼ですが、婚約者はお決まりかな? もし、そうでないならば――」

 「は?」

 初対面でいきなりそんなことを訊かれ、目が点になるカレル様。
 僕がこめかみを押さえた瞬間、皇女エリーザベトの部屋の扉がバン! と開かれて侍女が顔を出す。

 「オスカー様! 皇女様はまだ臥せっておられるのですよ!?」

 声量を抑えられないならこの部屋に接近禁止です!

 「お、おおすまぬヘルミーネ殿!」

 と凄い形相で叱る侍女に、流石にヴィルバッハ辺境伯はたじたじとなっている。
 僕は取り合えず皇女エリーザベトの侍女に騒がせた謝罪をし、丁度帰るところだったので場所を変えることを提案したのだった。

 「実は、聖女様への誕生日の贈り物を国より持ってきております」

 どこからか聞き及んだか調べたかしたのだろう。
 ヴィルバッハ辺境伯は宮殿の廊下を歩きながらそんなことを言いだした。そして背後にいる何人かの男達を振り返る。

 「実は、この者達はヴァッガー家の使いでしてな。聖女様とディックゴルト・ヴァッガーに面会を希望しております」

 「妻はどうしているかは分かりませんが、ディックゴルト――今はキンター殿と名乗っておられますが、彼ならば実家からの方々との面会は大丈夫だと思います。それと、贈り物はお祝いの席を設けますのでご招待致しましょう。その時に」

 「おお、ありがとうございます!」

 上手く乗せられた気はするけれど、なし崩し的に共に屋敷へ戻ることに。

 ヴァッガー家からの使いは、キンターに面会して彼の父親アントンからの手紙を渡したり、困ったことなどが無いかと聞いたりしていた。その後は僕と兄アールやジャンやヤン、銀行職員達を交えて船の建造費及び石炭及び鉄鉱の引き渡しのことや、銀行業についての話を詰めていく。

 その間、ヴィルバッハ辺境伯はマリーやカレル様達とのお茶の席を用意して貰い、色々と話をしているようだった。

 彼らが王宮に戻った後、どんな話をしていたのかマリーに訊くと、

 「神聖アレマニア帝国で種痘が始まったけど、あまり進んでいないんですって。寛容派貴族の領地では割と順調だそうだけれど……」

 何でも、不寛容派一派が大反対しているという。皇帝は沈黙を守っているが種痘は受けていないそうだ。
 
 「まあ、尻に火が付けば状況は変わるでしょう」

 そう言ってマリーが少し冷めたお茶を啜った時、ノックの音が響いた。
 サリーナが出ると、女王リュサイ達が僕達に話がある、と何かを持ってきているとのこと。

 招き入れて来意を訊くと、カレドニアから僕達の為に誂えた衣装が届いたそうだ。

 「宜しければ誕生日のお召し物として如何でしょう、と思いましたの。細かな衣装調整をさせて頂ければ、と」

 「まあ、素敵!」

 マリーの顔が輝く。
 見せて貰った衣装は白を基調とし、金や紫、青を織りなした立派なものだった。紫の染料は貝から採られる高級品を使ったのだろう。
 僕とマリーは二手に分かれることに。僕の調整は騎士ドナルドが買って出てくれることになった。

 一通り着付けをしましょう、と手渡されたシャツと上着を着ると、まるで誂えた様にぴったりだった。
 床はあんまりでしょうから、とベッドに襞を作って敷かれた一枚布に横たわるように言われる。腰のあたりでベルトを通され、立ち上がって布の端を整えられる。左肩で大きなブローチで布を留めると、騎士ドナルドはどこか潤んだ目で「……良くお似合いです、本当に」と眩しそうに僕を見つめた。

 「……何だか変な感じ」

 鏡に映ったカレドニアの衣装を身に纏った自分の姿に、僕の心はざわざわする。どこか懐かしいような気持ちになった。
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