貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

前世の宴会芸。

 自分が海賊退治で留守の間、私とグレイの間に子供が出来ては困る――そういう考えらしい。
 暗殺者のことを透視して追いかける。精神感応で思考を読み取ると、どうも私の誕生日に仕掛けようとしているようだった。
 確かに普段は厳重な警備。隙が出来るとすれば外部から人が流入する誕生日が打ってつけということなのだろう。

 「前脚ヨハン後ろ脚シュテファン、そしてサリーナ。相談があるのだけど」

 返事をして近付いた三人に、私は暗殺者の脳内に立てられていた襲撃計画を伝える。彼らは即座に眼光鋭く戦士の顔つきになった。

 「皆に伝えて然るべき対処をお願いね。グレイに手を下す暗殺者は出来る限り生かして捕らえて頂戴」

 「はっ、かしこまりました」

 「これほどの情報を頂いたのです、必ずや」

 「久々に腕が鳴りますわ。ところで、活かして捕らえるのは何故でしょうか」

 「興味深いのよ。暗殺者の生い立ちや背景がね」

 我が家とは違い、已む無くエスパーニャ王国に従っているようなものだ。出来れば味方に引き入れたい。

 「暗殺者のこと、グレイ様にはお伝えしないのでしょうか?」

 「こちらが気付いていることを気付かれたくないから内緒よ。それとなく隙を作れば暗殺者はグレイしか見えなくなる。周囲への注意が散漫になったところで一網打尽にね」

 「了解致しました」

 「宜しくね」

 そう言った後、私はバカンスの続きを楽しむ。
 能力を使って愚民共を操り、レアンドロ王子の頭頂目掛けて運が付く絨毯爆撃を仕掛けるのは忘れない。
 大人げなく怒り狂って銃や弓を撃ちまくって発狂していたが、愚民共の方が一枚上手で一羽も欠けることなくあっという間に逃げて行った。

 ――くくく、海賊退治の餞だ。有難く受け取るが良い。

 すっかり上機嫌になった私。
 バカンスを終え、お昼を食べた後。

 「オーレー♪ オーレ―♪」

 部屋へ戻って羽のハタキを両手で持ち、食後の運動がてら前世流行したマチケソダンス。
 サリーナのアホの子を見る様な眼差しを物ともせず、サンバのリズムでノリノリで踊っていると、扉を開けてポカンとしているグレイと目が合った。

 「お、おかえりグレイ。ほほほほほ!」

 笑って誤魔化しながら慌ててハタキを後ろに隠す。
 何故声を掛けてくれなかったのか、とサリーナを見ると、「楽しそうに夢中で踊っていらしたのでお止めするに忍びなく」と良い笑顔を返された。ぐぬぬ。
 グレイは気まずそうに顔を逸らす。

 「……ごめん、ノックしたんだけど。個性的なダンスで……随分と……ご機嫌だね」

 声と肩が震えているぞグレイ。ノックなんざ全然聞こえなかった。
 というか中脚カールッ、便乗して笑うんじゃない!

 しかしそういう反応だと……誕生日の余興としてキンキラキンの衣装で踊るのは止めておいた方が良さそうだな、うん。


***


 カレル兄とグレイはヴィルバッハ辺境伯と金太の実家ヴァッガー家からの使者達を連れて戻って来た。先刻グレイが私の部屋にやってきたのは、彼らに会うかどうかを訊きに来たのである。
 実はグレイ達を透視していたことを伝え、皇女エリーザベトを誕生日に呼ぶという件で擦り合わせた後。私はヴィルバッハ辺境伯に会うことを承諾。
 その場には金太の他、義兄アール、キーマン商会のジャン、ヤン、銀行の職員達が居た。グレイに呼ばれたらしい。義兄にアナベラ姉は、と訊くと、母ティヴィーナに会いに行ったそうだ。

 「『最初に言っておくが、私のことはキンターと呼ぶがいい。聖女様に頂いた名なのだ』」

 「『かしこまりました、キンター様。旦那様からの手紙を預かっております。こちらを』」

 受取り、封を切って目を通し始める金太。
 ヴァッガー家の使者達は、預かって来たという金子を渡して「『トラス王国で不自由等ございませんか』」等と訊ねている。
 金太がそれに礼を言って一段落した後、私達は二手に分かれた。
 金太、グレイ、義兄アールが神聖アレマニア帝国からなされた賠償についての話し合い。そして私とカレル兄はヴィルバッハ辺境伯とのお茶会である。

 「お久しゅうございます。聖女様におかれましてはご機嫌麗しゅう」

 「ヴィルバッハ辺境伯もお元気そうで何よりですわ」

 香り高き紅茶がティーカップに注がれていく。
 菓子を勧め、誕生日のことや皇女エリーザベトについて雑談交じりに話しつつ。

 「それで、本題は種痘――神の刻印のことかしら」

 本題を切り出すと、ヴィルバッハ辺境伯は頷いた。

 「そうですな。真実疫病が起こるのかどうか。貴族とその領民共に、寛容派は半信半疑ながらポツポツと受け始めておりますが、牛や馬のできものということであまり乗り気ではありません。不寛容派はより否定的で遅々として進んでおらず。
 大司教デブランツの腰巾着であり、医術や薬草の第一人者であるフォウツ司祭が筆頭になって刻印に反対しておりますな。疱瘡が本当に流行するならば、自分の薬草の知識で特効薬を調合して見せると躍起になっているとか」

 「フォウツ司祭……」

 「聞いたことがある。有名な医者だ」

 カレル兄の言葉にふーんと思う。
 薬草じゃ天然痘ウイルスの特効薬は作れないと思うが、症状緩和位ならば出来そうだ。
 薬学の進歩自体はいいことである。漢方だって現代でも重宝されているからな。

 「不寛容派はここぞとばかりに聖女様の真偽に対する疑念を喧伝しておりますぞ。エリーザベト殿下が既に刻印受けられたとのことですが、我ら寛容派の援護をして下さるかどうか……」

 皇帝陛下が賠償に同意したことで、聖女様が人質の解放をすればアブラーモ、デブランツ二人の大司教はアレマニアに戻り、不寛容派は勢いづくでしょう。我々は不利な立場に立たされております。

 大司教二人だけでも捕らえたままに出来なかったのか、と如実に語る眼差し。ヴィルバッハ辺境伯は寛容派の不利を懸念しているのだろう。

 「心配ご無用ですわ。神の刻印はどうしても嫌であれば無理強いはしません。ただ、寛容派貴族やその領民は無理にでも受けておいた方が良いでしょう。信仰心が試されますわね」

 実際に疱瘡が流行し始めれば、人々は神の刻印の威力を知って尻に火がつく。
 この時の私はその程度に捉えていた。
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