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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
一筋縄ではいかなかった任務。
聖女の情報を集めると、遥か東の果てにあるというフソウの国に感心があるという情報を得る。
丁度その国の奴隷が居るということで贈り物として決定。その奴隷の世話は男が行った。
故郷から遠い外国へ連れて来られ、人ならぬ扱いを受ける奴隷が時折涙を流すのを見る度に憐れみを覚えもしたが、聖女に献上される分自分よりマシだろう。そう酷い扱いはされない筈だ。
自分の逃走を手助けする為、エスパーニャの豊潤な資金を投入して手練れも雇った。事が露見した時は、自分のことは知らぬ存ぜぬで切り捨てるように大使らに言い含めてある。
小間使いの身分を拝借して成り代わる形でうまうまと聖女の誕生日の宴に潜り込むことに成功した男は、グレイ・ダージリン伯爵を殺すべく動き始めた――の、だったが。
偶然かそれとも。
男の暗殺は次々と失敗した。
普通に近付くのは手練れであろう護衛が邪魔だった。ダンスが始まったので好機とばかりに貴族に変装し、手近な貴族令嬢を誘って近付こうと試みる。
しかし聖女達を囲んで踊る者達の壁が立ちはだかった。
更に何故か自分から遠ざかるように移動する為、必死で追いかけるしかない。強引に動こうとした男は、相手の令嬢から苦情と疑いの眼差しを受けてしまう。果てはふくよかな貴婦人にぶつかって床に倒れてしまった。
ダンスが終わってしまったのならばと今度は給仕に変装。グレイ・ダージリン伯爵の侍女だと目星を付けた女に近付いて毒入りの杯を渡すも、あろうことかその女は何かに躓き倒れてしまった。勿論毒杯もパアである。
何と悪運の強い男だ、と男は臍を噛んだ。
この日を逃せばこんな好機は二度と無いというのに。もし、暗殺に失敗しておめおめと戻ろうものなら……
焦りと苛立ちが男を支配する。
じりじりと隙を伺っていると、グレイ・ダージリン伯爵が中座した。
どうやら用を足しに行くようだ。遠くからそれを尾行する。
やがて広間へ戻ると、聖女の姿が消えていた。じっと様子を窺っていると、聖女の侍女がやってきて、護衛の男に話しかけている。グレイ・ダージリン伯爵が一言二言何かを言うと、侍女と護衛は共に連れ立って離れて行った。
――しめた。
広間にいるとはいえ、グレイ・ダージリン伯爵は一人になった。
またとない好機に、男は急ぐ。
適当な警備兵を昏倒させ、空き室へ運ぶ。自分の着ていた服を着せ、招待客の一人が酔いどれて眠ってしまったように酒瓶を転がし小細工をした。
警備兵に化けた男は急ぎ広間へ戻る。
グレイ・ダージリン伯爵の傍にはカレドニアの騎士の男が居たが、他国の伯爵を本気で護衛する理由も無いだろうと踏む。
男は伯爵に近付き、聖女が呼んでいる、という理由を付けて庭へと誘い出す。途中、頭上を一羽の見慣れない鷲が飛んでいることに気付く。聖女は鳥を操るという噂を思い出し、万が一を考え木々が多い方へと誘導する。
背後から疑っているような視線を感じた男は、ここで決着を付けるべきだとナイフを握りしめた。
振り向きざま、死ね! と叫ぶ。
同時に短銃を向けられていることに気付いた刹那、破裂音が耳朶を打つ。腕に衝撃と熱が走った。
――外した!
グレイ・ダージリン伯爵はカレドニアの騎士に横っ飛びに庇われ、地に伏している。騎士はすぐさま立ち上がると抜剣してこちらに構えた。
自分の命がここで尽きようとも、目の前の聖女の夫だけは仕留めなければ!
しかし男はそれに構っている余裕は無かった。腕から生えた短い矢――第三者の攻撃。
誰かが木々の陰からこちらに近付いて来る。
男はそちらを見つめた。
「泳がせられていたとも知らず。当家を甘く見られては困りますわね」
女の声?
男は呆然と呟く。
光の下に現れたのは、こちらに腕を伸ばした女だった。よく見ると、その上には小さな仕込み型のボウガンが乗っている。
――確か、聖女の侍女の。
そう思った瞬間、男の意識は暗転した。
――頭が痛い。
後頭部がズキズキと酷く痛む。
男はゆっくり瞼を開けた。
意識がハッキリした瞬間、男はガバリと起き上がりかけた瞬間――
「動くな!」
殺気と共に、ヒヤリとした冷たいものを喉に当てられる。
眼球だけを動かして横を見ると、金髪の顔立ちの似た男達二人の姿が視界に入る。
確か――
「……聖騎士か」
聖女の傍に常に控えていた姿を思い出す。更にその隣には、男にボウガンを放った聖女の侍女、グレイ・ダージリン伯爵の護衛の男も居た。
「起きたようですね。マリー様に伝えて来ます」
侍女が出て行く。
自分は囚われの身となったと理解した男は、舌を噛み切るべく口を大きく開けた。
***
ヒゲワシが起きたとサリーナから知らせを受けて部屋を訪ねたのは良いが。
猿轡をされ、更に縄で縛られた状態で鼻息荒くこちらを無言で睨みつけるヒゲワシ。
「舌を噛み切ろうとしたので已む無く」
「任務失敗し捕らえられた以上、この男には死を選ぶより他にないのでしょう」
看病兼見張りで置いておいた馬の脚共が説明をする。
というか、お前達――何故亀甲縛りなのか。
丁度その国の奴隷が居るということで贈り物として決定。その奴隷の世話は男が行った。
故郷から遠い外国へ連れて来られ、人ならぬ扱いを受ける奴隷が時折涙を流すのを見る度に憐れみを覚えもしたが、聖女に献上される分自分よりマシだろう。そう酷い扱いはされない筈だ。
自分の逃走を手助けする為、エスパーニャの豊潤な資金を投入して手練れも雇った。事が露見した時は、自分のことは知らぬ存ぜぬで切り捨てるように大使らに言い含めてある。
小間使いの身分を拝借して成り代わる形でうまうまと聖女の誕生日の宴に潜り込むことに成功した男は、グレイ・ダージリン伯爵を殺すべく動き始めた――の、だったが。
偶然かそれとも。
男の暗殺は次々と失敗した。
普通に近付くのは手練れであろう護衛が邪魔だった。ダンスが始まったので好機とばかりに貴族に変装し、手近な貴族令嬢を誘って近付こうと試みる。
しかし聖女達を囲んで踊る者達の壁が立ちはだかった。
更に何故か自分から遠ざかるように移動する為、必死で追いかけるしかない。強引に動こうとした男は、相手の令嬢から苦情と疑いの眼差しを受けてしまう。果てはふくよかな貴婦人にぶつかって床に倒れてしまった。
ダンスが終わってしまったのならばと今度は給仕に変装。グレイ・ダージリン伯爵の侍女だと目星を付けた女に近付いて毒入りの杯を渡すも、あろうことかその女は何かに躓き倒れてしまった。勿論毒杯もパアである。
何と悪運の強い男だ、と男は臍を噛んだ。
この日を逃せばこんな好機は二度と無いというのに。もし、暗殺に失敗しておめおめと戻ろうものなら……
焦りと苛立ちが男を支配する。
じりじりと隙を伺っていると、グレイ・ダージリン伯爵が中座した。
どうやら用を足しに行くようだ。遠くからそれを尾行する。
やがて広間へ戻ると、聖女の姿が消えていた。じっと様子を窺っていると、聖女の侍女がやってきて、護衛の男に話しかけている。グレイ・ダージリン伯爵が一言二言何かを言うと、侍女と護衛は共に連れ立って離れて行った。
――しめた。
広間にいるとはいえ、グレイ・ダージリン伯爵は一人になった。
またとない好機に、男は急ぐ。
適当な警備兵を昏倒させ、空き室へ運ぶ。自分の着ていた服を着せ、招待客の一人が酔いどれて眠ってしまったように酒瓶を転がし小細工をした。
警備兵に化けた男は急ぎ広間へ戻る。
グレイ・ダージリン伯爵の傍にはカレドニアの騎士の男が居たが、他国の伯爵を本気で護衛する理由も無いだろうと踏む。
男は伯爵に近付き、聖女が呼んでいる、という理由を付けて庭へと誘い出す。途中、頭上を一羽の見慣れない鷲が飛んでいることに気付く。聖女は鳥を操るという噂を思い出し、万が一を考え木々が多い方へと誘導する。
背後から疑っているような視線を感じた男は、ここで決着を付けるべきだとナイフを握りしめた。
振り向きざま、死ね! と叫ぶ。
同時に短銃を向けられていることに気付いた刹那、破裂音が耳朶を打つ。腕に衝撃と熱が走った。
――外した!
グレイ・ダージリン伯爵はカレドニアの騎士に横っ飛びに庇われ、地に伏している。騎士はすぐさま立ち上がると抜剣してこちらに構えた。
自分の命がここで尽きようとも、目の前の聖女の夫だけは仕留めなければ!
しかし男はそれに構っている余裕は無かった。腕から生えた短い矢――第三者の攻撃。
誰かが木々の陰からこちらに近付いて来る。
男はそちらを見つめた。
「泳がせられていたとも知らず。当家を甘く見られては困りますわね」
女の声?
男は呆然と呟く。
光の下に現れたのは、こちらに腕を伸ばした女だった。よく見ると、その上には小さな仕込み型のボウガンが乗っている。
――確か、聖女の侍女の。
そう思った瞬間、男の意識は暗転した。
――頭が痛い。
後頭部がズキズキと酷く痛む。
男はゆっくり瞼を開けた。
意識がハッキリした瞬間、男はガバリと起き上がりかけた瞬間――
「動くな!」
殺気と共に、ヒヤリとした冷たいものを喉に当てられる。
眼球だけを動かして横を見ると、金髪の顔立ちの似た男達二人の姿が視界に入る。
確か――
「……聖騎士か」
聖女の傍に常に控えていた姿を思い出す。更にその隣には、男にボウガンを放った聖女の侍女、グレイ・ダージリン伯爵の護衛の男も居た。
「起きたようですね。マリー様に伝えて来ます」
侍女が出て行く。
自分は囚われの身となったと理解した男は、舌を噛み切るべく口を大きく開けた。
***
ヒゲワシが起きたとサリーナから知らせを受けて部屋を訪ねたのは良いが。
猿轡をされ、更に縄で縛られた状態で鼻息荒くこちらを無言で睨みつけるヒゲワシ。
「舌を噛み切ろうとしたので已む無く」
「任務失敗し捕らえられた以上、この男には死を選ぶより他にないのでしょう」
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