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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
重鎖のみのY字型のアレ。
マジだ。マジでヒトコブラクダが居る。
キャラバンですかって聞きたくなるほどの、何頭ものラクダが見慣れた我が家の庭に屯していた。
しかも、アヤスラニ帝国風の煌びやかな鞍や飾りを付けられていて華やかである。
エジプトとかの観光地とかに居そうだな、と思っていると。
ヴァ~~~~……
ヴォエッ、ヴォォォロェッ……
「……」
不意に響いて来た鳴き声に、父サイモンが顔を盛大に引き攣らせている。母ティヴィーナや女王リュサイは「まあっ」等と驚いたように口元に手を当てていた。
アンニュイな表情、長い睫毛……ラクダの鳴き声は前世でもあまり聞いたことが無かったが。
何というか……
「……盛大にゲロっている音に似ているな」
うん、私も同感だわカレル兄。
「久々に聞いたけど、相変わらず強烈だなぁー」
あはは……とグレイが乾いた笑い声を上げている。
イドゥリース、スレイマンは苦笑いだ。祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、メリーやイサーク達はツボに嵌ったのかクスクスと笑っていた。
ちなみにラクダは夥しい量の荷物を背負ってきていたようで、アヤスラニ帝国人達が沢山の荷物を検品している。その中から進み出て来たのは、皇帝イブラヒームだった。
「『おお、無事に戻られて何よりです。丁度国から聖女様への贈り物が届いたところなのです』」
「特使殿、これは……」
「マリーへの誕生祝いが届いたとのことです、義父様」
父サイモンの問いかけに、グレイが通訳をする。
多分、丁度私達の馬車の後ろから追いかける形で来ていたのだろうな。
ナヴィガポールから王都まで……街道は煌びやかなラクダキャラバンの噂でもちきりになっているに違いない。
お蔭でカナールの民を連れて帰ったのが目立たなくなる――キャラバン隊、グッジョブだ。
***
贈り物の検品が無事に終わったところで。
「「「『聖女様、どうぞお納め下さい』」」」
私の目の前で、アヤスラニ帝国人達が贈り物を捧げ持って跪いている。特使を装う皇帝イブラヒームも頭を垂れていた。その様を見ていると朝貢を受ける則天武后のような気分である。うむ、くるしゅうないぞ。
「まあ……何と見事な」
「本当ですわね、アヤスラニ帝国がこれほど裕福だとは」
母ティヴィーナと女王リュサイが溜息を吐く。
見渡す限り、金銀財宝や上質で煌びやかな布、そしてアヤスラニ帝国の名工の手によるものだという芸術的な工芸品の数々が私に向けて捧げ持たれていた――後世博物館に陳列されそうな見事さである。
全部合わせて金銭換算すると、小国の国家予算ぐらいは軽く超えるかも知れない。それをぽんと気前よく贈り物としてくれるなんて流石皇帝だ。
それらの品々も勿論嬉しいが、実は私が一番喜んでいるのはラクダであった。
ゲロっているような鳴き声であろうが、ラクダは可愛いし厳しい環境でも生きのびられる有益な生き物だし、何より――ラクダの持つある特性を思ってラクダを見つめていると。
「『――ラクダを見て微笑んでいらっしゃいますが、何か?』」
皇帝が不思議そうに問いかけて来た。私は知らず、ニコニコしていたらしい。
宝石財宝ではなくラクダを上機嫌に見ている私が不思議だったのだろう、アヤスラニ帝国人達も怪訝そうにしている。
私は唇に人差し指を当てた。
「あら、理由を知りたいのかしら。 あのラクダ達も、勿論下さるのよね?」
「『それは構わ……構いませんが』」
リストに無い贈り物をねだる私。戸惑いながらも頷く皇帝イブラヒームに、グレイが「『彼女は動物が好きなんですよ、特使殿』」と説明した。
しかし納得いかない様子で『……それだけが理由ではあるまい』と考えている。
『正解ですわ、うふふ』
じっと私を見つめる皇帝。
まあ、息子のオス麿と違って皇帝イブラヒームには悪い印象はない。
人としても信用出来るだろう。
『イブラヒーム陛下、私の仲間になりませんか?』
『仲間?』
『ええ。どうせこれから身分を明かしてイドゥリース様とメリーの婚約を父に申し出ようと考えていらっしゃるのでしょう?
私としても、皇太子オスマン殿下が次代の皇帝に即位されるのは、攫われた身としては少々不安を覚えておりますの。
もし、皇帝陛下が私の仲間となってくださって――代替わりしたとしても帝国の実権を握り、オスマン殿下の暴走を押さえて下さる、と仰るのであれば。私としても安心して色々便宜を図ったり知識などの交流が出来るのですが』
ちなみに他国にも仲間はおりますわ。国境関係なく、共存共栄の商売圏を築く目的なんですの、と本音を交えて皇帝イブラヒームを取り込みにかかる。
そうした精神感応での無言の会話の後、皇帝はしばし考え込み。
『はぁ、全てお見通しなのだな。まあ、オスマンのことについては朕も懸念を抱いていた。そういうことであれば仲間になろうぞ』
よっしゃ、承諾してくれた。
『では、決まりですわね。実は、ラクダの乳がとても有用なものになりそうだと思っていたのですわ』
『ラクダの乳?』
『ええ。実はラクダの乳には病を防ぐ強い体を作る、という有益な効果があるのですわ』
前世、ラクダやアルパカ、ラマ等のラクダ科の家畜が研究されていた。
というのも、過酷な環境で生きのびられる彼らは、特殊で有用な免疫グロブリンを持っていたからである。
今の技術ではその利用は無理だとしても、ラクダミルクがある。ラクダミルクもまた免疫を高める食べ物として注目されていた。
目の前のラクダは勿論中東で問題になっていた人間に感染する病気も持っていない。増やしてラクダミルク生産が出来れば、それを薬として取り扱う事も出来るだろう。
ラクダミルクの有用性を説明すると、皇帝イブラヒームは『成程、それは良いことを教えてくれた』と嬉しそうに口の端を上げた。
「『で、あれば。ラクダの使いに長けた者を数人置いて行こう。そう言えば、北方の遊牧民はラクダの乳酒を作っておるな。それならば日持ちがするし、製法も分かるが』」
えっ、マジで!?
脳内検索すると、ラクダの乳で作った酒も効果は同じらしい。
日持ちするならば断然そっちの方が良いに決まってる。
キャラバンですかって聞きたくなるほどの、何頭ものラクダが見慣れた我が家の庭に屯していた。
しかも、アヤスラニ帝国風の煌びやかな鞍や飾りを付けられていて華やかである。
エジプトとかの観光地とかに居そうだな、と思っていると。
ヴァ~~~~……
ヴォエッ、ヴォォォロェッ……
「……」
不意に響いて来た鳴き声に、父サイモンが顔を盛大に引き攣らせている。母ティヴィーナや女王リュサイは「まあっ」等と驚いたように口元に手を当てていた。
アンニュイな表情、長い睫毛……ラクダの鳴き声は前世でもあまり聞いたことが無かったが。
何というか……
「……盛大にゲロっている音に似ているな」
うん、私も同感だわカレル兄。
「久々に聞いたけど、相変わらず強烈だなぁー」
あはは……とグレイが乾いた笑い声を上げている。
イドゥリース、スレイマンは苦笑いだ。祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、メリーやイサーク達はツボに嵌ったのかクスクスと笑っていた。
ちなみにラクダは夥しい量の荷物を背負ってきていたようで、アヤスラニ帝国人達が沢山の荷物を検品している。その中から進み出て来たのは、皇帝イブラヒームだった。
「『おお、無事に戻られて何よりです。丁度国から聖女様への贈り物が届いたところなのです』」
「特使殿、これは……」
「マリーへの誕生祝いが届いたとのことです、義父様」
父サイモンの問いかけに、グレイが通訳をする。
多分、丁度私達の馬車の後ろから追いかける形で来ていたのだろうな。
ナヴィガポールから王都まで……街道は煌びやかなラクダキャラバンの噂でもちきりになっているに違いない。
お蔭でカナールの民を連れて帰ったのが目立たなくなる――キャラバン隊、グッジョブだ。
***
贈り物の検品が無事に終わったところで。
「「「『聖女様、どうぞお納め下さい』」」」
私の目の前で、アヤスラニ帝国人達が贈り物を捧げ持って跪いている。特使を装う皇帝イブラヒームも頭を垂れていた。その様を見ていると朝貢を受ける則天武后のような気分である。うむ、くるしゅうないぞ。
「まあ……何と見事な」
「本当ですわね、アヤスラニ帝国がこれほど裕福だとは」
母ティヴィーナと女王リュサイが溜息を吐く。
見渡す限り、金銀財宝や上質で煌びやかな布、そしてアヤスラニ帝国の名工の手によるものだという芸術的な工芸品の数々が私に向けて捧げ持たれていた――後世博物館に陳列されそうな見事さである。
全部合わせて金銭換算すると、小国の国家予算ぐらいは軽く超えるかも知れない。それをぽんと気前よく贈り物としてくれるなんて流石皇帝だ。
それらの品々も勿論嬉しいが、実は私が一番喜んでいるのはラクダであった。
ゲロっているような鳴き声であろうが、ラクダは可愛いし厳しい環境でも生きのびられる有益な生き物だし、何より――ラクダの持つある特性を思ってラクダを見つめていると。
「『――ラクダを見て微笑んでいらっしゃいますが、何か?』」
皇帝が不思議そうに問いかけて来た。私は知らず、ニコニコしていたらしい。
宝石財宝ではなくラクダを上機嫌に見ている私が不思議だったのだろう、アヤスラニ帝国人達も怪訝そうにしている。
私は唇に人差し指を当てた。
「あら、理由を知りたいのかしら。 あのラクダ達も、勿論下さるのよね?」
「『それは構わ……構いませんが』」
リストに無い贈り物をねだる私。戸惑いながらも頷く皇帝イブラヒームに、グレイが「『彼女は動物が好きなんですよ、特使殿』」と説明した。
しかし納得いかない様子で『……それだけが理由ではあるまい』と考えている。
『正解ですわ、うふふ』
じっと私を見つめる皇帝。
まあ、息子のオス麿と違って皇帝イブラヒームには悪い印象はない。
人としても信用出来るだろう。
『イブラヒーム陛下、私の仲間になりませんか?』
『仲間?』
『ええ。どうせこれから身分を明かしてイドゥリース様とメリーの婚約を父に申し出ようと考えていらっしゃるのでしょう?
私としても、皇太子オスマン殿下が次代の皇帝に即位されるのは、攫われた身としては少々不安を覚えておりますの。
もし、皇帝陛下が私の仲間となってくださって――代替わりしたとしても帝国の実権を握り、オスマン殿下の暴走を押さえて下さる、と仰るのであれば。私としても安心して色々便宜を図ったり知識などの交流が出来るのですが』
ちなみに他国にも仲間はおりますわ。国境関係なく、共存共栄の商売圏を築く目的なんですの、と本音を交えて皇帝イブラヒームを取り込みにかかる。
そうした精神感応での無言の会話の後、皇帝はしばし考え込み。
『はぁ、全てお見通しなのだな。まあ、オスマンのことについては朕も懸念を抱いていた。そういうことであれば仲間になろうぞ』
よっしゃ、承諾してくれた。
『では、決まりですわね。実は、ラクダの乳がとても有用なものになりそうだと思っていたのですわ』
『ラクダの乳?』
『ええ。実はラクダの乳には病を防ぐ強い体を作る、という有益な効果があるのですわ』
前世、ラクダやアルパカ、ラマ等のラクダ科の家畜が研究されていた。
というのも、過酷な環境で生きのびられる彼らは、特殊で有用な免疫グロブリンを持っていたからである。
今の技術ではその利用は無理だとしても、ラクダミルクがある。ラクダミルクもまた免疫を高める食べ物として注目されていた。
目の前のラクダは勿論中東で問題になっていた人間に感染する病気も持っていない。増やしてラクダミルク生産が出来れば、それを薬として取り扱う事も出来るだろう。
ラクダミルクの有用性を説明すると、皇帝イブラヒームは『成程、それは良いことを教えてくれた』と嬉しそうに口の端を上げた。
「『で、あれば。ラクダの使いに長けた者を数人置いて行こう。そう言えば、北方の遊牧民はラクダの乳酒を作っておるな。それならば日持ちがするし、製法も分かるが』」
えっ、マジで!?
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