貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
536 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

重鎖のみのY字型のアレ。

 マジだ。マジでヒトコブラクダが居る。

 キャラバンですかって聞きたくなるほどの、何頭ものラクダが見慣れた我が家の庭にたむろしていた。
 しかも、アヤスラニ帝国風の煌びやかな鞍や飾りを付けられていて華やかである。
 エジプトとかの観光地とかに居そうだな、と思っていると。


 ヴァ~~~~……
 ヴォエッ、ヴォォォロェッ……


「……」

 不意に響いて来た鳴き声に、父サイモンが顔を盛大に引き攣らせている。母ティヴィーナや女王リュサイは「まあっ」等と驚いたように口元に手を当てていた。
 アンニュイな表情、長い睫毛……ラクダの鳴き声は前世でもあまり聞いたことが無かったが。

 何というか……

 「……盛大にゲロっている音に似ているな」

 うん、私も同感だわカレル兄。

 「久々に聞いたけど、相変わらず強烈だなぁー」

 あはは……とグレイが乾いた笑い声を上げている。
 イドゥリース、スレイマンは苦笑いだ。祖父ジャルダン、祖母ラトゥ、メリーやイサーク達はツボに嵌ったのかクスクスと笑っていた。

 ちなみにラクダは夥しい量の荷物を背負ってきていたようで、アヤスラニ帝国人達が沢山の荷物を検品している。その中から進み出て来たのは、皇帝イブラヒームだった。

 「『おお、無事に戻られて何よりです。丁度国から聖女様への贈り物が届いたところなのです』」

 「特使殿、これは……」

 「マリーへの誕生祝いが届いたとのことです、義父様」

 父サイモンの問いかけに、グレイが通訳をする。
 多分、丁度私達の馬車の後ろから追いかける形で来ていたのだろうな。
 ナヴィガポールから王都まで……街道は煌びやかなラクダキャラバンの噂でもちきりになっているに違いない。
 お蔭でカナールの民を連れて帰ったのが目立たなくなる――キャラバン隊、グッジョブだ。


***


 贈り物の検品が無事に終わったところで。

 「「「『聖女様、どうぞお納め下さい』」」」

 私の目の前で、アヤスラニ帝国人達が贈り物を捧げ持って跪いている。特使を装う皇帝イブラヒームも頭を垂れていた。その様を見ていると朝貢を受ける則天武后のような気分である。うむ、くるしゅうないぞ。

 「まあ……何と見事な」
 「本当ですわね、アヤスラニ帝国がこれほど裕福だとは」

 母ティヴィーナと女王リュサイが溜息を吐く。
 見渡す限り、金銀財宝や上質で煌びやかな布、そしてアヤスラニ帝国の名工の手によるものだという芸術的な工芸品の数々が私に向けて捧げ持たれていた――後世博物館に陳列されそうな見事さである。
 全部合わせて金銭換算すると、小国の国家予算ぐらいは軽く超えるかも知れない。それをぽんと気前よく贈り物としてくれるなんて流石皇帝だ。

 それらの品々も勿論嬉しいが、実は私が一番喜んでいるのはラクダであった。
 ゲロっているような鳴き声であろうが、ラクダは可愛いし厳しい環境でも生きのびられる有益な生き物だし、何より――ラクダの持つある特性を思ってラクダを見つめていると。

 「『――ラクダを見て微笑んでいらっしゃいますが、何か?』」

 皇帝が不思議そうに問いかけて来た。私は知らず、ニコニコしていたらしい。
 宝石財宝ではなくラクダを上機嫌に見ている私が不思議だったのだろう、アヤスラニ帝国人達も怪訝そうにしている。
 私は唇に人差し指を当てた。

 「あら、理由を知りたいのかしら。 あのラクダ達も、勿論下さるのよね?」

 「『それは構わ……構いませんが』」

 リストに無い贈り物ラクダをねだる私。戸惑いながらも頷く皇帝イブラヒームに、グレイが「『彼女は動物が好きなんですよ、特使殿』」と説明した。
 しかし納得いかない様子で『……それだけが理由ではあるまい』と考えている。

 『正解ですわ、うふふ』

 じっと私を見つめる皇帝。
 まあ、息子のオス麿と違って皇帝イブラヒームには悪い印象はない。
 人としても信用出来るだろう。

 『イブラヒーム陛下、私の仲間になりませんか?』

 『仲間?』

 『ええ。どうせこれから身分を明かしてイドゥリース様とメリーの婚約を父に申し出ようと考えていらっしゃるのでしょう?
 私としても、皇太子オスマン殿下が次代の皇帝に即位されるのは、攫われた身としては少々不安を覚えておりますの。
 もし、皇帝陛下が私の仲間となってくださって――代替わりしたとしても帝国の実権を握り、オスマン殿下の暴走を押さえて下さる、と仰るのであれば。私としても安心して色々便宜を図ったり知識などの交流が出来るのですが』

 ちなみに他国にも仲間はおりますわ。国境関係なく、共存共栄の商売圏を築く目的なんですの、と本音を交えて皇帝イブラヒームを取り込みにかかる。
 そうした精神感応での無言の会話の後、皇帝はしばし考え込み。

 『はぁ、全てお見通しなのだな。まあ、オスマンのことについては朕も懸念を抱いていた。そういうことであれば仲間になろうぞ』

 よっしゃ、承諾してくれた。

 『では、決まりですわね。実は、ラクダの乳がとても有用なものになりそうだと思っていたのですわ』

 『ラクダの乳?』

 『ええ。実はラクダの乳には病を防ぐ強い体を作る、という有益な効果があるのですわ』

 前世、ラクダやアルパカ、ラマ等のラクダ科の家畜が研究されていた。
 というのも、過酷な環境で生きのびられる彼らは、特殊で有用な免疫グロブリンを持っていたからである。

 今の技術ではその利用は無理だとしても、ラクダミルクがある。ラクダミルクもまた免疫を高める食べ物として注目されていた。
 目の前のラクダは勿論中東で問題になっていた人間に感染する病気も持っていない。増やしてラクダミルク生産が出来れば、それを薬として取り扱う事も出来るだろう。
 ラクダミルクの有用性を説明すると、皇帝イブラヒームは『成程、それは良いことを教えてくれた』と嬉しそうに口の端を上げた。

 「『で、あれば。ラクダの使いに長けた者を数人置いて行こう。そう言えば、北方の遊牧民はラクダの乳酒シュバットを作っておるな。それならば日持ちがするし、製法も分かるが』」

 えっ、マジで!?

 脳内検索すると、ラクダの乳で作った酒も効果は同じらしい。
 日持ちするならば断然そっちの方が良いに決まってる。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。