貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】

婚約成立で試される我が家。

 「はぁ……失礼致しました」

 まったくである。
 グレイに「この縁談でこちらにも良いことがあるって伝えただけよ?」等と弁解している最中――先程の雄叫びで皇帝の部下達がすわ、と騒いでこちらへ乗り込んで来ようとしたり、皇帝イブラヒームの一声で再び隣室へ戻されたり。
 そのすったもんだの末、漸く戻って来て詫びながら席に着いた父サイモンに、皇帝は少々面食らっているようだ。

 「『サイモン卿……この縁談はそこまで叫ぶほどのことなのか?』」

 「いえ、縁談そのものではなく……昔から色々と、本当に色々と、この馬鹿娘には肉体的精神的疲弊をさせられてきましたが……今回ばかりは流石に許容量を超えまして」

 皇帝のカミングアウトからのメリーの婚約申し込み。止めに私の囁き、と三段構えの精神的パンチ。
 一気に情報が入って来たことでキャパオーバーになってしまったらしい。
 皇帝はふむ、と何かを思い出すように天井をちらりと見る。

 「『成程、分からぬでもない。聖女より初めて接触を受けた時は朕も飛び上がる程驚いたものだ。ああいう驚くべきことが次から次へと引き起こされるのであれば、うむ……お察しする』」

 グレイが隣でうんうん頷いている。
 お察ししないで欲しいんですけどー!
 私がぷくっと頬を膨らませていると、父サイモンは「ご理解頂けて何よりです、」と溜息を一つ吐いた後、メリーを見つめた。

 「それで。メリー、お前は本当に構わないのだな」

 「ええ、お父様」

 「ならば是非も無い。婚約を許そう」

 「あ、ありがとうございます!」

 「嬉しいわ、イドゥリース様!」

 父が頷くと、礼を言うイドゥリース。メリーがそれに抱き着いている。
 家族皆が微笑み、めいめい二人に祝福の言葉を掛け、二人の婚約が決まったことを喜んでいた。
 皇帝イブラヒームが嬉しそうに手を叩く。

 「『何と目出度いことだ。サイモン卿、承諾頂き感謝する。先程も伝えた通り、財産は我が国が充分に保証する故、小さな爵位でも構わぬ――イドゥリースに黄昏の姫に見合う分だけのこの国の身分を与えてやってはくれぬか』」

 「勿論です。これからはお互い親戚同士となる身、宜しくお願い申し上げます」

 「『こちらこそ。後、小規模でも構わぬ故、婚約の儀式をすることは可能であろうか? 聖女への贈り物と合わせて必要な品を色々と持って来させている。それを見届けてから帰りたいのだ』」

 皇帝イブラヒームは最初から婚約の承諾を得るつもりで用意していたようだ。精神感応を使うと、断られた時にはアヤスラニ帝国総力を挙げてでも、と考えていたことが分かる。

 「……そう言う事であれば、後二週間程我が家に滞在して行かれるが宜しいかと」

 その間に何とか体裁だけでも婚約式を整えるつもりなのだろう。
 父サイモンは圧力を感じているのか、手をぐっと握りしめている。皇帝の言葉の節々に、我が家の力が試されていると感じたようだ。

 婚約が無事に決まったところで。私達は喫茶室へ移動し、更に話し合いを持った。
 皇帝イブラヒームの銀行アヤスラニ帝国支店や鉱山採掘に関わる株の取り分、その他細々としたことを話し合って決めた。
 そうそう、皇帝は側近部下共々明日にでも種痘を受けたいそうだ。それならば、とラベンダー修道院に使いを出す。勿論国に帰ったら皇帝自ら種痘接種を推奨してくれるとのこと。
 種痘に関しては賛否両論で分かれているようだが、皇帝自ら受けて何ともなかったということなら、表立って反対は出来まい。


***


 「『摩利支菩薩様! よくぞご無事で』」

 心配だったヨシヒコに会いに行くと、無事を喜ばれた。コミュニケーションカードは便利に機能しているようで、ヨシヒコの表情には幾分か余裕が生まれている。私が居ない間、彼の妻子――アヤメとタカオというらしい――が無事に送り届けられていたのもその理由だろう。
 記憶を読むと、お互い大号泣しての感動の再会だったようだ。
 ヨシヒコは少し離れた場所で戸惑ったように彼を見つめる妻子を振り返った。

 「『アヤメ、タカオ。この御方はな、摩利支菩薩様の化身のマリ様だ。おら達家族がこうして再び会えたのも、マリ様のお蔭だと話したろう? さあ、ご挨拶をするんだ』」

 ヨシヒコに私の事は言い含められているのだろうが、警戒しているのか固い表情でこちらを見る妻子。

 「『……でもあんた、異国人の言葉なんて話せないよ』」

 困惑を深める妻アヤメ。すると子供のタカオが首を小さく傾げている。

 「『待って、母ちゃん。父ちゃんは話したんだよね? どうやって?』」

 そこで私は精神感応を使った。

 『はじめまして、アヤメさん、タカオ君。私はマリー』

 「『ひゃあ!』」
 「『うわっ!?』」

 脳裏に直接響いた言葉。飛び上がって驚く二人に微笑みかける。

 『うふふ、こんな風にしてお話し出来るから、安心してね』

 「『二人共、分かったか。マリ様は神通力をお使いなさるのだ』」

 得意気なヨシヒコの言葉に驚き冷めやらぬままコクコクと頷く彼の妻子。
 その後、ヨシヒコ達がうちに来ることとなった経緯やこれからの待遇等を伝えると、アヤメとタカオの警戒の色は次第に薄れて行き、最後には深く感謝されることとなったのだった。

 そしてヤンから、語学教師の面接の件での連絡が来る。
 良い人であることを願うばかりだ。
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