538 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【1】
婚約成立で試される我が家。
「はぁ……失礼致しました」
まったくである。
グレイに「この縁談でこちらにも良いことがあるって伝えただけよ?」等と弁解している最中――先程の雄叫びで皇帝の部下達がすわ、と騒いでこちらへ乗り込んで来ようとしたり、皇帝イブラヒームの一声で再び隣室へ戻されたり。
そのすったもんだの末、漸く戻って来て詫びながら席に着いた父サイモンに、皇帝は少々面食らっているようだ。
「『サイモン卿……この縁談はそこまで叫ぶほどのことなのか?』」
「いえ、縁談そのものではなく……昔から色々と、本当に色々と、この馬鹿娘には肉体的精神的疲弊をさせられてきましたが……今回ばかりは流石に許容量を超えまして」
皇帝のカミングアウトからのメリーの婚約申し込み。止めに私の囁き、と三段構えの精神的パンチ。
一気に情報が入って来たことでキャパオーバーになってしまったらしい。
皇帝はふむ、と何かを思い出すように天井をちらりと見る。
「『成程、分からぬでもない。聖女より初めて接触を受けた時は朕も飛び上がる程驚いたものだ。ああいう驚くべきことが次から次へと引き起こされるのであれば、うむ……お察しする』」
グレイが隣でうんうん頷いている。
お察ししないで欲しいんですけどー!
私がぷくっと頬を膨らませていると、父サイモンは「ご理解頂けて何よりです、」と溜息を一つ吐いた後、メリーを見つめた。
「それで。メリー、お前は本当に構わないのだな」
「ええ、お父様」
「ならば是非も無い。婚約を許そう」
「あ、ありがとうございます!」
「嬉しいわ、イドゥリース様!」
父が頷くと、礼を言うイドゥリース。メリーがそれに抱き着いている。
家族皆が微笑み、めいめい二人に祝福の言葉を掛け、二人の婚約が決まったことを喜んでいた。
皇帝イブラヒームが嬉しそうに手を叩く。
「『何と目出度いことだ。サイモン卿、承諾頂き感謝する。先程も伝えた通り、財産は我が国が充分に保証する故、小さな爵位でも構わぬ――イドゥリースに黄昏の姫に見合う分だけのこの国の身分を与えてやってはくれぬか』」
「勿論です。これからはお互い親戚同士となる身、宜しくお願い申し上げます」
「『こちらこそ。後、小規模でも構わぬ故、婚約の儀式をすることは可能であろうか? 聖女への贈り物と合わせて必要な品を色々と持って来させている。それを見届けてから帰りたいのだ』」
皇帝イブラヒームは最初から婚約の承諾を得るつもりで用意していたようだ。精神感応を使うと、断られた時にはアヤスラニ帝国総力を挙げてでも、と考えていたことが分かる。
「……そう言う事であれば、後二週間程我が家に滞在して行かれるが宜しいかと」
その間に何とか体裁だけでも婚約式を整えるつもりなのだろう。
父サイモンは圧力を感じているのか、手をぐっと握りしめている。皇帝の言葉の節々に、我が家の力が試されていると感じたようだ。
婚約が無事に決まったところで。私達は喫茶室へ移動し、更に話し合いを持った。
皇帝イブラヒームの銀行アヤスラニ帝国支店や鉱山採掘に関わる株の取り分、その他細々としたことを話し合って決めた。
そうそう、皇帝は側近部下共々明日にでも種痘を受けたいそうだ。それならば、とラベンダー修道院に使いを出す。勿論国に帰ったら皇帝自ら種痘接種を推奨してくれるとのこと。
種痘に関しては賛否両論で分かれているようだが、皇帝自ら受けて何ともなかったということなら、表立って反対は出来まい。
***
「『摩利支菩薩様! よくぞご無事で』」
心配だったヨシヒコに会いに行くと、無事を喜ばれた。コミュニケーションカードは便利に機能しているようで、ヨシヒコの表情には幾分か余裕が生まれている。私が居ない間、彼の妻子――アヤメとタカオというらしい――が無事に送り届けられていたのもその理由だろう。
記憶を読むと、お互い大号泣しての感動の再会だったようだ。
ヨシヒコは少し離れた場所で戸惑ったように彼を見つめる妻子を振り返った。
「『アヤメ、タカオ。この御方はな、摩利支菩薩様の化身のマリ様だ。おら達家族がこうして再び会えたのも、マリ様のお蔭だと話したろう? さあ、ご挨拶をするんだ』」
ヨシヒコに私の事は言い含められているのだろうが、警戒しているのか固い表情でこちらを見る妻子。
「『……でもあんた、異国人の言葉なんて話せないよ』」
困惑を深める妻アヤメ。すると子供のタカオが首を小さく傾げている。
「『待って、母ちゃん。父ちゃんは話したんだよね? どうやって?』」
そこで私は精神感応を使った。
『はじめまして、アヤメさん、タカオ君。私はマリー』
「『ひゃあ!』」
「『うわっ!?』」
脳裏に直接響いた言葉。飛び上がって驚く二人に微笑みかける。
『うふふ、こんな風にしてお話し出来るから、安心してね』
「『二人共、分かったか。マリ様は神通力をお使いなさるのだ』」
得意気なヨシヒコの言葉に驚き冷めやらぬままコクコクと頷く彼の妻子。
その後、ヨシヒコ達がうちに来ることとなった経緯やこれからの待遇等を伝えると、アヤメとタカオの警戒の色は次第に薄れて行き、最後には深く感謝されることとなったのだった。
そしてヤンから、語学教師の面接の件での連絡が来る。
良い人であることを願うばかりだ。
まったくである。
グレイに「この縁談でこちらにも良いことがあるって伝えただけよ?」等と弁解している最中――先程の雄叫びで皇帝の部下達がすわ、と騒いでこちらへ乗り込んで来ようとしたり、皇帝イブラヒームの一声で再び隣室へ戻されたり。
そのすったもんだの末、漸く戻って来て詫びながら席に着いた父サイモンに、皇帝は少々面食らっているようだ。
「『サイモン卿……この縁談はそこまで叫ぶほどのことなのか?』」
「いえ、縁談そのものではなく……昔から色々と、本当に色々と、この馬鹿娘には肉体的精神的疲弊をさせられてきましたが……今回ばかりは流石に許容量を超えまして」
皇帝のカミングアウトからのメリーの婚約申し込み。止めに私の囁き、と三段構えの精神的パンチ。
一気に情報が入って来たことでキャパオーバーになってしまったらしい。
皇帝はふむ、と何かを思い出すように天井をちらりと見る。
「『成程、分からぬでもない。聖女より初めて接触を受けた時は朕も飛び上がる程驚いたものだ。ああいう驚くべきことが次から次へと引き起こされるのであれば、うむ……お察しする』」
グレイが隣でうんうん頷いている。
お察ししないで欲しいんですけどー!
私がぷくっと頬を膨らませていると、父サイモンは「ご理解頂けて何よりです、」と溜息を一つ吐いた後、メリーを見つめた。
「それで。メリー、お前は本当に構わないのだな」
「ええ、お父様」
「ならば是非も無い。婚約を許そう」
「あ、ありがとうございます!」
「嬉しいわ、イドゥリース様!」
父が頷くと、礼を言うイドゥリース。メリーがそれに抱き着いている。
家族皆が微笑み、めいめい二人に祝福の言葉を掛け、二人の婚約が決まったことを喜んでいた。
皇帝イブラヒームが嬉しそうに手を叩く。
「『何と目出度いことだ。サイモン卿、承諾頂き感謝する。先程も伝えた通り、財産は我が国が充分に保証する故、小さな爵位でも構わぬ――イドゥリースに黄昏の姫に見合う分だけのこの国の身分を与えてやってはくれぬか』」
「勿論です。これからはお互い親戚同士となる身、宜しくお願い申し上げます」
「『こちらこそ。後、小規模でも構わぬ故、婚約の儀式をすることは可能であろうか? 聖女への贈り物と合わせて必要な品を色々と持って来させている。それを見届けてから帰りたいのだ』」
皇帝イブラヒームは最初から婚約の承諾を得るつもりで用意していたようだ。精神感応を使うと、断られた時にはアヤスラニ帝国総力を挙げてでも、と考えていたことが分かる。
「……そう言う事であれば、後二週間程我が家に滞在して行かれるが宜しいかと」
その間に何とか体裁だけでも婚約式を整えるつもりなのだろう。
父サイモンは圧力を感じているのか、手をぐっと握りしめている。皇帝の言葉の節々に、我が家の力が試されていると感じたようだ。
婚約が無事に決まったところで。私達は喫茶室へ移動し、更に話し合いを持った。
皇帝イブラヒームの銀行アヤスラニ帝国支店や鉱山採掘に関わる株の取り分、その他細々としたことを話し合って決めた。
そうそう、皇帝は側近部下共々明日にでも種痘を受けたいそうだ。それならば、とラベンダー修道院に使いを出す。勿論国に帰ったら皇帝自ら種痘接種を推奨してくれるとのこと。
種痘に関しては賛否両論で分かれているようだが、皇帝自ら受けて何ともなかったということなら、表立って反対は出来まい。
***
「『摩利支菩薩様! よくぞご無事で』」
心配だったヨシヒコに会いに行くと、無事を喜ばれた。コミュニケーションカードは便利に機能しているようで、ヨシヒコの表情には幾分か余裕が生まれている。私が居ない間、彼の妻子――アヤメとタカオというらしい――が無事に送り届けられていたのもその理由だろう。
記憶を読むと、お互い大号泣しての感動の再会だったようだ。
ヨシヒコは少し離れた場所で戸惑ったように彼を見つめる妻子を振り返った。
「『アヤメ、タカオ。この御方はな、摩利支菩薩様の化身のマリ様だ。おら達家族がこうして再び会えたのも、マリ様のお蔭だと話したろう? さあ、ご挨拶をするんだ』」
ヨシヒコに私の事は言い含められているのだろうが、警戒しているのか固い表情でこちらを見る妻子。
「『……でもあんた、異国人の言葉なんて話せないよ』」
困惑を深める妻アヤメ。すると子供のタカオが首を小さく傾げている。
「『待って、母ちゃん。父ちゃんは話したんだよね? どうやって?』」
そこで私は精神感応を使った。
『はじめまして、アヤメさん、タカオ君。私はマリー』
「『ひゃあ!』」
「『うわっ!?』」
脳裏に直接響いた言葉。飛び上がって驚く二人に微笑みかける。
『うふふ、こんな風にしてお話し出来るから、安心してね』
「『二人共、分かったか。マリ様は神通力をお使いなさるのだ』」
得意気なヨシヒコの言葉に驚き冷めやらぬままコクコクと頷く彼の妻子。
その後、ヨシヒコ達がうちに来ることとなった経緯やこれからの待遇等を伝えると、アヤメとタカオの警戒の色は次第に薄れて行き、最後には深く感謝されることとなったのだった。
そしてヤンから、語学教師の面接の件での連絡が来る。
良い人であることを願うばかりだ。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。