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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(133)
「本日はお越し頂きありがとうございました」
婚約式が終わり。僕とマリーは来客達を見送っていた。
どの客人も土産を手に冷めやらぬ興奮と満足を顔に浮かべて馬車に乗り込んでいく。
途中で祖父母と両親、アール、アナベラ様がやってきたので話が出来なかった事を言うと、「蒸気機関車は今日だけかも知れないけど、グレイは何時でも話せるだろう?」という事だった。
マリーが夕食をと引き留めたけれど、積もる仕事も残っているので今日はルフナー子爵家に帰るらしい。
それを見送った後。
傍では何時の間にか三魔女がやってきていて、マリーと名残惜しく挨拶を交わしている。
ふと、エピテュミア・ディブロマ先代伯爵夫人が僕の方を見た。
「きっとこれから大忙しですわね」
ディブロマ先代伯爵と腕を組んだ夫人は意味ありげに微笑んでいる。その言わんとするところを察した僕は苦笑いを浮かべた。
「私達に出来る事があったら頼ってくれて構いませんよ」
「うふふ、貴方達の為ならいつでも助けるわ」
「ありがとうございます」
ディブロマ先代伯爵と夫人の言葉に、僕は素直に頭を下げて謝意を示した。
トラス王国の外交を担うディブロマ伯爵家。遅かれ早かれ蒸気機関車について国外から接触が来るだろう。その時力になってくれる、ということだ。
「私も勿論力になりますわぁ。王都周辺の警戒を強めなくちゃねぇ?」
「それは良い考えざます。私は宮廷貴族を引き締めるように動こうと思うざますわ」
エピテュミア夫人に続いて、前騎士団長の妻であるピュシス・カヴァルリ先代子爵夫人、前内務大臣の妻であるホルメー・サヴァン先代伯爵夫人も協力を申し出てくれた。
マリーが両手を合わせ、「まあ!」と嬉しそうにお礼を言っている。
『グレイ、蒸気機関車の株は三夫人にも融通しましょうね!』
マリーからのうきうきとした声が脳裏に響く。軍閥と政治閥が味方に付いてくれるなら、これほど力強い事は無い。サイモン様も反対はなさらないだろう。
紳士の礼を取りお礼を言いながら、僕は脳裏で同意を返した。
彼女達には後でしっかり贈り物をしなければ。
***
客人達を見送り終わると夕食まであと少し時間的猶予があったので、僕達は喫茶室へ移動して一休みすることになった。
ヴォルフガングに言われた事をどう切り出そうかと考えていると、満足そうにしていた特使――アヤスラニ皇帝イブラヒームがオディロン陛下と文通の約束をした、と驚くべき発言をした。アルバート殿下が頭を抱えていた余興の時なんだろうけど、僕はうっかり紅茶を噴きそうになったよ。
「お気に召したみたいで何よりですわ」
と微笑むマリー。
皇帝イブラヒームはうむ、と頷く。次の瞬間には、肉を欲するライオンのような覇気を醸し出し始めた。
「『それで、聖女――あれを大きくしたものが途方もない多くの物資を乗せてこの大地を走るのであろう?』」
大国を束ねる皇帝の凄みのある眼差し。
僕は気圧されてごくりと唾を飲み込む。正直エピテュミア夫人の助けが欲しいけど、いくらディブロマ伯爵家であってもこれは流石に対応出来ないだろう。サイモン様も僕と同じように圧倒されているのか、固まっていた。
マリーは動じた様子はなく、「きっとそう仰ると思っておりましたわ」と微笑んでいる。
「ご覧になった通り、あれはこの世界を変える程の力を秘めたもの。あれを大きくしていくには、時間も費用も技術者もまだまだ必要になりますの。それらをクリアして大型化出来たとしても、普及はトラス王国が先ですわね。しかし条件次第では――」
あ、マリーがまた何時かのように先走って独断で交渉しようとしている。
何とか精神を立て直し。
止めないと……と思考を働かせた、その時だった。
「大変ですぞ、聖女様!」
けたたましい音と共に、喫茶室の扉が乱暴に開かれた。そこに立っていたのは珍しく息を荒げるアルトガルと――カーフィの姿。
――何事?
それよりもカーフィが何故。
アルトガルがこんな無作法をするなんて。
頭がぐるぐるして言葉を失っていると、ヨハンとシュテファンがアルトガルを窘める。
しかしアルトガルはそんな場合ではないと首を横に振った。
――神聖アレマニア帝国で、アブラーモ大司教が教皇を僭称す。
その上、マリーが魔女だと糾弾されているとのこと。
それを聞いた瞬間、僕の精神的許容量が限界を迎えたように思う。
一体何が起こっているんだ!?
婚約式が終わり。僕とマリーは来客達を見送っていた。
どの客人も土産を手に冷めやらぬ興奮と満足を顔に浮かべて馬車に乗り込んでいく。
途中で祖父母と両親、アール、アナベラ様がやってきたので話が出来なかった事を言うと、「蒸気機関車は今日だけかも知れないけど、グレイは何時でも話せるだろう?」という事だった。
マリーが夕食をと引き留めたけれど、積もる仕事も残っているので今日はルフナー子爵家に帰るらしい。
それを見送った後。
傍では何時の間にか三魔女がやってきていて、マリーと名残惜しく挨拶を交わしている。
ふと、エピテュミア・ディブロマ先代伯爵夫人が僕の方を見た。
「きっとこれから大忙しですわね」
ディブロマ先代伯爵と腕を組んだ夫人は意味ありげに微笑んでいる。その言わんとするところを察した僕は苦笑いを浮かべた。
「私達に出来る事があったら頼ってくれて構いませんよ」
「うふふ、貴方達の為ならいつでも助けるわ」
「ありがとうございます」
ディブロマ先代伯爵と夫人の言葉に、僕は素直に頭を下げて謝意を示した。
トラス王国の外交を担うディブロマ伯爵家。遅かれ早かれ蒸気機関車について国外から接触が来るだろう。その時力になってくれる、ということだ。
「私も勿論力になりますわぁ。王都周辺の警戒を強めなくちゃねぇ?」
「それは良い考えざます。私は宮廷貴族を引き締めるように動こうと思うざますわ」
エピテュミア夫人に続いて、前騎士団長の妻であるピュシス・カヴァルリ先代子爵夫人、前内務大臣の妻であるホルメー・サヴァン先代伯爵夫人も協力を申し出てくれた。
マリーが両手を合わせ、「まあ!」と嬉しそうにお礼を言っている。
『グレイ、蒸気機関車の株は三夫人にも融通しましょうね!』
マリーからのうきうきとした声が脳裏に響く。軍閥と政治閥が味方に付いてくれるなら、これほど力強い事は無い。サイモン様も反対はなさらないだろう。
紳士の礼を取りお礼を言いながら、僕は脳裏で同意を返した。
彼女達には後でしっかり贈り物をしなければ。
***
客人達を見送り終わると夕食まであと少し時間的猶予があったので、僕達は喫茶室へ移動して一休みすることになった。
ヴォルフガングに言われた事をどう切り出そうかと考えていると、満足そうにしていた特使――アヤスラニ皇帝イブラヒームがオディロン陛下と文通の約束をした、と驚くべき発言をした。アルバート殿下が頭を抱えていた余興の時なんだろうけど、僕はうっかり紅茶を噴きそうになったよ。
「お気に召したみたいで何よりですわ」
と微笑むマリー。
皇帝イブラヒームはうむ、と頷く。次の瞬間には、肉を欲するライオンのような覇気を醸し出し始めた。
「『それで、聖女――あれを大きくしたものが途方もない多くの物資を乗せてこの大地を走るのであろう?』」
大国を束ねる皇帝の凄みのある眼差し。
僕は気圧されてごくりと唾を飲み込む。正直エピテュミア夫人の助けが欲しいけど、いくらディブロマ伯爵家であってもこれは流石に対応出来ないだろう。サイモン様も僕と同じように圧倒されているのか、固まっていた。
マリーは動じた様子はなく、「きっとそう仰ると思っておりましたわ」と微笑んでいる。
「ご覧になった通り、あれはこの世界を変える程の力を秘めたもの。あれを大きくしていくには、時間も費用も技術者もまだまだ必要になりますの。それらをクリアして大型化出来たとしても、普及はトラス王国が先ですわね。しかし条件次第では――」
あ、マリーがまた何時かのように先走って独断で交渉しようとしている。
何とか精神を立て直し。
止めないと……と思考を働かせた、その時だった。
「大変ですぞ、聖女様!」
けたたましい音と共に、喫茶室の扉が乱暴に開かれた。そこに立っていたのは珍しく息を荒げるアルトガルと――カーフィの姿。
――何事?
それよりもカーフィが何故。
アルトガルがこんな無作法をするなんて。
頭がぐるぐるして言葉を失っていると、ヨハンとシュテファンがアルトガルを窘める。
しかしアルトガルはそんな場合ではないと首を横に振った。
――神聖アレマニア帝国で、アブラーモ大司教が教皇を僭称す。
その上、マリーが魔女だと糾弾されているとのこと。
それを聞いた瞬間、僕の精神的許容量が限界を迎えたように思う。
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