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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
グレイ・ダージリン(141)
そう言うと、コロンボ子爵は「問題は聖女様側がどうやってそれを知ったか、ですが。こればかりは分かりません」と肩を竦めた。
「……であろうな。調査するべきであろう」
それこそ、聖女の奇跡の力としか説明が付かない。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも宰相は先程のビアッジョの言葉を無視出来ないでいる。
――これまで、聖女が不思議な力を持っているというのは教会が箔付けの為に話を作ったり盛ったりしたのだろうと眉唾に思っていたが。
集めた聖女の情報を思い出す。
コリピサでチッチョ・ペスクッチなる小役人が不興を買ったとの話を耳に挟んだ。コリピサの領主に話を聞けば、どうやって知ったのかシルヴィオ王子から件の者が仕出かした内容の手紙を受け取ったのだという。
チッチョ本人はアヤスラニ帝国からの罪人を捕らえるのに協力を申し出られ、コリピサの治安を守るためにやったのだと主張していたが、帝国人から賄賂を受け取っていたとの内部告発及び聖地との関係を慮って牢に放り込んだのだそうだ。
召し出して聖女の為人を訊ねたが、チッチョの恨み事を差し引いても世間知らずで傲慢な貴族の小娘という印象。
聖女と言っても傀儡であるならば、教皇猊下とさえ良い関係を築いていれば問題無かった――その筈、だったのに。
自分でも荒唐無稽だと思いながらも、宰相は聖女が何らかの力で金鉱山をピンポイントで探し当てたのではと考え始めていた。
「解せぬ事がもう一つある。金鉱山の情報を聖女様が持っていたとしても、何故父王陛下に報告せず教会を使って兄に肩入れするのだろう? 金鉱山と引き換えに復興支援金の交渉をして下されば応じると思うのだが」
渋面で頬杖をつく王太子ルイージがファブリチオに視線を向ける。
「僭越ながら発言を宜しいでしょうか、」と口を開いたのはビアッジョだった。
「シルヴィオ殿下は聖女様とご友人関係にあり、懇意にされているとか。それに加え、コスタポリで出回っている商品券なるものは聖女様の夫君のご実家、ルフナー子爵家が関わっているものだそうで……もしかすると貨幣との引き換えを拒否したことで、聖女様にガリア王家に対する不信感を抱かれてしまったのかも知れません」
「不信感、か。あのずる賢い兄の事だ、商品券の事にしろ最初から計画し、自分に有利になるように聖女様にあることないこと良いように吹き込んだに違いない。兄ではなく私が聖女様と友人になれていたら、金鉱山は今頃……!
メテオーラめ、素直に私と聖女様を引き合わせていれば良いものを」
聖女に面識を得たい、と散々手紙を送ったというのに、『聖女様は今お屋敷におられませんの』『お忙しいみたいでなかなか殿下の事をお伝えする機会がありませんわ』等とのらりくらりぎりの返事ばかり寄越すメテオーラ姫。
昔から勝気で女ながらに学問を好む小賢しい生意気な女だった。貴族達からの評判も、美しいが棘がある薔薇だと敬遠するものばかり。
だから彼女を娶れるのは王太子である自分ぐらいだろう、と思っていた。メテオーラにしてもガリア王妃にしてやるのだ、その栄誉を喜ぶだろうと考えていたというのに。
彼女は本来ルイージの婚約者になる筈だった。しかしそれが決まる前に逃げるようにトラス王国へ行ってしまったのだ。
その後ルイージに宛がわれた婚約者候補は、判を押したようにつまらぬ話ばかりをして媚びを売る娘達ばかり。容姿もメテオーラに及ばず、どうにも好きになれなかった。
そんなに私の事が嫌いなのか――ぎり、と奥歯を噛み締める王太子ルイージ。
勘気を感じ取った貴族達が慌てて王太子の言葉に賛同し始める。
「全く、この件はピロス公爵にも問いただすべきでしょう!」
「さよう、今やメテオーラ姫は次代トラス王妃。聖女様と親しい仲だと聞いております。姫経由で金鉱山の恩恵を、公爵も受ける事になっているやも知れませんな」
「全くピロス公爵もお人が悪い」
トラス王国とガリア王国の結びつきを深める婚姻。それ自体は目出度い事だが、実質一人勝ちしているのはピロス公爵であるというのが彼らの共通認識であった。
「友人……そうだ、このまま手を拱いている訳にもいかぬ」
王太子ルイージははっと何かを思いついたように顔を上げる。
「聖女様はそもそも私と面識が無い。トラス王国へ会いに行き、兄が聖女様に吹き込んだ誤解を解かなければ!」
使命感を漲らせる王太子。宰相ファブリチオは暫く考えた後、「トラス王国へご挨拶に向かわれては如何でしょう?」と進言する。
「新年の儀にて、大々的にトラス王国王太子殿下とメテオーラ姫との婚約が発表されると聞き及んでおります。その際、ピロス公爵は父親として出席する為にトラス王国に赴かれるとか。
ならば殿下は陛下の名代としてお祝いに行かれるのです。トラス王国の新年の儀は枢機卿ではなく聖女様が行われるでしょう」
「そうか、その手があったか。良い考えだ、宰相!」
「早速陛下に進言致しましょうぞ」
宰相ファブリスは微笑んで頷いた。
王太子ルイージと共に手の者でも選りすぐった者を付け、更に有能な貴族を同行させる。
聖女が本当に金鉱山を見つけ出す程の超常的な力を持っているのかどうか、調べ確かめねばならない。
その結果次第では――王太子の元を辞した後、宰相ファブリスはガリア王宮の王の元へ続く渡り廊下の途中でふと立ち止まる。
遥か遠く、トラス王国のある北西を挑むようにいつまでもじっと見つめていたのだった。
「……であろうな。調査するべきであろう」
それこそ、聖女の奇跡の力としか説明が付かない。
馬鹿馬鹿しいと思いながらも宰相は先程のビアッジョの言葉を無視出来ないでいる。
――これまで、聖女が不思議な力を持っているというのは教会が箔付けの為に話を作ったり盛ったりしたのだろうと眉唾に思っていたが。
集めた聖女の情報を思い出す。
コリピサでチッチョ・ペスクッチなる小役人が不興を買ったとの話を耳に挟んだ。コリピサの領主に話を聞けば、どうやって知ったのかシルヴィオ王子から件の者が仕出かした内容の手紙を受け取ったのだという。
チッチョ本人はアヤスラニ帝国からの罪人を捕らえるのに協力を申し出られ、コリピサの治安を守るためにやったのだと主張していたが、帝国人から賄賂を受け取っていたとの内部告発及び聖地との関係を慮って牢に放り込んだのだそうだ。
召し出して聖女の為人を訊ねたが、チッチョの恨み事を差し引いても世間知らずで傲慢な貴族の小娘という印象。
聖女と言っても傀儡であるならば、教皇猊下とさえ良い関係を築いていれば問題無かった――その筈、だったのに。
自分でも荒唐無稽だと思いながらも、宰相は聖女が何らかの力で金鉱山をピンポイントで探し当てたのではと考え始めていた。
「解せぬ事がもう一つある。金鉱山の情報を聖女様が持っていたとしても、何故父王陛下に報告せず教会を使って兄に肩入れするのだろう? 金鉱山と引き換えに復興支援金の交渉をして下されば応じると思うのだが」
渋面で頬杖をつく王太子ルイージがファブリチオに視線を向ける。
「僭越ながら発言を宜しいでしょうか、」と口を開いたのはビアッジョだった。
「シルヴィオ殿下は聖女様とご友人関係にあり、懇意にされているとか。それに加え、コスタポリで出回っている商品券なるものは聖女様の夫君のご実家、ルフナー子爵家が関わっているものだそうで……もしかすると貨幣との引き換えを拒否したことで、聖女様にガリア王家に対する不信感を抱かれてしまったのかも知れません」
「不信感、か。あのずる賢い兄の事だ、商品券の事にしろ最初から計画し、自分に有利になるように聖女様にあることないこと良いように吹き込んだに違いない。兄ではなく私が聖女様と友人になれていたら、金鉱山は今頃……!
メテオーラめ、素直に私と聖女様を引き合わせていれば良いものを」
聖女に面識を得たい、と散々手紙を送ったというのに、『聖女様は今お屋敷におられませんの』『お忙しいみたいでなかなか殿下の事をお伝えする機会がありませんわ』等とのらりくらりぎりの返事ばかり寄越すメテオーラ姫。
昔から勝気で女ながらに学問を好む小賢しい生意気な女だった。貴族達からの評判も、美しいが棘がある薔薇だと敬遠するものばかり。
だから彼女を娶れるのは王太子である自分ぐらいだろう、と思っていた。メテオーラにしてもガリア王妃にしてやるのだ、その栄誉を喜ぶだろうと考えていたというのに。
彼女は本来ルイージの婚約者になる筈だった。しかしそれが決まる前に逃げるようにトラス王国へ行ってしまったのだ。
その後ルイージに宛がわれた婚約者候補は、判を押したようにつまらぬ話ばかりをして媚びを売る娘達ばかり。容姿もメテオーラに及ばず、どうにも好きになれなかった。
そんなに私の事が嫌いなのか――ぎり、と奥歯を噛み締める王太子ルイージ。
勘気を感じ取った貴族達が慌てて王太子の言葉に賛同し始める。
「全く、この件はピロス公爵にも問いただすべきでしょう!」
「さよう、今やメテオーラ姫は次代トラス王妃。聖女様と親しい仲だと聞いております。姫経由で金鉱山の恩恵を、公爵も受ける事になっているやも知れませんな」
「全くピロス公爵もお人が悪い」
トラス王国とガリア王国の結びつきを深める婚姻。それ自体は目出度い事だが、実質一人勝ちしているのはピロス公爵であるというのが彼らの共通認識であった。
「友人……そうだ、このまま手を拱いている訳にもいかぬ」
王太子ルイージははっと何かを思いついたように顔を上げる。
「聖女様はそもそも私と面識が無い。トラス王国へ会いに行き、兄が聖女様に吹き込んだ誤解を解かなければ!」
使命感を漲らせる王太子。宰相ファブリチオは暫く考えた後、「トラス王国へご挨拶に向かわれては如何でしょう?」と進言する。
「新年の儀にて、大々的にトラス王国王太子殿下とメテオーラ姫との婚約が発表されると聞き及んでおります。その際、ピロス公爵は父親として出席する為にトラス王国に赴かれるとか。
ならば殿下は陛下の名代としてお祝いに行かれるのです。トラス王国の新年の儀は枢機卿ではなく聖女様が行われるでしょう」
「そうか、その手があったか。良い考えだ、宰相!」
「早速陛下に進言致しましょうぞ」
宰相ファブリスは微笑んで頷いた。
王太子ルイージと共に手の者でも選りすぐった者を付け、更に有能な貴族を同行させる。
聖女が本当に金鉱山を見つけ出す程の超常的な力を持っているのかどうか、調べ確かめねばならない。
その結果次第では――王太子の元を辞した後、宰相ファブリスはガリア王宮の王の元へ続く渡り廊下の途中でふと立ち止まる。
遥か遠く、トラス王国のある北西を挑むようにいつまでもじっと見つめていたのだった。
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