貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

特使一行の出立。

 結局、あれからお茶会には間に合わなかった。
 我が家を出立する前の最後の食事という事で、義兄アールとアナベラ姉を交えての特使皇帝一行送別会ランチになったんだけど。

 「『ふふふ、先刻はなかなか愉快な光景を見せて貰った。良き思い出になったぞ』」

 笑いを堪え切れていない皇帝イブラヒームにいきなり切り出されて、私の頬が熱くなった。
 どうやらラクダとの騒ぎの一幕を、どこからか見られていたらしい。

 「……忘れて下さいまし」

 憮然として言うと、「僕も一緒に見てたけど、あれは本当に驚くよね」とグレイ。

 「僕も初めて見た時、悲鳴上げたもの」

 「あはは、あの時のグレイは本当に面白かったよ!」

 「ラクダ乗りの通過儀礼のようなものです」

 「メリーも見てみたかったな!」

 「あまり気持ちの良いものじゃないですよ?」

 スレイマンが思い出し笑いをし、メリーが羨ましそうにする一方、イドゥリース他アヤスラニ人達は苦笑いを浮かべている。他の皆は、「後で見に行ってみよう」と興味深々な様子。
 皇帝イブラヒームは「『『まあ、こうして笑い話で終わって良かったぞ』」と溜息を吐いた。

 「『これでも聖女達が追いかけられているのを見た時は背筋が凍りついていたのだ。
 ラクダの興奮具合によっては涎や口蓋ドゥーラだけでは済まず、尿を引っ掛けられる。最悪の場合、雄同士の争いに巻き込まれ、運悪く踏まれて死ぬ者も毎年一人二人は出るからな……おっと食事中であったな、失礼した』」

 カレル兄が青褪めた。

 「……てことは、俺達は相当危険だったってことか」

 「あ、危なかったのね」

 ラクダを飼うのは楽だなんてしょうもない事を言ってる場合じゃなかったな。
 ションベンを引っ掛けられなかっただけ良かったとしよう。

 ちなみに皇帝の言を聞いた父達には、人に慣れているとは言っても所詮は動物なのだからとカレル兄共々注意された。

 「今の『馬』で我慢しておくことだな」

 むぅ……馬は口から泡吹かないしションベンを引っ掛けて来ないから!

 私は諦めんぞ!



 ――という訳で。

 「『聖女……馬達が怯えているのだが』」

 アヤスラニ帝国特使皇帝一行の出立、キャンディ伯爵家一家総出での見送りの場。
 ラクダの代わりにアヤスラニ帝国特使皇帝一行に提供されたのは、グレイが手配した馬名人ウバの手掛けた駿馬達だ。
 リディクトは兎も角、私の愛馬を見慣れていない馬達は落ち着きを無くしていた。
 困惑する皇帝イブラヒームに、私はイサークと共に愛馬ハリボテに跨りヤケクソ気味に微笑む。

 「おほほほ、気のせいですわ。これは自他ともに認める私の愛馬なんですの。門へ続く道の途中までお見送り致しますわね!」

 「『……中身は聖騎士達か。よく見るとなかなか個性的な、目付きであるな……夢に見そうな程に』」

 皇帝イブラヒームは何かを堪えるようにやや頬をすぼめた。

 「お褒めに与り光栄ですわ!」

 馬は勿論六本脚バージョンだ。
 黒馬ナイトメアが悪夢の象徴なら、純白の天馬ハリボテは吉夢の象徴になるだろう。
 そんな私達の様子を見ていた父サイモンが、溜息を吐いて皇帝イブラヒームに紳士の礼を取った。

 「はぁ……申し訳ありません。マリー、何かあってはいけないから離れてついて行きなさい」

 「僕を挟んで向こう側に行くと良いよ」

 リディクトに跨った呆れ顔のグレイが皇帝の乗る馬の左隣に並ぶ。馬の脚共も大人しくグレイの左側へ回った。
 視界を遮られ、私の愛馬を視界から遠ざけたウバの馬達は落ち着きを取り戻し始める。
 ちなみにメリーはイドゥリースの前に行儀良く横乗りをしている。イドゥリースは皇帝の右側に轡を並べていた。

 「『サイモン卿、その家族にも世話になった事、感謝している。この国で過ごした日々は楽しかったぞ。
 では、さらばだ。皆息災であることを祈っている』」

 「我が家にご滞在下さった事、光栄に存じます。道中の無事を祈っております」

 父サイモンが代表して挨拶の口上を述べると、続いて外の面々がそれぞれの別れの言葉を口にしていく。
 それが済むと、特使一行は門に向かって進み始めた。

 「それでは、私はここまで。帰路が平穏無事でありますように! 刻印の事、くれぐれもよろしくお願いしますわ」

 「またね、おじさん! 僕、いつか蒸気機関車でアヤスラニ帝国に行くから!」

 「聖女、祝福を感謝する。イサーク、その日を楽しみにしていよう」

 グレイとイドゥリース達は門近くまで行くようだ。
 手を大きく降る。
 私達は、小さくなっていくその影がキャンディ伯爵家の門を出て見えなくなるまで暫しの間ずっと見送っていたのだった。


***


 馬の脚共に命じ、来た道を引き返して玄関前で下馬したところで。
 後ろから「おーい!」と声が追いかけて来る。
 何事かと思って振り向くと、グレイがリディクトを走らせてこちらへ向かってくるのが見えた。
 少し慌てた様子のグレイ。馬を降りる素振りも無いので、父サイモンが訝し気に「どうした?」と訊ねる。

 「エリーザベト殿下の荷物がトゥラントゥール宮殿から到着したのですが――実は、ジェレミー殿下が届けに来られたんです!」

 「は?」

 予期せぬ人物の名。驚いた私は皇女エリーザベトに視線を向けた。
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