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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
第二王子ジェレミー①
肩口で切り揃えられたプラチナブロンドの髪に紫がかったアクアマリンの瞳を持つ、精霊の如く美しい第二王子――それが宮廷貴族達がジェレミーを讃える言葉であった。
「私の可愛いジェレミー、そなたは母の言う事を聞いておれば間違いないのです」
そんな王妃である母サブリナの口癖は、ジェレミーが物心ついた時から幾度となく繰り返されていた。
兄王子アルバートを産んだ先代王妃が亡くなった後、その後釜に座った母は野心家だった。
「兄王子に負けぬよう、精進しなさい」
これも事ある事に言われた言葉だ。
表向き、誰に聞かれているとも知れないので露骨には言わないが、母は兄王子をおしのけてジェレミーが王になる事を望んでいたのである。
母はジェレミーに対して兄王子アルバートよりも優秀である事を求めた。
優秀な家庭教師が選ばれ、ジェレミーにつけられた。
だが、ジェレミーとて遊びたい盛りである。じっと座って小難しい事を学ぶことは苦痛以外の何物でもなかった。
自然、授業から逃げ出すように。
ジェレミーが勉強の出来が芳しく無かったり授業をサボって逃げ出したりすると、王妃サブリナは烈火の如く怒った。
それに対し「歴史で学んだのですが、このままいけばこの国の王は兄がなるのですよね? 私がここまで勉強する必要はあるのですか」と異を唱えると、母は「王位継承権がある以上、必要があるに決まっています! そなたは出来の悪い愚かな王子となって私に恥をかかせるのですか!」と癇癪を起こした。
「逃げ出してごめんなさい……」
延々と説教をされた後で謝罪すると、母である王妃サブリナは溜息を吐く。
「ジェレミー、そなたの兄は既に陛下の傍で政を学んでいるのです」
母は、ジェレミーも父である国王陛下や貴族達に認めて貰うには優秀だと証明しなければならないと言う。兄王子が今のジェレミーと同じ年の時には既にもっと先の内容を学んでいたとも。
「おお、ジェレミー。私が誇れるような王子になってくれることを願って已みません。優秀であれば、国王陛下もそなたを誇りに思って下さる事でしょう」
しかしその国王陛下は多忙であり、ジェレミーとは滅多に会う事は無かった。
会っても口数が少なく、何を話していいのかジェレミーにも分からない。
ジェレミーにとって、父親であるトラス国王オディロンは遠い存在であったのである。兄王子等、会った事すらない。
母の兄、伯父のドルトン侯爵が訪ねて来る頻度の方が余程高かった。
伯父は何時もジェレミーを可愛がってくれ、母に叱られて落ち込んでいる時も話を聞いて慰めてくれる。自然、ジェレミーは優しい伯父を慕うようになった。
「ジェレミー殿下が困った時は、私が何時でもお助けしますよ」
そう言って頭を撫でてくれる伯父。伯父が連れて来る貴族達もいつもにこにことした良い人ばかり。
ジェレミーの世界はそんな優しいものだった。
日を重ねるにつれ、厳しさと難しさを増す王族教育以外は。
罪悪感を抱きながらも、あまりの辛さに授業を抜け出すのを止められなかった、そんなある日。
ジェレミーの学友として貴族の中から選ばれた子供が連れて来られる事になった。
「初めまして、私はジェレミー。これから宜しくね」
「ジェレミー殿下、初めまして。こちらこそ宜しくお願いします」
同じ年頃の友達が出来ると浮かれるジェレミー。
だが、彼らは学友として王子の相手をする一方で、もう一つ役目があった。
それは、王子が怠けたり悪さをした時に、王子の代わりに家庭教師から鞭打ちの罰を受ける、というもの。
最初、ジェレミーはその事を知らなかった。
母の兄である伯父ドルトン侯爵が連れて来た少年達。
彼らと仲良くなり始めた時にそれは起きた。
ある日、家庭教師が行った試験でジェレミーの出来が悪かった時があった。
すると、「復習を怠られましたな」とジェレミーととりわけ仲が良かった少年が家庭教師に鞭を打たれたのである。
泣き叫ぶ少年を庇ってジェレミーが苦情を申し立てると、
「殿下が学びを怠られたり悪い事を成さった場合、殿下の代わりにご友人たちが鞭打たれる事になりますので肝にお命じ下さいませ」
と言う。
「この事は国王陛下や王妃殿下、彼らの親御にもご了承頂いておりまする。
それに、殿下の学友として。また、殿下に代わって罰を受ける役目を賜る事は、彼らにとって名誉な事にございますれば」
呆然とするジェレミーにそう平然と言ってのける家庭教師。後で母に問いただすも似たような事を言われた。
だったら学友なんて要らない、と言ったが、「彼らから名誉を取り上げるのですか?」と許されなかった。
自然、ジェレミーは自分の行い次第で他者が傷つく事に恐れを抱くようになった。
自分と仲が良い少年が鞭打ちに選ばれると悟ってからは、誰とも平等に当たり障りなく接する事に勤める。
少年達が連れて来られるまでは授業をサボって遊びに行ったり悪戯をしたりした事もあったが、それもしないようになった。
――ただ自分が我慢して、母や家庭教師の言う通りに動きさえすれば平穏な日常が約束される。
そんな価値観がジェレミーを支配し始めていた。
恐らくその頃からだったのだろう。
陰でジェレミーが美しくも人形の如く表情の乏しい王子、『人形王子』と揶揄され始めたのは。
「私の可愛いジェレミー、そなたは母の言う事を聞いておれば間違いないのです」
そんな王妃である母サブリナの口癖は、ジェレミーが物心ついた時から幾度となく繰り返されていた。
兄王子アルバートを産んだ先代王妃が亡くなった後、その後釜に座った母は野心家だった。
「兄王子に負けぬよう、精進しなさい」
これも事ある事に言われた言葉だ。
表向き、誰に聞かれているとも知れないので露骨には言わないが、母は兄王子をおしのけてジェレミーが王になる事を望んでいたのである。
母はジェレミーに対して兄王子アルバートよりも優秀である事を求めた。
優秀な家庭教師が選ばれ、ジェレミーにつけられた。
だが、ジェレミーとて遊びたい盛りである。じっと座って小難しい事を学ぶことは苦痛以外の何物でもなかった。
自然、授業から逃げ出すように。
ジェレミーが勉強の出来が芳しく無かったり授業をサボって逃げ出したりすると、王妃サブリナは烈火の如く怒った。
それに対し「歴史で学んだのですが、このままいけばこの国の王は兄がなるのですよね? 私がここまで勉強する必要はあるのですか」と異を唱えると、母は「王位継承権がある以上、必要があるに決まっています! そなたは出来の悪い愚かな王子となって私に恥をかかせるのですか!」と癇癪を起こした。
「逃げ出してごめんなさい……」
延々と説教をされた後で謝罪すると、母である王妃サブリナは溜息を吐く。
「ジェレミー、そなたの兄は既に陛下の傍で政を学んでいるのです」
母は、ジェレミーも父である国王陛下や貴族達に認めて貰うには優秀だと証明しなければならないと言う。兄王子が今のジェレミーと同じ年の時には既にもっと先の内容を学んでいたとも。
「おお、ジェレミー。私が誇れるような王子になってくれることを願って已みません。優秀であれば、国王陛下もそなたを誇りに思って下さる事でしょう」
しかしその国王陛下は多忙であり、ジェレミーとは滅多に会う事は無かった。
会っても口数が少なく、何を話していいのかジェレミーにも分からない。
ジェレミーにとって、父親であるトラス国王オディロンは遠い存在であったのである。兄王子等、会った事すらない。
母の兄、伯父のドルトン侯爵が訪ねて来る頻度の方が余程高かった。
伯父は何時もジェレミーを可愛がってくれ、母に叱られて落ち込んでいる時も話を聞いて慰めてくれる。自然、ジェレミーは優しい伯父を慕うようになった。
「ジェレミー殿下が困った時は、私が何時でもお助けしますよ」
そう言って頭を撫でてくれる伯父。伯父が連れて来る貴族達もいつもにこにことした良い人ばかり。
ジェレミーの世界はそんな優しいものだった。
日を重ねるにつれ、厳しさと難しさを増す王族教育以外は。
罪悪感を抱きながらも、あまりの辛さに授業を抜け出すのを止められなかった、そんなある日。
ジェレミーの学友として貴族の中から選ばれた子供が連れて来られる事になった。
「初めまして、私はジェレミー。これから宜しくね」
「ジェレミー殿下、初めまして。こちらこそ宜しくお願いします」
同じ年頃の友達が出来ると浮かれるジェレミー。
だが、彼らは学友として王子の相手をする一方で、もう一つ役目があった。
それは、王子が怠けたり悪さをした時に、王子の代わりに家庭教師から鞭打ちの罰を受ける、というもの。
最初、ジェレミーはその事を知らなかった。
母の兄である伯父ドルトン侯爵が連れて来た少年達。
彼らと仲良くなり始めた時にそれは起きた。
ある日、家庭教師が行った試験でジェレミーの出来が悪かった時があった。
すると、「復習を怠られましたな」とジェレミーととりわけ仲が良かった少年が家庭教師に鞭を打たれたのである。
泣き叫ぶ少年を庇ってジェレミーが苦情を申し立てると、
「殿下が学びを怠られたり悪い事を成さった場合、殿下の代わりにご友人たちが鞭打たれる事になりますので肝にお命じ下さいませ」
と言う。
「この事は国王陛下や王妃殿下、彼らの親御にもご了承頂いておりまする。
それに、殿下の学友として。また、殿下に代わって罰を受ける役目を賜る事は、彼らにとって名誉な事にございますれば」
呆然とするジェレミーにそう平然と言ってのける家庭教師。後で母に問いただすも似たような事を言われた。
だったら学友なんて要らない、と言ったが、「彼らから名誉を取り上げるのですか?」と許されなかった。
自然、ジェレミーは自分の行い次第で他者が傷つく事に恐れを抱くようになった。
自分と仲が良い少年が鞭打ちに選ばれると悟ってからは、誰とも平等に当たり障りなく接する事に勤める。
少年達が連れて来られるまでは授業をサボって遊びに行ったり悪戯をしたりした事もあったが、それもしないようになった。
――ただ自分が我慢して、母や家庭教師の言う通りに動きさえすれば平穏な日常が約束される。
そんな価値観がジェレミーを支配し始めていた。
恐らくその頃からだったのだろう。
陰でジェレミーが美しくも人形の如く表情の乏しい王子、『人形王子』と揶揄され始めたのは。
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