貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
610 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

実は追い込み漁になってた件。

 「あっ……」

 シュテファンが声を上げる。私も視線をそちらへ戻すと、リュサイ達の姿がテラスから消えていた。
 部屋へ戻ってしまったのだろう。

 ただ単に、少し外の空気を吸いに出ただけではないだろうか。
 ならばよくある日常の風景だと考えるのが普通だ。

 確かにあの時話を聞かれはしたが、その事ですぐ彼らに何か出来るとは思い難い。
 考え得る事としては……母ティヴィーナに取り入るとか、『花嫁修業』もどきを邪魔するとか。皇女エリーザベトを殺してしまえ……は最悪の場合だが、仮にも一国の女王がそんなことをするとは思えないし、第一うちの警備体制がそれを許さないだろう。

 緊急性があるとは思えない。
 それなのに、前脚は何故そんなに警戒しているのか。そもそも――

 「お前……探って来ると言っても、カレドニアの言葉で話していれば難しいのでは?」

 「……カレドニアの言葉に明るい雪山の民をアルトガルに頼み手配してございますれば」

 私のツッコミに少し悔しそうに言う前脚。隠密騎士だけで間に合わない事が悔しいようだ。

 「たまたまその者が傍におらなかった時ですが、警護の者より言葉は分からねど不穏な様子だったと聞いております」

 「やはり探って参ります」

 しばしお傍を離れる事をお許しください、とヨハンは屋敷へと走って行く。私は肩を竦めると、シュテファンと共に池へ向かうのだった。


***


 チチ、チチ、チチィーッ、パッ
 ピュイッピュー

 木の梢のあちらこちらから小鳥達の鳴き声のする中、池に着く。
 案の定というか。

 ピギャーピギャー!
 クワクワクワクワ!
 ギャギャギャ!

 前々からそうなんじゃないかと疑惑を抱いていたが、やはり先程の小鳥達が愚民共に知らせていたのだろう(確信)。
 既に集まっていた奴らは私達の姿を見るなり騒ぎ始めた。うむ、今日はまだ餌やりをしていないからな!

 「お前達! 腹が減っているのは分かるがもう少し待て!」

 サリーナが来るまでの辛抱である。精神感応で愚民共に伝えると少し落ちついたのでシュテファンに餌付けをさせ、私は釣り糸を垂れた。

 「……」

 スィー……

 当たりを待ち始めて暫く。
 何故か、愚民共はやや遠巻きに私を中心とした同心円状に散開し、時折鳴いたり翼をばたつかせながら泳ぎ始めた。

 ……だんだんその輪が狭まっているのは気のせいだろうか? 餌が到着するが早いか釣り妨害が早いか、みたいな。

 と。

 「ふぎゃっ!? シュテファン!!」

 「はっ!」

 いきなり物凄い勢いで引っ張られた。強い、これは……大物!
 竿を持って行かれそうになり、堪らず後ろ脚シュテファンへ声を掛けるとすぐさま共に竿を持って引っ張り始めた。

 「おお、パイクカワカマスだ、大きいですよマリー様!」

 「これは立派な、クネルつみれ料理にして貰いましょうぞ!」

 シュテファンの歓声に続く第三者の声に振り向くと、何時の間にか大鹿エルクのヘルフリッツが傍でタモを持っている。
 タモで無事確保されたその魚は草の上にどさりと投げ出され、ビチビチとのたうち始めた。
 少し大人しくなってきたところで、私はまじまじと観察する。

 「ふむ……食べた事はあったが見るのは初めてだ……顎がしゃくれてるな」

 一メートル近くあるだろうか。一瞬、アリゲーターガーかと思った……ビジュアルが何か似てる。
 というか、これを食べていたんだな。家族分昼食の一品として賄えそうだ。
 シュテファン曰く、普通はシャンブリル川のような大きな川にいるものだが、ここまでの大きさのがうちの池に居るのは珍しいという。
 ほう、この魚がねぇ。

 「マリー様!」

 呼び声に顔を上げると、サリーナが背後に前脚を従えてこちらへ向かっている姿が見えた。

 「魚は鮮度が命、昼食に間に合わせる為にもこちらは一足先に厨房へお持ちしましょう」

 ヘルフリッツが気を利かせてパイクカワカマスを手に屋敷へと駆け戻って行く。
 私はお礼を言って見送り、サリーナから餌袋を受け取る。
 先程の釣りで疲れたので、今日は袋を開き、お遊び無しで中身を豪快にぶちまけるに留めた。

 「……それで。どうだった?」

 待ちに待った餌に殺気立ち狂喜乱舞して群がる愚民共を横目に、私は釈然としない様子の前脚ヨハンに問いかける。

 「『異常なし、特に警戒すべき話はしていなかった』とのことでした……かの者が嘘を吐いていなければ、ですが。それよりも、ガリア王国のメテオーラ姫様がリュサイ様をお訪ねしておりました。その、お忍びにて第一王子殿下も共に」

 は? メティとアルバート殿下が来てる!? しかも今絶賛センシティブ中なリュサイ様のとこに?

 「私達がリュサイ様のお部屋に着いた時にはもう、リュサイ様とのお話は既に終わっていたようですが……お声掛けすると、メテオーラ様はマリー様にお会いして話したい事があるのだという事でしたわ。
今現在庭遊びをなされているとお伝えしたところ、それならばマリー様と昼食を共にしたい、と。それまでは喫茶室にて歓談しながら待つ、とのご伝言でした」

 「っ、すぐ戻るわ!」

 ちょっと不味いかも知れない。
 万が一、誤解された内容を相談という形でメティ達に伝えられて、それが更に広まったら。

 ちょっと……いや、かなり困る!
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」