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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
天皇>>越えられない壁>>関白。
かくかくしかじか、説明を聞いた義姉キャロライン。
「そのような経緯が……誤解も何も、身から出た錆でしょうに。けれど、マリー達の介入が無ければガリア国のものだったもの――向こうからすれば何が何でも『取り戻そう』とか考えるでしょうね」
言って、心配そうな色を乗せた真摯な眼差しでこちらを見つめてくる。隣のトーマス兄も同じような表情で頷いた。
「彼女の言う通りだ。それこそ、手段を選ばんだろうな」
トーマス兄達の懸念も分かる。誘拐されたり殺されかけたりという実績があるのだ。
聖女になってからのこの一年、波乱万丈続きだったと自分でも思う。
「キャロライン様達の仰る通りですわ。実際に厄介な人間なのです、ガリア王国王太子ルイージ・セコンド・ガリアは」
そう言って、メティは一旦ティーカップを持ち上げ、紅茶で唇を濡らす。
ほう、ガリア王太子はルイージというのか。緑のキャスケットとオーバーオールが脳裏を一瞬掠めた……気がした。
それにしても、メティが言う程の『厄介な人間』とは……?
少し気になって、もう少し具体的にどう厄介なのか踏み込んで聞いてみようとした時、先に口を開いたのは義姉キャロラインだった。
「社交界で耳に挟んだ限りですが、ガリアの王太子ルイージ殿下は『先人を尊重』なさっており、すでに『王の風格を備え、一度決めた事を貫き通す』お方とか……」
「……物は言いようですわね。私はガリアに居た頃、ルイージ殿下より幾度となく私のような小賢しい女は自分より他に嫁ぎ先も無いだろう、と幾度となくお声掛け頂いておりましたの。
その都度何度も次期王妃という大役は務まりませぬとご辞退申し上げたにもかかわらず、何故か諦めて頂けず……果ては周囲を固められそうになりましたわ」
――そこで私は父ピロス公爵に泣きついて決定的になる前にこの国に逃げ出して来たのですわ――その為に、政敵貴族でさえも利用して。
膝の上に組んだ両手の指を落ち着かなさげに動かしているメティの言葉に、私は視線をテーブルの上に落とした。
言葉の裏に含まれた意味を吟味する。
成程、つまり言葉を変えれば封建的かつワンマン、尊大であり我儘(しかもしつこい)ということか。
「要は、嫌って避けているのに何かとしつこく言い寄って来られていたのね。更に無理に婚約者にされそうになったから政敵貴族の令嬢をあてがうよう仕向けて逃げて来た、と」
国外に出てその国の王族と結婚して国益を盾にしてしまえば逃げられるもんな。
「……有体に言えばそうよ」
本当にうんざりしていたわ、と顔を歪めるメティ。
……勘違い男の素質もあるかも知れんな、その王太子ルイージとやらは。
「第一あの方と性格が合いませんし、私自身、服従と忍耐を求められる『先人を尊重した伝統的な妃』は務まりませんし、なりたくありませんでしたの。あの王太子殿下の妃にされたら、私はきっと、息が出来なくなってしまう……」
「それは……大変でしたのね。お気持ちお察し致しますわ」
この世界には珍しく現代的価値観を持つメティには到底耐えがたく、亭主関白バリバリな男との結婚は地獄だろう。同じタイプの義姉キャロラインも共感するところがあるようだ。
第一王子アルバートの方がまだマシだというのも良く分かる。
ちなみに私は亭主関白上等である。ただし、私が関白より遥かに偉い御上、つまり天皇であるという条件下に限ってだが。
関白は身を粉にして働き天皇を守り尽くすべき――そう言う意味で嫁の事を『おかみさん』とはよく言ったもの。日本語は便利よな、ククク。
そんな事を考えながらうんうんと頷く。視界の隅でカレル兄がこちらを不審そうに見ていたのはきっと気のせい。
――と。
ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。
「メティ、トラス王国の王妃になるのは大丈夫なの?」
トラス王国の王妃だって、それなりに責務、制約は強いられる筈だ。それに、外国出身ということで苦労することも少なくないだろうから心配である。
しかし私の問いに彼女はウインクして花が咲くように微笑んだ。
「トラス王国の王妃は大丈夫よ。第一、この国には自由で新しい風が吹き始めているもの。アルバート殿下も私のような女を理解して認めて下さっているから……」
「王妃には王妃の仕事がありますし、聡明で機転の利く貴女の事は頼もしいと思っていますよ」
柔らかい笑みを浮かべた第一王子アルバートと見つめ合うメティ。おお、お熱いことで。関係円満良好でお互いのニーズも上手くかみ合っているようだ。
トラス王国の未来は明るいだろう、全くご馳走様である。
しかし、しかしである。
私の懸念はまだあった。
しかも私自身でさえ恐れ慄いた最大の――ここは友としてハッキリさせておかねばなるまい。
「でも、メティ。大丈夫なの? その……高位貴族や王族の結婚……ええい、はっきり言うわ! 初夜の褥は、身分ある貴族や聖職者の立ち合いの下、エロ同じn……ゴホン、公開処刑同然に行われるらしいじゃない!」
そして、未来の王と王妃に対する祝福……立ち会う聖職者は自然、聖女たる私になるだろう。
「後ね、私だって友達を祝福をするのは吝かではないのよ。でも、メティには本当に申し訳ないのだけれけど……初夜に立ち会っての祝福なんて、恥ずかしくて決まり悪くて私には無理だわ、ごめんなさい!」
――だから、別に場を設けて欲しいの。
両手で顔を覆って切々と訴える私。
一瞬の静寂の後――喫茶室全体が阿鼻叫喚の混沌の渦に揺れた。
「そのような経緯が……誤解も何も、身から出た錆でしょうに。けれど、マリー達の介入が無ければガリア国のものだったもの――向こうからすれば何が何でも『取り戻そう』とか考えるでしょうね」
言って、心配そうな色を乗せた真摯な眼差しでこちらを見つめてくる。隣のトーマス兄も同じような表情で頷いた。
「彼女の言う通りだ。それこそ、手段を選ばんだろうな」
トーマス兄達の懸念も分かる。誘拐されたり殺されかけたりという実績があるのだ。
聖女になってからのこの一年、波乱万丈続きだったと自分でも思う。
「キャロライン様達の仰る通りですわ。実際に厄介な人間なのです、ガリア王国王太子ルイージ・セコンド・ガリアは」
そう言って、メティは一旦ティーカップを持ち上げ、紅茶で唇を濡らす。
ほう、ガリア王太子はルイージというのか。緑のキャスケットとオーバーオールが脳裏を一瞬掠めた……気がした。
それにしても、メティが言う程の『厄介な人間』とは……?
少し気になって、もう少し具体的にどう厄介なのか踏み込んで聞いてみようとした時、先に口を開いたのは義姉キャロラインだった。
「社交界で耳に挟んだ限りですが、ガリアの王太子ルイージ殿下は『先人を尊重』なさっており、すでに『王の風格を備え、一度決めた事を貫き通す』お方とか……」
「……物は言いようですわね。私はガリアに居た頃、ルイージ殿下より幾度となく私のような小賢しい女は自分より他に嫁ぎ先も無いだろう、と幾度となくお声掛け頂いておりましたの。
その都度何度も次期王妃という大役は務まりませぬとご辞退申し上げたにもかかわらず、何故か諦めて頂けず……果ては周囲を固められそうになりましたわ」
――そこで私は父ピロス公爵に泣きついて決定的になる前にこの国に逃げ出して来たのですわ――その為に、政敵貴族でさえも利用して。
膝の上に組んだ両手の指を落ち着かなさげに動かしているメティの言葉に、私は視線をテーブルの上に落とした。
言葉の裏に含まれた意味を吟味する。
成程、つまり言葉を変えれば封建的かつワンマン、尊大であり我儘(しかもしつこい)ということか。
「要は、嫌って避けているのに何かとしつこく言い寄って来られていたのね。更に無理に婚約者にされそうになったから政敵貴族の令嬢をあてがうよう仕向けて逃げて来た、と」
国外に出てその国の王族と結婚して国益を盾にしてしまえば逃げられるもんな。
「……有体に言えばそうよ」
本当にうんざりしていたわ、と顔を歪めるメティ。
……勘違い男の素質もあるかも知れんな、その王太子ルイージとやらは。
「第一あの方と性格が合いませんし、私自身、服従と忍耐を求められる『先人を尊重した伝統的な妃』は務まりませんし、なりたくありませんでしたの。あの王太子殿下の妃にされたら、私はきっと、息が出来なくなってしまう……」
「それは……大変でしたのね。お気持ちお察し致しますわ」
この世界には珍しく現代的価値観を持つメティには到底耐えがたく、亭主関白バリバリな男との結婚は地獄だろう。同じタイプの義姉キャロラインも共感するところがあるようだ。
第一王子アルバートの方がまだマシだというのも良く分かる。
ちなみに私は亭主関白上等である。ただし、私が関白より遥かに偉い御上、つまり天皇であるという条件下に限ってだが。
関白は身を粉にして働き天皇を守り尽くすべき――そう言う意味で嫁の事を『おかみさん』とはよく言ったもの。日本語は便利よな、ククク。
そんな事を考えながらうんうんと頷く。視界の隅でカレル兄がこちらを不審そうに見ていたのはきっと気のせい。
――と。
ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。
「メティ、トラス王国の王妃になるのは大丈夫なの?」
トラス王国の王妃だって、それなりに責務、制約は強いられる筈だ。それに、外国出身ということで苦労することも少なくないだろうから心配である。
しかし私の問いに彼女はウインクして花が咲くように微笑んだ。
「トラス王国の王妃は大丈夫よ。第一、この国には自由で新しい風が吹き始めているもの。アルバート殿下も私のような女を理解して認めて下さっているから……」
「王妃には王妃の仕事がありますし、聡明で機転の利く貴女の事は頼もしいと思っていますよ」
柔らかい笑みを浮かべた第一王子アルバートと見つめ合うメティ。おお、お熱いことで。関係円満良好でお互いのニーズも上手くかみ合っているようだ。
トラス王国の未来は明るいだろう、全くご馳走様である。
しかし、しかしである。
私の懸念はまだあった。
しかも私自身でさえ恐れ慄いた最大の――ここは友としてハッキリさせておかねばなるまい。
「でも、メティ。大丈夫なの? その……高位貴族や王族の結婚……ええい、はっきり言うわ! 初夜の褥は、身分ある貴族や聖職者の立ち合いの下、エロ同じn……ゴホン、公開処刑同然に行われるらしいじゃない!」
そして、未来の王と王妃に対する祝福……立ち会う聖職者は自然、聖女たる私になるだろう。
「後ね、私だって友達を祝福をするのは吝かではないのよ。でも、メティには本当に申し訳ないのだけれけど……初夜に立ち会っての祝福なんて、恥ずかしくて決まり悪くて私には無理だわ、ごめんなさい!」
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