貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
612 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

天皇>>越えられない壁>>関白。

 かくかくしかじか、説明を聞いた義姉キャロライン。

 「そのような経緯が……誤解も何も、身から出た錆でしょうに。けれど、マリー達の介入が無ければガリア国のものだったもの――向こうからすれば何が何でも『取り戻そう』とか考えるでしょうね」

 言って、心配そうな色を乗せた真摯な眼差しでこちらを見つめてくる。隣のトーマス兄も同じような表情で頷いた。

 「彼女の言う通りだ。それこそ、手段を選ばんだろうな」

 トーマス兄達の懸念も分かる。誘拐されたり殺されかけたりという実績があるのだ。
 聖女になってからのこの一年、波乱万丈続きだったと自分でも思う。

 「キャロライン様達の仰る通りですわ。実際に厄介な人間なのです、ガリア王国王太子ルイージ・セコンド・ガリアは」

 そう言って、メティは一旦ティーカップを持ち上げ、紅茶で唇を濡らす。
 ほう、ガリア王太子はルイージというのか。緑のキャスケットとオーバーオールが脳裏を一瞬掠めた……気がした。

 それにしても、メティが言う程の『厄介な人間』とは……?

 少し気になって、もう少し具体的にどう厄介なのか踏み込んで聞いてみようとした時、先に口を開いたのは義姉キャロラインだった。

 「社交界で耳に挟んだ限りですが、ガリアの王太子ルイージ殿下は『先人を尊重』なさっており、すでに『王の風格を備え、一度決めた事を貫き通す』お方とか……」

 「……物は言いようですわね。私はガリアに居た頃、ルイージ殿下より幾度となく私のような小賢しい女は自分より他に嫁ぎ先も無いだろう、と幾度となくお声掛け頂いておりましたの。
 その都度何度も次期王妃という大役は務まりませぬとご辞退申し上げたにもかかわらず、何故か諦めて頂けず……果ては周囲を固められそうになりましたわ」

 ――そこで私は父ピロス公爵に泣きついて決定的になる前にこの国に逃げ出して来たのですわ――その為に、政敵貴族でさえも利用して。

 膝の上に組んだ両手の指を落ち着かなさげに動かしているメティの言葉に、私は視線をテーブルの上に落とした。
 言葉の裏に含まれた意味を吟味する。
 成程、つまり言葉を変えれば封建的かつワンマン、尊大であり我儘(しかもしつこい)ということか。

 「要は、嫌って避けているのに何かとしつこく言い寄って来られていたのね。更に無理に婚約者にされそうになったから政敵貴族の令嬢をあてがうよう仕向けて逃げて来た、と」

 国外に出てその国の王族と結婚して国益を盾にしてしまえば逃げられるもんな。

 「……有体ありていに言えばそうよ」

 本当にうんざりしていたわ、と顔を歪めるメティ。
 ……勘違い男の素質もあるかも知れんな、その王太子ルイージとやらは。

 「第一あの方と性格が合いませんし、私自身、服従と忍耐を求められる『先人を尊重した伝統的な妃』は務まりませんし、なりたくありませんでしたの。あの王太子殿下の妃にされたら、私はきっと、息が出来なくなってしまう……」

 「それは……大変でしたのね。お気持ちお察し致しますわ」

 この世界には珍しく現代的価値観を持つメティには到底耐えがたく、亭主関白バリバリな男との結婚は地獄だろう。同じタイプの義姉キャロラインも共感するところがあるようだ。
 第一王子アルバートの方がまだマシだというのも良く分かる。

 ちなみに私は亭主関白上等である。ただし、私が関白より遥かに偉い御上おかみ、つまり天皇であるという条件下に限ってだが。
 関白は身を粉にして働き天皇を守り尽くすべき――そう言う意味で嫁の事を『おかみさん』とはよく言ったもの。日本語は便利よな、ククク。

 そんな事を考えながらうんうんと頷く。視界の隅でカレル兄がこちらを不審そうに見ていたのはきっと気のせい。

 ――と。

 ふと、ある疑問が頭に浮かんだ。

 「メティ、トラス王国の王妃になるのは大丈夫なの?」

 トラス王国の王妃だって、それなりに責務、制約は強いられる筈だ。それに、外国出身ということで苦労することも少なくないだろうから心配である。
 しかし私の問いに彼女はウインクして花が咲くように微笑んだ。

 「トラス王国の王妃は大丈夫よ。第一、この国には自由で新しい風が吹き始めているもの。アルバート殿下も私のような女を理解して認めて下さっているから……」

 「王妃には王妃の仕事がありますし、聡明で機転の利く貴女の事は頼もしいと思っていますよ」

 柔らかい笑みを浮かべた第一王子アルバートと見つめ合うメティ。おお、お熱いことで。関係円満良好でお互いのニーズも上手くかみ合っているようだ。
 トラス王国の未来は明るいだろう、全くご馳走様である。

 しかし、しかしである。

 私の懸念はまだあった。
 しかも私自身でさえ恐れ慄いた最大の――ここは友としてハッキリさせておかねばなるまい。

 「でも、メティ。大丈夫なの? その……高位貴族や王族の結婚……ええい、はっきり言うわ! 初夜の褥は、身分ある貴族や聖職者の立ち合いの下、エロ同じn……ゴホン、公開処刑同然に行われるらしいじゃない!」

 そして、未来の王と王妃に対する祝福……立ち会う聖職者は自然、聖女たる私になるだろう。

 「後ね、私だって友達を祝福をするのはやぶさかではないのよ。でも、メティには本当に申し訳ないのだけれけど……初夜に立ち会っての祝福なんて、恥ずかしくて決まり悪くて私には無理だわ、ごめんなさい!」

 ――だから、別に場を設けて欲しいの。

 両手で顔を覆って切々と訴える私。
 一瞬の静寂の後――喫茶室全体が阿鼻叫喚の混沌の渦に揺れた。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」