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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
聖女の御輿。
サイア達の祝福を終えたところでノートルサンテヴィヤージュ大聖堂での儀式は終了である。
ヴェスカルが終わりの挨拶を読み上げると、貴族達の大移動が始まった。
私とグレイは大急ぎで控室に戻って、軽く化粧直し。
その後外へ出て、王族や貴族達と共に王宮までのパレードがあるのだ。
「大聖堂の儀式は終わったんだし、この重たい衣装少しでも脱ぎたいんだけど何とかならない!?」と懇願したのだが、「なりません」と却下されてしまった。
ですよねー、ちくしょう!
いや、しかし……トゥラントゥール宮殿では流石に要介護じゃ不味いでしょ、ここまで動けないのは。
「後少しの辛抱です、王宮での祝福が終わればドレスにお着換えになれますので」
ぶつくさ言いながら大聖堂の廊下を歩いていると、背後のサリーナが窘めてきた。
「それにさっき、サイアに歩けないって伝えたんだけど! あれ絶対驚くふりして噴き出すの我慢してたからぁ!」
「そ、そんな事は無い……と思うよ?」
隣でグレイが肩を震わせ始めた。そちらに振り向くとさっと顔を逸らされる。
むー……と軽く睨んでいると。
「リュサイ陛下、今日王宮にいらっしゃることは出来るのかしら?」
ふと、ナーテ達の会話が耳に飛び込んで来た。
「心配よね。ララが上手くやってくれていればいいけれど」
「流石に欠席はなさらないと思うわ。何より、マリー様と親密であると諸外国にアピールする機会ですもの」
そう、王宮には国外から要人が集まっているのだ――聖女である私を見に。
はぁ……考える程に鬱だ、早く家に帰りたい。
「ちょっと、お喋りはそこまで。まだ気は抜けないんだから」
サリーナに注意され、ナーテ達は口を噤む。
差し込んで来る太陽光に私は思わず目を細める――大聖堂の出口だ。
「おお、お出ましになられたぞ!」
「きゃああ、聖女様ぁ!」
――聖女様! 聖女様!
対岸で出待ちしていた王都民達からのコールの雨に、私はにこりと笑顔を作って手を振る。
わっ、と大歓声。今の私はすっかり無敵のアイドルである。
群衆に向かって錫杖を鳴らして祝福をした後、私はグレイのエスコートで馬車に乗り込んだ。
王族の馬車の後に続く形で出発する。
四方八方を近衛や王国騎士団、サリューン枢機卿が用意した修道騎士達に囲まれてのパレードだ。
勿論ここでも気を抜けない。リーダーの視界を借りて俯瞰する。
王宮までの道沿いの人だかりは物凄くて、簡易柵と下級騎士や自警団達が必死で押しとどめている形だった。
今にも決壊しそうだ。
――やっぱり対策を練っていて良かった。
外の前脚に合図を送った私は、精神感応でカラス達を始めとする用意していた鳥達に命令を下す。
「聖女様が皆に贈り物をなされたぞ!」
「今この時、天の御使い達がくじを王都中にばらまいている。どこに落ちるかは分からない」
「拾った者は幸運だ!」
「キーマン商会で良い物を貰えたり、中には聖女様とお会いできる権利もあるそうだ!」
前脚の送ったハンドサインで群衆に紛れ込んだ雪山の傭兵達が口々に叫び出す。
「おい、あそこを見ろ! カラスが何を落としたぞ」
「本当だ!」
「あっ、あちらにも!」
王都中に散らばり、リボン付きのくじを落とし始めた鳥達。
「早い者勝ちだぞ!」と誰かが叫ぶと、狙い通りに群衆は道沿いから外れ、鳥達を追いかけ始めた。
勿論、計略は二重三重に仕掛けてある。
群衆に紛れて何かを目論むような輩も血眼になって探すだろう。
警備万全の中でリスクを冒すのではなく、『確実に聖女に直接会える権利』のくじを。
群衆は半分程に減った中、パレード隊は悠々と進み、トラントゥール宮殿へ辿り着いたのだった。
***
――で。
「何故これがここにあるのかしら?」
口の端がヒクヒクと引きつるのを禁じ得ない。
馬車から降りた私の目の前には、ここに在ってはならないものが鎮座していたのだから。
ぺかっとした憎たらしい程の笑顔で「お疲れ様ですー」等とこちらに手を振っているのは中脚である。
「先に運ばせて貰っていたんですよー、だってマリー様、今満足に動けないじゃないですか」
「カールの申す通りにございます。曲者に怪しまれずに自然体で警護する上でも、これは必要なのです」
「国王陛下や王子殿下には宮殿内へ持ち込む許可も得ております!」
前脚が純粋な瞳を向けて主張し、後ろ脚が誇らしげにフンスと鼻を鳴らす。
しかし私は騙されない。
何のかんのもっともらしい理由を供述しているが――絶対嘘だ。
私には分かる――こやつらが、王族まで巻き込んでのハリボテの公式化を狙ってやがるという事を。
馬の脚共に何と言いくるめられたのか、と思ってオディロン王をじとりと見ると、「聖女様の御輿として、この天馬程相応しいものはございますまい」と恭しく礼をされて退路を塞がれた。
本気なのかそれともわざと喧嘩を売っているのか……。
第一王子アルバートも「聖女様の威厳を示す為にも、御輿が必要でしょう」と小刻みに震えている。こちらは明らかに後者だな。
――等と、笑顔で青筋を立てている隙に。
馬の脚共がいそいそとそれに近付くのが見え――私は現実逃避に天を仰いだ。
ちなみにオディロン王の精神感応の結果は……一度乗せて貰う事を条件に取引に応じた、と。
何やってんだと呆れたが、王様業のストレスの反動で知能指数の低そうな事を時折発作の様にやりたくなるらしい。
ヴェスカルが終わりの挨拶を読み上げると、貴族達の大移動が始まった。
私とグレイは大急ぎで控室に戻って、軽く化粧直し。
その後外へ出て、王族や貴族達と共に王宮までのパレードがあるのだ。
「大聖堂の儀式は終わったんだし、この重たい衣装少しでも脱ぎたいんだけど何とかならない!?」と懇願したのだが、「なりません」と却下されてしまった。
ですよねー、ちくしょう!
いや、しかし……トゥラントゥール宮殿では流石に要介護じゃ不味いでしょ、ここまで動けないのは。
「後少しの辛抱です、王宮での祝福が終わればドレスにお着換えになれますので」
ぶつくさ言いながら大聖堂の廊下を歩いていると、背後のサリーナが窘めてきた。
「それにさっき、サイアに歩けないって伝えたんだけど! あれ絶対驚くふりして噴き出すの我慢してたからぁ!」
「そ、そんな事は無い……と思うよ?」
隣でグレイが肩を震わせ始めた。そちらに振り向くとさっと顔を逸らされる。
むー……と軽く睨んでいると。
「リュサイ陛下、今日王宮にいらっしゃることは出来るのかしら?」
ふと、ナーテ達の会話が耳に飛び込んで来た。
「心配よね。ララが上手くやってくれていればいいけれど」
「流石に欠席はなさらないと思うわ。何より、マリー様と親密であると諸外国にアピールする機会ですもの」
そう、王宮には国外から要人が集まっているのだ――聖女である私を見に。
はぁ……考える程に鬱だ、早く家に帰りたい。
「ちょっと、お喋りはそこまで。まだ気は抜けないんだから」
サリーナに注意され、ナーテ達は口を噤む。
差し込んで来る太陽光に私は思わず目を細める――大聖堂の出口だ。
「おお、お出ましになられたぞ!」
「きゃああ、聖女様ぁ!」
――聖女様! 聖女様!
対岸で出待ちしていた王都民達からのコールの雨に、私はにこりと笑顔を作って手を振る。
わっ、と大歓声。今の私はすっかり無敵のアイドルである。
群衆に向かって錫杖を鳴らして祝福をした後、私はグレイのエスコートで馬車に乗り込んだ。
王族の馬車の後に続く形で出発する。
四方八方を近衛や王国騎士団、サリューン枢機卿が用意した修道騎士達に囲まれてのパレードだ。
勿論ここでも気を抜けない。リーダーの視界を借りて俯瞰する。
王宮までの道沿いの人だかりは物凄くて、簡易柵と下級騎士や自警団達が必死で押しとどめている形だった。
今にも決壊しそうだ。
――やっぱり対策を練っていて良かった。
外の前脚に合図を送った私は、精神感応でカラス達を始めとする用意していた鳥達に命令を下す。
「聖女様が皆に贈り物をなされたぞ!」
「今この時、天の御使い達がくじを王都中にばらまいている。どこに落ちるかは分からない」
「拾った者は幸運だ!」
「キーマン商会で良い物を貰えたり、中には聖女様とお会いできる権利もあるそうだ!」
前脚の送ったハンドサインで群衆に紛れ込んだ雪山の傭兵達が口々に叫び出す。
「おい、あそこを見ろ! カラスが何を落としたぞ」
「本当だ!」
「あっ、あちらにも!」
王都中に散らばり、リボン付きのくじを落とし始めた鳥達。
「早い者勝ちだぞ!」と誰かが叫ぶと、狙い通りに群衆は道沿いから外れ、鳥達を追いかけ始めた。
勿論、計略は二重三重に仕掛けてある。
群衆に紛れて何かを目論むような輩も血眼になって探すだろう。
警備万全の中でリスクを冒すのではなく、『確実に聖女に直接会える権利』のくじを。
群衆は半分程に減った中、パレード隊は悠々と進み、トラントゥール宮殿へ辿り着いたのだった。
***
――で。
「何故これがここにあるのかしら?」
口の端がヒクヒクと引きつるのを禁じ得ない。
馬車から降りた私の目の前には、ここに在ってはならないものが鎮座していたのだから。
ぺかっとした憎たらしい程の笑顔で「お疲れ様ですー」等とこちらに手を振っているのは中脚である。
「先に運ばせて貰っていたんですよー、だってマリー様、今満足に動けないじゃないですか」
「カールの申す通りにございます。曲者に怪しまれずに自然体で警護する上でも、これは必要なのです」
「国王陛下や王子殿下には宮殿内へ持ち込む許可も得ております!」
前脚が純粋な瞳を向けて主張し、後ろ脚が誇らしげにフンスと鼻を鳴らす。
しかし私は騙されない。
何のかんのもっともらしい理由を供述しているが――絶対嘘だ。
私には分かる――こやつらが、王族まで巻き込んでのハリボテの公式化を狙ってやがるという事を。
馬の脚共に何と言いくるめられたのか、と思ってオディロン王をじとりと見ると、「聖女様の御輿として、この天馬程相応しいものはございますまい」と恭しく礼をされて退路を塞がれた。
本気なのかそれともわざと喧嘩を売っているのか……。
第一王子アルバートも「聖女様の威厳を示す為にも、御輿が必要でしょう」と小刻みに震えている。こちらは明らかに後者だな。
――等と、笑顔で青筋を立てている隙に。
馬の脚共がいそいそとそれに近付くのが見え――私は現実逃避に天を仰いだ。
ちなみにオディロン王の精神感応の結果は……一度乗せて貰う事を条件に取引に応じた、と。
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