貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

なんてこった!

 晩餐会や園遊会等において、身分の高い真打ちは一番最後に入場する習わしである。つまり、トリを飾るのは私達、と。

 馬の脚共が進み行く横を、触らぬ神に祟りなしとばかりに目を逸らした貴族達が、身分の低い者から先に足早に通り過ぎていく。

 「しっかり守ってエスコートするんじゃぞ、グレイ」

 「ふっ、三の姫が一番の注目の的だろうからな」

 「マリー、また後程」

 「分かってるよ、三人共!」

 グレイの祖父エディアール・フォートナム男爵、同じく父であるブルック・ルフナー子爵、義兄のアール・ルフナー……先刻の大聖堂での一悶着を起こした奴らがじろりと一瞥をくれたり意味深な会釈をして行った以外、ちゃんと声を掛けて会釈してくれるのは身内ばかりであった。
 そして、実家のキャンディ伯爵家の番になり。

 ――はぁ…後で困ったら助けてやろう。

 ――ありがとう、父。

 ダディサイモンと精神感応アイコンタクト。トーマス兄は頭を抱えている。
 そんなこんなで私達が大広間に辿り着いた時には、すっかり最後尾となるよう調整されていた。

 いよいよトラス王オディロンと第一王子アルバートが呼ばれると、扉の向こうからヴォルフガングに楽譜を渡しておいた行進曲『ボギー大佐』のアレンジ曲が流れ始める。
 同時に私の脳内で、小学生の時の同級生洟垂れ小僧が『猿・ゴリラ・チンパンジー♪』と歌いだした。

 ――ヴォルフガング選曲担当者よ、何故そのチョイスをした……。

 扉の向こうで貴族共が我先にオディロン王に挨拶の言葉を述べているのをBGMに、少々遠い目になって前世の思い出に意識を飛ばしていると。

 「それでは聖女様――そしてその御夫君である名誉枢機卿グレイ・ダージリン伯爵のご入場です! 皆様、盛大な拍手でお迎え下さい!」

 「マリー、僕達の番だよ!」

 後ろのグレイに小突かれて、はっと我に返る私。
 遂に大広間の扉を潜る時が来たのだ。


***


 馬の脚共が動き始めた。
 居並ぶ貴族達。騒めきの中で拍手が起こったがしかし――それは直ぐに風船がしぼむように無くなっていく。

 つい先程はオディロン王と第一王子アルバートに我先に挨拶の言葉を述べていた貴族共は、ハリボテに跨った私達の姿を見るなり一斉に口を噤んだ。

 一瞬乱れかけたものの、すぐに持ち直した演奏の中、軽快な足取りで赤絨毯を進みゆく馬の脚共。こいつらはきっと心臓に剛毛が生えているに違いない。
 私も、きっとグレイやそれに続くエヴァンやヴェスカル達も、鉄面皮で笑顔を保ち続ける事で精一杯である。

 やっとこさ辿り着いた先、所謂高砂席に王族と並んで聖女とその夫用にに用意されたテーブル。
 定位置に着くと馬の脚共がしゃがんだので、グレイがまず降りて私の手を取った。そのエスコートで私も下馬。
 馬の脚共はと言えば、ハリボテを脱いで私達の椅子の背後に置き。前脚ヨハン後ろ脚シュテファンが翼を引き抜くと、天地逆先端を下にして盾として腕に装着。私とグレイの両サイドに何食わぬ顔で陣取った。 
 ちなみに中脚カールは背後である。

 私はサリーナから錫杖を受け取ると、笑顔を極力自然に見えるよう保ちながら、

 「皆様、大変お待たせいたしましたわ」

 と平静を装って挨拶。

 「皆、我が国の聖女様に盛大な拍手を!」と隣のテーブルのオディロン王が拍手を始めると、皆我に返ったように拍手が伝播していった。
 拍手が終わると、先程の静寂を取り繕うように口々にあまりの神々しさにーだのハリボテが立派だのなんだのと褒め、私へ新年の挨拶を口にし始める。
 楽団の演奏も、ヴォルフガングオリジナルの穏やかなワルツ曲になった。

 そこから予定通りの流れで、第一王子アルバートとメティの婚約発表とその祝福。
 お次は大聖堂の儀に参加できなかった貴族達に、私は祝詞を唱え錫杖を鳴らす。
 各国の使者は国ごとにシャラシャラ。
 それが終わってやっとこさ新年の宴へと移行するが、私達はトイレ以外で席を動く事は許されない。
 私達の前には永遠に続きそうな挨拶ラッシュが列を成す――かと思いきや。
 貴族達の中でも並んでいるのは後ろ暗い所のない者、それに外国の大使ばかりである。

 というのも、祝福が終わった後で中脚に窓を開けさせ、リーダーとマイティ―を侍らせたからだ!
 それもこれも聖女は太陽神からカラスを通じて真実を聞く、と印象付けたお陰である。

 ――ふっ、計算通り!

 そしてメティが懸念していたガリア王太子はと言えば――

 「マリーちゃんのお願い通りに、ちゃあんと言って回って置いたわよぉ~?」

 「急にお頼みしたのにも関わらず、ご尽力に感謝致しますわ!」

 私は微笑んで目の前の貴婦人にお礼を述べた。

 「うふふ、この国の貴族家からガリア王太子殿下の婚約者が選ばれれば、両国の関係は一層安泰ですものね!」

 「実におめでたいことざます!」

 私の大切なお友達であり、また人生の先達且つ襟友である三夫人――エピテュミア夫人、ピュシス夫人、ホルメー夫人。彼女達は実にいい仕事をしてくれる。
 あはは、おほほ、うふふと笑い合いながらそちらをちらりと見ると、アリに集られた砂糖さながらに我が国の肉食女子達に囲まれ身動きが出来なくなっているガリア王太子の姿が!

 視線をまた別に移すと、丁度ピロス公爵が外国の大使の一人と歓談を終えてこちらへ歩を進めるところだった。
 彼の挨拶を受ければ、ガリア王太子がわざわざ国を代表して私に挨拶をする必要は無くなる。

 しかし、何事にも想定外は付き物。
 公爵が紳士の礼を取って口を開こうとした、その時だった。

 「せせせせ聖女様への挨拶ならぼぼ僕がするんだな! ガッ、ガリア王国をだい、代表して聖女マリアージュ様にご挨拶申し上げます、なんだな!」

 年はイサークと同じぐらいだろうか。
 気が付けば、丸っこくてずんぐりむっくりした体型の男の子がピロス公爵を押しのけるようにして目の前に立った。
 ピロス公爵が「殿下!?」と目を白黒させている事からガリアの王族ではあるのだろうが……メティからも聞いていないし、一体誰なんだろう?

 「あら……? これはご丁寧に」

 殺気立つ馬の脚共を制して首を傾げると、子供の後ろに控えていたガリア貴族らしき男が「殿下、名乗っておりませんぞ!」と注意をした。
 きっとこうした場やそのマナーに慣れていないのだろう。
 注意を受けた男の子は、片手で開いた口を押さえ、頬に朱を上らせる。

 「あっ……たたた大変失礼したんだな! 聖女様、ぼぼぼ僕は、ガリア王国の第三王子マーリオ・テルツォ・ガリアと申しますなんだな!」

 赤い何かを彷彿とさせるその名を聞いた瞬間、私の心は一つの言葉を叫んでいた。




 ――マンマ・ミーア!

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