貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
642 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(172)

 「そう言えば、福袋ありがとうねぇ? 帰って家族皆で開けるのが楽しみだわぁ~!」

 僕と共にマリー達の会話を聞いていた三魔女の内、不意にピュシス夫人が話しかけてきた。他の二人、エピテミュア夫人とホルメー夫人も「私も待ち切れませんわ!」「そうざますわね!」と話に加わる。
 マリーとマーリオ殿下の会話に加わる機会を伺いながら、こちらはこちらで話す事にしたようだ。

 まあマリーの能力に加えて椅子に掛けた彼女達三人がここに居座っていれば、後ろ暗い所がないトラス貴族であってもおいそれと話に割って入ったりは出来ないだろう。
 実際視線はちらちらと感じるけれど、誰も近寄って来ない。三魔女恐るべし。

 福袋……特に三魔女相手の内容は特に気を遣えとジャン・バティストに口を酸っぱくして言って用意させたから、きっと満足して貰えるとは思うけれど……。

 「そう言って頂けて、私も嬉しいです。こちらこそ、急なお願いを聞いて下さり大変感謝しております。
 福袋は、注意深くご用意しましたが……もし万が一何か内容に問題がありましたら、ご遠慮無く私にお伝え下さいね」

 万全を期してはいる筈だけど、万が一の保険を掛けた僕の言葉に、ピュシス夫人が代表して「いいのよぉ~」と笑って扇を広げる。
 そしてちらりとマリーの方を見ると、内緒話をするように僕の耳へと近付けた。

 「……カラスちゃんが大人しくしているところを見ると、マーリオ殿下の為人ひととなりは大丈夫そうですわねぇ?」

 ……まあ、確かに。

 ちらりとカラスのリーダーを見ると、呑気に羽繕いをしている。
 マリーが聖女の能力でマーリオ殿下の内面を覗いて安全だと判断したのだろうからこそ、僕も傍に控えている皆も様子を窺うのみでいられるんだけれど。
 マリーとマーリオ殿下の話に耳を澄ますと、やっと僕にも分かる内容になっていた。

 「うふふ、東方から取り寄せたオコメという穀物で作った、おにぎりという美味しい料理がありますの。
 宜しければ我が家に遊びにいらっしゃいませんか? きっとお気に召すと思います、ご馳走致しますわ」

 「えっ、ほほほ本当に美味しい料理を食べさせて貰えるのかな? なら、聖女様のおうちに行きたいんだな!」

 ……しかしいきなり家に誘うなんて。マリーなりに理由があるんだろうけど、ちょっと距離を詰め過ぎじゃないかな。

 「ねぇ、マリーちゃん。おにぎりってどんな料理なの?」

 「私も興味あるわぁ!」

 エピテミュア夫人とピュシス夫人が話に加わったところで、マリーはあっと声を上げた。

 「ごめんなさい、つい夢中で話し込んでしまって……!
 おにぎりというのは、炊いたオコメに具を加えて三角に成形したものなんですの。サンドウィッチのように、携帯にも便利、手軽に食べられる料理なんですのよ。
 そうだわ、ご都合が宜しければ三夫人も食べにいらっしゃいませんか? マーリオ殿下、お三方もご一緒で構いませんわよね?」

 「ひひ、人は多い方が楽しいと思うんだな!」

 「んまあマーリオ殿下、ご同席をお許し下さり感謝致しますわぁ!」

 「私も楽しみ! キャンディ伯爵家の料理は美味しいものばかりだもの!」

 嬉しそうなピュシス夫人とエピテミュア夫人。しかしホルメー夫人は緊張した面持ちだった。

 「マーリオ殿下! 先程は、知らなかったこととは言え……ご無礼をしてしまい大変申し訳なかったざますわ」

 「ぶ、無礼?」

 「殿下があまりにも可愛らしくお食べになっていたので、私が昔可愛がっていた子豚のコシィにようだと言ってしまったことざます」

 えっ、ホルメー夫人そんな事を言ったの!?
 すわ、国際問題か!? と内心焦る僕。しかしマーリオ殿下はふるふると首を横に振った。

 「そ、そ、それは気にしてないんだな。ガ、ガリアでは沢山酷い事を言われてるから、慣れてるから、気にしないで欲しいんだな」

 「まああ、慈悲深いお方なのね? この国でお困りのことがあれば私達、お力になりますわ!」

 「あ、ありがとうなんだな。みみみ皆さんは、ぼ、ぼ、僕みたいなのにとっても優しいんだな」

 それを聞いて、僕はガリア王国でのマーリオ殿下の置かれた状況を何となく察してしまった。マーリオ殿下の傍に控えている、ビアッジョ卿と名乗った人物も涙ぐんでいる。
 そんな環境下で性格が歪んでしまってもおかしくないのに、このように寛大で優しい子供に育っているのはきっと奇跡なんだろう。
 何となくマリーを見ると、目が合った。

 『この子は優しいだけじゃなくて素晴らしい天才なのよ、グレイ。是非ともイサークのお友達になって欲しいわ。帰ったら詳しく話すわね』

 『うん、分かった』

 そこへメテオーラ様がピロス公爵を伴ってやって来て、僕達に挨拶がてらマーリオ殿下を回収して行った。
 それを見送った後、「そろそろ私達も失礼しますわぁ」と三魔女達が立ち上がる。
 その時、ホルメー夫人が広間に視線を巡らせて首を傾げた。

 「……それにしても、予想外ざますわね。ガリア王太子殿下は直ぐにでも追って来ると思っていたざます」

 そう言えば……。

 僕も広間を見渡してガリア王太子を探してみる。
 けれど、その姿はどこにも見当たらなかった。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」