貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(173)

 ――あの愚弟が! よりにもよって、王太子たる俺を差し置き、ガリアの代表だとでしゃばって聖女様に挨拶をするなど!

 弟王子マーリオの暴走に意識を飛ばしそうになった次の瞬間にやって来たのは激しい怒りだった。だが、ここは外国の王宮。掌に爪が食い込む痛みに、ルイージはギリギリのところで笑顔を保つ。

 早くどうにかして巻き返しを図らねば。ルイージは「失礼、」とやんわりとネマランシ伯爵令嬢ラヴィンヌムーランス伯爵令嬢エリザベルの腕を解いて向き直ると、紳士の礼を取った。

 「折角お知り合いになれたのに、姫君達には大変申し訳ないのですが……恥ずかしながらあれは私の弟で。早急に聖女様に弟の無礼をお詫びしに参らねばなりません。まだご挨拶もしておりませんし――」

 そう言って、踵を返そうとした時。

 「殿下、お待ちになって下さいまし!」

 「今行かれるのはやめておいた方が宜しいですわ!」

 血相を変え、慌てたように小声で制止してくる令嬢達。
 その尋常ではない様子に訝しみ、思わず立ち止まって理由を訊ねると、「あちらをご覧下さいまし、」とラヴィンヌが扇の先で聖女の方を指し示した。

 「少なくとも、あの鳥達が居る間は近付かない方が良いですわ」

 「鳥達?」

 どういう意味かと問えば、ラヴィンヌ達は目を見合わせ、場所を変えてお話出来ませんかと言った。

 「ここでは、ちょっと……」

 どうも人目のある広間では話しにくい事らしい。
 しかし場所を変えると言ってもどこへ。いや、それ以前に目の前の令嬢達を信じてほいほいついて行って良いものなのか。
 ルイージが逡巡して周囲を見渡すと、人を掻き分けるようにベッファ・コロンボ子爵他|ファウスト・ボスコ伯爵令息達がこちらへと向かってくるのが見えた。


***


 「こちらもご報告するべきことがありますので丁度良うございましたな」

 話を聞く為に場所を移動する事について意見を求めたルイージに対し、コロンボ子爵が放った第一声。
 私共が共に居れば問題無いでしょう、と連れ立って王宮の客室へ移動する事となった。
 室内にはルイージと、配下達を代表してコロンボ子爵が。一方のトラス王国令嬢達はラヴィンヌとエリザベルの二人が残る。他の配下や令嬢達は扉の前で見張りをすることとなった。

 「それで――先程のお話の続きを伺っても?」

 ルイージが早速切り出すと、目の前のラヴィンヌとエリザベルは真剣な面持ちで頷く。

 「ええ……実は、あのおん…聖女は鳥を意のままに操り、更に太陽神の使いたるカラスを通じて神託を得、また全てを知るのだそうですわ」

 「カラスが傍に居る聖女には近付くな、隠している事も罪も全て暴かれてしまうのだというのがトラス貴族達の暗黙の了解なんですの」

 その言葉に先刻の事を思い出す。ルイージが見たトラス貴族達が「ここには諸外国の客人達もおられる事です。我々はご遠慮致しましょう」等と言っていたのは、聖女の元に飛んで来たカラスと鷲を見たからだったのか。
 そう言えば、トラス王族の前には挨拶の列が連なっていたのに比べ、聖女の方は不自然に少なかったような……。

 「それで先程私を止めたのですね」

 ルイージがそう言うと、エリザベルが頷いた。

 「……はい。聖女の力を目の当たりにしていない他国の方には、おいそれと信じて頂けないかも知れませんが――私達は、とてもじゃありませんけれど恐ろしくて近づけませんの」

 王侯貴族は誰しも大なり小なり何がしかの暗い一面を――秘密や罪を抱えているものでしょう? 綺麗ごとで国や領地を治められる訳でもありませんし。

 その言葉に、成程と頷く。
 確かに本当にそういう力が聖女にあるというのなら、マーリオが先走った事もそう悪くは無かったのかも知れない。あの愚かな弟は、暴かれる秘密すらないのだから。

 となれば、カラスが居ない時を何とか見計らって聖女に近付いて信頼を得るべきなのだろうが――目の前の二人がダージリン辺境伯の息がかかっていて自分を騙している可能性も無きにしも非ず。聖女に他国人を近付かせない為に。
 そう考えた時、それまで沈黙を保っていたコロンボ子爵が口を開いた。

「姫君達のお言葉を信じぬ訳ではありませんが、単に聖女様がカラスを飼い慣らしているという可能性はないのですかな?」
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