貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

グレイ・ダージリン(180)

 「それは……」

 困ったような表情のラド。マリーのお願いの内容は、彼にとっては予想外のことだったのだろう。休暇中とはいえ、この屋敷に滞在して……というのは流石に急な話過ぎないかなと僕も思う。

 「マリー、ラドさんが戸惑っているよ。ラドさんにはラドさんの生活があるんだし、通いとかにした方が良いんじゃないかな?」

 僕の助け舟に、ラドはホッとした様子で「はい、通いでしたら……」と頷いた。
 僕はマリーの耳に口を近づけると、僕の心を読むようにと囁く。彼女は目線で承諾を返した。

 『マリー、いきなり何を言い出すんだよ。ラドさんはアルビオン人だし、何よりさっきからリュサイ様や騎士ドナルド達の視線をビシバシ感じているんだけど。彼はカレドニア王国からすれば警戒対象だよ。彼を泊まらせることでリュサイ様達に僕達への不信感を持たれてしまうんじゃないの? それに、カレドニア王国は聖女の保護国と宣言したばかりなのにまずいよ』

 心の中で一気にまくし立てて肩に手を置くと、マリーは「あっ、そうよね」と慌てだした。そしてラドに向き直ってぺこりを頭を下げる。

 「ラドさんのご都合も考えずにごめんなさい。迎えはうちが出すから通いでも来て貰えると嬉しいわ」

 ラドがこちらを見て目が合ったので、僕も夫として軽く頭を下げる。
 彼は「聖女様や猊下に頭を下げられてはお断り出来ませんね」と苦笑した。

 「……かしこまりました、私で宜しければ。その代わり、一つだけお願いがあります」

 「お願い? 何かしら」

 「あの、申し訳ありません。個人的な事情もございますのでこの場ではちょっと申し上げにくく……」

 躊躇ためらう様子を見せるラド。マリーは小首を傾げて黙ってじっとラドを見つめたかと思うと、「えっ!?」と驚いたような声を上げた。
 マリーの異変に今度はラドが怪訝そうにしていたが、きっと彼に関する情報で驚くべきことが分かったのだろう。

 「……失礼しましたわ。そういうことでしたら、この後別室でお話しするのは大丈夫そうかしら?」

 「構いません。お心遣いありがとうございます」

 そう言ってラドは深々と頭を下げる。僕は食堂を退出するまでの間ずっと、騎士ドナルド達の非難めいた視線を感じていたのだった。


***


 「マリーお姉ちゃま、僕も一緒に話を聞いてていい?」

 「うーん……話を聞いていいのはちゃんと秘密を守れる人だけよ? イサークはちゃんと守れる?」

 「勿論だよ! 僕、ちゃんとマリーお姉ちゃまの馬の秘密だってグレイ兄様に黙ってたもん!」

 そう言えばあったなぁ、そんな事……。あの時、イサーク様が口を滑らそうとしたのをトーマス様が止めていたっけ。アールのことで色々あった事もあって誤魔化されたけれど、今になって思うと不自然さ万歳だったっけ。

 「ラドさん、イサーク様も同席して構いませんか?」

 「……そうですね」

 暫く考えた後、ラドは構わないと頷く。
 僕とマリー、イサーク様、サリーナとナーテ、聖騎士である前脚ヨハン後ろ脚シュテファン兄弟、多分どこかに潜んでいる中脚カール他隠密騎士達だけがラドの話を聞く事になるだろう。場合によってはそれがサイモン様に共有される、と。

 喫茶室はティヴィーナ様が使われる、ということで前脚ヨハンが先導した先にある客室の一室で話す事になった。
 別室で話す事が決まった時点で用意がされていたのだろう、それぞれソファーに座って幾ばくも経たない内にお茶が運ばれてきた。
 前脚ヨハン後ろ脚シュテファンが扉を固め、サリーナとナーテがそれぞれ給仕したところでラドが話をする場が整う。
 少々厳重過ぎる気がするんだけど、マリーがこうするように指示したのだろうか?

 「さあ、ラドさん。お願いをお聞かせ頂けるかしら?」

 マリーの催促の言葉に、ラドは「はい、」と口を開いた。

 「ご存知の通り、私はアルビオンの人間です。警戒されるのは重々承知しておりますが、どうしてもカレドニアの女王陛下とお話しする機会が欲しいのです」

 ――は?

 「リュサイ様と、ですか?」

 ラドの願いというのは思いもかけないことだった。僕の問いにラドは頷く。

 「はい。聖女様にお願いしたいというのはそれなのです。聖女様は新年の宴において、カレドニア王国を保護下に置かれたと耳にしました。難しいかとは存じますが、どうか、取り成して頂けないでしょうか?」

 マリーが思案気に手の甲を口元に当てる。

 「……そうね、確かに難しいわ。リュシー様にお願いして聞き届けて頂いたところで護衛や侍女立ち合いになるけれど、それで構わなければ――」

 「構いません」

 「それにしても、何故リュサイ様に?」

 「猊下……実は、私はリュサイ女王陛下の亡きお母君と縁があった者なのです。あの方は生前、陛下のお話をよくなさっていました。亡くなる間際、陛下が困難にある時は助けて欲しいと託されて」

 トラス中央大学への留学を決めたのも、カレドニアの女王がトラス王国に居るらしい、という情報を知ったからなのだとラドは語った。
 真摯な光を宿したサファイアの瞳が僕達を射抜く。

 「どうしても、リュサイ女王陛下に一度お会いして、話をしてみたかったのです」
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