貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

本音を言うと激しく要らねぇタイプの引き出物。

 トラス国王陛下を始めとする王族に挨拶をした後。アルバート第一王子は気を利かせたのだろう、女性同士で話せるようにと席を設けてくれた。
 そこへギャヴィン・ウエッジウッド子爵がやってくると、アルバート王子に何やら耳打ちをしている。
 それが終わるとアルバート王子はこちらを見、「ご歓談の間、私は運動がてら広間を一巡りしてきますのでごゆっくり」と紳士の礼を取った。
 ギャヴィン子爵を伴い遠ざかるその背中をしばし見送ってから、お互い何となく目を見合わせる。

 「新年の寿ぎを。リュシー様のお元気そうな姿が見れて嬉しいわ。もうお加減は宜しいの?」

 「ええ、メティ様には色々とご心配をお掛けしました。遅ればせながら、新年のお慶びを申し上げます」

 晴れてトラス王国第一王子の婚約者となった、ガリア王国ピロス公爵令嬢メテオーラは、リュサイを笑顔で受け入れてくれた。
 心配を掛けた事にリュサイは謝意を伝えながら、そっと右手を撫でる。つい先程まであった、エスコートしてくれたカレルの温もり。

 「ふぅ……私も遠目に見ていたけれど、こんな時に――しかも女性の弱みに付け込むだなんて。
 これだから殿方は困るわ。リュシー様、先程は邪魔が入って何も召し上がっていらっしゃらないでしょう?」

 丁度自分も空腹を覚えたところで、少しゆっくりしたかったというメテオーラ。その心遣いにリュサイは感謝の言葉を述べた。
 運ばれて来たグラスは、大広間で供されているものよりも芸術的な細工が施されている。前者は金の縁取りがしてある程度のものだが、今リュサイが手にしているそれは金の装飾に加え、恋人同士の絵が彩り豊かに描かれていた。

 「このグラス見事な細工は素晴らしいですわね。これは、アルバート殿下とメティ様かしら?」

 男女の衣装や髪色からして、きっとそうなのだろう。メテオーラは恥ずかしそうに頷いた。

 「実は今日使われているグラスは全て、ガリア王国の工房で作らせたものなんですの。祝い事だからと父が張り切ってしまいまして……」

 成程、ガラス細工で有名なガリアの名品は、そのまま王太子妃メテオーラやピロス公爵家の力を広く知らしめることになるだろう。
 後日、親しい人にも届くというメテオーラ。聖女であるマリアージュに贈るのは勿論、リュサイにもくれるそうだ。


 届けられた料理を楽しみながら雑談を交わしていると、広間が少し騒がしくなった。
 リュサイが頭を動かすと、遠く入り口からアレマニア皇女エリーザベトがカレルのエスコートを受けて入場してきているのが見え、リュサイはさながら傷から溢れる血を止めるかのように胸を押さえる。
 人々が道を開ける中、彼らは聖女マリアージュのいる方へと真っ直ぐに向かって行った。そちらの挨拶が終われば、じきにこちらへやって来るだろう。
 メテオーラの方から、何となく気遣わし気な雰囲気を肌で感じた。

 「……お立場上、色々と飲み込まなければならない事もおありでしょうけれど……リュシー様はそれで宜しいの?」

 遠慮がちに掛けられた声。ああ、自分の気持ちはすっかり見透かされているのだ――リュサイはメテオーラに視線を戻すと、曖昧な苦笑いを浮かべた。

 「お心が晴れやかになることを祈っておりますわ」

 「ええ、いつかそんな日が訪れると良いのですが……メティ様、ありがとうございます」

 結局アルバート王子は戻って来なかった。

 メテオーラとトラス国王にアルバート王子へのお礼の伝言を頼み別れを告げ王族の席を辞した後。
 大広間を移動しようとしたリュサイの耳に、それは飛び込んで来た。

 ――聖女様は今後、様々な国に庇護を求められるでしょうね。庇護を受けた国と敵対している国はどう出るか……。

 ――そうした国々に狙われて、御身は危険に晒されてしまうでしょうね。恐ろしいわ。

 ――少なくともアルビオン王国は敵に回ったわね。カレル様もお気の毒に……大切な妹君なのに、気が気じゃないでしょうね。私、お父様にカレル様のお力になれないか訊いてみる事にしますわ。

 ――私もカレル様のお為なら!

 ――あら、私だって!

 扇を広げて会話をする妙齢の貴族令嬢達。リュサイは愕然とし、ぼとりと持っていた扇を取り落とした。

 「『我が女王モ・バウンリ? 如何なさいましたか?』」

 騎士ドナルドが扇を拾って訝し気にリュサイを窺う。

 「『どうしたらいいの……私、』」

 良い案だと。聖女の庇護を受ければアルビオンに対する牽制になると思っていた。
 けれども、それは同時に聖女マリアージュを危険に晒す事でもあったのだ。
 キャンディ伯爵家に滞在していれば、カレルが妹であるマリアージュをどれだけ大切にしているか嫌でも分かる。
 なのに、リュサイはそれがカレドニア王国にとって好都合だと――友情を当てにし、カレルの大切な妹を良いように利用し、安易に危険に晒してしまったのだ。

 ――私、カレル様に嫌われるような事をしてしまった……?

 ぐらり、とリュサイの目の前が暗くなった。
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