669 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
サタナエル様からのお年玉。
惰眠を貪るのは心地良きかな。
王宮での新年の儀の疲れが出たのだろう。次の日サリーナに起こされた時は既に日は高く昇っていた。
もっと寝ていたいんだけど、第二王子ジェレミーが来たからそうもいかないらしい。
来るとしてもてっきり午後か夕方かなと思っていた。予想より早く来たんだな、と思いながらサリーナに着替えさせられる。
そういえば、夢現にグレイと誰かが会話してて、何か言われたような?
返事はしたものの内容ははっきりとは覚えていない。初夢であるのなら、せめて富士山か鷹かなすび、七福神の宝船とか――そういうお目出度い夢の方が良かった。
「ほら、行くよマリー!」
むぅ……。
叩き起こされた不満や眠気を抱えながらグレイに引きずられるように行った先。キャンディ伯爵邸の玄関では、家族全員が揃っていた。
「昨日の今日で皆様もお疲れなのに、大変申し訳ない事をしました」
本当にな、と言いたいのを堪えて私はにこやかに淑女の礼を取って挨拶をする。その後は昼食まで時間があるからと喫茶室で休んで貰うようだ。
正直まだ眠いし、そこまで付き合っていられない。私はグレイにその旨を囁くと、柔らかいベッドの待つ自室へと戻ったのだった。
***
『R・O・W・D! R・O・W・D!』
観客でごった返した空間で人々がコルナサインを掲げながらコールしてい。
思えばライブの夢は久々だ。
ちなみに『R・O・W・D』とは、Ruler Of the World Diableの略称だ。
真っ暗だったステージに光が当たり、Diableメンバーの姿が浮かび上がる。
私の崇拝するヴォーカルのサタナエル様がこちらを見てニヤリと悪い笑みを浮かべると、マイクに唇を近づけた。
「新曲行くぜ――『黒眼組合』」
そのハスキーがかった色っぽい声の直後、ベースがビートを刻み始める。
「『金と名誉と欲望、手にした奴らの末路
這い上がれるのは魂を売った奴らだけ
誰かが囁く悪魔の儀式、選ばれし者の輪へようこそ』」
おお……こ、この歌詞はあの事だな!
「『右目と左目、どちらを隠すか選べ
暗闇で笑ってる片目のパンダ共
どいつもこいつも掟に従い、名も顔もない
黒眼組合! 血の契りで結ばれし奴隷』」
コルナサインを掲げ飛び跳ねながら、私は曲に酔いしれた。世のダークサイドを歌うかなり際どい内容だが、誰にも媚びず不慮の事故で片目に怪我もしない彼らだからこそ歌えるのだろう。
――素晴らしい。流石はサタナエル様、Diable最高過ぎかよ!
「『生贄の子羊を捧げ、その血肉を啜り食らえ
若返る欲望の祭り、終わらぬ闇夜が続いてゆく
優性思想、君臨する者共の狂夢
ゴム人間を見つけ出せ、歪んだ真実がそこにある』」
暫く新曲を楽しみ、サタナエル様が歌い終わった瞬間、ライブハウスも観客も消え失せて闇の空間が広がった。居るのは私とサタナエル様――私を聖女とした神様だけである。
「サタナエル様、最高でした!」
「ふっ、これはお年玉代わりの褒美だ、雌豚よ。それより――聖女の能力について伝えておくべき事がある。今年、疱瘡によってお前への信仰心が増えるだろう。人々の信仰を集めれば集める程、聖女の能力が増え、また強化されるのだ」
――ただ、その能力の内容については信仰心の傾向にもよるが。
そうサタナエル様は言った。
「ええと、信仰心の傾向というと、具体的には?」
「今時点で言えるのは、種痘を推し進めた事により、病を癒す力が備わる可能性が高いだろう」
「ああ、そういう……」
前世の聖人も、病を癒すっていうのがあったっけ。それ以外では心霊系だろうか。あんまり心霊系は得意じゃないんだけど……。
まあ、病を癒す力が可能性高いんなら良しとするか。
「今年も大変な事が色々と起こるだろうが、我が栄光の為に励むが良い、雌豚よ……」
えっ!? 待ってくださいサタナエル様!
「――その色々、っていうのをもそっと詳しく!」
気が付くと、私は自室でガバリと起き上がっていた。伸ばした手は虚しく宙を掴む。ああ、訊きそびれた……というか、未来の事だから明かしては行けないとか? どうもそんな気がする。
ふう、と腕を布団の上に落とすと、自室の扉がノックされた。
王宮での新年の儀の疲れが出たのだろう。次の日サリーナに起こされた時は既に日は高く昇っていた。
もっと寝ていたいんだけど、第二王子ジェレミーが来たからそうもいかないらしい。
来るとしてもてっきり午後か夕方かなと思っていた。予想より早く来たんだな、と思いながらサリーナに着替えさせられる。
そういえば、夢現にグレイと誰かが会話してて、何か言われたような?
返事はしたものの内容ははっきりとは覚えていない。初夢であるのなら、せめて富士山か鷹かなすび、七福神の宝船とか――そういうお目出度い夢の方が良かった。
「ほら、行くよマリー!」
むぅ……。
叩き起こされた不満や眠気を抱えながらグレイに引きずられるように行った先。キャンディ伯爵邸の玄関では、家族全員が揃っていた。
「昨日の今日で皆様もお疲れなのに、大変申し訳ない事をしました」
本当にな、と言いたいのを堪えて私はにこやかに淑女の礼を取って挨拶をする。その後は昼食まで時間があるからと喫茶室で休んで貰うようだ。
正直まだ眠いし、そこまで付き合っていられない。私はグレイにその旨を囁くと、柔らかいベッドの待つ自室へと戻ったのだった。
***
『R・O・W・D! R・O・W・D!』
観客でごった返した空間で人々がコルナサインを掲げながらコールしてい。
思えばライブの夢は久々だ。
ちなみに『R・O・W・D』とは、Ruler Of the World Diableの略称だ。
真っ暗だったステージに光が当たり、Diableメンバーの姿が浮かび上がる。
私の崇拝するヴォーカルのサタナエル様がこちらを見てニヤリと悪い笑みを浮かべると、マイクに唇を近づけた。
「新曲行くぜ――『黒眼組合』」
そのハスキーがかった色っぽい声の直後、ベースがビートを刻み始める。
「『金と名誉と欲望、手にした奴らの末路
這い上がれるのは魂を売った奴らだけ
誰かが囁く悪魔の儀式、選ばれし者の輪へようこそ』」
おお……こ、この歌詞はあの事だな!
「『右目と左目、どちらを隠すか選べ
暗闇で笑ってる片目のパンダ共
どいつもこいつも掟に従い、名も顔もない
黒眼組合! 血の契りで結ばれし奴隷』」
コルナサインを掲げ飛び跳ねながら、私は曲に酔いしれた。世のダークサイドを歌うかなり際どい内容だが、誰にも媚びず不慮の事故で片目に怪我もしない彼らだからこそ歌えるのだろう。
――素晴らしい。流石はサタナエル様、Diable最高過ぎかよ!
「『生贄の子羊を捧げ、その血肉を啜り食らえ
若返る欲望の祭り、終わらぬ闇夜が続いてゆく
優性思想、君臨する者共の狂夢
ゴム人間を見つけ出せ、歪んだ真実がそこにある』」
暫く新曲を楽しみ、サタナエル様が歌い終わった瞬間、ライブハウスも観客も消え失せて闇の空間が広がった。居るのは私とサタナエル様――私を聖女とした神様だけである。
「サタナエル様、最高でした!」
「ふっ、これはお年玉代わりの褒美だ、雌豚よ。それより――聖女の能力について伝えておくべき事がある。今年、疱瘡によってお前への信仰心が増えるだろう。人々の信仰を集めれば集める程、聖女の能力が増え、また強化されるのだ」
――ただ、その能力の内容については信仰心の傾向にもよるが。
そうサタナエル様は言った。
「ええと、信仰心の傾向というと、具体的には?」
「今時点で言えるのは、種痘を推し進めた事により、病を癒す力が備わる可能性が高いだろう」
「ああ、そういう……」
前世の聖人も、病を癒すっていうのがあったっけ。それ以外では心霊系だろうか。あんまり心霊系は得意じゃないんだけど……。
まあ、病を癒す力が可能性高いんなら良しとするか。
「今年も大変な事が色々と起こるだろうが、我が栄光の為に励むが良い、雌豚よ……」
えっ!? 待ってくださいサタナエル様!
「――その色々、っていうのをもそっと詳しく!」
気が付くと、私は自室でガバリと起き上がっていた。伸ばした手は虚しく宙を掴む。ああ、訊きそびれた……というか、未来の事だから明かしては行けないとか? どうもそんな気がする。
ふう、と腕を布団の上に落とすと、自室の扉がノックされた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。