貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

文字の大きさ
670 / 758
うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

起こすなどころか永眠させるべき寝た子もいる。

 「マリー、起きてる? そろそろ昼食だから迎えに来たよ」

 入室しても大丈夫だと返事を返すと、グレイとサリーナが入って来た。サリーナに着替えさせて貰っている間、グレイはソファーで待ってくれている。

 「案内はどうだった?」

 「うん。ジェレミー殿下ご本人は良かったんだけど、リュサイ様とエリーザベト殿下の間に漂う雰囲気が、何というか……」

 カレル兄を挟んで、バチバチ不穏で気が気じゃなかったという。まあ、第二王子ジェレミーも今日やって来たばかりだし、今後の彼の頑張りに期待するとするか。
 そう伝えようとした次の瞬間、グレイは聞き捨てならぬ事を口にしたのである。

 「お二人の気持ちも分からないでもないんだ。実は、カレル様の顔を至近距離で見てしまってさ……」

 カレルの美貌に当てられたらしい。下町の女達が劇場の人気男優に「あんな良い声で囁かれたら耳が孕んじまう」って話していたのを思い出したと。

 ほほう、前世と同じ言い回しがこっちでもあると……その事に大笑いしたけれど、「グレイは大丈夫だろうか」と脳裏の片隅で考える。うっかり煩悩の数の一と百の位を入れ替えたアレになりかけていないか……?
 であれば由々しき事である。起こすなどころか永眠させるべき寝た子だ。
 カレル兄には後で意趣返しするとして。グレイがアレを自覚する前に忘却の彼方へ葬り去るよう誘導せねば。

 というか、貴族連中の中にはカレル兄と誰かを掛け算する貴腐人やカレル兄の尻穴をねらっている男も居そう――いや、絶対いるな(確信)。

 もしかしたら、アルバート第一王子×カレル兄の薄い本なんか執筆されて私の預かり知らぬところで出回っているかも知れない。
 私は心の中で眼鏡をくいっと上げた。妹として、調査すべき案件である。

 それにしても、社交界は魑魅魍魎の巣食う何とも恐ろしい所よ。
 マリーちゃん震えちゃう、ぶるぶる。

 ――なんて、内心はさておき。私は「あ、こっちの世界でも同じ表現あったのね」と頷いた。
 前世、イケメン過ぎて国外追放された人がいるというニュースを思い出したけど、その国ではカレル兄も対象になるんだろうなぁ。

 「は? そんなことで国外追放?」

 私も目を疑って何度もニュースを読み直したけど、事実です。


***


 さて、新年明けて2日目である。
 本日の昼食会は、主に身分の問題で王宮の宴に参加出来なかった面々の為に企画していた気軽なものである。実に楽しみだ。
 先程のサタナエル様の夢も手伝って、私は上機嫌だった。

 「ふふっ」

 「何だか楽しそうだね、マリー」

 ちなみにキーマン商会にはカレドニアの羊毛布を用立てて貰っていたが、それを何に使うのかまではグレイは知らない筈だ。

 昼食会の会場となる大広間の扉の向こうには、トラス王国では見られない光景が広がっていた。

 キャンディ伯爵家にルフナー子爵家のメンバー、家に滞在中のお客様達、教会関係者の他は、身分の貴賤問わず親しい人達ばかりである。皆からの歓迎と新年の挨拶に移動しつつ笑顔で返しながら、私達は自分達の席に就いた。

 ――ん、よしよし。

 テーブルから垂れ下がる羊毛を捲って体を差し入れると、暖かい空気が下半身を包んでくれた。グレイも驚いている。

 「一体何が……炭火?」

 羊毛布を持ち上げて熱源を見つけたグレイに、「正解」と答える。ちなみにテーブルと木炭は、ナーテの故郷熊ノ庄ブランドだ。
 低めに作らせた特注のテーブルの下に木枠で覆った炭火鉢を起き、テーブルごと羊毛布で覆う。仕組みとしては簡単で、一酸化炭素中毒に注意さえすれば、素晴らしい温もり時間を過ごせる。
 これは、冬の寒い日なんかは一度入ったら二度と出たくなくなる悪魔の装置――そう、昼食会は炬燵パーティーだったのである!
 皆の反応を見るに、炬燵を気に入ったようだ。

 ぶっちゃけ最初は私の寝正月ライフの為だったが、こうして皆が喜び、商売にもなり、新たな産業が出来る――素晴らしい連鎖である。
感想 1,014

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」