貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン

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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】

真っ黒な事情とコウモリじゃないワタリガラス。

 「えぇっ、流浪の民達が押しかけてきてる!?」

 着替えた後、隣室のグレイを訪ねると、そんな事って……と絶句された。

 「言っちゃなんだけどさ、流浪の民ってのはかつてのサイア達よりはマシだけどそれでも下民には違いないって扱いだよ?」

 それがキャンディ伯爵家のような大貴族の家に押しかけるなんて、全員無礼討ちされても文句が言えない――そんな存在なのだと。
 まあ、そうだろうな。聖女である私に会いたいのならばまずどっかの聖職者に話を持って行くのが手順というものだ。しかしそれをすっ飛ばしての突撃お家訪問。まあ、そそのかしたのがティヴィリー子爵なのだが。

 「僕も一緒に行く。いいね?」

 「勿論そのつもりよ」

 「義父様にも忘れずに伝えた?」

 おっと。

 既に報告は受けているとは思うが……グレイのジト目を受けながら、父に精神感応を飛ばしてかくかくしかじか。
 流浪の民達を中庭に招き入れて応対するので、夕食会には少し遅れる旨を伝える。

 『既に報告は受けていたが――聖女であるお前がわざわざ夕食会への出席を遅らせてまで下層民共に会ってやる必要はあるのか? それにしても、ティヴリー子爵とは一度よくよく話をせねばならんな』

 コンプライアンスに引っかかりそうな事を言ってるけど、さっきグレイが言った通りそういう認識がこの世界では当たり前なのだ。
 父が零すところによれば、これまで何度かポーで会食した事をネタに接触を図って来てはいたらしい。碌な事になら無さそうだったから無視してはいたが、まさか下層民達を引き連れて来ようとは……と溜息を吐いている。

 まあ、奴も断られない手段を色々と考えた挙句の捨て身。事実、サイア達に聖女が祝福を与えて救済したという話が広まっているから、強硬排除は出来ない。相手の思惑通りである。

 腹に一物あるティヴィリー子爵と奴に利用されている流浪の民達は引き離さねばなるまい。
 その流れで恐らくは――子爵を単身で夕食会に参加させる事になると思う。

 『どういうことだ?』

 奴の狙いは、カーフィーを排除してリプトン伯爵位を継ぐ事。
 その一環で我が家へうまうまと潜り込んで利用出来そうな家族を物色からのゴマすりってとこかな。勿論本命は父と私だけどね。

 『ほう……私も随分と甘く見られたものだ。こちらはこちらで念入りに歓迎の準備をしておくとしよう。して、引き離した後の下層民共は如何収めるつもりだ?』

 ああ、それは相手の出方次第だけれど。一応考えはあるの。
 落としどころとして大まかにその内容を伝えると、『……まあ多少不安はあるが、まあ良いだろう』との了承を得た。

 『念の為、カレルをそちらへ向かわせる』


***


 シャリリリリ……。


 一階の渡り廊下の途中、どこからか微かに聞こえてくるオルゴールボールの涼やかな音。

 「聖女様。御下命により、お待ち申し上げておりました」

 「っ……まあ、サイア」

 庭に降りる階段のところで少し訛りのある落ち着いた声が響く。
 サリーナ掲げたランタン、その光に照らし出されたのはサイアだった。
 ただ、サイア一人を呼んだ筈がその背後に複数人居り、全員が一様に黒装束に身を包んでこちらへ向けて頭を垂れ跪礼を取っている。

 彼らが闇に同化していたあまり気付かず、声を掛けられた時に内心かなりビビったのはここだけの話。

 よく見ると全員武装してるんだがどうしよう。
 私が呼んだのは参考人としてであって護衛としてではないのだけれど。
 というか、その一式っぽい衣装は元から持ってたんだろうか……等と考えていると、グレイが嬉しそうに声を掛けた。

 「やあサイア。早速着てくれたんだね。似合っているよ」

 「はっ、猊下にはこの身に過分なご厚意を頂きまして……」

 あれっと思ってちらりとグレイを見ると、「ああ、どうせついでだしと思って」。
 少し目が泳いでいるような気がしたので、ちょっと精神感応を使うと――ほうほう。
 サイアの今後の働きの為に、小物入れ等を作ったのと同時にグレイとキーマン商会からの餞別として、コルボの民の正装を作らせていたらしい。

 昔黒ドレスが流行していたが、丁度私達の祖父母の時代に廃れて……在庫になって長らく死蔵されていた黒い布が捌けたと。
 ついでにサイア達からの感謝もされて良かったな、グレイ。
 グレイが私に一言も無かった理由が分かったところで、サイア達に何か申し訳ない気持ちになってきた。
 布はまだ在庫あるみたいだから、その内私もゴスロリドレスでも作らせるか……。

 そんな真っ黒な事情はさておき、サイアの衣装は同じ黒装束でも急所を覆う部分鎧と漆黒の翼を思わせる形のマントというオプション付きだった。
 その右腕にはカラスの頭を模った兜が抱えられており、それらは流石に特注しただけあって立派なものである。

 サイアが立ち上がって兜を被ると、丁度クチバシが鼻まで覆う形になった。風が吹いてマントがぶわりと翻ると、さながらバッドマ……いや人間大のカラス。
 丁度前世のハロウィン等で見られたような、良く出来たファンタジー衣装コスプレみたいで格好良いではないか。
 サイアと隠密騎士や雪山の傭兵の業務内容は被る所があるから、いい区別になると思う。
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