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うら若き有閑貴族夫人になったからには、安穏なだらだらニート生活をしたい。【2】
甘い蜂蜜の裏には。
「まぁまぁ、二人共。ダージリン領の経済が活性化すれば、隣の領であるキャンディ伯爵家やルフナー子爵家にも恩恵があるんだから」
温泉に入って、ご馳走を食べ。演劇や歌、ダンス、サーカス等を観てご機嫌になれば財布の紐も緩むというもの。
競馬に興じて勝てば尚更、ちょいとキャンディ伯爵領で作らせた土産物を記念に買って帰ろうとか、足を伸ばしてナヴィガポールに海鮮オコノミを食べに行こうとかなると思うのよ。
「そんな訳で、私の本音としては是非とも流浪の民達をダージリン伯爵領民として迎え入れたいのよね」
ちなみに温泉リゾートや競馬場の統括責任者や役職者は隠密騎士家の者を据えるつもりであり、流浪の民達はその下について働いて貰うことになるだろう。
ちゃんとお前達の利権は保たれる。だから馬の脚共よ、安心するがいい。
若干堅くなっているように見えた前脚達の雰囲気が、どことなく安堵を醸し出したところで。
「はぁ……マリーの考えは分かったよ。仮にそれが上手く行ったとして――定住を選ばなかった人達はどうするのさ? 庇護を与えないって事になるの?」
グレイの溜息。うん、それについても勿論考えてあるとも。
「彼らはそもそも自由気ままな放浪の民。庇護、土地と仕事を与えたとしてもそれを受け入れない一部が出て来るのは想定済。
そこで、前世の世界に旅暮らしでこそ成り立っている仕事があったなぁって思い出したのよね」
傭兵である雪山の民にやらせてみようと思っていたが、流浪の民達の方が向いているかも知れない。それに、これに関しては生産物に種類も多く、人手が多ければ多い程良いのだ。
また、旅暮らしでも教会は各国各地に必ずある。教会の無い遥か遠くの土地にでも行かない限り、流浪の民達の囲い込みは不可能ではない。
ちなみに不寛容派は流民達に対して塩対応であるので、わざわざ彼らも不寛容派が幅を利かすような土地は選ばないだろう。
ビバ、宗教!
私がにこにこしていると、グレイは首を傾げた。
「旅暮らしで成り立つ仕事って、旅芸人や吟遊詩人、獣使い等の見世物とか?」
「ええ。元々彼らがやっている仕事もそうではあるんだけど――私がやって貰いたいと考えているのは蜂よ。蜜蜂の巣箱を積んで、春と花を追いかけて養蜂の旅をして貰うの」
「移動しての養蜂だと!?」
驚愕の声を上げる父サイモン。私は「あちらの世界では普通に行われていたことよ?」と頷いた。
前世の養蜂業者は、トラックに巣箱を積んで、南は鹿児島から北は北海道まで、開花前線を追って旅をしていく。
各地の花の多い山野は勿論、時には果樹農家やビニールハウス農家に声を掛けて蜜蜂達を放つのだ。
養蜂業者は蜜が集まり、農家達は蜜蜂の働きで受粉が進み作物の実りが良くなるウィンウィンの関係――同じようなシステムをこの世界でも構築出来ないかと私は考えた。
旅暮らしに生きる集団には実にお誂え向きの仕事だと思う。それに、流浪の民達が代々伝えて来た知識や技術への対価の一部でもあるのだし。雪山の民に関してはハワイの白蜂蜜を見習って、『希少な高山植物の蜜』と高級化・差別化を図れば良いだろう。
「後は、ジプシー達に隠密騎士や雪山の傭兵を紛れ込ませる事も出来て何かと便利かもしれないわね。
各地の教会回りをして貰えれば、情報的な繋がりも強化される。何か異変等があればそれを報告するように頼めば、細かなところまで目が届くようになる利点もあるわ――他に、温泉リゾートの宣伝活動や、流言等の工作活動もやりやすくなるかもね」
旅暮らしを選んだ集団の内、義理堅く賢い目端の利く者を選んで代表に取り立てると良いだろう。
集団毎に旅ルートを決めて貰うなどして。旅が厳しくなれば、ダージリン伯爵領の仲間が待ってる『故郷』に帰っても良し。
「砂糖は渋ったのに養蜂には随分と甘いようだが、技術の流出の懸念は?」
「ちょっとやそっと盗み見て真似たところで出来ることじゃないけれど……養蜂技術が彼らの飯の種ともなれば、そう簡単に流出させるかしら?」
雇われ仕事でどこか他人事の砂糖製造と違うのは、養蜂業は半自営で自分事になってくるということ。
それに加え――
「更に故郷には仲間も居て、信用を裏切れば流浪の民全体の待遇がどうなるか分からないのに?」
「……ほう、そういうことか」
移動組に易々と養蜂技術を渡すという甘さは見かけだけ。私の言葉に、冷徹な光を帯びた父の目がすっと細められる。
為政者側にしてみれば、定住組は移動組の故郷となると同時に人質にもなり得るのだ。
「じゃあ、そういうことまで深読みして理解出来る人間を責任者に選ばないといけないね」
溜息混じりのグレイの言葉に私は頷く。
勿論そういうことにならなければ良いとは思っているけれど仕方ない。支配――ついでに雄豚奴隷の躾の効果的なやり方は、飴と鞭なのだから。
ちなみに、流浪の民達の代表としてジャンゴとドゥラカが「是」の返事を持ってきたのは、それから三日後のことだった。
近い将来、彼らは『花追いの民』と呼ばれることとなる。
温泉に入って、ご馳走を食べ。演劇や歌、ダンス、サーカス等を観てご機嫌になれば財布の紐も緩むというもの。
競馬に興じて勝てば尚更、ちょいとキャンディ伯爵領で作らせた土産物を記念に買って帰ろうとか、足を伸ばしてナヴィガポールに海鮮オコノミを食べに行こうとかなると思うのよ。
「そんな訳で、私の本音としては是非とも流浪の民達をダージリン伯爵領民として迎え入れたいのよね」
ちなみに温泉リゾートや競馬場の統括責任者や役職者は隠密騎士家の者を据えるつもりであり、流浪の民達はその下について働いて貰うことになるだろう。
ちゃんとお前達の利権は保たれる。だから馬の脚共よ、安心するがいい。
若干堅くなっているように見えた前脚達の雰囲気が、どことなく安堵を醸し出したところで。
「はぁ……マリーの考えは分かったよ。仮にそれが上手く行ったとして――定住を選ばなかった人達はどうするのさ? 庇護を与えないって事になるの?」
グレイの溜息。うん、それについても勿論考えてあるとも。
「彼らはそもそも自由気ままな放浪の民。庇護、土地と仕事を与えたとしてもそれを受け入れない一部が出て来るのは想定済。
そこで、前世の世界に旅暮らしでこそ成り立っている仕事があったなぁって思い出したのよね」
傭兵である雪山の民にやらせてみようと思っていたが、流浪の民達の方が向いているかも知れない。それに、これに関しては生産物に種類も多く、人手が多ければ多い程良いのだ。
また、旅暮らしでも教会は各国各地に必ずある。教会の無い遥か遠くの土地にでも行かない限り、流浪の民達の囲い込みは不可能ではない。
ちなみに不寛容派は流民達に対して塩対応であるので、わざわざ彼らも不寛容派が幅を利かすような土地は選ばないだろう。
ビバ、宗教!
私がにこにこしていると、グレイは首を傾げた。
「旅暮らしで成り立つ仕事って、旅芸人や吟遊詩人、獣使い等の見世物とか?」
「ええ。元々彼らがやっている仕事もそうではあるんだけど――私がやって貰いたいと考えているのは蜂よ。蜜蜂の巣箱を積んで、春と花を追いかけて養蜂の旅をして貰うの」
「移動しての養蜂だと!?」
驚愕の声を上げる父サイモン。私は「あちらの世界では普通に行われていたことよ?」と頷いた。
前世の養蜂業者は、トラックに巣箱を積んで、南は鹿児島から北は北海道まで、開花前線を追って旅をしていく。
各地の花の多い山野は勿論、時には果樹農家やビニールハウス農家に声を掛けて蜜蜂達を放つのだ。
養蜂業者は蜜が集まり、農家達は蜜蜂の働きで受粉が進み作物の実りが良くなるウィンウィンの関係――同じようなシステムをこの世界でも構築出来ないかと私は考えた。
旅暮らしに生きる集団には実にお誂え向きの仕事だと思う。それに、流浪の民達が代々伝えて来た知識や技術への対価の一部でもあるのだし。雪山の民に関してはハワイの白蜂蜜を見習って、『希少な高山植物の蜜』と高級化・差別化を図れば良いだろう。
「後は、ジプシー達に隠密騎士や雪山の傭兵を紛れ込ませる事も出来て何かと便利かもしれないわね。
各地の教会回りをして貰えれば、情報的な繋がりも強化される。何か異変等があればそれを報告するように頼めば、細かなところまで目が届くようになる利点もあるわ――他に、温泉リゾートの宣伝活動や、流言等の工作活動もやりやすくなるかもね」
旅暮らしを選んだ集団の内、義理堅く賢い目端の利く者を選んで代表に取り立てると良いだろう。
集団毎に旅ルートを決めて貰うなどして。旅が厳しくなれば、ダージリン伯爵領の仲間が待ってる『故郷』に帰っても良し。
「砂糖は渋ったのに養蜂には随分と甘いようだが、技術の流出の懸念は?」
「ちょっとやそっと盗み見て真似たところで出来ることじゃないけれど……養蜂技術が彼らの飯の種ともなれば、そう簡単に流出させるかしら?」
雇われ仕事でどこか他人事の砂糖製造と違うのは、養蜂業は半自営で自分事になってくるということ。
それに加え――
「更に故郷には仲間も居て、信用を裏切れば流浪の民全体の待遇がどうなるか分からないのに?」
「……ほう、そういうことか」
移動組に易々と養蜂技術を渡すという甘さは見かけだけ。私の言葉に、冷徹な光を帯びた父の目がすっと細められる。
為政者側にしてみれば、定住組は移動組の故郷となると同時に人質にもなり得るのだ。
「じゃあ、そういうことまで深読みして理解出来る人間を責任者に選ばないといけないね」
溜息混じりのグレイの言葉に私は頷く。
勿論そういうことにならなければ良いとは思っているけれど仕方ない。支配――ついでに雄豚奴隷の躾の効果的なやり方は、飴と鞭なのだから。
ちなみに、流浪の民達の代表としてジャンゴとドゥラカが「是」の返事を持ってきたのは、それから三日後のことだった。
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